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【完結】アカシックレコード  作者: 白黒羊
第肆章 運命超動篇

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37/83

EP24 取引

「お、見えてきたな」

「ええ。時間も全然余裕ね」

「まだ18時か。ちょうど昼時だし、先になんか食べるか?」

「そうしましょうか。私お腹空いてきちゃった」

「結構歩いたもんな」

「そうね」

そんなことを話しながら、俺達はバーバル街へと入って行った。

そこは何と言うか、とても異質な場所だった。マディーナウルプスとは全くの別物の様に見えた。

細い路地が広がり、道に突き出すように鉄骨とシートで出来た簡素な店が並んでいる。人々の格好もいかにも貧しく見え、市場全体が薄暗かった。

だからか、きちんとした身形の俺達は好奇の目に晒されているような気がした。

「やっぱり、用を済ませたらとっとと出よう」

「分かったわ」

自然と話し声も小さくなる。

「あのーすいません」

俺は目の前にあった八百屋か何かの店主に声をかけた。黄色い肌に角が3本ある恐ろしい見た目をしていたが。

「何だ」

おまけにドスの効いた低い声ときた。俺は震え上がりそうになるのを抑えながら続けた。

「オベスの角とアルブナの毛皮ってどこに売ってますか」

「向こうだ」

店主は通路の先を指差した。

「直進すればありますか?」

「ああ」

「「ありがとうございます」」

礼を言って、俺達は示された方向にそそくさと歩き出した。

「そこの少年」

俺は声をかけられた気がして立ち止まった。

「どうしたの?」

辺りを見回す。

「いや、気のせいか」

「いいや、君だ。君を読んでいる」

声のする方をもう一度見回す。

すると、バーバル街の中でもさらにボロボロな外見の店の奥にいる老人と目があった。

「そばに来たまえ少年。主の未来を占ってやろう」

「えっとぉ…」

「なに、金は取らんよ。こんなに強い念を感じたのは久々なのじゃ。少しだけ、老人の好奇心に付き合ってくれ」

「は、はぁ。分かりました。ごめんなシオン」

「大丈夫よ。気にしないで」

「ありがとう」

そうして二人で店内へと入った。店内といっても、砂時計が一つ置かれた長机と老人以外何もないが。

「ほれ、ここに座ってくれ」

俺が座ると、すぐさま老人が顔を近づけてきた。

「ほうこりゃまた。凄いな」

「そうなんですか?」

「ああ。君は今後、災難続きだろうよ」

「「え?」」

俺はシオンを見た。

「あ、ごめん。驚いちゃって」

「ああ。俺もだ」

俺は老人に向き直る。

「それで災難って、例えばどんなことが?」

「それは分かるまい。さて終いじゃ。わざわざ付き合ってくれてありがとうな。まぁ、何か困ったことがあればまた来ておくれよ」

そう言って老人はカラカラ笑っていた。

「結構です」

はぐらかされた気がして、俺は無性にムカついた。なのでとっとと店を後にした。

「ちょっと待ってよアブド君」

「ああ、悪い」

俺は立ち止まってシオンを待った。

「あ、見つけた」

追いつきざまにシオンは指をさした。

指の方向には、色々な肉や骨が並んだり、ぶら下がったりしている肉屋があった。

「あそこにあるの?」

「ええ」

「よし」

俺は店の前に立った。

「すいません」

「らっしゃい」

奥から、さっきの八百屋の店主より遥かに大きく、身体中筋肉がパンパンに膨れている大男が現れた。

「あの、オベスの角とアルブナの毛皮を譲って頂けないでしょうか…?」

「てめーらガルディオのヒヨコか?」

「はい、一応」

「そうかそうか。で、金は?」

俺はグーウェン教官の言葉を思い出し、紙を見せた。

「は?何だそれは」

「あの、これを見せれば無償で頂けると聞いたのですが…」

「なんだとおい」

ドスの効いた声が響く。

「ええっと…?」

その途端、俺は胸ぐらを掴まれた。

「てめぇちょっと金あるからって俺達低級の連中見下してんだろゴラ」

「離してください!」

シオンが男の腕を掴む。

「邪魔すんなや」

男がシオンの手を弾く。

「きゃっ」

「テメェッ!何しやがる」

俺は男の指を折ろうとする。

「おいおい、それでもガルディオか貴様は!情けないな!」

頭が熱くなりだした。これはマズイ

「す、すいませんでした。もう、帰りますから…手を…」

「ふん」

俺は道の真ん中に突き飛ばされた。

「謝る時はなぁ」


ガッ


俺は男の脚で頭を地面に叩きつけられた。

「頭を下げるのが礼儀だろう?」

「もうやめてください!」

半泣きのシオンが叫ぶ。

「シオン、大丈夫だから」

俺は男に向き直った。

「すいませんでした」

「二度と舐めた真似すんじゃねーぞガキが」

「はい…」

頭が軽くなる。俺は立ち上がった。そしてもう一度頭を下げて、歩き出した。

「待て」

呼び止められる。

「こいつがいるんだろ?」

男が角と毛皮を持って仁王立ちしていた。

「ですがお代が…」

「代わりに、お使いを頼む」

「え?」

「まさか断る訳ないよなぁ?」

「…行かせてもらいます」

「それでいい。使いの品だが」

男はバーバル街の近くにある山を指さした。

「あの山からカルス石をこの袋満杯分取ってこい」

「…!?無茶言わないで!カルス石なんかもう採れないわよ!」

「詳しいじゃあねーか嬢ちゃん。だがな、何故俺達がこんなところに住んでいると思う?俺達はあの鉱山で働かせられていた採掘員の末裔なんだよ。だから金持ちの奴らどもは未だに俺達のことを奴隷だと思ってやがる。そのせいでずっと貧しいままで不当に働かせられて…」

「そんな、でも数年前に奴隷制撤廃の勅命が出たでしょ?」

「この星の内情を知ってる奴なんざごく少数だ。しかも揃いも揃って金の事しか脳にないクソ野郎ときた。改善されるわけがない。…話は逸れたが、あの山にはまだ採掘されていないカルス石が眠っている。それを採ってくるだけでいい」

「分かりました。行きます」

俺は男から袋をふんだくった。

「随分威勢がいいじゃねーか。逃げないという保証として、その制服を置いてけ」

「分かりました」

俺は上着を脱いで男に渡した。

「せいぜい頑張るんだな」

「どうも」

俺は歩き出した。

「待ってよアブド君」


「おいウィルの旦那、あの山はちとやりすぎじゃないか?」

「ふん、どうなるか見ものだな」

――――――――――――――――――――

俺達は山の中の木々の間を掻き分け、進んでいた。

「…で、カルス石って何だ、シオン」

「まぁ、そうだろうなとは少し思ってた」

「なんだと」

「ぷっ」

シオンが吹き出した。俺も釣られて笑った。しかしシオンのその笑みも、すぐに消えた。

「カルス石はかなり昔から使われていた燃料よ。青っぽい色の鉱石で、帯電している。専用の機械でその電気を抽出するんだけど、まぁ数が少ない。一説には雷が落ちると生成されるとか言われているけど、未だに分かっていないこともある。そんなところよ」

「要はあの男もクソ野郎だったわけだ」

「…そうね」

俺はシオンを見た。

「何?」

「いや、悪口言うの初めて見た」

「そんな長く一緒にいるわけでもないのに、驚くことじゃないでしょ」

「なんかそういうの言わなそうだったから」

「私も人間ってことね」

「それもそうだな」

「あ、あれじゃない?」

シオンが前方を指差した。そこには、人一人易々と通れる大穴が空いていた。

「本当だ」

近くで見るとさらに大きかった。

「山の口って感じね」

「…行くか」

「ええ」

俺は時計のライトを点けた。中を照らすと、道は下へと続いていた。

「結構急な坂だ。俺先行くから、ついて来て」

「アブド君…」

「え?」

「手、繋ご。はぐれたら危ないから」

「…わかった」

俺が手を差し出すと、シオンはそれを握った。

「行くぞ」

俺は歩き出した。

くそ、かなり傾斜キツいぞこれ。それに砂利がゴロゴロしていて歩き辛い。

「シオン、気をつけてな」

「うん」

俺はゆっくりと歩を進めた。


ズルッ


「わっ」

「きゃっ」

が、足を置いていた所が石の上だったようで、その石がズレて俺は足を滑らせた。

「「あああああぁぁぁ…」」

二人は、洞窟のはるか奥へと落ちていった。

――――――――――――――――――――

俺は目を覚ました。

くそ、身体中が痛い。ただでさえ怪我してるっていうのに。そうだ、シオンは。

俺は辺りを見回した。シオンもすぐそばで倒れていた。

「おいシオン。大丈夫か?起きろ」

「あ、あーアブド君。大丈夫?」

「俺は平気だ。シオンこそ大丈夫かよ」

「だ、大丈夫よ」

そう言って立ち上がろうとする。

「あっ」

だが、シオンは崩れ落ちた。

「おい、全然大丈夫じゃなさそうじゃんか。立てないのか?」

「うん。足がすごく痛い」

「そうか」

俺はしゃがんだ。

「乗れ」

「え、でも…」

「いいから。それに歩けもしないのにどうやって脱出しようなんて言うんだよ。こんなことになったんだ。カルス石は諦めるしかないよ」

「そうね…」

「心配すんな。何とかなるさ」

「…うん!」

「よし。じゃあ立つぞ。しょっと」

俺は上を見た。光はもう見えない。シオンもいるし、壁は登れないか。つまり、他の道を探すしかない。

「くそ。どこ行きゃいいんだ」

「待ってアブド君。あれ見て」

シオンの指差す方を見ると、坑道らしきものが続いていた。どうやらここは、道の天井の一部が崩落したようだ。

「流石シオン。この道を辿ればきっと出口が見つかる」

「やったわね」

右か左か、道は二択。

「どっちだと思う?」

「私は、右」

「分かった。じゃあ右な」

「そんな、私の意見なんかでいいの?」

「俺も右な気がしてきた」

「…ありがとう」

俺は歩き出した。

「時計、持つよ。大変でしょう?」

「ありがとう」

俺は時計をシオンに預けた。シオンが道の先を照らす。


「ねえ、あれって電源盤じゃない?」

少し進むと、シオンが声をかけてきた。

「どれ?」

俺は目を凝らした。

「わかんねぇ。行ってみるか」

俺はそれらしき物の前まで来た。

「スイッチ入れてみてよ」

「うん」

俺は数あるスイッチの中の、一際目立った大きいやつを倒してみた。

「何も起きないね」

「だな」

「やっぱりもう電気は通ってないわよね」


ジ、ジジ、ジジジッ、パッ


シオンがそう言った直後、俺達は光に包まれた。

「うお」

「ついた!ってきゃあ!」

「どうした?」

俺は辺りを見回して気づいた。そこら中、骨だらけだ。

「これが、この炭坑の実状か」

俺はあの男の言葉を思い出した。

『俺達はあの鉱山で働かせられていた採掘員の末裔なんだよ。だから金持ちの奴らどもは未だに俺達のことを奴隷だと思ってやがる。そのせいでずっと貧しいままで不当に働かせられて…』

そこでようやく気がついた。彼らこそが、真に俺が救うべき相手だということに。

「とりあえず、進みましょ」

「そう…だな」

俺は再び歩き出した。


ザザッ…


しばらくして、俺は足を止めた。

「どうしたの?」

「今の聞こえた?何かが擦れたような音」

シオンは首を横に振った。

「気のせいかな」

「もしくは小石が崩れたのかもね」

「あー、そうかも」


ザザザッ…


まただ。しかも、なんだか音が大きくなってないか?


ザザザァッ…


「やっぱり何か聞こえるって」

俺は振り返った。

「あっ…」

「どうしたのって…え…?」

そこには、牙の生えた穴があった。いや穴ではない。正確には、牙がびっしりと一周している丸く開いた口だ。

「シュランゲル…どうして…」

「逃げた方が…?」

「出せる全力よりさらに速くね」

俺は膝に力を込めて、地面を蹴った。

「ギシャァァ!」

シュランゲルとかいう怪物は、当然のごとく追いかけて来た。

「あ、あいつ!見るからに口しか無いだろ!どうやったら俺達のことが分かるんだよ!」

「確か、超音波か何か?」

「ハッハッ、ま、まじかよ!」


ザザザザッッ


「ギシャァァ!」

それにしても、ヤツの体はこの通路を動けるギリギリしかないのに、なんでこんなに速いんだよ!どこか、隠れられる場所か曲がり角でもあればいいんだが!

「アブド君左!」

あ、見えた!

俺は即座に右足で蹴った。そして小さな隙間に身を投げ入れた。

「「ああああああぁぁぁぁぁ」」

先は、またしても急な下り坂であった。


「はぁ、はぁはぁ、シオン、大丈夫?」

「ええ、その、アブド君が下敷きになって滑ってくれたから…」

「そりゃ結構」

「アブド君こそ大丈夫なの?」

「なんか、小石とかもそんなに無くて痛くなかったな」

俺は服の汚れを払いながら言った。

「そっか。よかった」

「まぁただ、どうやって帰るかだな。この傾斜も登れそうにないぞ」

「…あ」

「どうしたシオン?」

「見て!カルス石!」

シオンの指の先に、ほのかに青く光る鉱石が大量にあった。

「これが?」

「ええ。凄いわ。まだこんなに残っていたなんて」

よく見ると、そこら中が青く光っていた。

俺はポケットから袋を取り出した。

「とりあえず採るか」

俺はその辺で石を拾ってカルス石の回りの石を砕いていった。

あっという間に、袋は一杯になった。

「すげぇな。こんなの採りきれないな」

「ええ。十年分はあるわね」

「…さてと、問題はどうやって帰るかだよな」

「そうね…ん、風?」

「え?」

「今、微かに風を感じた気がするんだけど」

「本当に?どっち?」

「顔に来たから、多分向こう」

「もしかしたら外に出れるかもしれない。行こう」

俺はまたシオンを背負って歩き出した。

「おお。俺も今感じた」

「でしょ?」

「行けるぞ、これ」


「「あ!」」

そのままずっと歩いていると、先に光が見えた。

俺は歩を速めた。


ガサガサガサ


「うおおぉぉ、出れたー!」

長草を掻き分け、俺は叫んだ。

「アブド君、何か見えるよ。集落かな?」

「とりあえず行ってみよう」

「バーバル街の場所を聞かなきゃね」

「ああ」


「すいません」

俺は集落にいた女性に声を掛けた。明らかに不審な目で見られた。

「どうされました?」

「バーバル街へはどうやったら行けますか?」

「街でしたらあのエレベーターを使うのが早いです」

女性は断崖絶壁にあるエレベーターを指差した。

「「ありがとうございます」」

俺達はエレベーターへと向かった。


俺はボタンを押した。


ギギギ…


怪しげな音を立てながらドアが開いた。

「すげぇな」

「今にも壊れそう」

「やめてくれそういうの」

俺達は乗り込んだ。


ギガガガガ…ガガ…ガガ…


エレベーターはゆっくりと上昇していった。

そして再びドアが開いた。

目の前にはあの市場の風景が広がっていた。

「さて、もう一頑張りだ」

俺はシオンを背負ったままあの男の店へ向かった。

「すいません」

「あぁ?おう、小僧じゃねーか。どうだった?やっぱり無…」

「これ」

俺は袋を突き出した。

「約束通り袋一杯分です」

「なんでこんなに…」

「では預けていた制服と、角と毛皮を」

「あぁ、おう。…持ってけ」

男は全てを俺によこした。

「どうも」

「おい待ってくれ」

俺がそれを抱えて去ろうとすると、止められた。

「何か?」

「これは一体どこにあったんだ」

「どこってもちろん山の中ですよ」

そう言い残し、俺達はバーバル街を後にした。

この話はフィクションです。実在する個人、団体、出来事などとは一切関係ありません。

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