EP28 奪われた命の重さは
「…俺、決めたよ。シュリンターを止める。そして宇宙に真の自由をもたらす。俺のやるべき事は、この2つだ」
「そう。なら私も付いて行くわ」
「え?」
「だって、ちゃんと償うよう見張っておかなきゃでしょ?」
「そ、そっか。そうだね」
「で、これからどうするの?」
「うん。まずは行かなきゃ。ドゥクス団長の元へ」
ケントル星系第6惑星、エウロパ。そこにあるガルディオ本部へ二人は向かった。
「こっちよ」
ティナの船を降りると、建物の中へと案内された。
そして、長い廊下を歩き、ある扉の前に立ち止まった。
コンコンコン
「オディオです。アブド・デ・へルートを連れて来ました」
「入れ」
扉の向こうから声がした。
「失礼します」
「失礼します」
俺もティナに続いた。
「久しぶりだね、へルート君」
そこには、入団式で見たドゥクス団長がいた。
「すいませんでした」
俺は床に頭をつけた。
「自分の勝手な行動で、多くの仲間を失わせてしまったこと、本当に申し訳ないです。許してくれとは言いません。ですが…」
「顔を上げたまえ」
「えっ」
俺はドゥクス団長を見た。
「いいから、立て」
その声は部屋の中で冷たく響いた。
俺は立ち上がった。
「それで、何をしにここに来た?」
「まずは、謝らないといけないなと、思っていました」
「そうか。シュリンター、いや、メレッドからはもう脱退したと聞いたが、事実か?」
「はい。そして自分の過ちを償う為にここにいます」
「そうか。まずは君の知りうる全ての情報を吐いて貰おう。連れて行け」
「「ハッ」」
俺は近くに待機していた男二人に押さえられ、別室へと連行された。
その部屋は四方が灰色で薄暗かった。
「そこに座れ」
パーテーションの向こうのドゥクス団長に指示された。
「はい」
「では取り調べを始める。まずはシュリンターになった理由、そして事の簡単な転末から聞こうか」
「はい。…自分は生まれた時から真っ白な部屋で毎日を過ごしていました。起きて、出された食事を食べ、それからは次の食事まで座り続けていました。そんなある日、天井に穴が空いて、そこから一人の女が降りて来ました。女の名前はヴィリーノ・デ・クレダント。彼女が自分に宇宙を見せました。そしてこう言ったのです『自由にならないか』と。自分は頷きました。その後、メニコットという男と合流しました。二人は自分を最厳密監視対象と呼びました。そんな自分にアブド・デ・へルートという名を与えました。そしてシュリンターになった自分の最初の任務が、ガルディオ訓練兵への潜入、アカシックレコードの調査でした。後はもうお分かりでしょう。無事に訓練兵になり、建物の見取り図をコピーし、爆弾を設置し、そして…」
俺は項垂れた。
「そうか。何故お前はまた戻って来たんだ?」
「この3年間、自分は2人にずっと責められました。直接謝らなければならないとは分かっていても、ヴィリーノさんに禁止されていました。でもメニコットさんが、そんな自分を逃してくれたんです。だから、自分はもうシュリンターではありません。お願いです。自分に力を貸しさせて下さい。2人に誓ったんです。シュリンターを止めるって。その為ならなんでもします。だからどうか、お願いします」
俺は椅子から立ち上がり、もう一度床に頭をつけた。
「そうか。まぁ熱意は伝わった。検討しよう」
「ありがとうございます」
その後も、俺の尋問は続いた。シュリンターの事、アカシックレコードの事。
「お前に頼みがある。十二神将を集めてくれ」
一度退出したドゥクス団長が再び姿を現すと、開口一番にそう言った。
「十二神将…?」
「そうだ。やってくれるな?」
「もちろんです。任せてください」
「君は?」
「行きます」
俺は振り返った。
「ティナ…!」
「言ったでしょ、付いて行くって」
「団長、リデルとシオンの親族の元にも行かせて下さい」
「許可しよう」
「ありがとうございます」
「場所はオディオが分かるな?」
「はい」
「それでは、健闘を祈る」
そう言ってドゥクス団長は部屋を後にした。
「私達も行きましょう」
「うん」
俺達も部屋を後にした。
長い廊下を歩いていると、正面からどこかで見たような顔の奴が歩いて来た。
「お前、アブド・デ・へルートか?」
すれ違った直後、名を呼ばれた。俺は立ち止まった。
「そうだ」
そう言って振り返った。俺の名を呼んだ男と目が合う。
「そんな…なんでお前が…オディオ、どういう事だ!?」
男は怒鳴った。
「セデル、落ち着いて。彼は自分の罪を認め、悔やんでいる。そして償う為にここに来たの。勘違いしないで。もう敵じゃないわ!」
ティナの静止をよそに、男は俺の襟首を掴んで持ち上げた。
「ふざけんなよ!?なんでお前がここにいるんだ!お前のせいで、多くの命が失われた!俺はセデル。お前と同時期にガルディオに入団し、お前が騎士になる年に俺はビーシュになった。お前はあの日寮で起きた惨劇を知ってるのか!?ああっ!?」
「自分は別行動だったから…詳しい事は何も…」
首が絞まる。苦しい。
「そうか。じゃあ教えてやる。爆発の後、扉に鍵がかけられていた。お前も使ったことがあるから分かるよな?あの外に出る扉だよ。背後には炎が迫って来て、やっと開いたと思ったら、目の前には機関銃を持った男がいた!そしてそいつは目の前の仲間を片っ端から殺し始めた!大混乱さ。皆部屋の中に逃げて扉にバリケードを作ったと思ったら、今度は窓から銃を乱射し始めたんだ!俺の親友はそこで死んだ。パーティーの最中だったお前らを呼びに行こうとして、窓に手をかけた瞬間に殺された!俺はベッドの下に隠れている間、銃声と悲鳴とを絶え間なく耳にした。シュリンター共との交戦で、ゼラード教官もキマーナ教官もバルト教官も、グーウェン教官長まで死んだ!これも全部、お前のせいだ。罪を認め悔やんでる?償う為にここに来た?ふざけるのも大概にしろよ!俺はお前を絶対に許さない。いやお前だけじゃない。誰も、誰一人としてお前を許す奴はいないだろうよ。この大量殺人鬼が!死ね!消えろ!お前なんか!お前なんか…お前…くっ…うううぅぅああああ…」
男は崩れ落ちて泣いた。
「どうした!?」
騒ぎを聞きつけてか、人が集まり始めた。
「あれってまさか…」
「そうだ!コイツがアブド・デ・へルートだ!誰か捕まえろ!アブド・デ・へルートが出たぞ!」
セデルが叫んだよ
「へルート、行くよ!」
「う、うん」
俺はセデルを引き剥がし、迫り来る集団から逃げた。
「全く、アイツはすぐ感情的になるんだから。やってられないわよ」
エウロパを後にする船の中、俺はセデルの言葉が引っかかっていた。
「まぁ実際、アレがアブド・デ・へルートを見たガルディオの正常な反応でしょうね」
「うん…」
「多少の暴力も覚悟することね」
「分かってる」
「…さてと、今日は遅いし帰るわよ」
俺は右斜め前で操縦するティナを見た。
「どこへ?」
「どこってもちろん、私の家」
――――――――――――――――――――
「ただいま」
「…お邪魔します」
「おお、おかえり。ありゃ、その声は遂に彼氏かい?」
「へルート、おじいちゃんのこれは無視して」
「う、うん」
「さぁ、こっちよ」
ティナに促され、リビングに通される。
「おお、よく来たよく来た。まぁ座ってくれ。よし、飯にしよう。手を洗っておいで。今日はメラを焼いたぞ」
手を洗い、腰を下ろした。
俺はその時、手を洗う機械が年代物だったことに気がついた。
「アブド君、だったか?」
「はい」
ティナが風呂に入っている時、俺はティナのお祖父さん、アグロさんに話しかけられた。
「わざわざありがとうね、こんなボロ屋まで来てもらって」
「そんな、ボロ屋だなんて」
「へっへっへっ。世辞はいらんよ。実際この家は築3000年になる。ボロくて当然さ」
「そうなんですか…」
俺は壁に入った亀裂を見つめた。静かで、少し気まずい時が流れた。
「アブド君は、トレシー・アグリアを知っているか?」
「どこだかの銀河で人工知能が暴走して大惨事になったっていうあの?」
「そう。それだ。それのお陰で王は人工知能の使用禁止を指示した。機械は人が扱える範囲までと制限された」
「はい。歴史の授業で習いました」
「歴史か。そうだな。もう遥か昔の事になってしまったな。…うち、オディオ家は、代々そういう機械を作っていたんだ。つまり、人工知能さ。知りもしないことを自分で言うのもなんだが、かなりメジャーな企業だったらしいぞ。…トレシー・アグリアまでは。それで全てが変わってしまった。会社は倒産、当時の社長は世間の圧に耐えきれず自殺。残された家族も賠償請求で多額の借金を負い破産。そして亡くなった人達の怨念からか、オディオ家は短命が増えた。それこそティナなんて、両親の顔も覚えとらんのだからなぁ…」
そう語るアグロさんの声は震えていた。
そして突然俺に向き直った。
「アブド君、どうか、ティナを頼んだぞ。ワシは時期に死ぬ。それはいいんだが、どうもティナが心配でな。幼い頃から育てて来た自慢の孫だ。ティナが幸せになれなかったら死んでも死にきれん」
その言葉を聞いて口が勝手に開いた。
「あの…。俺には無理です。実は俺、人を、親友を、殺したんです。そんな人間を、あてになんかしないで下さい…」
隠すつもりはなかったが、言ってしまった。俺は家を追い出されたりするのだろうか。
「そんな君だからこそ、命の重さが分かるんじゃないかな」
俺はアグロさんを見た。柔らかな微笑を浮かべたその顔を見て、何故だか涙がとめどなく零れた。
――――――――――――――――――――
翌日、アグロさんの自作というティナの船に乗り、リデルの故郷、惑星ビエーノへと向かった。
惑星ビエーノは農業の星、カンポだった。そこに住むセペリオ家の家族も、例外なく農家であった。重い税と気候による不安定な収入に耐え、貧しいながらにも懸命に生きていた。
「さて、着いたわね。この先は小型船も侵入禁止だから少し歩くわよ」
ティナの後ろに続きながら、俺はビエーノの風景を見回した。辺り一面の畑の向こうには、巨大な山々が連なっていた。
「見つけたわ」
そう言ってティナはリデルの母親の名前を叫んだ。
「おーい、ルーラさーん」
ティナが手を振ると、ルーラさんも振り返してきた。
「まぁ、ティナちゃんよく来たわね。ちょっと見なかったうちにまた大きくなっちゃって」
「おばさんは全然変わりませんね」
「もうティナちゃんったら上手いんだから。ところで、あなたは?」
「こんにちは、ルーラさん。自分はアブド・デ・へルート。…リデルの命を奪った者です」
「え…」
ルーラさんが何かを言う前に俺は続けた。
「今日は謝りに来ました。もちろん、許してもらう必要はないです。ただ、自分はどうしても謝らないといけないんです。リデルの命を奪ったこと、本当に、申し訳ありませんでした」
俺は頭を下げた。
「…と、とりあえず上がってちょうだい。歩き疲れたでしょう。すぐお茶を出すわ」
まだ顔を上げなかった。
「…ほら、あなたもどうぞ」
「…はい」
ティナの家には年代物が多かったが、リデルの家は素材も造りも簡素で、違った意味でのボロ屋だった。
コトッ
コップが目の前の机に置かれた。
「これはね、向こうの茶畑で作ったお茶なのよ」
「「いただきます」」
俺は一口飲んだ。苦味が口の中にじんわりと広がった。
「…本当は反対だったのよ。あの子がガルディオになるって言って家を飛び出そうとしていた事が」
ルーラさんが遠くを見つめながら話し始めた。
「あの子は長男で下の子達の面倒見も良くて、働き屋で。それに、大切な家族が遠くに行ってしまう気がして…。心の奥底では、分かっていたのかもしれないわね。あの子が二度と帰って来れない事が。だから言ったのよ。私達田舎者には何も出来ないって。あんなにっ、あんなに必死に止めたのに…」
そう言ってルーラさんはボロボロ泣いた。
「ご、ごめんなさいね。みっともない姿見せちゃって」
「私達は大丈夫ですから、好きなだけ泣いていいんですよ」
「ありがとうティナちゃん」
ルーラさんが落ち着いたのを見て俺は言った。
「リデルは、とても優秀なリーダーでした。咄嗟に状況を判断して、今何をすべきか指示を出す。これは並大抵の人ができることではないです。だから何も出来ないなんて言わないであげて下さい。悪いのは自分なんです。自分が殺したのがいけないんです。本当に申し訳ありません」
「…お、お前が兄さんを…こ、殺したのか…?」
3人は声の方向を見た。壁の縁から少年が顔を出していた。
「こら、フリク!部屋にいなさいって言ったでしょ!」
「なんで家にあげてんだよ母さん!まさか、許すんじゃねぇだろうな!?」
「二人とも今日は来てくれてありがとう。外まで送るわ」
ルーラさんに促され、俺達は外へ出た。
「ティナちゃん、今日はありがとうね。またいらっしゃい」
「はい。今度はまたお仕事の手伝いもしますね」
「ありがとう。そしてアブド君。やっぱりあなたを許すことは出来ないわ。でも、リデルの友達でいてくれて、あの子のことを理解してくれて、ありがとう。その言葉は忘れないわ」
「はい。こちらこそ、謝罪の機会を与えてくれて、ありがとうございました」
一礼し、俺達はリデルの家を後にした。
「ラニア!どこに行くの!」
遠くでルーラさんの声が聞こえた。
「このひとごろし!」
俺は目を見開いて立ち止まった。というより、動けなくなった。
「なんでにいちゃんをころしたんだ!にちゃんをかえせ!このひとごろし!にいちゃんをかえせよ!」
俺は振り返り、少年の姿を見て崩れ落ちた。
額を地面に擦り付けた。
そして握り拳を何度も地面に叩きつけた。
溢れた涙は、留まることを知らなかった。
「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい、ごめんなさい…ごめんなさい…ごめん…なさい…」
目も鼻もグシャグシャだったが、叫ばずにはいられなかった。
この話はフィクションです。実在する個人、団体、出来事などとは一切関係ありません。




