EP29 嘘
バンッ
団長の部屋のドアが勢いよく開いた。
「何だユスティーツァ。せめてノックくらいしたらどうだ」
「そんなこと言ってる場合じゃないですよ!奴が出たんです!アブド・デ・へルートが!場所がバレた!本部の場所が!」
「私が何の考えもなく交渉に応じるとでも思っているのか」
グーウェン団長が息を吐いた。
「彼は今、ガルディオでもメレッドでもない。現に、彼は知りうるメレッドの全ての情報を吐いた。これでようやく奴らの目的が判明した。奴らはアカシックレコードを入手し、王を打倒して全宇宙を手中に治めるつもりだ。それが奴らの自由だと」
「奴が嘘をついている可能性は?」
「もちろん考慮してある。その上で私は彼にある任務を託した」
「任務?」
「ああ。十二神将の捜索だ」
「ぶふっ」
セデルが吹き出した。
「いや、すいません。さっきから聞いてみれば、アカシックレコードだの十二神将だのって、神話とか御伽噺おとぎばなしの中の話じゃないですか。それを、捜索?、本気ですか団長!?」
「それは彼の気合次第だ。すぐに諦めるようであれば、彼を信頼することは二度と出来ないだろうな」
「それなら安心です。お騒がせしました」
そう言ってセデルは部屋を後にした。
「邪魔が入ってしまってすみません」
『元気な奴がいておもしれーじゃねーか』
「いやいや、手のかかる限りですよ」
『ははは。そうだな』
「それで、例の件、よろしくお願いします」
『任せろ。アカシックレコードには誰一人触れさせねぇさ。それが俺の使命だからな』
「心強いです。では、今日はここで」
――――――――――――――――――――
アブドとティナは、シオンの故郷、惑星ヴロミコに向かっていた。
「…どう?落ち着いた?」
「うん。もう大丈夫。ありがとう」
「そう」
みっともない話であまり思い出したくないが、号泣して憔悴した俺は、ティナに引っ張られどうにか船まで戻って来たのであった。
惑星ヴロミコは工業の星、トツナだった。特にヴロミコは古くからの伝統的なトツナであり、そこで作られた製品は市場で高値で取引されていた。
「ここよ」
目の前に建てられた大きな門の向こうにエンテラル家の屋敷はあった。
ティナが呼鈴を鳴らすと、屋敷の中から整った身なりの初老の男が現れた。
「どちら様でこざいましょうか」
男は門の前まで来るとそう言った。
「お久しぶりです。ガルディオの騎士のティナ・イ・オディオです。シオン・エンテラルのご家族の方に用があって参りました」
「そちらは?」
男は俺のことを見た。
「アブド・デ・へルートです。シオンのご家族の方に、謝罪をしに来ました」
「謝罪?一体何の?」
「俺が、シオンを殺したことについてです」
「承知致しました。そちらで少々お待ち下さい」
男は顔色一つ変えずに屋敷の中へと戻っていった。
ティナが船内で、この家が苦手だとぼやいていた意味が分かったような気がした。
ギギギ、ガシャン
数分後、突然門が内側に開いた。
「さあ行きましょ」
「うん」
俺達も屋敷の中へと入っていった。
「「お邪魔します」」
「こちらへどうぞ」
俺達は扉の近くの部屋に案内された。
「間もなく主人が参ります。しばらくお待ち下さいませ」
「あの方は執事のグワンデさんよ」
俺は頷いた。
コンコン
しばらくして、戸をノックする音が聞こえた。戸が開くと、髭を蓄えた大柄の男が入って来た。
「待たせたね。私が当主のリッド・エンテラルだ。よろしく」
「よろしくお願いします」
俺は頭を下げた。そしてそのまま続けた。
「シオンさんのこと、大変申し訳ありませんでした」
「そうか。まぁいい。代わりはいくらでもいる。それにあいつが、こんなへなちょこにも殺られる程弱かっただけだ」
「え…?」
俺はシオンの父親の顔を見た。
「なんだ?なんでこんなに冷淡かって?当然だろう、実子でもないのだから。あいつも、あいつの兄も、ガルディオとの関係を強固なものにする為に送り込んだに過ぎん。まぁ、エンテラル家からガルディオの騎士が出るのが一年遅れたことは腹立たしいが、今日は機嫌がいいので許してやろう。これでいいか?ならば帰ってくれ」
「……」
「聞こえなかったのか?帰ってくれ。黙ってないでほら。…なんだ?何か不満か?私のあいつに対する態度に何か不満か?所詮あいつも青い血だ。我ら白い血と同列に扱える訳がなかろう」
俺はリッド・エンテラルを睨んでいた。
「何だその目は?まさかお前は叱って欲しかったのか?叱られ、罵詈雑言を吐かれれば満足なのか?気持ち悪い。虫唾が走る。お前は本当に申し訳ないと思っているのか?本当は、自分の非を認め、それを周りに示すことで安心したいんじゃないのか!?あいつに、シオンに似てるな。そういう偽善者ヅラしているところが」
俺はリッド・エンテラルを殴ろうとした。だが、気づけば執事に後ろ手を組まれ、膝立ちで拘束されていた。
「ほう、この私に拳を向けるか。今すぐにそのガキ共を追い出せ!」
俺は執事に持ち上げられ、庭から門の向こうに投げ飛ばされた。ティナが出てくると、門は勢いよく閉まった。
「まったく、なんであんなことするのよ」
「だってあいつはシオンを馬鹿にしたじゃないか。俺はそれが許せなかった」
「…まぁ、よくやったとは思うわ」
「え?」
「何でもないわよ。さてと、そろそろ始めましょう。例の十二神将探し」
「ああ」
俺達は船へと歩き出した。
「あてはあるの?」
「いや、何も。そもそも十二神将が何なのかも知らない」
「じゃあまずは情報収集からね」
「うん。だからあそこに行こう。王立大図書館」
――――――――――――――――――――
その昔、宇宙が13の厄災に見舞われた時、王が創った12人からなる先鋭の近衛兵集団。それが十二神将。宇宙に平和が訪れた今でも、その血は脈々と受け継がれているという。
「それが最後に確認されたと噂されているのが、10年前」
「そう、レホーク銀河の惑星ザピーシでね」
ティナが本を閉じた。
「行くの?」
「行くしかないよ」
「そうね。でも私にもそこまでの運転技術はないわ。銀河間バイパスなんて無理よ」
「じゃあバス?」
「調べてみたけど、ザピーシ行きなんてものは無いわね」
「ならどうすれば…」
「こうなったらちょっと怖いけど、彼らに頼んでみるしかなさそうね」
「彼ら?」
「とにかく行きましょう。銀河一のカジノがある、惑星プロムへ」
――――――――――――――――――――
惑星プロムのカジノのバーにて、アブドはある取引をしていた。
「ふーん。聞いたことない星ね。それに飛行距離も長い。これは相当な額になるわよ」
「1万出す」
「あのねぇ坊や、ここじゃ1万なんて端金よ」
「2万」
「他を当たることね」
「いくらならいい、運び屋さん?」
「そうね、30万」
「10万」
「君も強情ね。嫌いじゃないわ。20万でいいわよ」
「10万だ」
「お待たせ。今どんな感じ?」
拮抗状態に割って入ったのはティナだった。
「ティナ。向こうもなかなか手強いよ」
「お友達かしら?」
「はい。ティナ・イ・オディオです」
「私は…」
「あ、大丈夫ですよ。ティグリスさん。あなたのことを調べさせてもらいました。元々レーサーだったんですね。でも借金苦に陥って密輸に手を染めた。逮捕件数三件。罰金回数十一回。まぁでもそれだけじゃないですよね」
ティナはテーブルに身を乗り出し、声をひそめて話した。
「クリミナル商会。もちろん知ってますよね?この辺じゃ有名なあの巨大麻薬取引集団ですよ。そこに雇われてるって、裏取ってるんですよ?」
「なっ…」
「今すぐ警察に突き出しましょうか?運び屋さん?」
「…いいわよ10万で」
「いえ5万よ」
「ティナ!?」
「へルートは黙ってて」
「…乗ったわ。その代わり、燃料代はそっちの負担だからね」
そう言ってティグリスは立ち上がった。
「いいえ、あなたの負担よ」
「分かったわよ!」
ティグリスは足早に歩き出した。
「行きましょへルート」
「う、うん」
二人もティグリスの後を追った。ティナに軽く恐怖を覚えたアブドであった。
「これがあなたの船?」
「そう。いいでしょ。テューンベリー6000よ」
そこには紫色の機体に赤いラインの入った船があった。
「この三つの砲身は何?民間船の武装は禁じられているはずだけど」
ティナが指を指した。
「ただの飾りよ。こういう見た目の方が強く見せられるのよ」
「職業柄しょうがないということね」
「ちょっと…!」
「冗談よ」
「はぁ。ったく、とっとと乗りなさい」
――――――――――――――――――――
何度かのオーバーワールド航行を繰り返しながら、一向はレホーク銀河最果ての地、惑星ザピーシへと向かっていた。
「あれがザピーシ?」
「ナビゲーションシステム上ではそうなってるわね」
「じゃあ着陸してちょうだい」
「ほら着いたわよ。早くお代を」
「まだよ。帰りがあるじゃない」
「えっ…」
「当然じゃない。勝手に帰られちゃ困るから、鍵」
ティナはティグリスに手を突き出した。
「え?」
「だから、エンジンキーよ」
「お代はもちろん2倍よね…?」
「安心してちょうだい。そんな訳ないから」
「はぁ…」
ティグリスはティナの掌に鍵を叩きつけた。
「行きましょうへルート」
「う、うん」
二人は船を降りた。
「さてと、どうやって探しましょうか」
「着陸する時に向こうに建造物が見えたから、そこに行ってみよう」
「分かったわ」
二人は生い茂る木々の間を進み出した。
「あ、あれじゃないかな」
歩き始めてから数時間、二人はようやく船で見た建造物らしきものを見つけた。
しかし、それはすでに遺跡と化していた。崩れ落ちた天井、半壊した石垣。形を残している部分にも、コケやシダがびっしりと生えていた。
「ちょっと探索してみよう」
二人は遺跡の中に足を踏み入れようとした。すると、
「お前達は何者だ」
と、声ががした。足を止め辺りを見回すと、遺跡の奥に茶色い布に身を包んだ背の高い人間が立っていた。体格からして女性みたいだが、顔はフードで隠されていて見えなかった。
「俺はアブド・デ・へルート。こっちはティナ・イ・オディオ。俺達は十二神将を探しにこの星まで来た。決して怪しい者じゃない。信じて欲しい」
「十二神将だと?馬鹿言え。奴らは滅びた。ここにいるはずがない」
「滅びた?何でそんなこと知ってるんですか。あなたこそ、一体何者なのよ?」
「私はアリア。かつて十二神将に仕えていた者だ」
そう言ってフードを脱いだ。黒い短髪の整った顔があらわになった。
「残念だが探し物は見つからない。帰った方がいい」
「ここまで来て、はいそうですかともいかないのよ。悪いけど通してもらえるかしら?」
「はぁ。ならいいだろう。ついて来い」
アリアは遺跡の中へ消えた。二人は急いで後を追う。
「見ろ。これが証拠だ」
アリアがある壁を指を差した。そこには壁画が描かれていた。
「ある時、十二神将のリーダーによって若き王が囚われの身となった。つまり反逆だ。王の奪還後、残りの11人は責任を負って自決。そうして十二神将は滅んだ」
「そんな…」
「どうしてあなた達が彼らを探してるのか知らないけれど、無駄だ。もう見つかりっこない」
「十二神将の弟子達は?」
「師を失った今、出来ることはない。私がその証拠だ」
「あなたは十二神将の弟子だったのですか?」
「ああ。そして私の師が、かつてのリーダー、ア…」
その時、ティナのトランシーバーが通信を傍受し、けたたましく鳴り響いた。
『全ガルディオの騎士に告ぐ。直ちに本部へ集合せよ』
ドゥクス団長の声だった。
「まずいわね。早く戻らないと」
「そういうことだから、残念だったな」
そう言い残しアリアは遺跡の中に消えた。
「待って…」
「ダメよへルート。聞いたでしょ?全員召集だなんて最悪なケースの時にしか行われないわ。それこそ宇宙存亡に関わるようなね」
「まさかそれって」
「ええ。戻るわよ」
二人は船へ急いだ。
「ティグリス!早く出発の準備を!」
「おいおい、今度はなんだよ」
「どいてっ」
ティナは操縦席のティグリスを押し退け、そこに座った。
「ちょっ!?そこは私の席よ!」
「今からエウロパに急行するのよ。ガルディオの人間じゃなきゃ道が分からないじゃない」
ティナは喋りながら発進準備を進めていく。
「待ってよ。あんた、ガルディオの騎士なの?」
「ええ。そうよ」
ティナがティグリスを一瞥し、頷いた。
その刹那、船はザピーシを抜けオーバーワールドに入った。
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『システム再起動マデ3、2、1、完了。ワールドノ全中継デバイスト通信中。完了。セキュリティロック解除中。完了。リモートコントロールモード起動。オペレーションシェニー・アグリア開始マデ、残リ1800』
この話はフィクションです。実在する個人、団体、出来事などとは一切関係ありません。




