EP39 因縁
惑星レグーノ、アレク王の宮殿パシフィスの塔前広場に民衆が集結していた。
外へ繋がる王宮内の長い廊下で、二人の男が言い合いをしていた。
「お待ち下さい。王のお手を煩わせる訳にはいきませぬ!」
「うるさい。俺がやると言っているんだ」
「しかし!」
アレク王と、執事のジョナサンである。
「王であるこの俺に不満を持つものは断じて許さぬ。見せしめとして、あの場所で直々に手を下すのだ。そうすれば刃向かうものもいなくなるさ」
「王、命はダメです。決して奪ってはなりませぬ」
「それでは…!」
アレク王が立ち止まる。
「見せしめの意味が無い。大丈夫だ。今集まっている者たちさえ殺せば、誰も刃向かわなくなる。これも平和の為だ」
「全ての星に発言権を!」
「血族差別を撤廃せよ!」
「減税しろ!」
民衆は広場にて各々の意見を表明していた。
突如として扉が開き、階段の上にアレク王が現れた。
「王だ…」
「我々の意思をお聞きになられるに違いない」
「王!お聴き下さい!」
アレク王は森羅光封剣を空に突き上げた。
「我に刃向かう者は何人たりとも許さぬ。この場で斬り捨てる」
民衆の間にどよめきが起こる。
アレク王がゆっくりと階段を降りる。門が開く。
「「「うわぁぁあああああ!!」」」
民衆が逃げ出す。その最中、人波に飲まれた一人の子供が転んだ。
アレク王は剣を振り上げた。
――――――――――――――――――――
集中だ。
アブドはこめかみに力を入れた。
思い出せ。あの感触を。形を。冷たさを。
しかし力を入れれば入れるほど、雑念が邪魔をしてアブドの集中を削いだ。アロン、過去、ティナ、ガルディオ、シオン、リデル、アカシックレコード…。
俺は目を開けた。深く息を吐く。
俺は再び目を閉じた。今度は全身の力を抜いた。
頭の中に真っ白い空間が広がる。中心に灰色の水滴が落ちる。その水滴は集まり、石の形を形成した。
凹みの形を思い出す。重さを、冷たさを思い出す。
右手に熱を感じた。目を開けて右手を開いてみると、そこには修行の時に見たあの小石があった。
表面を指で撫でると少し沈んだ。形も完璧にそれだった。
「アブド、オーバーワールドを出るわよ」
ティナの声がした。俺は小石を握りしめ、操縦室に戻った。小石は音もなく消えた。
間もなくして、王都レグーノが見えた。
「塔の前まで行って欲しいんだ」
「塔って、宮殿の?」
「分からないんだ。レグーノ地理大全集の表紙に載っているやつなんだけど」
「…レグーノで一番有名な塔といったらやっぱりパシフィスの塔よね。分かったわ。そこで降ろす。後は自分で探して」
「ありがとう」
「あれ?」
ティナが指差した先には、夢で見た物とそっくりの塔があった。
「そう。あれだ!」
「分かった。もう少し近づくわ。ハッチにいて」
「うん。片付いたら、必ず助けに行くから」
去り際にアブドはティナに声を掛けた。
「心配しないで。アブドが来る頃には終わらせているから」
「それもそうか。じゃあ、また」
「ええ。またね」
アブドはハッチの前に移動した。
ハッチが開いた。まだ船は空中である。
アブドは一度呼吸を整え、船から飛び降りた。
アブドを降ろした船は、ガルディオ本部のあるエウロパに向かった。
アブドは塔の広場に人が集まっているのを目にした。そして剣を構えた男を見つけた。
アブドは加速し、広場の芝生に着地した。塔の前に急いで向かう。
『助けて』
あの時聞いた声がした。逃げ惑う市民の切れ間から、男に剣を向けられた少年を見た。
アブドは手を伸ばした。
男は少年に剣を振り下ろした。
ガンッ
鈍い音がして、剣先は少年の頭の直上で止まった。
音を聞いて、市民が振り返る。
「おい、見ろよ」
「あれって」
「指名手配中の…」
「アブド・デ・へルート!」
市民が騒めく。
アブドが男へと近づく。市民は波のように固まって左右に道を開ける。
アブドとアレク王が対峙した。
「逃げて」
少年は頷き、そして走り出した。
「何故このようなことをするのですか、王」
「お前は…お前は…!」
アレクはアブドを指差した。
「…?それよりもガルディオ討伐を取りやめて下さい」
「やはりあの時殺しておけば良かったんだ。俺が甘かった。アブド・デ・へルート!この俺アレクが、今この場でお前を斬る!」
…ブレード。
アブドはそう念じた。すると横に広げた右手に、ブレードが握られていた。
「それなら、受けて立ちます」
アブドは言い放った。
「そ、それは…!」
アレクは自身の剣を見た。アブドの持っているそれは、森羅光封剣と瓜二つであった。
「何故それを持っている!」
「何故?俺はシェニーと戦った時もこの剣が出てきた。これは俺の剣です」
「偽物が!」
アレクがアブドに向かって走り出す。
アレクの斬撃をアブドは身をよじってかわす。
「くっ…!」
「いくぞ」
アブドは地面を蹴った。
剣先がぶつかり鋭い音を立てる。
「舐めてもらっては困る。俺はずっと、この日を待ち望んでいたのだ」
アレクはアブドの剣を上に弾き、腹を狙う。
アブドはすぐさまそれを剣で受け止める。
「答えろ。何故罪も無い人々を傷つけようとする」
「罪ならある。この俺に刃向かっていることだ!」
「ガルディオの騎士達もそうだと言うのか。彼らは王の為に戦う騎士だぞ!」
「俺にはオルディネイトがいる!それだけで十分だ。俺に逆らう可能性が少しでもある者は排除する!」
アレクはすかさず左腹を狙うが、それもアブドに防がれた。
「それで王が務まると思っているのか!」
アブドはアレクの腹を蹴った。アレクは後ろに吹っ飛ぶ。
アレクは受け身をとったものの、その場に倒れた。
「クソッ!」
アレクは拳を地面に叩きつけた。
「お前はいつもそうだ。そうやって俺を否定するんだ!」
立ち上がり、アブドに剣先を向ける。
「王は俺だ!もうほっといてくれよ!兄上!」
「えっ…」
アブドは目を見開いた。
「どういうことだ。俺が…兄上?」
「知らないのか?…そうか。記憶がないのか。なら好都合だ。このまま何も知らずに死んでくれ!」
アレクがアブドに接近する。
「そうはいくか!教えてもらうぞ、俺の過去を!」
ガキンッ
両者の刃が擦れ、鋭い音が響く。
「お前を殺して、ドラゴゲネシスの力は俺が引き継ぐ!」
力が反発し合い、両者が背後に飛んだ。
「そうはさせない。お前はこの力を悪事に使うに決まっている」
「悪事?笑わせるな。王が善だ。王の行いを否定することが悪だ!」
刃が拮抗する。
「どうしてそんな事言うんだ!お前はそんな子じゃなかったはずだ!」
アブドは再び目を見開いた。
え…?俺は今、何て?
「だぁッ!」
一瞬の隙に、アブドはアレクに腹を蹴られた。
「ガッ」
アブドは後ろに飛ばされた。アブドは倒れた。
どういうことだ?口が勝手に。まさか本当に、俺はあの王の兄なのか?
「とどめだ!」
アレクが森羅光封剣を振り上げた。日の光が当たり、剣先が輝いていた。
突然、地中から円柱が飛び出した。円柱はアレクの腹を突いた。
またしてもアレクが吹っ飛ぶ。
「それがドラゴゲネシスの力か。くそ、馬鹿にしやがって!」
アレクは再び立ち上がった。
二人の決闘は、一時間近く続いた。
ドサッ
アレクは遂に倒れた。
「これで終いだ」
アブドは剣を振り上げた。
アレクは目を瞑った。
ガンッ
アブドは剣をアレクの顔の横に突き刺した。
「立てよ」
アブドはアレクに手を差し伸べた。
「どうして…?」
「本当に俺がお前の兄なら、お前を狂わせた責任の一端は俺にある。償いたい。お前は凄い奴だ。悪かった、アレク」
アブドは頭も下げた。
「そんな…そんな…遅いよ…」
アレクはアブドの手を取った。そして立ち上がった。
「兄さん…今…僕のこと…」
「ああ。褒めてるんだよ。お前は手強かった。強い王になったんだな。でも人を傷つけるのは駄目だ。まだ間に合う。良い王になるんだ、アレク」
「兄さん…。はい、僕、なります」
「じゃあやることがあるよな」
アレクは頷いた。そして、二人を見つめる民衆に向き直った。
「あなた達にに手を挙げてしまったこと、心よりお詫び申し上げます。この反省を生かして、出来るだけ皆様の意見を取り入れた政治を行っていきたいと思います。これからも何卒宜しくお願いします」
アレクは頭を下げた。沈黙が流れる。まだ顔は上げない。
そんな中、どこからともなく拍手が起こった。勢いは周囲に伝播し、ついには全員が手を叩いていた。
新王が認められた瞬間であった。
アレクは顔を上げた。
「僕にはもうこれは必要ありません。どうか兄上が持っていて下さい」
アレクは森羅光封剣を拾い、アブドに手渡した。
「ありがとう。大切にするよ」
アレクは笑った。
「お兄さん」
アレクに斬られかけた少年が、二人に近づいた。
「君…さっきはすまなかった」
「お兄さんが助けてくれたから、いい。お兄さん、強いんだね」
「そうだね。最高の兄上だよ」
「ソノ力、僕ニモ欲シイナ」
メリメリメリッ
少年の腹が裂け、中から黒い腕が伸びてきた。
腕はアレクの腹を貫通した。
「ガハッ」
アブドは伸びてきたもう一本の腕を森羅光封剣で防いだ。
「ハハハ、お兄さん、強いんだね」
低い声が響いた。
「この…声は…」
「そうだ。今までご苦労であった。我が友、モナクよ」
「ヘ…ヘビッ…!」
「君のおかげでプラヴィーロレコードを破壊することが出来た」
プラヴィーロ…レコード…?
「あ…あぁ…!」
「に、逃げろ!」
突然の恐怖のあまり硬直していた民衆が、慌てて逃げ出す。
「五月蝿い」
ブシャッ!
パシフィスの塔前広場に集まっていた全員が、全身から血を吹き出して死んだ。
「そ…な……に…い…に…げ……」
腹を貫通していた腕が抜け、アレクは倒れた。
「お前…何者だ!」
2本の腕が少年の体を押さえ、中から真の姿を現した。
「俺の名前はデトルート。闇の龍王、ドラゴギヴィルだ」
漆黒の肉体に紫色のラインが走っていた。
「ドラゴギヴィル…!」
「貴様の力も頂くぞ、ドラゴゲネシス!」
デトルートの手が伸びてきた。アブドは壁を作ってその攻撃を防いだ。が、壁は砕け、腕の勢いは止まらなかった。アブドは横に飛び、間一髪で避けた。
「ほう、力を使いこなせるか。ドラゴゲネシスよ」
『アブド…助けて…』
突然、ティナの声が聞こえた気がした。
アブドは翼を生やした。そして足元からは壁を生やし、高く上がったアブドは飛び立った。
待ってろよ、ティナ!
「追え」
デトルートは呟いた。
この話はフィクションです。実在する個人、団体、出来事などとは一切関係ありません。




