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【完結】アカシックレコード  作者: 白黒羊
第陸章 森羅回帰篇

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EP45 レゾンデートル

「アカシックレコードと深く繋がるには、意識を透明にする必要があるのです。何も考えず、何も感じず、そしてようやく繋がれるのです。集中なさい。アンディラ殿がおる。何も心配なさるな」


そうして瞑想を始めてから十日が経過した。

「気を落としてはなりません、主様」

「でも、全然できないんだ。早くタケルを助けて、ドラゴギヴィルを止めないといけないのに」

「ドラゴギヴィルの事は一旦忘れましょう。彼は何もしていませんよ」

アロンはマギデットを見た。

「そうですよね。顔洗ってきます」

アブドは川に向かった。

「いいのですか、嘘などついて」

「今は主様を不安がらせるのはよしましょう」

「ですがアカシックレコードに繋がれば、いずれ気づいてしまうのでは?奴がレグーノをはじめ、様々な惑星を破壊していることに」

「それも主様次第ですよ。今のあの方はお強い。きっと受け止めることができましょう」

「そうだといいのですが…」


俺は水面に映る自分の顔を見つめていた。

どうすればいいんだ。どうすればできる。早く、早くしないといけないのに。俺は今までどうやってアカシックレコードに繋がってきた?パシフィスの塔を見た時は、寝ていたのか。アレクを見た時もそうだ。あの時は確か訓練で気絶させられた後だったような。タケルの記憶を見た時は、ドラゴフォースの力を初めて使って気絶した後だ。そうか。気絶だ。それなら…いけるかもしれない。

俺は川に飛び込んだ。

絶対に出るな絶対に出るな絶対に出るな。く…苦しい…。

水面に反射する光が遠くなっていく。

もう…だめ…。

――――――――――――――――――――

「はっ」

アブドは目を覚ました。

真っ暗だ。タケルの時と同じ。本当にできた。アカシックレコードだ。あの時は確か…。

アブドは瞬きをした。

何も起きない。変わらず漆黒のみが存在していた。

「おーい、誰かいないかー」

アブドは声をかけた。

「ドラゴギヴィルに囚われたタケルの心を救いたいんだ。俺はどうすればいい?」

突如、目の前が光り輝いた。

「コノ宇宙ニ一ツダケノ物ヲ消セ。ソレハコノ為存在スル」

「ドラゴフォース!」

「アア。良イ目ヲシテイルゾ、アブド」

「それで何なんだよ。一つだけの物って」

「オ前ハ既ニ相対シテイル。ソレガゲートトナル。ゲートヲ使イ、カルディアニ行ケ。ソコニビオロガイル」

「ビオロ?そういえば、タケルの記憶でその名前を」

「ソウダ。彼女ハドラゴメイド。ドラゴプロクスヨリ生マレ、ドラゴプロクスヲ慰メル者。彼女ノ魂ヲカルディアカラ連レ帰ルノダ。ドラゴプロクスノ魂ヲ救ウニハソレシカナイ」

「じゃあ俺は、そのゲートとなる物を見つけて破壊すればいいのか」

「ソウダ」

アブドは俯いた。

「ドウシタ?」

「ゲートの候補で思い当たることがあるんだが、そしたら俺はまた…」

「龍王ノ力ヲ持ツ者ノ定メナノカモナ。コンナ悲劇、終ワラセテシマエ」

「ああ。そうだよな。お前もそう思うよな」

――――――――――――――――――――

アブドは目を覚ました。

やばい、ここ、水の中!

アブドは立ち上がった。

「あれ?」

水深はアブドの腰までもなかった。

「なんだ、こんなに浅かったのか」

アブドは川からあがり、アロンとマギデットの元へ戻った。


「悩みは晴れましたかな」

「まぁ、一応。あれ、アロンさんは?」

「いつも通り鍛錬をなされてますよ」

「そっか…」

アブドは一つ息を吐いた。

「マギデット、話があります」

「聞きましょう」

二人は対面して座った。

「タケルの心、魂を救うには、カルディアという場所に行って、ビオロと呼ばれる人を連れ戻す必要があります」

「繋がったのですね」

「はい。そしてカルディアに行くには、そのゲートとなる物を消し去らなくてはなりません」

「なるほど」

「俺はゲートが、あなただと思うのです、マギデッド。世界に一つだけの存在、それがレコーダーでしょ?」

「ご名答。私は宇宙の誕生と共に生まれました。アカシックレコードの叡智を人々に伝える為。そして、この時のために。私を殺せるのはドラゴゲネシスであるあなただけ」

アブドは頷いた。

突如、アロンが血相を変えて戻ってきた。

「主様!見つかりました。裏十二神将です」

「主様。この先に洞窟があります。そこで儀式を行いましょう」

「儀式?」

アロンは尋ねた。

「主様は答えを見つけ出された」

「分かりました。洞窟は私が死守します」

「こちらです」

アブドとアロンはマギデッドに続いた。


崖の一部に穴が空き洞窟となっていた。マギデッドはその中に入っていった。

「アロンさん。これを」

アブドはアロンに森羅光封剣を渡した。

「ありがとうございます。ここは私に任せて下さい」

「ああ。頼んだよ」

「承知しました」

アブドも洞窟の中へと入った。

「主様。こちらです」

少し進むと開けた場所に出た。洞窟はそこで終わっていた。

「では、始めましょう」

「はい。マギデッド。ありがとう」

「言ったでしょう。この為に存在しているのです」

マギデッドは正座して目を閉じた。

アブドは右の掌でマギデッドの目を隠した。

マギデッドは倒れた。腹から無数の管が中央のくびれで繋がった砂時計が出現し、アブドの目の先で静止した。

砂時計の管の一つが破裂し、砂が溢れ出た。砂は洞窟内を覆い尽くし、新たな空間を形成した。


アブドは目を開いた。

空が、周囲全体、黄色かった。すごく、温かい。なんだかふわふわする。

「ここが…カルディア…?」

「そうよ」

聞き覚えのある声がした。俺は振り返った。

「初めまして。私はビオロ。あなたのことは知ってるわ。アロン・デルート・ケイサル君」

――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――

「お久しぶりです。()リーダー」

アロンの目の前に裏十二神将が立ちはだかっていた。

アロンは十二人の大将の顔を一人ずつ眺めた。

「メキーラ、マジラ、シャンディラ、バジュラ、インドラ、ハイラ、マハーラ、シンドゥーラ、チャトゥラ、ヴィカーラ。それにあなた達が、新しいクビラとアンディラね」

「主様の命により、アブド・デ・へルートを捜索しています。協力願えませんか」

「あら?わざわざ十二人で固まって動いているの?なんて効率が悪いのかしら。こんなのただの時間稼ぎ。そうでしょう?」

「あなたの後ろにあるのは洞窟ですか?まさかそこに?」

「さぁどうかしら。私をどかして調べてみれば?」

ハイラが動いた。アロンは剣でそれを弾いた。

「まずは奴を殺せ。調べるのはその後でいい」

十二人がアロンに襲いかかる。斬撃を剣で受け止め、銃弾を弾き、打撃を避けた。

かつて最強の大将と名高かったアロンでさえ、十二人を、それもかつての仲間達を相手取るには苦戦を強いられた。

クビラを蹴り飛ばした直後、背後からハイラに捕まった。

「くそ、放しなさい!」

アロンは投げ飛ばされた。

「リーダー、あなたに人を指揮する素質はなかった」

「散々こき使われた挙句の果てがこのザマです。お分かりですか?」

「王を裏切っておいて…よくそんなことが言えるわね…」

「裏切る?いいえ。あなたは勘違いをしておられる」

「正体を偽った獣が入り込んだ。それを駆除しようとしたまでです」

「なのにあなたは、我々を壊滅にまで追いやった」

倒れ込んだアロンは十二人に囲まれた。

「これはその腹いせです」

「復讐です」

「殺すだけでは生ぬるい」

「半殺しにして、あの時の苦しみを味わわせる」

アロンは十二人に身体中を踏みつけられた。

右手を伸ばし森羅光封剣を手に取ろうとした。

「そうはさせませんよ」


バキバキバキ


刃が折れた。アブドの歯形がついたリカッソの残ったグリップがアロンの口元に転がった。

「アロン…様!」

アロンは歯形を舐めた。

轟く雷鳴。十二人が浮き上がった。翼が天にまで伸びるように広がった。頭には角が、腰には尾が生えた。

「ガッッ…ガァアアッッ!ガアアアアアアッッッ!」

アロンの咆哮が響いた。

「対抗を。御力を解放するのだ」

裏十二神将の背中からも翼が生える。それぞれの体の一部が硬化し、鋭く尖った武器と化した。

――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――

「それって、もしかして…」

「そうよ。これがあなたの本当の名前。ようこそカルディアへ。歓迎するわ」

ビオロは背を向け歩き出した。

「ちょ、待って。俺の過去を知っているの?」

ビオロは振り返る。

「ええ。先代王、アヘド・ビフォア・ケイサルの長男でアレク・モナク・ケイサルの兄。アカシックレコードで見なかった?」

「いや、全く」

「そう。私は見せられたわ。この為だったのね」

ビオロはまた背を向けて歩き出してしまった。

「だから待ってって。俺は君に頼みが!」

「分かってるわよ。ちょっと静かにしてて」

ビオロは親指と中指で指を鳴らした。


パチン


突然目の前が真っ暗になった。アブドは眠りに落ちた。


アブドは目を覚ました。頭の下に柔らかい感触が、そして目線の先に見覚えのある顔があった。

「え、え、ティナ?」

「久しぶりね、アブド」

アブドは飛び起きた。

「ななななんでここに?」

「私も分からないけど、気付いたらここに」

「そっか。何て言うか…また会えてよかった」

「ええ、私も。ずっとこうしていたいな」

「え、ええ!?いや、俺はビオロに用があって。今、ドラゴギゥイルが暴れて大変なんだよ」

「そうなんだ…」

ティナの顔が萎れた。

「どうしたの?」

「いや、私も連れてってくれないのかなって」

「…そうか。そうだな、うん。ティナも行こう!」

「無理に決まってるでしょ」

振り返ると、ビオロがいた。

「本来肉体(うつわ)に入る魂は一つだけ。だから魂の継承を行う。力を次の世代に移す。ドラゴプロクス、ドラゴイードルという二つの魂を持ち、天の川銀河のエネルギーを取り込んでいる今のタケルは非常に不安定な状態にある。そこに多大なショックを受けたことで彼の自我が失われてしまった。ドラゴギゥイルに操られてしまった。一刻も早く行きましょう。タケルを助ける為に」

「ビオロは良くて、ティナはダメなのか」

「不安定なのはあなたも同じよ。ドラゴゲネシスとドラゴプロクス。最悪の場合、肉体が耐えきれなくなり魂ごと消滅するわ」

「じゃあ…どうすればいいんだよ」

「方法は一つ。私の魂を飲み込み、―――。」

「そんなのあんまりだわ!」

ティナが反発した。

「でもそれしかないなら、やらなくちゃ。タケルを助ける為、ドラゴギヴィルを止める為にここに来たんだから」

「結局、始めから覚悟はできていたのね」

「当たり前だよ。まぁ、こんな嬉しいハプニングが起こることは予期してなかったけど」

「…私は、アブドを尊重する」

「ありがとう。ティナ」

アブドは立ち上がった。

「始めよう。ビオロ」

「ええ」

ビオロの肉体は胸の中心に凝縮し、一つの玉となった。空中に静止するそれを、アブドはつまんで飲み込んだ。

「じゃあ、行ってくるよ。ティナ」

二人はゲートの前に戻った。

「私が行ったら、肉体がないから消滅しちゃうのよね」

「…うん」

「ねぇ、アブド」

「どうした?」

ティナはアブドの頭に手を回し唇を合わせた。

「私はあなたを殺さないといけないのに…こんなのおかしいのに…でも…でもね、本当は入団試験で守ってくれた時からずっと…だから…だから…忘れて…」

ティナはアブドの胸に顔をうずめて震えていた。

アブドは二度、ティナの背中を優しく叩いた。

「全て終わらせて、必ず戻ってくる」

ティナは顔を上げた。その顔は涙で煌めいていた。

アブドはティナから離れた。

「忘れるもんか」

アブドはゲートの中に消えた。

「アブド、いってらっしゃい」

――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――

「もういい。殺せ」

十二人が一斉に飛びかかる。アロンは目の前のアンディラの腕を掴んで振り回し、その場で一回転して他の大将にぶつけた。そしてそのままアンディラを地面に叩きつけ踏み潰した。足は胸を突き破った。

「グハァアア!」

アロンの腹をメキーラの手が貫いた。アロンは尾を張って振り上げ、メキーラの体を下から裂いた。前に飛び出た腕を握りつぶし、メキーラを振りほどいた。

左右からバジュラとインドラが向かってきた。アロンは手を伸ばして互いの首を掴み、顔面同士を衝突させた。顔が弾け、肉塊が転がった。

地面を蹴り、飛び上がった。クビラの背後に回り込み、翼をもいで上空から勢いよく突き落とした。

アロンの両腕に矢が突き刺さった。チャトゥラ、マジラ、マハーラ、シンドゥーラの腕はクロスボウの様に変形していた。アロンは翼で空気を押した。さらに上空に飛び上がった。シンドゥーラとマジラが矢を放ちつつ後を追う。

急降下し、森に入った。シンドゥーラとマジラもそれに続く。辺りを見渡すと木の枝々を飛び回る何かがいた。二人は構えた。背中がぶつかった瞬間、二人の首が飛んだ。

アロンは自分の腕に刺さった矢を抜いた。傷口から血が吹き出した。森の中から矢を投げると、チャトゥラの心臓を突き破った。

アロンは再び地面を蹴った。周囲の木々を薙ぎ倒しながら低空飛行で進んだ。

マハーラの正面に出た。放たれる矢を避け、飛び上がった。空中で三回転し、右足を突き出して翼で空気を押した。矢が足裏に突き刺さった。しかしそのままの首を踏み潰した。その時の衝撃で矢が足の中にめり込んだ。

「ギャアアアアアッッ!」

吠えるアロンの首元に手刀打ちが迫った。アロンはすぐさま右手でヴィカーラの手を受け止め、左拳を腹に叩き込んだ。そして背負い投げでを倒し、伸びた右腕を引き抜いた。腕を投げ捨てるとヴィカーラが飛び起きた。ヴィカーラの穿脚を三連続バク転でかわす。互いに弓歩で構える。ヴィカーラは空中を舞い、飛び蹴りの体勢になる。アロンは足を掴み、その場でバク転の姿勢をとる。そのままヴィカーラの頭を地面に打ちつけた。頭は潰れ、アロンは起き上がった。

アロンはそばに落ちていた剣のグリップを拾った。リカッソの残骸から刃が生えた。アロンは剣を振った。硬化して鋭くなったハイラの腕と擦れ、火花が散った。ハイラはもう一方の腕も硬化させた。左右の腕を交互に振り、アロンに迫った。額の上で腕を受け止めた時、片方の腕の先がアロンの右脇から左腰までを裂いた。

「アアアアアアアアアアアアアアアアアア」

アロンは絶叫を超える声で叫んだ。そしてグリップから左手を外しハイラの右腕を掴んだ。

「アアアアアアアアッッッ!!」

右腕の刃をハイラの首筋に押し付ける。

「シネッ!シネッ!シネェェッッッ!」

刃が入った。アロンはハイラの左腕を押さえていた剣をハイラの反対側の首筋にめり込ませた。

「ガァァァァアアアアッッ!!!」

アロンの腕が交差した。血に塗れた刃は空を斬っていた。

「ハァッハァッハァッ!」

アロンは首のないハイラの体に森羅光封剣を突き刺した。

「キラア…レタアッ!ア…アヲンサマノタメノ…ヲナガガッ!」

アロンは左腕を真横に伸ばした。手の甲から剣先が飛び出した。


バンッ


銃と化したシャンディラの右腕から弾が飛び出す。アロンは首を傾けて避け、瞬時に右拳をシャンディラの顔面へぶつける。シャンディラは口で拳を受け止め、噛み砕いた。

「ガアアア!!」

シャンディラの腹を左右の足で交互に蹴った。シャンディラは飛ばされた。翼で反動をつけ、シャンディラに近づく。そして尾を鳩尾に突き刺した。シャンディラも負けじとアロンの尾を切断した。


バン、バン


右腕から放たれた弾の一つはアロンの頬を掠めた。穴の空いた左手でシャンディラの右腕を押さえた。


バン、バン、バン


弾は地面に埋まった。振り上げられたシャンディラの左腕を、右の前腕で受け止める。刃はゆっくりと入っていった。

「私はあなたを一番に慕っておりました。お姉様。私はあなたを殺してあなたになりたいのです。お姉様。どうかここで死んでください」

刃は骨まで到達した。アロンは奥歯を噛み締めた。右腕を上げ、左手を離した。そしてシャンディラを抱きしめた。

「シネ」

アロンの右足はシャンディラを上下真っ二つに裂いた。

アロンは洞窟の入り口の前で倒れた。

アロンは夢を見た。それは懐かしい、かつての思い出であった。

――――――――――――――――――――

私に名前など無かった。私は道具にすぎなかった。人間を改造するプロジェクトの一環で生み出され、それを指揮していた財団が摘発されると、孤児院に入れられた。しかし私はすぐに見つかった。タルタニッドという男に。奴は私を最高傑作と呼んだ。私は奴に言われるがままに人を殺した。そうしないと怒られるから。人を殺さないと、私は生きていけないから。

「次はこの男を殺せ。王子だ」

私がアロン・デルート・ケイサルを知ったのはその時だった。

「分かりました」

私は真夜中に王宮に侵入した。この手の殺しは何度もやってきた。しくじることはないと思っていた。でも違った。

アロンは目を覚ました。彼の悲鳴を聞いた使用人達に捕まった。

私は牢に入れられた。時には拷問も受けた。でも私は何も喋らなかった。喋ればタルタニッドに殺されることは明白だったから。

時間の感覚もなくなり、どれ程の時が流れたのかも分からなかったが、ある時私の牢の前にアロンが現れた。

「まだ幼い子供なのに、こんなのあんまりだ」

アロンは私にパンとスープをくれた。温かかった。こんな物、私は生まれて初めて食べた。

それからたまにアロンが来るようになった。食べ物をくれたり、お話をしたりして過ごした。ある時、アロンは私に尋ねた。

「どうして僕を襲ったのか、聞かせてくれるかな?」

私はありのままを話した。プロジェクトのこと、タルタニッドのこと、自分が殺しの道具であること。

私が話し終えるとアロンは泣いていた。そしてこう言った。

「良き王になる為にって、父上も母上も側近達もうるさいんだ。毎日毎日、僕の感情なんか無視して。だからたまに逃げ出して、ここに来てたんだ。君は僕の何倍も大変で、こんな事言うと怒られるかもしれないけど、辛かったんだね」

気付けば私も泣いていた。私たちは檻越しに、手を重ね合わせて泣いた。

「これは僕からの提案だ。君が人の命を奪ってきたその罪は消えない。でも償うことはできる。君のその力を、人を守ることに使ってくれないかい?」

人を…守ることに。アロン…様を、守ることに。

「私やります。この命に変えても、アロン様をお守りします!」

アロン様は少し驚いた顔をして、それから笑って頷いた。

「うん。これからよろしく」

それからも少し大変だった。私がアロン様の護衛になることに周りは猛反対した。しかしアロン様は折れなかった。後に私に、父上と母上に逆らったのは初めてだったよと笑って言った。

結局、アロン様が勝った。その後私は、当時のアンディラだった先代に見そめられ、アロン様の護衛をしつつ十二神将となった。

「晴れて公認となった訳だし、いつまでも君は良くない。名前を付けてあげないとな。何かある?」

「アロン様が付けてくださる名前がいいです」

「うーん、それじゃあ…君は…」

――――――――――――――――――――

「アイ!」

崖が吹き飛び、ゲートが閉じた。

「アロン…さま…?」

アブドはアイに駆け寄り、倒れているアイの背中に手を回して起こした。

「こんなに、ボロボロになって」

「思い出して…くれたのですね…」


ドォォォォン


目の先に砂柱が立った。

「探したよ。アブド」

「ドラゴギヴィル!」

アブドは右腕を伸ばした。高さ30メートルはゆうに超える巨大な壁が、真横に際限なく広がった。

「全部見たよ。俺の存在が全宇宙の記憶から抹消された後、アレクの命で十二神将に殺されかけた俺に危害が加わらないように、セメラムズ監獄に匿ってくれたんだな。朦朧とする意識の中で、俺を忘れまいとアイの人格を消してまでアロンとして生きてくれたんだよな」

「ぜんぶ…アロン様の…ためです…」

アブドはアイを抱きしめた。

「ありがとう。アイ。よく頑張ったな」

「あ…あぁ…アロンさまぁ…」

アイの両目から涙が溢れた。

「…アロン様…もう一度お顔を…見せてください」

「ああ。いいよ」

アブドとアイの目が合う。その瞬間、アイの唇がアブドの唇に触れた。

「ぜんぶ…アロン様の…ものです…から…」

アイは笑った。アブドはもう一度アイを抱きしめた。

アロン・デルート・ケイサルの胸で、アイは事切れた。

目の前の壁が崩れていく。ドラゴギヴィルが再び姿を見せる。

「焦らすなんて酷じゃないか」

ドラゴギヴィルは拳を地面に打ちつけた。カニーツが核から吹き飛んだ。

宇宙空間の中で、ドラゴゲネシスとドラゴギヴィルが向かい合った。

「お前を殺して、この宇宙を支配する」

「お前を殺して、この宇宙を救い出す」

最終決戦が今、始まる。

この話はフィクションです。実在する個人、団体、出来事などとは一切関係ありません。

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