EP16 交わる世界
そして数日が経過した。
「本当に、これで終わったのかしら…」
「先生はまだ足りないでらっしゃるの?」
トリシャとハンナが歩きながら話している。
「そんな訳ないけど、本当に全てジェームズのせいなのかなって」
「誰かがジェームズを犯人に仕立て上げたと?」
「うん。その可能性はあるわ」
「確かに無きにしも非ずね」
「じゃあ、誰が犯人だと思いますか?」
二人の背後で声がする。
トリシャが振り返る寸前に、声の主は彼女の口に手を当て、胸をナイフで刺す。
「うっ…」
「トリシャ!きゃぁぁぁぁぁ!誰か!」
すかさずハンナも口を塞がれる。
「んんん!んんんッッ!」
「大丈夫。今楽にしてやるから」
「んんんん!」
声の主はハンナも刺した。彼女の息が絶えるまで、何度も何度も。
「さて、まだ君は生きているだろう。トリシャ」
トリシャは傷を抑えながら、背中を床に擦り付けて這っていた。
「あな、たが…はぁ、はぁ、黒幕、ね…!」
「そうさ。良かったな。死ぬ前に分かって」
声の主はトリシャに飛び乗り、彼女を滅多刺しにした。
「ふぅ、後、11人」
殺害の様子を物陰に隠れて見ていたタムが、その場に崩れ落ちる。
「そ、そんな、トリシャさんと、先生が…」
「おや、これはこれは。運がいい」
二人の目が合う。
「や、やめろ、来るな!助けて!タケル!助けて!誰かぁぁ!」
タムは急いで立ち上がり、長く暗い廊下を駆け出す。
だが、不幸なことに足が絡まって転んでしまう。
「うわぁぁぁぁ!」
すぐさま追いつかれ、首に腕を回され、締め付けられる。
「何、で…こんな、ことをッ」
「…これが運命ってやつだからかもな」
「がッ」
こうしてタムも息絶えた。
――――――――――――――――――――
「何、どこにもいない?」
「ええ、こっちは誰もいませんでした」
「こっちもだ」
キーラとケニーが報告する。
「なんてことだ」
朝、食卓に三人の姿は無かった。トリシャ、先生、タム…。
「もう一度、隅々まで探そう。どこか遠くへ行ってしまったのかもしれない。よし、今度はもっと捜索範囲を広げよう。今日は一日かけて探すぞ。いざという時の為に二人一組で探そう」
「「「了解」」」」
「タケルは飛んで、空から探してくれないか?」
「分かりました」
そして捜索が始まった。
――――――――――――――――――――
「奴も馬鹿だよなぁ」
「奴?どうしたんですか急に」
「んー、分かんないかぁ。アレックスは優しいもんなぁ」
「どうしたんですか。さっきから何か変ですよ?」
「だよなぁ、まだまだ未熟だ…うわっ」
小石につまずき転ぶ。
「ちょっ、大丈夫ですか?」
アレックスが手を伸ばす。
「やっぱり君は優しいな」
そう言って左手でアレックスの手を引き、右手で彼の胸を刺す。
「ぐっ!」
そして立ち上がり、彼の体を突き飛ばす。
「だが優しいだけじゃ、こんな残酷な世界は生きていけないよな」
「み、皆も、あんた、がッッ…!?」
「まぁ正解であり不正解だな」
「く、クソがぁぁ」
彼は胸のナイフを抜き、そのまま向かって来る。だが目の前で倒れ、醜く朽ちた。
「…何を、してるんですか…」
どうやら、サムとクレバーに見られたようだ。しゃがんでナイフを拾う。
「だ、誰かぁぁぁぁあッッ!!」
「助けてくれ、こっちだぁぁぁ!」
二人が喚き散らしながら駆けていく。
「うるさい。こんなところから聞こえるわけないだろっと」
投げたナイフがサムの頭を貫く。
「お、おい、サム!?助けてくれ!サムが殺られたッッ!!」
クレバーが立ち止まる。
「安心しろ。すぐに同じところに逝かせてやるから」
「や、やめろッッ!来るなぁぁ!!」
彼がまた走り出す。
「手持ち一本だからさ、あんま逃げるなよ」
サムからナイフを抜き、もう一度投げる。クレバーが倒れる。…残り、7人。
「全く、こうもズバズバ殺す必要もない気がするんですけど…」
「長年の夢が叶う瞬間がすぐそこまで迫ってるんだ。もう私は躊躇しない」
私はアレックスを投げ捨てながら答える。
「あなたは狂人だよ、クロウリー・オーガスト」
「…かもな」
――――――――――――――――――――
俺は一本道をひたすら進んでいた。周りの木々が迫ってくる様で、歩を早める。
ガサッ
あれからどれくらい進んだか分からないが、急に風ではない音がして、立ち止まる。
今のは絶対に、誰かの足音。
「もうほっといてくれよビオロ!」
「そいつはとんだ人違いだぜ」
道の先に、男が現れる。
「誰だ、お前」
「自分から名乗るのが礼儀だろ?」
何なんだ、こいつは。
「…俺は、タケルだ」
「タケル、そうか」
「あんたは、誰だ」
「名乗る程の名なんて無いさ」
「そんなの卑怯だ」
「人間なんて皆そんなもんだろ、タケル?」
「…知らない。そんなことより、俺に何の用だ」
「まぁ、用って程の事でもないんだけどさ。ちょっと気になって後を追いかけて来たんだよ」
「見てたのか」
「だから気になったんだよ」
「そうか。もういいだろ。失せろよ」
「従わなかったら?」
「力づくで消す」
「やってみな」
俺は地面を蹴る。
カチャ
「…どうして」
俺は左肩を掴まれ、背中に銃口を突きつけられていた。
「僕もそこら辺の一般人よりかは壮絶な過去があってね。結構鍛えられてるんだぜ」
「あっそ。そりゃ凄いな」
「撃ったらどうなると思うかい、タケル?」
「穴は空くがすぐに元に戻る。俺もそこら辺の一般人とは違うんでね」
「そうか。お前が…」
「何だ?」
「いや別に。気にするな。そんなことよりタケル、僕と同じく壮絶な過去を秘めてそうなお前に聞くが、今まで大切な人を失った経験は?」
「大切な人?」
「ああ、家族でも、仲間でも、恋人でも何でもいい。とにかく、生まれてからお前が大切だと思った人は?」
母さん。サイトウさん。…ビオロ。
「いる」
「そんな人達を失ったことは?」
「…ある」
ふと二人の死に際を思い出す。
『エスペーロ、ありがとう』
『タケル、大好きよ、愛してるわ』
「くっ、そぉ…」
俺はつい、言葉が漏れた。
救うことの出来なかった大切な人達。
「…なら!」
男が銃を捨て両手で肩を掴まれる。
「お前は大切な人を失う辛さを知っているはずだ!なのにお前は、少女を置いて逃げた!いいのか!?お前はそれで!!」
俺の体を揺らしながら、必死に訴えてきているのが分かる。
「僕にはもう、誰もいない…」
そう言いながら俯き、また顔を上げた男と目が合う。
「だからこれは忠告だ。全てを失った罪人からの」
男が肩から手を離す。
「まぁ、後はお前がさっき言ってた通り、自分で決めろ。僕が出来るのはここまでだ」
「なんで、こんなことするんだよ」
「なんとなくだが、お前にもあの少女以外誰も味方はいない気がしてな。つい忠告したくなったんだ。僕の様にはならない為にも」
「あんたの様に?」
「ああ。人は全てを失うとどうなると思う?」
全てを失う?
「…俺なら、おかしくなりそうだな」
「そうだろ。その通りだよ」
「あんたは、おかしいのか?」
「どうだろうな。…少し立ち話が過ぎたな。お前はもう行け。行くべき所へ」
「あんたはこの後どうするんだ?」
「僕は、旅を続けるさ」
「旅?」
「そう、僕の願いが叶うまで終わることのない旅だ」
「そうか」
「早く行け。会えて良かったぞ、タケル」
「俺も会えて良かった。ありがとう…」
「しょうがねーなぁ。タケルにだけ教えてやる。僕の名前はジン。ジン・オーガストだ」
「なんだよ。ちゃんと名前あるのかよ。…ありがとうな、ジン」
「おう」
ジンが笑顔で拳を突き出してきた。俺はそれを真似する。
パンッ
お互いの拳がぶつかり合った。
「じゃあな」
「ああ」
――――――――――――――――――――
タケルはもと来た道を駆けて行った。
そう、それでいいんだ。
僕も歩き出す。僕の道を。
――――――――――――――――――――
「タケル、ごめんなさい。お願い、帰ってきて…」
戻ってみると、ビオロはさっきと同じ場所でうずくまって何かを呟いていた。
「…ビオロ」
「…!タケル!帰ってきてくれたのね!」
「いや、そうだけど、これはその、ビオロの為とかじゃなくて、俺が自分で決めたことであって…」
ビオロが走って抱きついてきた。
「ありがとう!本当にありがとう!」
「今までごめんね、ビオロ」
「私の方こそ悪かったわ。本当にごめんなさい」
「もういいよ。この事は忘れよう」
「ええ、そうね。でももう少し、このままでいさせて」
「うん」
俺は抱きしめている腕にさらに力を入れた。
――――――――――――――――――――
「そんな…どうして?」
その日の夕方、席に着いたのはたったの6人だった。
アレックス、サム、クレバー、ケニー、キーラ、エレナ、ベル。
…彼らは誰一人帰って来なかった。
「オーガスト、アレックスはどうした…?」
「私は悲鳴が聞こえて、助けに行こうとしたら、アレックスに止められ、そのまま別れて行動したんです。結局あの後会うことは出来なくて、戻ってないなんて、そんな…」
「オーガストさんは、悲鳴の方に行ったんですか?」
「ああ」
「そこには誰が…?」
「…血だらけになった、エレナとベルが、倒れていて、既に息は、なかった…」
「二人はどうしたんですか」
「ここに運ぶことも考えたが、なにせ私一人だし、引きずるのも可哀想だと思って、その場に埋めてきた」
全員が沈黙する。
「それと、現場近くにこれが」
そう言ってオーガストはテーブルの上に一本のナイフを置いた。そのナイフには乾いた血がベッタリと付着していた。
「すみません。気分が悪くなったのでトイレに行ってきます」
オーガストが席を立った。
「…もし犯人が一人ならば、皆はこれで殺されたんですかね」
ジェシーが口を開く。
「そうなるな」
「どうしてエレナとベルの傍に落ちてたんでしょうか」
「考えられるのは三つ。単に犯人が現場に忘れて来た可能性。エレナとベルのどちらかが犯人で、一方を殺した後自ら命を絶った可能性。そして、オーガストさんが嘘をついている可能性…」
ロジャースが言った。
そう、もし犯人が生きているならそれはこの6人の中に居ると考えるのが妥当である。そして一番怪しいのは…。
「私、今だから言うけど、オーガストさんが犯人だと思います」
「バカ、声がでかいぞ」
「理由は…?」
「大〜正〜解」
全員が入り口に目を向ける。そこには、鍬を持ったオーガストの姿が。
「テメェェェッッ!」
ロジャースが殴りかかる。同時に皆が立ち上がる。
「ロジャース!」
私は叫ぶ。
グサッ
「がっ、あ、あぁ…」
「きゃぁぁぁぁああ!!」
鍬がロジャースの胸を貫く。ロジャースが倒れる。
「タケル!」
私は叫んだ。
「任せて下さい」
すぐさまタケルが卓上のナイフを取る。
そして、ジェシーの首に突き刺す。
「えっ…」
隣にいたメリーが固まる。
ガタン
そしてタケルに首を締められながら、床に押さえつけられる。
「やめ、てっ…たす、け…て…」
それ以降メリーの声は聞こえなかった。
「後、一人」
オーガストが鍬を構えながら迫ってくる。
私は後ずさる。
「お前…ら…」
タケルもこちらに向かって来る。
『待って!俺が本物なんだ。信じてくれ!奴はドラゴイードルって言って、皆、そいつに騙されてるんだよッッッ!!!!』
ふと、もう一人のタケルの最後の訴えを思い出す。
「お前が、お前が偽物だったのか!」
「ふっ、ようやく気づいた?でも残念。あんたはもうお終いだ。この狂人に殺されるのさ」
「オーガスト、どうして…」
「私の、願いの為ですよ」
背中が壁に触れる。もうここまでか…。
「皆も、お前が…?」
「ええ、もちろん。そういう契約なので」
皆、済まない。私がもっと早く気づいていれば…。そしてタケル、お前の言葉を信じていれば…。
私はとある疑問が浮かんだ。
「じゃあ、司令は誰が…?」
「もちろん僕ですよ。本物のタケルが剣を手離した直後にあの男を掻っ捌いて、スラーヴォは消しました。皆さん驚くほどあっさり僕の嘘に騙されて面白かったですよ」
「そうか…」
…済まなかった。
この話はフィクションです。実在する個人、団体、出来事などとは一切関係ありません。




