EP31 落ちる
「お待たせしました」
アブドは参謀室の中へと入った。
「よし。では最終確認を行います。へルート、あなたは一回で理解して」
ティナはモニターを指差した。
「見てわかるように、カエデスの静止軌道上には無数の人工衛星があります。ヒトガタを動かす為に人工衛星同士は通信し合っていますが、その核となる衛星が一つだけあります。それを破壊することが今回の任務です。まずは船からの射撃で破壊を試みます。しかし的の大きさはどれも5m弱。射撃での破壊が困難になった場合、パワードスーツを着て自分たちの手で破壊することになります。ですがこれにも欠点が。そう、何より衛星の数が多いことです。三十七班の人数はここにいる64人。決して多い人数ではないです。なので始めの船からの射撃でどれだけ数が減らせるか。そこがキーとなります。乗組員は一隻につきパイロット1人と射撃手1人ないし2人。射撃手はパワードスーツの準備も忘れないでください。これで以上です。24時に指定のポイントに集合してください。それでは、幸運を」
「「「了解」」」
「パワードスーツの酸素吸入完了。ブレード、ライフルの最終確認完了。全機能の確認完了。異常ありません」
「搬入開始」
パワードスーツが各船に運ばれていく。
「へルート」
窓越しにその様子を眺めていると、ティナに呼ばれた。
「何やってんのよ。はい、これあなたのパワードスーツね。予備だから不具合があるかもしれないけど、今は確認している時間もないから許して」
「大丈夫なんだよね?」
「多分ね」
まぁ、しゃあないか。
二人はパワードスーツを担ぎながらテューンベリー6000へと歩き出す。
「それにしても、ティナは凄いよ。あんな風に指揮が取れるなんて」
「習ったことが出来るのは当然よ」
「…それでも凄いよ」
一瞬の沈黙。
「任務中に無駄口叩いたら許さないからね」
「分かってますよ」
――――――――――――――――――――
23時58分。オーバーワールド内指定ポイント。
『リーダー、全機の到着を確認』
「了解。定刻通り開始します。オーバーワールド離脱準備を」
『了解』
「へルート、ティグリス、用意はいい?」
「うん」
「大丈夫だ」
『時間です』
「全機、発進」
ティナの掛け声と共に、20機の船がオーバーワールドを抜ける。目の前には青く光るカエデスが、そしてその周りには、無数の人工衛星が漂っていた。
「攻撃開始!」
ティナは目の前の衛星に狙いを定める。ハンドルのボタンを押すと、レーザー光線によって衛星は壊れた。
「よし。でも、凄い数ね」
ピュン、ピュン、ガンッ
「おっと。おいオディオ!奴ら撃ち返してきやがったぞ!」
「弾に当たらないように飛べばいいでしょ!」
「簡単に言ってくれちゃって。これは代金倍だな」
ダダダダダダダダダ
「ティナ!そっち行ったぞ!」
「任せて!」
ダダダダダダダダダ
「やったわ!」
「まぁ、まだ何万基と残ってるんだけどな!」
ティグリスの言う通り、まだたくさんの衛星があった。
「ヒトガタの状況は?」
『依然、変化はありません』
「了解」
畜生。こんなの見つけられるわけないじゃない!
それから、1時間余りが経過した。
ちっ、まだ全体の37%しか破壊できてない。時間がかかり過ぎている。
『リーダー!ダメです!当たりません!それゆえ一向に数が減りません!』
…しょうがない。
「5〜13号機とトランスポーターはパワードスーツの準備を。残りはそのまま船からの攻撃を続けて」
『『『了解』』』
「へルート、行くわよ」
「わかった」
二人は個室に入り、パワードスーツを装着していた。
「まず足入れて、それから腕を通して」
「うん」
「そしたら右手の甲のところにあるボタンを押して」
右手の甲…これか。
すると前面のパーツが上がり、最後に背後から顔を覆うヘルメットが上がってきた。俺は完全にパワードスーツに包まれた。
『新タナ装着者ヲ確認。生体情報認識中』
うわ、なんか喋り出したぞ。それにこの服ダボダボしてないか?
「ねぇ、ティナ。サイズ調節ってどうすればいいの?」
反応がない。あれ、聞こえてないのか?
「ティナ、おーいティナ。サイズ調節ってどうすればいいの?」
「ティグリス!開けたらすぐ閉めるのよ!」
「分かってる!カウントいくぞ!」
ティナが何か言っているようだが聞き取れない。
「3、2、1」
「ねぇティナ、何言って…」
ガシャン
突然、床が開いた。俺は勢いよく宇宙空間へと吐き出された。
「ああああああぁぁぁぁぁ!?」
「へルート!?」
カエデスが昇っていくのが見えた。
「おいコレどうなってんだよ!?」
どうにか体を動かしたくても、加えられた力が強すぎて動けない。
「誰か!助けて!ティナ!」
『生体認識完了。身長170。体重60。体脂肪率10%。心拍数ノ上昇ガミラレマス。リラックス効果ノアル音楽ヲ再生シマスカ?』
「そ、そんなのいいからこの状況をどうにかしてくれよ!」
『言語識別、最終調整完了。こんにちは!私はアシスタントコンピューターの諢帙@縺ヲ縺?kです!』
「え?なんて?」
『申し訳ございません。私の識別コードは言語化するのが難しいのです』
「そんなこといいからさ!?AI、この状況をどうにかしてくれ!」
『ありがとうございます!ニックネームをつけてくれたのですね!これからは是非エーアイとお呼びくださいませ!あ、失礼致しました!ご主人様のお名前を伺っておりませんでした!』
「だからね!?この状況をなんとかしてくれって言ってるんだよ!俺今動けないの!動けるようにしてくれよ!」
『…?ダカラネ様でしょうか?』
「ああもう!俺はアブド。アブド・デ・へルート。これでいい!?」
『アブド様!設定完了です!よろしくお願いしますね!』
「うんうんよろしく。それでエ…エーアイ?、見ろよあの人工衛星を」
『認識中。完了。タイプゼクタ。総数は73万5432基です』
まだそんなに!
「そうそうそれだ。俺はそれを破壊しなきゃいけないんだよ。力を貸してくれ!」
『了解しました!』
「ありがとう。じゃあまずは俺を動けるようにしてくれないかな?」
『あぁぁすいません!サイズ調節するのを忘れていましたぁぁ!直ちに行いますね!』
ボンッという音と共にパワードスーツが体にフィットする。
『これでどうでしょうか…?』
「サイズはこれで大丈夫。次はこの等速直線運動をどうにかしてくれないか?」
『あの人工衛星のもとへ向かえばいいのですね?』
「そう!」
『了解しました!スラスター全開!ブースター起動!』
パワードスーツの背中から噴射口が現れる。
ゴオオォォォォオオ
「おおおぉぉおお!」
カエデスがみるみる大きくなる。
「なんか武器は無いか?」
『ブレードとブラスターです!』
「えっと、じゃあブラスターで!」
『了解。右太腿部位にあります』
右太腿…これか。俺はブラスターを引き抜いた。
「喰らえ!」
ピシュンピシュンピシュン
発砲。だがうまく当たらない。
「くそ、当たらない」
『オート照準モードに切り替えますか?』
「そんなのあるのか」
『はい!』
「よしやってくれ」
『オート照準モード起動!』
顔の前の窓はモニターにもなっていた。射程圏内の衛星が赤く表示される。
「そこか!」
ピシュンピシュンピシュンピシュン、ドカン
「よし!」
『お見事です!続いて左前方です!』
「あれか」
ピシュンピシュンピシュン、ドカン
「やった」
その刹那、俺の肩を光線がかすった。
「危ねぇ。エーアイ、どうにか出来ないか?」
『衛星に急接近しましょう!そしてブレードでおじゃんです!』
「わかった。じゃあブレード!」
『左腸骨横です!』
俺はブレードを引き抜いた。
『姿勢制御は任せて下さい!アブド様はブレードで斬ることだけに集中して下さい!』
「わかった。頼んだぞ」
『頼まれました!』
その言葉と同時に、噴射口が開き、俺は急加速した。
衛星が光線を打ち出す。光線は目の前に迫った。
「ぶつかる!ぶつかる!うわっ!」
急旋回。そのまま回転しながら衛星に接近する。
『今です!』
俺は柄を握りしめる。
「うぉぉぉおおお!」
ガンッ、ギギギギッッ!
食い込んだ刃は、衛星を両断する。
『まだまだいきますよ!』
立て続けに三基を斬りつける。
「ちょ、待って、腕が!」
『キリモミ回転!』
「ぎゃぁあああ!」
体をおかしな方向に捻じ曲げながらも、俺は衛星を次々と破壊していった。
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『エリアカエデス。現在攻撃ヲ受ケテイマス。敵戦機ノ数二十。只今、我ガ衛星ノ約四割ガ破壊サレマシタ』
「フォールインパクトを実行せよ」
『オ待チ下サイ!彼ラヲ犠牲ニスルオツモリデスカ?』
「私達は同じ使命を持つ同志。ここは一つ、使命の為に散ってもらおうではないか」
『然シ!』
『賛成、賛成、賛成、反対、賛成。フォールインパクト実行ガ可決サレマシタ』
『通信完了。実行マデ残リ120』
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『アブド様、大変です!』
近くの衛星をあらかた片付け、少し休憩しているとエーアイが告げた。
「どうした」
『バッテリー残量が10%を切りました。ここまでです。船に戻って下さい』
「そんな!まだこんなに残っているのに!」
『ダメです!動けなくなって、いずれ酸素が尽きて死んじゃいます!』
「…分かったよ。でもどうやって迎えに来てもらおう」
『それなら大丈夫です。既に船とは接続してあります。今通信しますね』
『へルートか?』
スピーカーの向こうからティグリスの声が聞こえた。
「そうです。迎えに来て下さい」
『了解した。位置は特定済みだ。すぐ行く』
「ありがとうございます」
『ああ。通信終了』
通信が切れた。俺はエーアイに話しかける。
「なぁ、まだ地上ではヒトガタが動いているのか?」
『はい。未だ稼働しています』
くそ、どうにかして止めないといけないのに。
「そうだ、ヒトガタを動かしている人工衛星を探知できたりしないのか?」
『無理です。強力なジャミングに邪魔されています』
「そうか…」
その時、人工衛星の攻撃が止んだ。
「どうなってるんだ?まさか、誰かが仕留めたのか!?」
エーアイは何も言わない。
「なぁエーアイ。どうなんだよ?」
『落下地点予測完了。アブド様、大変です。あの衛星達が、カエデスに落ちます!』
――――――――――――――――――――
人工衛星の攻撃が止んだ。どうなっているの?もう終わったということ?
その瞬間、衛星がカエデスに向かって動き出した。
ま、まさか!
『オディオ。もう着くぞ』
ティグリスの船が見えた。
「ティグリス!早く衛星を破壊して!」
『え?』
衛星が加速する。
『リーダー、どうすればいいですか!?』
『リーダー、指示を!』
「急いで目の前の衛星を破壊して!」
ティナはブレードを引き抜く。
『接近ハ危険デス』
「そんなこと言ってる場合じゃないわ!」
ティナは目の前の衛星目掛け突っ込む。しかし、衛星はさらに速度を速める。
「駄目!」
ティナはブレードを投げつけ、ブラスターを手に取る。
発砲するも、既に射程圏内に衛星は無かった。
ティナも加速する。
『周囲オーバーワールドヨリ未確認飛行物体接近中!』
刹那、辺り一面に戦闘機が出現する。
『解析完了。タイプコルファ、自律型戦闘機デス!』
つまり、敵に増援が来たということだ。
「オディオマズいぞ!この量じゃ私達がすぐにやられる!」
『リーダー、トランスポーターがやられました!』
『撤退ヲ強ク推奨シマス』
「カエデスへの着陸は?」
『三十分後、カエデスノ八分ノ七ガ壊滅シマス』
そんな…。
『リーダー、もう無理です!』
『リーダー、命令を!』
『リーダー!』
『リーダー!』
『リーダー!』
「…総員、船に戻り次第撤退。予定通りのルートを通って帰還せよ」
――――――――――――――――――――
オーバーワールドを飛行する船の中、アブドとティナは並んで座っていた。
俺は横目でティナを見た。膝の上で指を組み、深く項垂れている。
「…私のせいだわ。私がちゃんとしなかったから」
「そんなことないよ。あんな事、誰も予想出来なかった」
「でもそんな不測の事態にも対処するのがリーダーでしょ!?…ごめんなさい。大きな声を出しちゃって。あなたに当たったってどうしようもないのに」
「俺は、大丈夫だよ」
「…もう一つ、謝らなければいけないことがあるわね。あの日、二人のお墓の前で私はあなたを責めた。そして今日までずっと、あなたはシオンとリデルを殺した最低最悪の人殺しだと思っていた。でも違うわ。最低最悪の人殺しは私よ。カエデスの住民を皆殺しにした。仲間も殺した。もう私には、あなたを責める資格なんてないわ…。本当に、ごめんなさい」
ティナは泣いていた。
「謝らないでよ。俺だって最低最悪の人殺しだ。この事実は一生消えることはない。だから…謝らないでよ…」
再びの沈黙。不意にドアが開き、薄暗い室内に光が差し込んだ。
「本部から連絡だ。オディオ、お前の爺さん、亡くなったってさ」
ティナは顔を手で隠した。俺には、かけるべき言葉が分からなかった。
第伍章 宇宙大戦篇Part1 完
この話はフィクションです。実在する個人、団体、出来事などとは一切関係ありません。




