EP43 光臨
ウィルはアブドの両肩に手を置いた。
「救世主様、よくぞおいでなさった」
「は、救世主?」
「左様。以前の非礼、心よりお詫び申し上げます」
ウィルは手を離し、頭を下げた。
「あ、ああ。別に気にしてないというか…うん。とりあえず顔上げなよ」
ぶっちゃけ忘れていたなんて口が裂けても言えそうにないな。
「さあ、そうと分かれば歓迎の用意だ!この街の最高級の品々でもてなしまっせ!」
「ああ、そう…。ありがとう…?」
「ささ、ついて来なされ」
アブドはウィルに言われるがまま歩かされた。市場はとても賑わっていた。そこには以前のように布と鉄柱で区切られただけの店は並んでいなかった。どの店もそれぞれの敷地が確保され、店は頑丈な壁に四方を囲まれていた。
「こちらです。役所兼私の家です。ささ、お入りなさって」
中でも一番巨大な建物の中へと案内された。入ると大きなシャンデリアのあるホールであった。目の前にカウンターがあり、その左右に二階へ繋がる洒落た階段があった。
俺は二階の、赤いカーペットの敷かれた長い廊下を歩き、ようやく部屋の中に案内された。
その部屋の中には椅子が二十はある大きなダイニングテーブルがあり、その上に次々と豪華な食事が運ばれてきた。
「遠慮せずにお食べなさってください。こちらは最高級のミーム貝のコクレア。こちらはバンビークの腸詰め。こちらはカシーカの卵。こちらはペリテンの肝臓。こちらは…」
ウィルに色々説明されながら、とりあえずはごちそうになった。
「バーバル街も変わったんですね」
一通り食べた後、俺は口を開いた。
「何をおっしゃる。貴方様が変えてくださったんですよ」
「え?」
「貴方様が見つけてくださったカルス石の鉱脈。それをシュリンター様が開拓してくださりました。おかげで今やカルス石がザクザク採れて、我々は皆膨大な富を獲得しました」
俺はシュリンターにカルス石の話を報告したことを思い出した。
「なるほど。それで」
「はい。この街は貴方様に救われたのです」
「そんな…。でも良かったです」
「それで、本日はどういった要件で?」
「ああそうだ。前来た時に会った老人に会いたくて来たんです」
「老人?」
「えっと、一つのテーブルしかなかった店の店主で、占い師みたいな方なんですけど」
「あー、多分マギデットのことですね。分かりました。案内しましょう」
「助かります」
俺はウィルの後に続いて豪邸を出た。
「アブド・デ・へルートを発見。場所はレグーノ、バーバル街」
店の隙間にて何者かが呟いた。
「実はですね、奴はどうも変わった人間で、あの店だけ以前と何一つ変わっていないのですよ。だから街の隅に追いやったんですけど。奴はかなり奇人なのでどうかお気をつけて」
「ああ。ありがとう」
「こちらです」
俺はテントの前に来た。確かにここだけ以前と全く変わらない。
「私は先程の役所におりますので、要件が済みましたら一声お声がけください」
「分かりました。何から何までありがとうございました」
「いえいえこちらこそですよ。それでは」
そう言ってウィルはもと来た道を歩いていった。
俺は暖簾を上げ、店の中へと入った。相変わらず机が一つとその上に砂時計が一つあった。
「おや、久しぶりだのう。店の前が騒がしいと思ったらやはりお主でしたか。いやはや、これはまた逞しくなられて」
「御託はいい。アンタに聞きたいことが二つある。答えろ」
「ほう。わしに答えられることならば」
「一つは、これだ」
アブドは机の上に森羅光封剣を置いた。
「この剣にはドラゴフォースが封印されている。その封印を解きたい」
「これは、森羅光封剣。かつて主様が使われておったのう」
「…まさかアンタ」
「ほう、中々の洞察力が身についたな。そうじゃ。わしは元十二神将の一人、クバラことマギデットじゃ」
「なら分かるか?」
「あのなぁ、わしはただの大将じゃ。主様の剣のことまでは知らんよ。それで、もう一つは?」
「アカシックレコード。その在処を教えろ」
「森羅光封剣にアカシックレコードか。耳にしたのは久しぶりじゃのう。へっへっへ、その所在とな」
マギデットは笑った。
「何がおかしい」
「いいことを教えてやろう。お主は勘違いをしておるようじゃが、アカシックレコードなどという書物は存在しておらぬ」
「何…だと…?でも神話に!」
「神話とて事実かは定かじゃろうに。それ以外の証拠はあるのか?」
「それは…。なら教えてくれ。俺はどうすればいいんだ。どうすればドラゴギヴィルを倒せる」
「およ、話はまだ終わっておりませぬぞ。全ては心の中だということじゃ」
「心の中?」
「アカシックレコードを読むということはアカシックレコードを感じるということ。このことはプラヴィーロレコード然り。書物であるという固定観念に縛られてはなりません。見るに、お主はあまりにもたくさんのものに縛られ過ぎておる。これが過去に忠告した困難ということよ。いいか、本質を見失ってはならん。命を懸ける価値のあるお主の真の願いを忘れてはならんのじゃ」
「結局なんなんだよ、アカシックレコードや、ドラゴギヴィルの言っていたプラヴィーロレコードって」
「わしにも分からぬ」
「え?」
「わしはレコーダーといってな、自らの意思でアカシックレコードに繋がることが出来るのじゃ。しかし読み取れることは大きな流れのみ。それでお主を占ったわけじゃよ。これまでも長いこと繋がってきたが、わしにもその正体は分からぬ。プラヴィーロレコードは、光龍王ドラゴフォース様に関係するものと聞いておるが、未だ目にしたことはございませぬな」
「要は、マギデットにも分からないということなのか?」
「どのように判断するかはお主に任せますぞ。今のはあくまでわし個人の話じゃよ」
ドォォォォン
突如、轟音と衝撃がバーバル街に響いた。
「来おったか」
「え?」
「この場所で変化があることは読み取れておったのじゃ」
「行ってくる」
「何の為に」
「決まってるだろ、敵討ちだ」
アブドは音のした方に走って行った。
「…変わらぬか」
場所はすぐに分かった。ウィルの豪邸の一部が崩れ落ちていたからだ。
「何なんだ畜生」
ウィルの罵声が聞こえた。
「誰がやりやがった。締め殺してやる」
「それは面白い。是非見物させてもらおうか」
そこにはやはり、奴がいた。
「何だテメェ、見ねぇ顔だな」
「ウィル!」
俺は叫んだ。
「え、あっ、救世主様!」
「そいつは危険だ。離れていろ」
「へっ、へぇ…」
ウィルは一歩ずつ距離を取っていった。
「アブド。迎えに来たよ」
「わざわざどうも。探す手間が省けた。ここで殺す」
アブドは森羅光封剣を構えた。
「まぁ待てよアブド。俺の力をその目で見ただろ?ここ一体の人間全て殺すことだって出来るんだぜ?」
「くっ…」
俺は剣を見た。そしてそれを地面に突き刺した。
「偉い子だ」
グシャッ
土から現れた四匹の龍がアブドの手足を拘束した。
「今のままでは無意識の抵抗をされる。奴を内面から壊すのだ」
「はい。ドミナード様」
デトルートが一人で何かを喋っていた。しかし遠くて聞き取れなかった。
ドサッ
突然、ウィルの左腕が落ちた。
「ぐぁぁぁッッ!」
ウィルは傷口を押さえながらしゃがみ込んだ。
「腕一本くらいで…。君にはもっと鳴いてもらわなくちゃいけないのに。うーん、もうちょっと増やすか」
デトルートは龍を増やし、数十人を空中に持ち上げた。
「おーい、アブド。今からこの人たち全員殺したら、絶望してくれる?」
「ウオオォォォッッ!」
アブドは四匹の龍をその首ごと引きちぎり、森羅光封剣を掴んでデトルートの元へ駆け出した。
「動くなよ」
デトルートがそう言い放つと、アブドの手足は付け根から切断され、四肢のないアブドは倒れた。
「ギャッ」
「そうそう、大人しくしてて」
さらに龍がアブドの体を固定した。
「オールハトゥーム…力を…貸してくれ…」
『何故ダ』
「奴を…殺ス…ッ!」
『断ル。貴様ノ私怨晴ラシニ付キ合ウツモリハナイ』
「私怨…ナンカじゃ、ナい…!」
『ナニ?』
「オレは、俺ハ、俺は…!3人の想いを…受け継いで…!」
「堕ちろッ!ドラゴゲネシスッ!」
デトルートが叫んだ。
「世界を救う!」
轟く雷鳴。雷が空を裂いた瞬間、デトルートの胸を森羅光封剣が貫いた。
閃光が煌めき、アブドは目を瞑った。
『マダココマデノ力ガ残ッテイタトハ』
アブドが目を開くと、目の前に光り輝く龍がいた。
「お前は…ドラゴフォース…?」
『ソウダ。ドラゴゲネシス、貴様ニコノ力ヲ譲ル』
「ドラゴフォースの力を?」
『私ヲ剣ニ封印シタノハ、ドラゴフォースノ力ヲ支配シヨウトシタカツテノドラゴゲネシスダッタ。ソレ以来私ハ、利用サレ続ケテキタ。アブド・デ・へルート。オ前ノソノ覚悟、決シテ忘レルデナイゾ』
そう言い残して、目の前の龍はゆっくりと消えた。
「ああ。ありがとう」
再び目を開くと、森羅光封剣が一方の刃を向けて顔の前に迫った。
「全ては心の中。固定観念に縛られるな。光を封じた森羅光封剣こそが、光を記すプラヴィーロレコードだ!」
パキン!
刃の付け根の一部を噛み砕くと、アブドは光に包まれた。翼が生え、以前より広がり、手足が一瞬のうちに再生し体は二回り程巨大化した。
ドンッ
拳を地面に叩きつけると、ドラゴギヴィルの真下から数多の剣が飛び出し、龍の体を貫いた。
そして次の瞬間、仁王立ちするアブドの後ろに、囚われた者たちはいた。
「何!?こんな一瞬で!まさか、光より速く動けるというのか!?」
「ドラゴギヴィル、覚悟!」
アブドは地面を蹴った。その手に握られた森羅光封剣でドラゴギヴィルに斬りかかる。
「くそ!くそ!くそッ!」
デトルートは龍を出現させ盾にするも、アブドは次々と切り裂いていった。
「喰らエエエッッッ!」
アブドが剣を振り上げた。
「そこだァァ!」
剣先を、龍が突いた。アブドの手から剣が抜けた。
「ウオオオオォォォォッッ!!」
アブドはそのまま拳を握りしめデトルートの頬を殴った。
その瞬間、アブドの脳内に声が響いた。
『タケル、今マデ、アリガトウナ』
『タケル、今まで、本当にありがとうね』
『もう、いいの。タケル、ありがとう』
何なんだこれ…記憶?
デトルートの右腕がアブドの首まで伸びた。
「ガッアアアアァァァッッ!」
まずは、コイツを!
「ガァアアアアアアッッッ!くたばれエエエエェェッッ!」
デトルートの手にさらに力が入る。
バキバキバキ
首の骨が折れる音がする。
「あアアああアあァァァッッ!アアァァッ!」
翼が空気を押す。腰から生えた左右の噴射口が火を噴く。
「ダァァァァアアアアッッッ!!」
アブドの右腕に乗った全ての力がデトルートを空の彼方へ吹き飛ばした。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
アブドは気を失い、そのまま落下した。
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草原に少女が倒れていた。
少女は体を起こした。
「あれ、ここはどこ?」
空が、周囲全体が、黄色かった。すごく、温かい。なんだかふわふわする。
「あら、お客さんだなんて珍しい。ここは未練を残して死んだドラゴニュートの魂が集まる場所。あなた名前は?」
黄色い霧の向こうから声がした。
少女は振り返る。
「…ティナ・イ・オディオ。あなたは?」
霧が晴れ、赤髪の少女が現れた。
「私?私はビオロ」
この話はフィクションです。実在する個人、団体、出来事などとは一切関係ありません。




