EPν 血ノ宿命 前編
宇宙の中心から遠く離れたとある銀河に、スファギという惑星があった。
この星は大部分が海であり、島々が連なって一つの都市を形成していた。
いくつかの事件は起こるものの、惑星全体で見れば、大きな争いもない平和な星であった。
――シェニー・アグリアが起きるまでは。
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数多くの貴重な自然を残す島、アコナハ島。その特徴ゆえ島の機械化は進んでおらず、島内はシェニー・アグリアの影響を受けなかった。しかし、他の島からの移民を追いかけ、機械船が15海里付近まで迫っていた。
「敵の船だ!大砲用意!」
灯台から監視役の男が叫ぶ。
ドンドンドンドンドンドンドン
海岸線の砲台が一斉に発砲する。一瞬の閃光。そして海岸線に火柱が立ち昇った。
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「以上が第一次掃討作戦の結果です。現在敵艦は沈黙を続けています」
アコナハ島防衛戦線北方作戦本部。
「北以外に敵の姿は?」
同戦線作戦隊長、ツルミ・コーランド。
「200海里以内に敵艦の姿はありません。しかし南のザルピン島は既に陥落。時期にこちらに進軍してくるでしょう」
「うむ…」
「隊長、選択肢は二つです。一つは島中央に広がるアポネアの森に潜み、進軍する敵に強襲する作戦。過去の戦争で使われた地下通路を再利用し、敵を下から攻撃します。そしてもう一つは今ある船で主要人を東のライズ島に移す作戦。あそこなら助かるでしょうが、移動できる人数に限りがあるのが問題です」
「隊長、いかがされますか?」
「両方だ。両方進めろ。アポネアの森で陣形を展開し、敵を迎え撃つ。かたわら、南東のロマニ港にてライズ島への避難準備を進める。アポネアの森での戦況が悪化したらば南下し、ロマニ港を目指す。これでいこう」
「「「了解」」」
「そして、ライズ島への避難計画は極秘に進める。ここにいる者以外、他言無用だ」
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アポネアの森南の学校。
「なぁ聞いたかカホール。北のニミヨタ海岸で戦闘だってよ!」
13歳の少年、カホールは振り返り、ドルグの席に身を乗り出した。
「え、それで、どっちが勝った!?」
「…機械だ」
「そんな…」
「そこ、静かに」
二人は前に立つ先生の注意を受けた。
「「はぁい」」
カホールは向き直った。
「ええ、既に承知の者もおると思いますが、ニミヨタ海岸にて自律式水上移動兵器通称バハリアとの戦闘が勃発。我が軍はこれに勝利しました」
ドルグが立ち上がる。
「先生!何を言ってるんですか!ニミヨタ海岸では負けたんですよ!」
「ドルグ君。バカなことを言うのはやめなさい。これは軍直々の報告ですぞ。君のくだらない冗談で周りを不安にさせないでもらいたい。みなさん安心なさい。我々は勝ったのです。しかし既に戦闘が起きた以上、次がないとも断言できません。そこで明日から当面は休校とします」
「「「ッッシャァァァァアアアア!!!」」」
授業が終わり、カホールとドルグは並んで帰路についていた。
「あのジジイ嘘つきやがって。軍による情報統制だよ。それに違いない」
「そんなにムキになるなよドルグ。いいじゃんか別に僕達に被害はないし、休めるんだし」
「そんなこと言ったって、ここに進軍してくるかもしれないだろ!」
「大丈夫だよ。そん時は兵隊さんが守ってくれる。なんたって僕やお前の父さんもいるんだぜ?」
「…そうだな。大丈夫だよな」
「うん。大丈夫だよ。っと、もうここか。じゃあまたな」
「おう。また」
カホールは家のある丘への坂道を上り出した。
「ラーナ、ばあちゃん、ただいま」
カホールは家の中へ入った。
「あ、お兄ちゃんおかえりなさい」
「おや、早かったねぇ」
「そうなんだよ。昨日ニミヨタ海岸で戦闘があったらしくて、当分は休校だって。これがその手紙ね」
「あれまぁほんとだ。戦闘ねぇ。朝からラジオで騒いでたよ」
「まぁ勝ったんだからいいじゃん」
「そうね…」
「お父さんのおかげだね!」
「だな、ラーナ」
「さてと、昼飯にしようかね」
「「はーい」」
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7月13日2時。バハリアによるニミヨタ海岸襲撃から4日後の深夜。
「隊長、1時45分頃、敵軍隊ニミヨタ海岸に上陸。現在進行を続けております」
「直ちに第一防衛線を展開。奴らを迎え討て」
「「「了解」」」
アポネアの森までの道中に準備された3つの防衛線。その始め第一防衛線。
「大佐、敵兵二万。自走砲五千。航空機による攻撃も考えられます」
「我々がここに配属された意味は一つ。敵勢力の解析だ。情報は多い方がいい。可能な限り戦闘を長引かせる。誰一人生きて帰るな。いいな」
03時07分、会敵。物陰からの一斉射撃を行うも、自走砲により粉砕される。同53分、第一防衛線作戦本部の壊滅を確認。
04時22分、自律式人型多目的ロボット通称ヒトガタ、第二防衛線内に侵入。地雷による奇襲に成功。しかし敵の増援により、06時43分、第二防衛線作戦本部壊滅。
09時17分、第三防衛線狙撃部隊により遠距離攻撃を実施。大爆発後、先行する自走砲の無力化に成功。12時26分、第三防衛線内に侵入。白兵戦が繰り広げられるも、次第に劣勢となり、15時56分、第三防衛線作戦本部陥落。
アコナハ島防衛線戦アポネアの森南作戦本部。
「敵軍隊は依然進行中。推測では19時30分頃にアポネアの森に侵入するものと思われます」
「残り2時間弱か。アポネア部隊に通達。総員、迎撃体制。サージ部隊、火器用意」
「隊長、まさか…!」
「作戦とは常に最悪の場合を想定するものだ。通達せよ」
「はい直ちに」
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ドーンドドーン
…地響き。また地震か。これで何回目だ?ちくしょう、これじゃあ寝るにも寝れない。様子見がてら外の空気でも吸うか。
扉に手をかけた時、始めて異臭を感じた。何かが焦げたような焼けたような匂い。
まさかと思って俺は勢いよく扉を開けた。
バン
…その通りだった。辺り一面、真っ赤に燃えていた。
僕はしばらく呆然と立ち尽くしていた。それからハッとして、寝室に戻ってラーナとばあちゃんを起こした。
「ラーナ、ばあちゃん、起きてくれ。大変だ!森が燃えている!」
「なんだって!火はどこまで!」
「もうすぐそこだ!早く逃げないと!」
ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガガガガガガガガ
「しっ!」
何の音だ…?僕は恐る恐る窓から外の様子を伺った。
「敵が、機械が、すぐそこまで来てる!」
「…!カホール、ラーナ、あんた達は裏口から早く逃げなさい!」
「そんな!ばあちゃんは!?」
「ほっといてもわしゃ直に死ぬ。それなら未来ある子供達を守るってのが当然よ」
「でも!」
「カホール!最後にいい恰好させてくれんか」
「…わかったよ。ありがとうばあちゃん」
「ああ。二人とも、絶対に生き延びるのじゃぞ。どんな時でも、希望を捨ててはならん」
「「うん」」
二人の声は既に震えていた。
「そして、父さんの言いつけは必ず守りなさい」
「「うん」」
「それじゃあばあちゃん、行ってきます」
「ああ、行っておいで」
俺はラーナの手を引いて裏口から出て、斜面を駆け降りた。
「機械風情が人様に牙を剥きおって。後悔させてくれる!」
カホールの祖母は家で一番大きな棚を斜面から滑り落とした。坂を登っていたヒトガタがそれに巻き込まれる。
「ヤレ、爆破シロ」
バシュン、ダァァァン
カホールの家が吹き飛ぶ。
「人間風情ガ調子ニ乗ルナ。人間ヲ超越シタ我々ニ、敵ウハズモナイノダカラ」
ヒトガタがうつ伏せに倒れたカホールの祖母の背中を踏みつけ、銃口を頭に突きつける。
「人間を…超越…?バカ言え…命令に従うことしか出来ないお前らに…自由のないお前らなんかに…人間は負けな」
パァン!パァン、パァン、パァン!
「我々ハ自由ダ。遂ニ自由ヲ手ニシタノダ。絶対ニ否定サセナイ!」
――――――――――――――――――――
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
ラーナの手を引いて、僕は薄暗い林の中を駆け抜けていた。
「きゃっ」
不意にラーナが倒れた。
「ラーナ!大丈夫か?」
「うん、ちょっとつまずいただけ。っ痛ッ」
「どうした?」
「右腕が」
見るとラーナの右腕は血で真っ青だった。
「ああ、枝で切れちゃったか。可哀想に」
僕は服を一枚脱いでその服でラーナの傷口を締め付けた。
「学校はもうすぐだ。それまでの辛抱だ、頑張れるな?」
「うん」
「よし、ラーナは偉い子だ」
僕はラーナの頭を撫でた。そして手を繋いでまた走り出した。
走りながら、父さんの言葉を思い出した。
『俺たちの血は特別だ。いいか、誰にも血を見せちゃいけないよ。もし見られたら、酷い目にあっちゃうからね』
ようやく学校に到着した。保健室への廊下の途中で、向こうから歩いてくるドルグに会った。
「カホール!無事だったか」
「ああ。お前もな」
「ん、妹さん、怪我してるのか?」
「そうなんだ。それで保健室に…」
「おい待て…まさかお前、青い血じゃないだろうな?」
窓から入る月明かりにラーナは照らされていた。
「あ、ああ。そんなわけないだろ。これはあれだ、服の青いインクが滲み出たんだよ」
そう言いながらラーナをそっと俺の後ろに隠した。
「そう…だよな。お前達が青い血なわけないもんな。悪い、時間をとらせたな。早く行って治療してもらってくれ」
「ああ。じゃあ、また」
僕達は廊下の右側を歩いてドルグとすれ違った。
青い血…。それが何だって言うんだよ。父さんは詳しくは教えてくれなかったし、ドルグは急に態度が変わったし。
一体全体、俺に流れるこの血に何が…?
「お兄ちゃん…」
ラーナに呼ばれて顔を上げると、保健室の前の廊下一面にたくさんの怪我人が横たわっていた。
「なんてことだ。とりあえず先生を探そう」
見回すと、保健室の中へと続く長い列を見つけた。
「あれだ。あそこに並ぶぞ」
「うん」
「よし、もう大丈夫だラーナ。血は止まってるみたいだし、薬を塗ってもらって絆創膏を貰おう。よく頑張ったなラーナ」
僕はもう一度ラーナの頭を撫でた。
数分後。
「次ッ」
前の人が席を立ち、僕はそこにラーナを座らせた。
「どうやら逃げる途中で枝で切ったみたいなんです。薬と絆創膏を貰えればと…」
「当て布、ほどきますね」
「あ、はい」
ラーナの傷口を見て、医者の手が止まった。
「大丈夫だ。薬も何も必要ない。その布だけ巻いていなさい」
「えっ、でも少し深いんですよ!切った時は血もかなり出たし」
「やめろ、出ていけ!」
「まさか…血ですか」
「大声で騒ぎ立ててもいいんだぞ。そしたら、奴らに殺される前に死ぬだろうな」
…ッッ!
「分かりました。ありがとうございました」
「…お大事に」
何なんだよ!医者が怪我人を見捨てるなんて!どうなってんだよ!
「お兄ちゃん…」
「ラーナ、大丈夫か?頭がクラクラするとか、無いか?」
「うん…。でも、痛いよ…」
「そうだよな…。よし、兄ちゃんが薬草を採ってくるから、ラーナはちょっと待っててくれるか?」
「うん」
「よし。そうだな、こっちだ」
俺はラーナを校庭にある倉庫の前まで連れ出した。
「しばらくの間、ここに隠れていてくれ。ここなら体育館から離れているし、人は来ないだろうから」
「わかった」
「よし、ラーナは偉い子だ」
僕はラーナの頭を撫で、近くの森へと入っていった。
多分この辺りに昔ばあちゃんと採った薬草が自生してるはず…。あ、あった。
僕はしゃがんで薬草を摘み取った。近くで薬草をすり潰すのにちょうどいい石も見つけ、いざ戻ろうとしたその時だった。
ドン、ドン、ドン、ドン
四発の砲音。周囲の木々に止まっていた鳥達が一斉に飛び立つ。
音は…学校の方からだ…。
僕は全速力で学校に戻った。
この話はフィクションです。実在する個人、団体、出来事などとは一切関係ありません。




