EP17 告白
「タケル、この後どうするの?」
「さっきも言った通り、俺はもう戦わない。だから、家に帰ろうと思う」
「家に?」
「うん。俺の生まれた故郷。そこに帰って身を潜めるつもりなんだ」
「そっか。…私も、行っていい?」
「もちろん。もうビオロを一人にしないよ」
「うん。ありがとう」
そう言って歩き出してから、6日程経過した。俺達はただひたすらに歩いた。どの方向に家があるのかも分からない。
飛べばすぐに見つかるかもしれないが、そうすれば家を見つけるより早くドラゴイードルに見つかってしまうと、ビオロは言った。実際その通りだと俺も思っている。
家に着くのが一応の目的ではあるが、奴に見つかるくらいなら、最悪着かなくても、それでもいい。
俺は隣を歩く少女を見る。
だって、ビオロがいるのだから。
「あ!温泉だ!」
その夜、寝床を探していた俺達が見つけたのは、温泉と呼ばれているらしいものだった。
「熱ッ!」
温泉に恐る恐る足先を浸けると、思っていた以上に熱くて、すぐに足を引っ込めた。
「きゃははは、そりゃそうだよタケル。温泉はそういう物だから」
「そうなのか…。でも、よくビオロは肩まで浸かれるな?」
俺はもう一度トライしながら聞く。
「私にしてみれば、いつも炎を吐いてるタケルが温泉ごときで熱がってる方が不思議だよ」
「まぁ、ああいう時は大体無我夢中だし」
どうにか腰辺りまで入ることができた。
「炎吐く時って、どんな感じなの?」
「うーん、なんだろう、なんか、お腹から上がってくるものを吐き出してるって感じ?…うわっ!」
ザブン!
足先で温泉の底を確かめていた俺は、急に滑ってしまった。
「ぷはっ!」
俺は水面から顔を出す。
「ふふふっ、タケルったら」
「笑うなよ!」
「ごめんごめんって」
「そう言いつつまだ笑ってるじゃんかよ!」
滑った自分がなんだか可笑しくなってきて、俺も吹き出した。
「はぁ…楽しいね、タケル」
「うん」
「私、今まで生きてきた中で、こんなに楽しいこと初めてかも」
「うん、俺も、そうかも…」
俺は夜空を見上げた。そこには、一面に星があった。
「思い返すと、あの星のどれかから創造主がやって来て、スラーヴォとポステ王が協力して預言石を落として、それでドラゴニュート探しが始まって俺が見つかって、地球防衛軍として艦隊を倒して、スラーヴォに捕まって、ビオロに会って、トクォーノを倒したら今度はドラゴイードルが来て…。俺は今まで楽しいって、感じたことがあったのかな」
「地球防衛軍の一員になる前は?」
「どうだろう。サイトウさんとの日々は、決して嫌ではなかった。でも今思えば、ずっと同じことの繰り返しの生活が、楽しかったかと言われると、分かんないよ。母さんを失う前のことは、もう全然覚えてないし」
「そっか。…なら、これから作ればいいじゃない」
「え?」
俺はビオロの目を見る。
「一緒にたくさん作りましょ?」
「うん!」
――――――――――――――――――――
「やっと、終わりましたね」
「ああ、遂にだ。それよりもタケル、ここは何だ?」
私達はレムリアの地下に来ていた。それは分かるのだが、何の為の施設なのかが分からない。
「もうその名で呼ばなくてもいいでしょう。僕の事はドラゴイードルとでも呼んでください。そしてここは、レムリアの制御室」
「なるほど。これでこのまま行くというのか?」
「いえ、もうレムリアに宇宙空間を移動できる程の力はありません。だから、ここで迎えを待ちます。その間に、一つやることが」
「何だ?」
「ドラゴプロクスを殺すことです。その為にあいつを誘き出さなければ」
「決着をつけるという訳か」
「はい。その為に生まれて来たのですから」
「教えてくれ、何故君がタケルと瓜二つなのか。擬態能力でもあるのか?」
「いいえ。あなたのお陰ですよ。クロウリーさん」
「私の?」
「ええ、あなたの送って下さったタケルのデータを基に、僕は創られました。知りませんでしたか?」
「創造主はその為に私に接触を?」
「恐らく、そうでしょうね。この星を滅ぼす為に送られた艦隊をいとも簡単に撃沈させた者の正体。彼らはそれがドラゴプロクスだと確信していたのでしょう。そしてそれを倒し、力を奪う為にわざわざドラゴイードルを蘇らせる計画を立てた。だが思いの外上手くいかず、ドラゴプロクスを解析してドラゴイードルを創り出す事にした。それにあなたが利用されたのです」
「なるほどな。まぁでも、契約は守るだろうな?」
「守りますとも。あなたはそれだけの事をした」
「そうさ。誰が仲間を殺したいと思う」
ドラゴイードルは驚いたという様な顔をした。
「へぇ、そんな事思ってたんですか」
「当然だ。だが、願いの為なら仕方ない」
「そのあなたの願いっていうのが、何なのか教えてくれませんか?」
「ああ。…妻を、生き返らせることさ」
「生き返らせる?」
「創造主には、その名の通り生き物を創り出すことができるのだろう?現に君が今ここにいることが何よりの証拠だ。私は彼らの知恵と技術を使って妻を蘇らせる。絶対に」
「そうですか…。何か未練があったんですね」
「ああ。妻は、レーナは、政府の機密情報にアクセスしてしまい、記憶を消され洗脳を受けた。そして、最後は政府によって殺された。それを知ったのは、地球防衛軍が解散した直後。生きていることすら辛かった私の夢の中に、啓示が降りて来た。『妻にもう一度会いたくば、我々に協力しろ』と。それから私達は何度も繋がり、遂にここまで来た。やっと、もうすぐ会えるんだ…」
「もうすぐ会える…」
「何か言ったか?」
「いえ、別に。僕も宿敵のドラゴプロクスと会えるなと思って」
「ああ、そのことか。それで、ここで何を制御するんだい?」
「レーザー砲ですよ」
「レーザー砲?」
「はい。これで奴を誘き寄せます。まぁでも、まだ動かないんで、修理するの手伝ってくれません?」
ドラゴイードルが笑いながら尋ねてきた。
「うむ、他にやることもないし、いいだろう」
「ありがとうございます。じゃあ、早速始めましょうか」
――――――――――――――――――――
温泉から上がった俺とビオロは、二人座って星を眺めていた。
「タケルさっき言ってたよね、あの星のどれかから創造主が来たって」
「うん。言ったよ?」
「…私ね、私もね、その星から来たんだ」
「…え?」
「いや、あの、勘違いしないでね?私は創造主…モナードヴェンを憎んでいるから」
「どういうこと?」
「最初から話すね。私はモナードヴェン達の住む星、惑星カアスに生まれたの。物心付いた時には、父親はいなかった。だからずっと、母親と二人で暮らしていた。…タケルと同じね」
そう言ってビオロは微笑んだ。
「なぜなら私の一族は、彼らにとっては忌むべき存在、抹殺すべき相手だったのよ。私がその事実に気が付いたのは、5歳の頃」
ビオロの目はどこか遠くを見ていた。
――――――――――――――――――――
ドンドンドンドン
「おい、開けろ。中にいるのは分かってるんだ」
私はお母さんを見る。お母さんはベッドの下に隠れていろと指で指示した。
ドンドンドンドン
「早くしないと、この戸を吹き飛ばす」
お母さんの手には刀があった。
ドンドンドンドン……ガタン!
「うぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」
侵入してきた兵士に、刀を突き出すお母さんの姿を見た。私は恐怖のあまり目を瞑った。
ビシャッ
血の飛び散る音が聞こえた。私は耳を塞ぐ。
「この阿婆擦れがァァァッッ!!」
パン、パン、パン
響き渡る銃声。
ドサッ
何かの、恐らくお母さんの倒れる音。
「娘もいるはずだ。探せ」
「いや…ここには、いないわ。逃した、もの…」
「お前には聞いていない。…なるべく傷は付けるなとの命令だが、まぁどうせ手足は使わないし良いだろう」
バン、バン、バン
「キャァァッッ」
バタン!
突然視界が明るくなる。
「ここにいたぞ」
「よし、早く拘束しろ!」
「やめて、ビオロだけは…」
それが私の聞いたお母さんの最後の言葉だった。
目隠しをされ、手足を縛られ、冷たい床の上で、とても気の遠くなるような長い時間が経過した。
次に目隠しを外された時には、そこはもう牢の中だった。
その後私は、運命の相手と出会うことになる。
――――――――――――――――――――
「そっか、ビオロも、大変だったんだね」
「うん、まぁね…。それと、本当にごめんなさい」
「え?」
「私は時々、タケルを自分の復讐の為の道具だと勘違いしていたのかもしれないわ。だから今日も、酷いこと言っちゃって…」
私の目からは、涙がボロボロとこぼれ落ちた。
「もういいって」
「私、自分が、怖いの。またタケルに酷いことしないかって」
タケルが私に抱きついてきた。
「こうすれば安心する?」
「うん。温かい。お母さんに、抱きしめられてるみたい」
「俺も、そんな感じだった」
「どういうこと?」
「作戦決行直前、ボル…ドラゴンに乗る前にサイトウさんに同じことされたんだ」
「そうなのね」
私はドラゴンと聞いて、お母さんとの会話を思い出す。
あれは確か、私の好きだった絵本を読んでもらった後の会話。
『わたし、このドラゴンすき。あとこのおとこのこも」
『男の子?』
『うん!いっしょうけんめいがんばるのがかっこいい!』
『そうね。お母さんも大好きよ…』
あの男の子、誰だっけ。確か名前は…。
私は目を見開いた。
「タケル…」
「ん?どうした?」
そうか。全部、繋がっていたんだ。
「目、つぶって」
「なんで?」
「いいから」
「分かった。これでいい?」
「うん。ありがと」
私は、タケルの頬にキスをした。
――――――――――――――――――――
「さぁ、これで全ての準備は整った!」
あれからずっと手伝わされた作業も、ようやく終わった。
「最初の目標地点はどこにするつもりだ」
「それは、あなたのデータにあった、奴の発見された場所」
「ああ。あそこか。確か名前は…そうだ、龍牙城遺跡」
「そうだ。これより直上への移動を開始する。レムリア、発進」
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「あっ、この辺り、見覚えがある」
「本当?」
「うん。そうだ、あの廃墟を越えた先の丘の奥だ!」
「そう。じゃあ早く行きましょ!」
「うん」
俺達は駆け出す。
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「到着だ。目標真下。ロックオン完了。さてクロウリー、準備はいいか?」
「ああ」
「よし。カウント開始。3、2、1…」
――――――――――――――――――――
「懐かしい。ここに車を止めたんだ」
俺はサイトウさんとの事を思い出し、複雑な気持ちになった。
あの時は、俺が連れ去られて…。
よし、サイトウさんにも、しっかり報告をしよう。
俺は地面に残っていたタイヤ跡を見て、気を引き締めた。
ふと、辺り一面が暗くなった。
「タケル、前ッッ!!」
「え?」
俺は前に、家のある丘の方に、目を向ける。
あれはまさか…。どうして、ここに?
――――――――――――――――――――
「発射ッッッ!!」
ドラゴイードルはボタンを押した。
――――――――――――――――――――
それは一瞬だった。一瞬にして、全てが炎に包まれた。
ここは、ここは、父さんと母さんと過ごした、サイトウさんと出会った、大切な場所なのに…。
なのに、なのに、なのに、あいつらは…ッッ!
「ユルサナイッッッ」
「タケル?」
タケルは勢い良く地面を蹴る。それと同時に覚醒し、翼を広げて飛び上がる。
「待って!」
ダーーーーーーーーーーン
タケルがレムリアに突っ込んでいった。
そして、貫通した。
反重力装置の故障したレムリアが墜落する。
――――――――――――――――――――
ドラゴプロクスとドラゴイードル。
相反する者同士が、空中で睨み合う。
「ふぅ、すぐさま脱出しといて良かったよ。全く、君は怒るとすぐ暴れるんだから」
「ハァ、ハァ、ハァ、ユルサナイ!コロシテヤルッッ!!!」
「いいぜ。決着をつけようじゃあないかッ!」
かくして、滅亡への火蓋は、切って落とされたのであった。
この話はフィクションです。実在する個人、団体、出来事などとは一切関係ありません。




