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【完結】アカシックレコード  作者: 白黒羊
外典Ⅲ アナザーヒストリー

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32/83

EPμ レイメイ

抱き抱えられる、二人の子。

「この子には、協力して龍神様が守って下さった土地を納めてもらおう。よし、この子達の名は、アマテルとツキミヤ」


木に登る子。

「アマテル!何をしているだ!早く降りて来なさい!全く。もう私たちの先はそう長くはない。だからいつまでも遊んでいないで、いい加減大人になれ。ツキミヤのように」


残された、二人の子。

「何してるんだ!アマテル!」

アマテルは、ツキミヤに弓を見せた。

「見ろよ。これを使えば、空を飛ぶ鳥を狩れる」

「何言ってるんだ!あれは神の使い、神聖な動物だ。僕達とは違って、空をも飛ぶことが出来る。なのにお前は、それを食おうとしたのか?ふざけるのも大概にしてくれ!」


バキッ


ツキミヤは弓を取り上げ、アマテルの目の前で折った。

「お前…!よくも!」

アマテルは立ち上がり、ツキミヤを殴った。ツキミヤが倒れる。

「母上に…言いつけてやる!」

「勝手にしろ」


怒られる子。

「アマテル。いい加減にしなさい。父様が亡くなって、お前たち二人で龍神様が救って下さったこの村を守っていくんだよ。いつも言っているだろう?なのに、どうしてお前はツキミヤと仲良くしようとしない?」

「え?だって…悪いのはツキミヤじゃないか。俺はただ、新しい武器を…」


ペシッ


アマテルの頬が短く鳴った。

「ツキミヤが悪いわけ無いだろう?全部、あんたが悪いんだよ」


旅立つ子。

「待て!そんな荷物と、家族を連れて、どこに行く気だアマテル!」

ツキミヤに呼び止められ、アマテルが立ち止まる。

「お前たちの、いない所だ」

アマテルはそう呟き、走り出した。そして二度と、振り返る事は無かった。



俺は、泣いていた。少しだけ、アマテルが報われるといいなと、思った。

――――――――――――――――――――

俺は目を覚ました。俺の目の前には、男の大軍が歩いていた。

何があったんだ…?確か家に帰って…。

「はっ」

俺は自分の体を見た。足先は宙を浮きながらぶらぶらと揺れている。お腹と脚がツタか何かで固定されている。手首も縛られて動かせない。背中の妙な温かさは、体温だろうか。となれば俺は誰かの背中に乗せられていることになる。

「誰だ!俺の後ろにいる奴は!早く俺を降ろせ!さもないと…」

男の怒鳴り声と共に、槍先が開いた脇の下から突き出てきた。そしてその時気づいた。今の声は、俺が男達に囲まれた時に聞いた声。俺はあの時殺されてもおかしくはなかった。いや、殺されていない方がおかしいくらいだ。

何故俺は生きている?みんな死んだのなら、俺だってもう…。何故だ、何故俺だけを残した…?でも、俺はまだ生きている。その事実だけは変わらない。

俺は生きている事が許されているんだ。なら、刃向かわない方がいい。待って、待って、いつか必ず報いを受けさせるんだ。

俺は抵抗するのをやめた。

――――――――――――――――――――

そして、夜が来て、朝が来て、また夜が来て、朝が来て、それを30回程繰り返し、アマテル族一行は、ようやく故郷、オオワノ京へと辿り着いたのであった。


一行はまず、アマテル族の王にして龍神様の血を引く女神、アマテル様に謁見し、事の次第を報告した。

「アマテル様、この度も貴方様、そして龍神様の御加護のもと、無事ツキミヤ族を抹殺する事に成功致しました事をご報告させて頂きます。ですがこれは、勝利の為に散った18名の勇士という代償の上にあるもので御座います。そして最後に、ツキミヤ族の最後の生き残りである子供を、我が弟子として迎え入れる事をお許し下さい」

「何、ツキミヤの子供だと?」

役人の一人が声を荒げた。

「そうでございます。ですが、彼はまだ子供。それなのに我々の勇士からは二人もの犠牲を生むことになった。これは才能です。上手くいけば、私をも超える、最強の兵士となり得るでしょう。さすれば彼ほど陛下の護衛に適している者はいないでしょう。どうか、その点も御考慮願います」

「断じて許さん。その子供が、復讐の念を秘めていたらどうするのだ。そんな危険は犯せん」

「ですが…」

女王が手で静止する。場が一瞬にして静まり返る。そして女王が、初めて口を開いた。

「まずはその子供をお見せなさい」

タツが女王の前に連れて来られた。


俺は大男に連れられて、階段の前で頭を地面に擦り付けられた。

「頭をあげなさい。せっかくの可愛いお顔が見えないわ」

俺は驚いた。確かに今、ツキミヤの言葉が聞こえた。俺は慌てて顔をあげる。

長い階段の先に座った人と目が合う。その人も、アキみたく、髪が長かった。ここにも、女。その女は、アキとはまた違うけど、綺麗な人だった。

「あらあら、私がツキミヤの言葉を喋っていることに驚いているのね」

「えっ…えっ…」

俺の考えていた事が気づかれた。この人は、凄い人だ。

「怖がらなくていいのよ。私はあなたとお話がしたいの。私はイサコ。あなたのお名前は?」

「俺…は、タツ、です」

口がうまく動かない。

「そう。タツ、聞いて。私たちは皆、救世主様の血を引く家族なのよ。でも、初代アマテル様をあなたたちツキミヤの人は嫌った。だからこれは…」

俺は以前見たアマテルの様子を思い出した。そして彼を憐れんだ事も。

「仕方なかった。そう言いたいんですよね?」

「…そうよ」

俺は地面を見つめながら言った。

「確かに、あの仕打ちは酷いものだった」

「…あなた、どうしてそんな事を言うの?この事はアマテルの名を継ぐものにしか知り得ないはず」

俺は顔を上げて答えた。

「僕の祖父は、まだ若い頃、ある力に目覚めました。それは、先祖の記憶を見ることの出来る力。祖父はその力を使って、昔の出来事を書というものに記録し始めました。そして僕は先日、祖父からその力を引き継いだ。それから、色々な夢、先祖の記憶を見ました」

俺がそこまで喋ると、イサコは近くの男と話し始めた。

そして急にその男が駆け出し、書を抱えた数人を引き連れて帰ってきた。

イサコが書を手に取った。

「これは…。」

イサコは驚いていた。そして俺は呼ばれた。

「タツ、近くにおいで」

俺はイサコの傍まで階段を登った。

「これを、あなたとお祖父じいさんが?」

「そうです」

「…どうやら、時が来たようです」

「え?」

「今夜、またここに来て下さい」

「…分かりました」


「この子をアマテル族へ迎え入れます」

女王はそう宣言した。役人も、兵士も、様子を見に来た上級農民も、困惑していた。だが、女王の命は絶対である。

かくして、タツは難を逃れたのであった。

――――――――――――――――――――

俺はその後、大男に連れられて洞窟の中に入っていった。どうやらそこが大男の家のようだった。家に帰るなり、すぐに大男は荷物を置いて出て行ってしまった。

俺は長旅の疲れが溜まっていたので、少し眠る事にした。

適当な壁にもたれかかって、俺は目を閉じた。

――――――――――――――――――――

顔に冷たい風を感じて、俺は目を覚ました。俺は辺りを見回して驚いた。俺の目下には無数の雲があった。そして広がる、青い空。そう、俺は空の中にいた。龍神様にまたがりながら。

『行クゾ』

そう言って龍神様は、ぐんぐん落ちていった。雲を抜け、地上の様子が目に入った。

「これは…?」

そこは地獄だった。至る所で火が立ち上り、地面は血で染まっていた。男、女、子供、あらゆる人の悲鳴が、俺の耳を突き刺した。

俺はあまりの惨劇に、目を閉じ耳を塞いだ。

『辛イカ?』

龍神様が、飛びながら聞いてきた。

「こんなの…嫌だ…」

俺は呻き声を上げた。

『コレハ未来ノ可能性ノ姿ダ』

「…未来?」

『ソウダ。コレハ愚カナ人間共ガ、非ナルモノヲ拒ンダ結果ダ』

「一体、どういうことですか。俺にはさっぱり…」

『直ニ分カルサ』

そう言って龍神様がいきなり身をよじる。俺はその勢いに耐えきれずに落下する。

「あああぁぁぁあああぁぁ」

俺は龍神様に向かって手を伸ばす。だが、龍神様は俺に構うことなく、雲の向こうに消えた。


「ぎゃあああぁぁあぁああああ」

「うぁぁぁああああ!!」

「えええぇぇぇえええんんん」

「ああッッ……」

「くそ!くそ!殺してやる!」

下界から、たくさんの人の叫び声が聞こえた。そして俺は気づいた。これは俺と同じだ、と。

奪われ、傷つき、相手を呪う。

そして、もう誰にも、あんな思いはさせたくはない、とも思った。

赤く染まった地面に激突する瞬間、俺は目を閉じた。

――――――――――――――――――――

体がびくっと一度震え、俺は目を覚ました。すると大男の姿が目に入った。俺は驚いた。奴が目の前にしゃがんでいたのである。

さらに驚いたことに、奴が槍を差し出してきた。受け取ると、奴は笑った。案外、いい人なのかもしれない。そんな事を思いながら、外に出た。

空には満月が浮かんでいた。

俺は約束の場所へと急いだ。そこに着くと、昼間と同じところに、イサコはいた。

「よく来てくれました。こちらへどうぞ」

イサコはそう言って玉座の奥にある建物へと入っていった。

俺も長い階段を登り、後に続いた。

「ここは?」

中に入ると台があり、その上に書が置いてあった。

「私がまじないをする場所です」

「まじない…」

「ええ。そして先日、私はある啓示を神から受けました」

「啓示?」

「これです」

イサコは、書に似た石版を俺に見せた。

「何て書いてあるんで…」

そう言いかけた途端、頭がビリッと痺れた。この前と同じ、《《あれ》》が来た。


世界ガ別レ、戦場ト化ス。炎ハ天マデ昇リ、絶望ノ悲鳴ハ、雷鳴ノ様ニ鳴リ響ク。最後ノ希望ハ、月ト日。其ノ二ツガ交ワリ、重ナル時、葛掻(カタガキ)ヲ奏デ、始マリト終ワリノウタヲ、上ヲ月ガ、下ヲ日ガ読マン。サスレバ全テハマタ一ツトナルダロウ。


そしてその文の下にはウタが記されていた。


アカハナマ

イキヒニミウク

フヌムエケ

ヘネメオコホノ

モトロソヨ

ヲテレセヱツル

スユンチリ

シヰタラサヤワ


「読めましたか?」

静寂の間を破るようにイサコは口を開いた。

「はい。ですが、世界が別れるっていうのは、どういう意味なんですか…?」

「アマテル族とツキミヤ族の争い。それは全ての根源にあるものと言ってもいいでしょう。アマテル様が故郷を去った後、アマテル族内で争いが絶える事はありませんでした。ですが、ツキミヤを滅ぼすという共通の目的のお陰で、なんとか均衡を保っていられたのです。しかしツキミヤ族が壊滅状態に陥った今、アマテル族も同時に壊滅の危機に瀕しているのです。それを救えるのが、あなたと私。今日の早朝に、月と日が交わり合います。全ては今日の為にあるのです」

イサコはそう言った。だが、

「だから私は、ツキミヤを滅ぼす命を…」

と呟いたのも、俺は聞き逃さなかった。

全ては、争いを無くす為の争い…。ならば、アキやツキミヤ族の人々は、死んでも良かったのだろうか…?

そんな事はない。でも、皆の命の為にも、俺はやらなければならない。

――――――――――――――――――――

月ト日トガ重ナッタ。空ニ、金色ノ輪ガ浮カブ。時ハ満チタ。地ニ浮カブ月ト日トガ、ウタヲ唄ウ。

「アカハナマ」

「イキヒニミウク」

「フヌムエケ」

「ヘネメオコホノ」

「モトロソヨ」

「ヲテレセヱツル」

「スユンチリ」

「シヰタラサヤワ」

始マリト終ワリノウタ。皆ノ心ニ響クウタ。言葉ノ壁ヲ超エタ者達ガ手ヲ取リ合ウ世界。

外典Ⅲ アナザーヒストリー 完


この話はフィクションです。実在する個人、団体、出来事などとは一切関係ありません。


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