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【完結】アカシックレコード  作者: 白黒羊
外典Ⅲ アナザーヒストリー

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31/83

EPλ ヲシヱテ

「…あなた、誰?」


背後から声がした。

俺はすぐさま立ち上がって振り返り、背中の槍を抜いた。

背後に広がる森の淵に、小さくて髪の長い、変な人間が立っていた。

俺はそいつを睨む。

「あなたは誰?」

もう一度聞かれる。こいつ、言葉が喋れるのか。


「「ウォォォォォ」」

遠くで別の声がする。


ガサガサガサガサ


葉の擦れる音がする。恐らくイノシシ。これはかなりでかいな。


「ブフォォォオオ」

イノシシが姿を現す。そいつは勢いよく髪の長い人間に突進しようとしていた。

…どうする。助けるか?だが、助けるにしても槍を投げれば俺が丸腰になる。どうする。どうする。どうする…。ちっ、くそ。

「オラッ」

タツの放った槍は、イノシシと人間の間に突き刺さった。

「ブフィィイイ!」

逃げるかと思われたイノシシは、タツに睨みをきかせていた。

「逃げろ!今のうちに!音を立てるなよ!」

俺が叫ぶと、髪の長い人間は、静かに森の中へと入って行った。

「ピュイ」

俺は指を咥えて音を鳴らす。

さて、どうしたことか。この距離からして、槍を取るにしても森に入るにしても先にイノシシにやられる。かと言って背後は崖。

…よし、一か八かだ。

「ファギィィイイ!」

イノシシが走り出す。それと同時に俺も走り出した。手を伸ばす。もう少し、もう少し…!


ダンッ


だが、タツが槍に届くより早く、イノシシがタツの右腹に突撃した。

タツは吹っ飛ばされた。そしてそのまま、ピクリともせず動かない。

「フィィイイイ!」

そして興奮したイノシシは、森の奥へと消えていった。

――――――――――――――――――――

俺は目を覚ました。目を擦って立ち上がる。

ここは…どこだ?

草が無く、土の露呈した大地。


ダッダッダッダッダッダッダ


何かの足音。そして、声もする。それはどんどん近づいてくる。

俺は振り返る。そこには、トカゲのような巨大な人間の群れが、迫って来ていた。

まずい、逃げられない!

しかし奴らに止まる感じはない。

もうだめだ…!

俺は顔を両手で守る。

だが、奴らは俺をすり抜けた。

そして一箇所に集まり、何やら話をしている。


バーーーーーーーーーーーーーーン


すると、背後から轟音が鳴り響く。

山が、火を噴いている。

あれは…噴火か。

…え?噴火って何だ?なんで俺はそんな言葉を知っているんだ?あんなもの、初めて見るのに。

銃を持ったスラーヴォ達が逃げ惑う。

銃ってなんだ?スラーヴォってなんだ?どうしちまったんだ俺は。

「ギャァーオ」

ドラゴンが目の前を横切る。

「ドラゴン…」

俺は思わず呟いた。

そしてドラゴンはスラーヴォ達を惨殺した。

これは一体、何なんだ?夢か?夢なのか?

ドラゴンが降り立ち、少年が地面の亀裂から姿を現す。

「ドラゴ…ニュートだ」


「乗レ」

「え?」

「俺ノ背中ニ乗レ。決着ヲツケル」

「っはい!」

ドラゴンに跨ったドラゴニュートは、そのまま青空へと飛び立って行った。


これが…じいちゃんの言っていた…夢…なのか?

一度瞬きをすると、目の前の光景は無くなり、真っ暗な空間が広がっていた。そして段々と視界がぼやけていく。

――――――――――――――――――――

「…きて、ねぇ、起きて!」

俺は目を開いた。目の前には、さっきの変な人間の顔と、どこかの天井があった。

「はぁ、良かった。目が覚めたのね」

俺は起き上がろうとする。

「うっ」

右の腹が激しく痛んだ。

「ダメよ、まだ寝てなきゃ。あなたはイノシシに突っ込まれたんだから」

「そうか、俺、槍を取る前に…」

「ええ。でも、生きていて良かったじゃない」

「ああ、そうだな。危なかった。何もやらないまま、死ぬとこだった」

「え?」

「いや、こっちの話だ」

「そう」

無言の時間が続く。これが気まずいというやつか。

「…お前、名前は?」

変な人間の顔が晴れる。

「私は、アキよ。あなたは?」

「俺は、タツだ」

「…タツは、どこから来たの?」

「ああ…」

村八分(あのこと)をどう話そうか。まぁ、アキは知らなそうだし、大丈夫か。

「この近くの、崖の下」

「ええ!?あの崖!?」

「多分」

「どうしてそんな所に?」

「俺の親があの崖から落ちたんだが、なんとか生きていた。食料も確保できるってことで、そこで暮らし始めて、俺が産まれた。だが、その両親が死んじまってな。危ないから絶対に登るなと言われていた崖を登って来たんだ」

「そうだったの。大変だったのね」

「まぁな」

また無言になったので、俺はずっと気になっていたことを聞いてみた。

「そういえば、アキはなんで髪が長いんだ?」

「…?私が女だからでしょ?」

「女?女って何だ?」

「知らないの?」

「ああ」

何故だかアキと目が合ったまま、離すことが出来ない。そしてアキの顔が近づいてくる。

「おい、何、してんだ」

「動かないで」

鼻の先が触れ合う。脈がどんどん早くなっていく。なんだ、これ…。

そして急に、アキがニヤッと笑って顔を離す。

「どう?ドキドキした?」

「はぁ、はぁ、へ?ドキドキ?」

「こりゃまた凄いね。ドキドキしまくりじゃん」

「もう、はぁ、何すんだよ。はぁ、全く」

まだ息が鎮まらない。

「これが女よ」

「そ、そうか…」

女って、怖え…。

――――――――――――――――――――

食後、俺達は焚き火を囲んで話をしていた。

「ほう、あの崖の下から?」

「はい」

「タツ君と言ったか?大変だったな」

「…はい」

俺はアキの提案で、アキの家族と共に暮らすことになった。アキの父親のスオウは、とても体が大きい。それもあってか、この村の中心的存在らしい。最初は俺の事を訝しんだが、アキが自分が助けられたと言うと、すぐに寛容的になった。

「家に住むのは結構だが、住むからにはしっかり働いてもらうよ?」

「はい。狩りでもなんでもします。ですが、一つやらなければいけない事がありまして…」

「ほう?」

「まさかこんなことになるなんて思ってなくて、大切な物を家に置いてきたんです。だから、それを取りに行かせて下さい」

「もちろん構わないよ。だが、その体で大丈夫か?」

「はい。だいぶ痛みもひきましたから」

「そうか。なら結構。今日はもう寝て、ゆっくり休んでくれ」

「はい。おやすみなさい」

俺は立ち上がって、森の中に入ろうとする。

「タツ!?どこに行く気!?」

「え?いや、俺は外で寝ますよ」

「夜は危険だ。それに冷える。中に入りなさい」

「分かりました」

「それと、君の部屋はないから、アキと一緒に寝てくれないか?」

「…はい」

――――――――――――――――――――

俺は目を覚ました。幸い、何も起きずに済んだようだ。よかったよかった。

朝食は栗を食べた。俺の家の近くでは滅多に食べられない物だったので、目にした時は驚いた。やはり美味い。


そして、俺は家を出た。書を取りに行き、その続きを書く為に。

スオウさんが、長いツタを木に巻きつけておいてくれたお陰で、すんなりと崖を降りることが出来た。昨日通った道を戻る。

背の高さまである草を掻き分け、俺は家に帰って来た。中に入り、じいちゃんの部屋に行く。

「…読める」

思わず口に出てしまった。書に書かれている文字が、何故だか読めるようになっていた。


火ノ山ニテ―――

ソノ目ノ赤キ少年、虐ゲラレリ。生贄トナリテ眠ルルニ、夢見。


一番上にあった物には、そう書いてあった。

次の石板に目を通す。


夢ニテ、天啓ヲ受ケ、目覚メリ。少年、龍神ニ教ワルガママニ、翼ヲ広ゲ、飛ビケリ。


俺は昨日の夢を思い出した。ドラゴニュートという少年とドラゴンが出てきて…。

その時、頭がビリッと痺れた。気づくと俺はそばにあった何も書かれていない石板と、黒曜石で作ったような黒い棒を手にしていた。そして自分の意思なのかも分からないまま、俺は手を動かし始めた。


ドラゴニュート。神カラ賜リシ龍王ノ血。

ドラゴニュート。龍ヲ操リ世界ヲ統ベル者。

ドラゴニュート。ソノ姿ハ人。

ドラゴニュート。絶望ノ淵ニ龍ガ出デル。


石版にはこう書いていた。いや、俺が書いたのだ。全く実感が湧かなかった。

だが、まだ俺の右手は止まらなかった。

――――――――――――――――――――

やっと手が止まり、外に出てみると、すでに夜が来ていた。

俺は急いで石板を抱えて家を出た。一度立ち止まって振り返り、その後は月明かりを頼りにただひたすら崖を目指した。今日は月が大きくて、夜でも明るかった。

俺は崖についた。石板を体に巻きつけて、ツタを頼りに、登っては降りてを繰り返し、三往復目でようやく全て運ぶことが出来た。

一息ついていると、俺は槍がそのままの状態で刺さっているのを見つけた。そろそろ帰るかと思っていると、月が雲に隠れてしまった。

何故だか無性に嫌な予感がした俺は、槍を抜いてすぐに来た道を戻った。


森に入ると、新しい家の方からぼんやりとした明るい光が見えていた。光に近づくにつれて、段々と暑さを感じ始めた。さらにパチパチという音も聞こえだした。俺は足を早める。

森を出ると、視界がひらけた。俺は言葉を失った。家が…村が…燃えている…。

俺は駆け出そうとしたが、立ち止まった。

そこには、見たことのない奴らがいた。

まさか…あいつらが…?そうだ、そうに違いない。そしてこんなことする奴らは、アマテル族の奴らしかいない…!…畜生…畜生…畜生…殺してやる!


タツは書をその場に置き、槍を握りしめる。

「ああああぁぁぁぁぁあああッッ!!!」

叫びながら槍を握った右手を、アマテル族の人間の背後目掛けて突き刺す。

「ガァアッ」

そしてすぐさま槍を引き抜く。

「ぐぁあぁ…」

「テメェよくも!」

近くにいたもう一人の男が声を荒げる。

「ここにガキが一人隠れていたぞ!」

男が仲間を呼ぶ為に顔を上げた瞬間、タツは胸を突いた。

「ガ…ガキィィ…」

男は倒れた。だが、タツはすぐさま大勢に囲まれる。

「とっとと殺しちまおうぜ」

「どうする、火炙りにしてやろうか?」

「それ良いな」

男達は口々に言い合う。タツには彼らの言葉が分からなかった。

「おうおう、活きのいいガキが見つかったんだって?」

ただ一人だけ豪華な装飾を見に纏った大男が、人垣をかき分けタツの前に現れた。

「そうでございます、グランダ様。このガキにミズとゴクが…」

「そうか。彼らは中々の実力者じゃけぇ。ガキの分際で彼らを殺るとは大した者じゃ。よし、こいつを俺の従者としよう」

周囲がざわつきだした。

「そ、そんなこと危険で御座いまするよ、グランダ様」

「そうです、早急に処分するのが一番です」

「それにもし万が一グランダ様に危害が加わったら…」

「ほう、お前は俺がこんなガキに殺られると思ってるんだな?」

グランダが、男を睨む。それに男は震え上がった。

「そ、そ、そ、そんな、滅相もございませぬ。私めはただ、グランダ様の身の心配をしただけでありまして、グランダ様を侮辱するような意図は全くもってございませぬ。なのでどうか、ご容赦を」

グランダはまだ男を冷たい目で見つめている。

「あああああぁぁぁああああッッ!!!」

男たちが話し込んでいる隙に、タツが襲いかかった。槍先は、グランダに向いていた。

「ぬるいわい」

そう言うとグランダはタツの攻撃をかわして左手で槍を奪い取り、右拳でタツを殴った。タツが転がる。その間にタツの槍を折った。

「グアアァァァアアッッ!」

タツはすぐさま立ち上がり、グランダに突進した。

「これは面白い。貴様はイノシシか?」

グランダは笑いながらタツを蹴り飛ばす。落下して土煙が立ち込める。しかしそれでも、タツは立ち上がった。身体中血まみれでも、骨がいくら折れていようとも。

「素晴らしい!それでこそ真の男だ!」

飛びかかってくるタツを殴り倒し、捻じ伏せ、失神するまで殴り続けた。

「ふう、ようやく静かになったのう」

息を一つ吐き、グランダは宣言した。

「このガキをアマテル様に献上する。上手く育てられれば、此奴ほど優れた兵士はおらぬかも知れん。異論は認めんぞ。さぁ、事は片付いた。出発の準備じゃ」

「「「はい」」」

全員が口を揃えて返事をする。

グランダはタツを見下ろす。そして彼を背中に乗せた。

一行は、アマテル族の故郷へと帰って行った。

この話はフィクションです。実在する個人、団体、出来事などとは一切関係ありません。

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