EP40 正義の激突
ティナを乗せた船はザピーシに到着した。
オルディネイトの姿は見えなかった。間に合ったようだ。
ティナは団長のもとへ向かった。
「ティナ・イ・オディオ、ただいま帰還致しました」
「オディオ。よくぞ戻ってきてくれた。これより作戦指示を行う。参謀室に集合してくれ」
「了解しました」
ティナが団長室を後にしようとした瞬間、顔馴染みに遭遇した。
「ラーノ!あなた、どうしてここに?オルディネイトに転向したって…」
「ふふ、二重スパイも荷が重いよ」
ラーノは団長に迫った。
「オルディネイトの軍勢がオーバーワールドに入ったようです。間もなくここに来ます」
「了解した」
第一、第二、第三参謀室を隔てる壁を取り払ったホールで、ガルディオの騎士総勢183名が集結していた。
ガルディオ団長、イポテスダ・ドゥクスが登壇した。
「ガルディオの諸君、よくぞ集まってくれた。これより、最後の作戦を通達する。だがその前に話がある。私はガルディオの団長として、659年間、君達の指揮をしてきた。そしてガルディオは、王が設立なされたその日から、130億年に渡ってこの宇宙の平和と秩序を守ってきた。その組織が今、壊滅の危機に瀕している。130億年の歴史に幕が降りようとしている。私はこう思う。これが運命ならば、甘んじて受け入れようと。古い物はいずれ滅びる。だが、私はこうも思う。130億年という歴史が、あっけなく終わってしまっていいのかと。君達には選んで欲しい。ガルディオとして散るか、オルディネイトとして新たな歴史を作るか。私、イポテスダ・ドゥクスは現時点でのオルディネイトへの離叛の一切を許可する。君達は組織と、王にその身を捧げたのだ。オルディネイトとして王に忠義を尽くす道もある。この中に志願者がいれば挙手するように」
ドゥクスは部屋を見渡した。ふと、笑みが溢れた。
「そうだな。ここまで残ってくれた君達にはいささか愚問だったな」
ドゥクスは一度深く息を吐いて、顔を上げた。
「いや、ない!彼らオルディネイトは愚かにも130億年という歴史の重みに楯突いた。何が運命だ。そんなものは跳ね除けてしまえ。我々ガルディオはこの戦いに勝利し、新たな歴史を創るのだ!」
ドゥクスは拳を突き上げた。
「「「おおおおおお!!」」」
ガルディオの騎士183名も、ドゥクスに続いた。
「奴らは西の方角に集結していると聞いた。総員行動開始」
「「「了解」」」」
「団長、出現しました」
「用意は?」
「充電完了。いつでも撃てます」
「了解。目標、宇宙空間内のオルディネイト…敵艦隊!荷電粒子砲、改ダーパ照射!」
――――――――――――――――――――
「セデル!大変だ!先駆隊が!」
アビラ・セパミラが大急ぎで報告した。
「どうした?」
「壊滅した」
「…何?」
「これが送信されていた最後の映像だ」
アビラはセデルに端末を寄越した。
「この光線は…まさか…ダーパ?」
「そうだよな…。解析班もそう言っている」
「そんな…。ダーパはザモーク戦で全て故障したはず。それに、誘導弾は?」
「確認されていない。奴らにまだこんな兵力があったなんて」
「だがこっちには新兵だっているんだ。数の面では圧倒的よ」
『騎士長、間もなくザピーシに到着します』
「敵は高威力のレーザー兵器を所持している。予定ルートとは別の方向から一気に叩く」
『了解』
「そしたらまたダーパに!」
「誘導弾がない以上、光線は真っ直ぐにしか進まないことに賭ける」
オルディネイトの本艦隊がオーバーワールドを抜けた。
「全機散開!敵のレーザー光線を避けつつ本部を奇襲する。まずは本部対極のオーラトの海上空に再度集結せよ」
『『『了解』』』
その瞬間、黄色い光線が目の前に迫った。
「散開!」
すんでのところでセデルを乗せた司令船はダーパの光線を避けた。だが、何隻かの船は光線によって消滅した。
――――――――――――――――――――
「団長!敵艦隊が宇宙圏防衛線を突破!間もなく大気圏に突入します!」
「奇襲区域を予測。各エリアの班長に適宜連絡せよ」
「了解」
オーラト海域班長、ティナ・イ・オディオ。
『オディオ班長、敵艦隊はオーラトの海に集結するとの予測です』
「了解しました」
ティナは振り返り、砲台に待機する騎士達に叫んだ。
「敵が来るぞ!ありったけの火力を使い、残らず殲滅せよ!」
「「「おおおおおおおぉぉぉッッッッ!!」」」
雲一つない青空の一点が、赤く染まりだす。
赤い光は次第に大きくなり、遂に戦闘機が姿を現した。
「攻撃開始!」
ドンドンドン
砲弾が敵機へと飛んでいく。
「当たったぞ!」
「その調子だ。どんどん打ち込め!」
「セデル、攻撃を開始しよう。このままじゃやられるだけだ」
「待て。アレをここで試すんだ」
「アレを?」
「ああ。だがまだ到着していない。時間が欲しい」
「敵と交渉しよう。必ず乗ってくるはずだ」
「よし。繋いでくれ」
「オディオ班長、何やら敵からの通信信号を傍受しました」
「何?」
ティナは少し考えた。そして団長に報告した。
「ドゥクス団長、敵からの通信信号です。応答しますか?」
『…ああ、頼む。戦わずして終わることが互いにとっての最適解であることを強く訴えるのだ』
「了解。通信を繋いで下さい」
「はい。直ちに」
ガルディオとオルディネイトが交信を始めた。
『こちらオルディネイト騎士長セデル・ユスティーツァ。交渉を要求する』
「セデル…!こちらガルディオの騎士ティナ・イ・オディオ。そちらの要求を聞こう」
『オディオか。オディオ、元同僚として助言だ。オルディネイトに来い。お前の強さは俺が一番知っている。ガルディオは今日滅びる。お前のような逸材が消えてしまうのは、この宇宙、王にとって大きな損失となる。オディオだけではない。我々はオルディネイトとなる者を歓迎する。オディオ。共に宇宙の平和と秩序を守ろう』
「私の一番はあなたではないし、私達の心が揺らぐ事は決してないわ」
『…。仲間にならないのなら、敵と見なすしかない』
雲を掻き分け、巨大な戦艦が姿を現した。
「主砲、装填完了」
「発射」
戦艦から放たれた赤色のレーザービームによって、オーラト海沿岸の迎撃部隊は壊滅した。
「全機、進行開始。目標は対蹠点に位置するガルディオ本部」
『『『了解』』』
「団長、オーラト海域との通信が途絶えました。恐らく、壊滅的被害を被ったのかと…」
「オーラトの海からここまでの考えられる全ルートに改ダーパを分散させるんだ。急げ」
「了解」
戦闘は激化した。ダーパの破壊を目指すオルディネイトの戦闘機が爆撃しながら進んだ。
「第三次奇襲部隊、壊滅…」
「団長、間もなくここに来ます」
「総員、後退せよ。部隊を再展開し待ち伏せるのだ」
「団長は…?」
「マークシオ班を舐めてもらっては困る」
「「「…了解」」」
部屋を後にする騎士達と入れ違いに、グンナー・アラリア、キアラ・セレスト、ガラリア・サヴェールが入室した。
「来たか、グンナー、キアラ、ガラリア」
「第三部隊まで壊滅だ。いつまで時間が稼げるかな」
「でもやるしかねーよ。その為の俺達だ」
「そうね。ぶちかましてやりましょう」
「敵の最大勢力はあの船だ。あれを落とせれば、希望が見えてくる」
「簡単に言うが、どうする、団長?」
「船に乗り込み、舵を奪って墜落させる」
「「「ッッッ!?」」」
「キアラ、改ダーパの残りは?」
「無いわ。どれも出払った先で破壊されたもの。急造だから仕方ないけど、移動に時間が掛かるのよ」
「つまり、手は一つしかないと」
「そうだ。ガラリア」
3人は目配せをした。
「どう乗り込む、団長?」
「騎士長!敵機四機がこちらに向かって来ます!」
「航空部隊は何をしている!さっさと撃ち落とせ!」
「それが…」
『おいおい、なんだコイツら、弱すぎねーか?』
向かってくる戦闘機を撃ち落としながら、グンナーは叫んだ。
『グンナー、うるさい。多分コイツらはガルディオの騎士ではない。恐らくはこのために集められた新人だ。使い捨ての駒用の、ね』
『見て、戦艦の戦闘機が出てきた。今なら保管庫のハッチが開いてる!』
『よし。所詮は片道切符だ。全機突っ込め!』
『『『了解』』』
「おいおい、こっちに向かって来てないか!?」
「急げ!ハッチを閉めろ!」
マークシオ班の四機は加速した。ハッチの扉が閉まるすんでのところで、侵入に成功した。四人は戦闘機から飛び降りた。四機は保管庫の壁に激突し、爆発した。
「敵が来たぞ!撃ち殺せ!」
立ち込める黒煙の奥から四人の騎士が飛び出し、オルディネイトの整備士を皆殺しにしていった。
「ひ…非常用ボタン…!」
一人の男が拳でケースを破り、赤々と光る非常用ボタンを押した。
パンッ
ガラリアの放った弾丸によって男は倒れた。
艦内に警報音が鳴り響いた。
「この位置だけがちょうど死角だった。一足遅かったか」
『ガラリア、ここは片付けた。とっとと進むぞ』
通信機越しにグンナーの声がした。
「ああ。すまない」
四人は艦内に侵入した。
「見つけたぞ!撃て!」
「突っ込むぞ、最大推力」
「「「了解」」」
スーツのAIの予測と自身の目測を頼りに銃弾の間をすり抜け、四人は進んだ。
「追え!撃ち続けろ!」
オルディネイトの銃弾が、グンナーの足裏に命中した。
「まずい!」
ブースターが故障したグンナーは、壁や天井に衝突して落下した。
「3人は進め。ここは絶対通さない」
『グンナー、世話になったな』
グンナーは通信器のついたヘルメットを脱ぎ捨てた。
「へへ。それはこっちのセリフですよ団長。最後まで共に戦えて光栄でした」
グンナーは仁王立ちし、両手にマシンガンを構えた。
「お前らには悪いが、ここで死んでもらう」
ババババババババババ
銃弾は、オルディネイトの騎士の額に命中していった。
グンナーは一歩、また一歩と歩を進めていった。
やがて敵の銃弾がグンナーにも命中した。頬を掠め、肩にめり込み、太腿に貫通した。
「へへ。まだまだ狙いが甘いぜ小僧ども。俺を殺さないと死んじまうぞ!」
「グンナー、大丈夫ですかね」
「あいつは強い。そうだろ?」
「そうでした。心配する方が失礼でしたね」
「まずい、前から敵よ。それに数が多くて端から端までびっしり。抜けれそうにないわね」
「ちょうど十字になっている。二手に分かれよう」
「「了解」」
ドゥクスとキアラが右、ガラリアが左に曲がったその時だった。
「止まれ。武器を捨てろ。動くな」
二方にも、敵が待ち構えていた。三人は後ずさりし、十字の真ん中に集まった。見ると、保管庫の方からも敵が追いついてきた。
「万事休すか」
ドゥクスが武器を置いた時だった。三方に非常用シャッターが閉まり行く手を阻まれた。
三人は左右のシャッターの前に飛び移り、角から敵の数を数えた。
『お待たせしてしまいすみません。突然のことで位置の把握に時間がかかってしまって』
「問題ない。ベストタイミングだ、ラーノ」
『開いてる通路を直進して、三つ目の十字を右に、直後の十字を左に行けば操縦室です。敵の集団は目の前と、そちらに向かう四グループと会敵する危険性があります。今操縦室までの通路をシャッターで閉鎖しまたが、手動でも開きます。なるべく早急に行動して下さい』
「了解した」
「では団長、ここは僕が。二人は突っ切って下さい」
反対側のシャッター前にいるガラリアが志願した。
「分かった。ありがとう」
「いえ、元々は僕の蒔いた種です。処理は自分でします」
「頼もしいよ。ガラリア」
ガラリアは通路に出た。右手にはブレードが握られていた。
「僕はガラリア・サヴェール。ガルディオの騎士の名にかけて、お前達を殺す」
ガラリアは迫り来る弾丸をブレードで弾いていった。
その頭上を、ドゥクスとキアラが飛んでいった。
「奴は囮だ。追え!」
集団が背を向けた途端、ガラリアの太刀がオルディネイトの騎士を襲った。
「敵に背を向けるとは、まだまだだな」
ガラリアは通路に立ち尽くしていた。周りには血肉が散らばっていた。
「僕は人を殺すことしかできない」
音がして振り返ると、シャッターが開いた。
「ここから先は通さない」
「あの扉の先よ」
「ああ。ラーノのおかげで敵に会わずに済んだ」
「ありがたいわね」
二人は操縦室に入った。その瞬間に乗組員を銃殺した。
「私は扉を見張るから、ドゥクスは操縦を」
「分かった」
ドゥクスは乗組員の死体を押し退け、操縦桿を握った。
「くそ、見づらい。邪魔だ」
ドゥクスはヘルメットを脱いだ。
「自動姿勢制御システム解除。船体角度前方80度に固定。メイン、サブ両エンジン推力最大」
船が傾く。次第に地面が近づく。
パンッ
フロントガラスに血が吹きつけた。額から血が垂れ、顔面にに広がった。
「団長、もう終わりです」
女の声がした。振り返り、敵に銃口を向けた。
パンッ
弾は外れ、ドゥクスは倒れた。
キアラの妨害を突破した唯一の騎士が、操縦桿を握る。
パンッ
血飛沫が天井に飛び散った。
ドゥクスの放った弾は騎士の後頭部に命中した。
「こんなところで…倒れるわけにはいかないんだ…」
装置に手を置き立ち上がる。装置は血で汚れた。
「全速、前進!」
ドゥクスはレバーを倒した。船が加速した。
――――――――――――――――――――
「セデル!戦艦が!」
「艦内の騎士を直ちに退避させろ」
「総員緊急退避。繰り返す、総員緊急退避だ!」
『そうはさせないぜ、セデル』
「その声は!」
『ああ俺だ。ラーノだ。今船の全隔壁を起動させた。これで誰も動けない』
「それはお前も同じだぞ、ラーノ」
『当然だ。お前は甘い、セデル』
通信が途切れた。
「くっ…!」
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「見ろ!船が!」
団長の指示のもと荒野の地下基地へと逃れたガルディオの騎士達は、そこでオルディネイトの戦艦が墜落するのを目にした。爆音と共に土煙が高々と上がった。
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「生き残っている全騎士に通達。これより地上作戦を実行する。ガルディオの騎士を一人残らず抹殺せよ」
この話はフィクションです。実在する個人、団体、出来事などとは一切関係ありません。




