EPκ タビダチ
「その昔、世界が滅亡に瀕した時、一人の少年が、龍神様を操り、この世界を救った。その後少年は、とある少女と出会い、やがて二人は夫婦となった。そして子供をこしらえ、その子らは世界中へと散っていった…」
「はいはい、もう分かったって、じいちゃん。その後に山奥に定住して、そこで双子を産んだ。そんでそいつらがアマテル族とツキミヤ族の争いの発端なんでしょ。もう何度も聞いたから分かってるって」
「そうじゃ。だが我々は同じ救世主様の子孫。必ずや和解の道はある」
「だから、無駄だって」
少年が立ち上がり吐き捨てる。
「アマテルの奴らは、俺が倒すからさ」
「タツ…」
老人が呟く。
「だから俺は座って歴史を学ぶくらいなら山で鍛えた方がいいって訳。それじゃ」
タツが走って家を出る。
「こら!タツ!待たんか!まだ話は…」
「聞いて欲しかったら捕まえてみな〜」
「全くあの子は…」
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救世主が世界の崩壊を防いだ龍神大戦後、救世主は七人の男子を授かった。長男から五男までは、世界の果てを目指し旅立った。
残った双子は、互いにアマテル、ツキミヤと名付けられた。常に仲の悪かった二人は、アマテルが絶縁という形で故郷を去った事で仲違いした。
それから数百年後、アマテルの子孫であるアマテル族が、ツキミヤの子孫であるツキミヤ族を、聖なる地である故郷奪還の為に襲い始めた。
それにより島を南北に分かれていた形の統治形態だったものが、ツキミヤ族は北方の盆地にまで追いやられてしまった。
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日の陰る森林の中、タツはイノシシを追っていた。右手に骨と石で作った槍を持って。
「待てコラ!」
「フゥギィィッ」
イノシシは中々にすばしっこい。タツは立ち止まる。呼吸を整え、音を聞く。
「そこだ!」
タツは右斜め前方に槍を投げる。
ブシュッ
槍はイノシシに見事突き刺さる。
「よし」
タツはイノシシの刺さった槍を肩に掛ける。
「さて、帰るか」
タツは歩き出す。
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「ただいまじいちゃん。イノシシ取って来たぞ」
「おお、タツ。いつも済まないな…」
「しょうがないだろ。うちには俺とじいちゃんしかいないんだから。俺が取るしかないだろ」
「しかしのぉ…」
「もういいって。俺は追加の薪を割ってくるからじいちゃんは火を焚いといてくれ」
「わかった」
ガッガッガッ
タツは先の尖った平らな石で薪を割っていた。
「ゴホッゴホッ!」
「じいちゃん!?」
タツが叫ぶ。
「大丈夫じゃ。気にせんでくれ!」
じいちゃんの声が返ってきた。その声はいつもより、何か弱々しく聞こえた。
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その後二人は、焚き火を囲んで焼いたイノシシを食べていた。
「タツ、そろそろお前に言っておかなくてはいけないことがある」
「え?」
「ツキミヤ族の話はわかるな?」
「もういいって」
タツは肉を口に放り込む。
「もう寝よう」
そう言ってその場から這って逃げようとする。
「待て」
タツは驚いた。俺は足をがっしりと掴まれる。あの、じいちゃんに。なんて力だ。抜け出せない。
「大切な話だ。よく聞け」
「わかったよ」
タツは渋々元の位置に座り込む。
「話を戻そう。して、ツキミヤ族の話は覚えているな?」
「もう何度も聞かされてるからね」
「うむ。わしらはツキミヤの最期の生き残り…。そう教えたな?」
「うん」
「実は…それは間違いじゃ」
「間違い?」
「ああ。ツキミヤ族の生き残りは、まだ他にもおる。だがわしらは、訳合って会うことは出来ない」
「なんで?」
「ついて来なさい」
じいちゃんが立ち上がり、じいちゃんの部屋に入る。一度も入ることの許されなかったあの部屋へ。タツは急にワクワクして、すぐさま後に続いた。
「これは?」
そこには、大きな石の板が何枚も置かれていた。よく見ると、その石には何かが彫られている。
「これが原因だ」
「その、他の仲間と会えないっていう…?」
「そうだ」
「それで、何なんだよこの石は」
「これは書というものじゃ」
「書?」
「そうじゃ」
「なんだそりゃ」
「救世主様の生涯、アマテル族とツキミヤ族の対立…つまり世界の全てを記す物だ」
「これを…じいちゃんが?」
「ああ、わしが作っている。あれはまだ妻と子とともに仲間の元で暮らしていた頃、わしは不思議な夢を見た。その夢の中で、わしは書の始まりから終わりまでを見た。そして、それを書き記す事を命じられた。わしはすぐにそのことを仲間に伝えた。だが、誰も信じてくれる者はいなかった。そして数日後、わしがその話を最初にした者が死んだ。また数日後、次は二人目が。こうしてわしの話を聞いた人が次々に死んでいった。その時はまあ大変だった。村の者たちはわしが救世主様を冒涜したせいで祟りが起きたと騒いだ。このままでは被害が大きくなると思ったわしはお前の父と母を連れてここに逃げてきたのじゃ。そして、タツ、お前が産まれてまもなく、二人もすぐに死んだ。書のせいで大切な人たちがたくさん死んだ。それは分かっていた。だが、わしは手を止めなかった。止められなかったんじゃ。わしには…ただ手を動かす以外、どうすることも…」
そう言ってじいちゃんは泣き崩れた。
「じいちゃん…大丈夫?」
「ああ、ああ。こうしてはいられぬ。タツ、お前に頼みがある。わしももう先は長くない。だからお前に書を完成させて欲しい」
「そ、そんなこと言ったって、この変な、石に彫ってある変なやつ読めないし、どうすればいいんだよ」
「わしもこれを読むことは出来ない。頭に浮かんだものをただ写しているだけだ」
「そんな…」
「大丈夫。安心せい。お前も書がわかるようになる」
「本当に?」
「ああ、わしを食えばな」
「え?」
「わしが死んだら、わしを食え。さすれば能力が継承される」
「な、何言ってんだよ。じいちゃんを食、食う?そんなこと出来るかよ」
「出来るさ。書にはそうあった」
「…本気なんだな?」
「もちろんだ。だから、頼む」
「ここで俺が何もしなければ、じいちゃんの努力は無駄な物になっちまう。そんなことには、したくない。じいちゃん、俺、やるよ」
「タツ…ありがとう」
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次の日、それはちょうど狩りから帰ってきた時だった。
「じいちゃん、ただいま…ッッ!」
俺は絶句した。
そこには、じいちゃんが、倒れていた。
「じいちゃん!」
俺はじいちゃんを抱きしめた。冷たい。死んでいた…。
そうか…じいちゃんは、死ぬのが分かっていたから、昨日は俺にあんな話を。
次は、俺の番だな。じいちゃん。
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俺は輝く星の下でじいちゃんを焼いていた。ふと、じいちゃんとの思い出が蘇って来て、涙が溢れてきた。俺をここまで育ててくれたじいちゃん。俺に生き方を教えてくれたじいちゃん。本当に、ありがとう。
「…いただきます」
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翌日、俺は目を覚ました。じいちゃんの言う夢を見ることは出来なかった。ならば、俺のやることは変わらない。俺は狩りの準備をした。
槍を手にし、外に出る。今日は鳥を取ろう。
外に出て少し歩くと、鳥の群れを見つけた。しめた。俺はその群れを追うことにした。
しばらく群れを追って走ると、俺は崖に着いてしまった。これはじいちゃんに絶対に登ってはいけないと言われた崖。
しかし、群れは崖の先へと飛んでいってしまった。
俺は迷った。どうしようか。今日は諦めて引き返すか?いや、今は俺を叱る人もいない。
俺は近くの木に生えていたツタを引き抜いて、それで槍を背中に縛った。
そして崖の岩肌に手を掛ける。
「よし」
タツは小さな凹凸に手を掛け足を掛け、器用に20mはあろう崖を登っていった。
「はぁ」
俺は崖下を覗きながらその場に座り込んだ。なんとか、無事に登ることが出来た。
俺は空を見上げる。群れの姿はどこにもなかった。くそ、逃げられちまった。どうしよう。少し辺りを探索してから帰ろうか。
そんなことを考えていた時だった。
「…あなた、誰?」
背後から声がした。俺は背中の槍を握りしめた。
この話はフィクションです。実在する個人、団体、出来事などとは一切関係ありません。




