EP15 残酷
「大丈夫ですか、ブラウンさん!?」
タケルを筆頭に、全員が私の近くに集まる。
「ああ、大丈夫だ。これで恐らく奴はここに来ることは無いだろう」
「やりましたね!ブラウンさん!」
「ああ!」
――――――――――――――――――――
その後、しばらくの間は各々が悠々自適の生活を送った。
そして事件は、唐突に起こった。
「おい、大丈夫かよ、おい」
「誰か、オーガストを呼んで来てくれ」
「僕行きます」
「頼んだ」
「おい、起きろ!フランシスコ!」
朝、フランシスコを起こしに来たら、床に這いつくばっていた。背中に大きな傷があり、そこから大量に出血していた。他にも小さな傷が至るところに。オーガストは呼んだものの、恐らくはもう……。
「…ご臨終です」
オーガストが言った。
「そんな、フランシスコさん…」
「どうして、こんな事に…」
「とりあえず、全員にこの事を共有する為に会議を開こう」
「はい」
そして、フランシスコの火葬後、彼を除いた18人が席に着いた。
「まずは彼の死因について、オーガスト、頼む」
「分かりました。えー、大変、言いにくいのですが…」
オーガストも言葉に詰まっていた。それはそうだ。
「背中の傷による失血死だと考えられます。そして、傷が背中にあることからも分かるように、…彼は誰かに殺された可能性があります。と言うより、殺されたと見て間違いないでしょう」
全員の顔がさらに引き攣つる。
「そんな、誰がそんなことを!」
「落ち着けサム。まず、昨日フランシスコと遅くまで一緒にいた人はいるか?」
誰も手を挙げない。
「別に挙げたから犯人になる訳じゃない。だから正直に挙げてくれ」
2人の手が挙がる。
「ありがとう。じゃあまずはジェームズ、フランシスコと昨日何をしていたか教えてくれ」
「ああ、俺達は農具の整備をしていた。それだけだ。俺は殺しちゃいない」
「分かった、ありがとう」
「実は彼の血のついた凶器の後始末だったりして」
「何だと!」
ガタン
ジェームズが勢いよく立ち上がる。
「そう言うお前が殺したんじゃないのか?自分が疑われない様に、人に罪を着せようとしてるんじゃないのか?」
「カーラ、やめろ。ジェームズも落ち着け。そして二人とも証拠もなしに人を疑うな」
「はいはい、悪かったわ、ジェームズ」
「本当に俺は殺ってないからな!」
ジェームズは荒々しく椅子に座る。
「分かってるよ。大丈夫。さて、次はロジャースだな。君達は何をしていた?」
「僕とフランシスコさんは収穫したイモの処理をしていましたよ」
フランシスコは農業の知識を豊富に持っていた。地球防衛軍時代には何の役にも立たないと嘆いていたが、彼のお陰で食糧難にならなかったと言っても過言ではない。
「そうか。ジェームズとどちらが先だか後だか分かるか?」
ジェームズとロジャースが顔を見合わせる。
「どうでしたっけ、ジェームズさん」
「さぁ、どうだったっけかな…。昨日は雲が出てて星が見えなかったしな。せめて一つでも時計があると助かるんだがな…」
「なるほど、事柄の順序は不明か」
「これでは犯人の特定には至らないですね」
「トリシャ、何か分かったか?」
トリシャはいつも冷静で、とても頼れる。
「無理ですよ。情報が少なすぎます」
「そうだよな…」
「でも、早く見つけないとですね。また被害者が出る前に」
全員がトリシャの事を見る。
「それは一体どういう事だ?」
誰かが恐る恐る尋ねる。
「あくまで可能性の内の一つだけど、犯人は目的があって殺した訳ではないかもしれないということですよ」
「と、言うと?」
「つまり、この閉塞された環境下で溜まった鬱憤を晴らすために行われた快楽的殺人の可能性があるということ。そうよね、先生?」
「ええ、犯人は心が酷く疲弊しているのかもしれません。殺害が目的なら彼の遺体に小さな傷をつける必要が無いとも考えられるんじゃないかと」
そう話すのは元心理学者のハンナ。地球防衛軍内ではカウンセラーとして働いていた。
「確かにそうかもですね。だとしたら危険だ。どうします、ブラウンさん?」
この中では最年少のタムに問われる。
「そうだ、どうするんだブラウン」
「この中で司令室にいたのはあなただけなんだから、しっかりしてよ?」
「ケニー、キーラ、分かってるよ。大丈夫」
とは言ったものの、どうしようか。
「とりあえずはいつも通りでいいんじゃないですか?不安なら僕が見回りますし、それに大声を出せばきっと誰かしらが気づきますよ」
「私はタケルに賛成」
「僕も」
「私も」
ベル、アレックス、メリーが口々に賛成していく。
「いや、しかし…」
「それとも何かいい案があるの?」
「…。分かった。そうしよう」
――ここでは全て多数決で決める。そう決めたのは私だ。
――――――――――――――――――――
そして夜が訪れる。人々に潜む狂気が蠢き出す夜が。
カーラが横たわっている。小さな寝息を立て、まるでこれから襲いかかる現実から、夢の中に逃げこんでいるかのように。
一つの影が姿を現す。両手を伸ばし、カーラの首を絞めつける。
「カハッ…アァァ」
――――――――――――――――――――
ここは、海の中…?まずい、息が、出来ない!ダメっ、全然、進まない!なんで、このままじゃ……。
――――――――――――――――――――
カーラが目を覚ます。
「ガハッ、ヒュー、ヒュー、アンタは…」
カーラは力を振り絞り、首に回っている手をどかそうとする。そして、その手を爪で引っ掻く。
「くっ…」
力が緩む。
「誰っか…助け、て…」
――――――――――――――――――――
「なるほど。タケルはうめき声が聞こえたから見に行くと、カーラが息をしていなくて、そこにジェームズが倒れていたと」
私はタケルから現場の状況を聞いていた。
「はい」
「はぁ…」
私はため息を付く。
「まぁしかし、これで全て繋がる訳だ。フランシスコを殺した疑いをかけられたジェームズが、口封じの為にカーラを殺したと」
「そうなりますね」
「では、彼に与える罰を決めようか」
「はい」
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朝が訪れ、16人が席に着いた。
もうこれ以上、減らないといいんだがな…。
「さて、さっそく本題に入ろう。ジェームズが、カーラを殺した。そして現在は拘束している。今から彼の処罰を決める」
「そんなの決まってるわ!奴は死罪よ!どうせフランシスコさんも奴に殺されたんでしょ?それでカーラはその口封じの為に…。そんな奴、死んで当然よ!」
ベルが声を荒げる。ベルはカーラと一番仲が良かった。
「そうだな…」
「ああ」
「あんな殺人鬼が、ここにいちゃだめだ」
そんなベルに賛同するものがほとんどだった。トリシャや先生は何も言わなかったが、反対している訳ではなさそうだった。彼女らなりの考えがあるのだろう。
「分かった。ジェームズを死罪とする。執行は…」
「僕が行います」
「ああ、頼んだぞ、タケル」
ここに来た時、私達はいくつかのルールを定めた。物事は話し合いで、かつ多数決で決めるというのもそれの一つだ。
そして、楽園の存亡を揺るがすような危険性のある人物への処罰の方法。それは、極力誰の手も汚さず、極力誰の心も煽らないような、画期的でこの場所に最適な方法。
それが、投下刑。
ジェームズが、タケルに肩を押さえられ、浮いていた。
彼の足元にあるのは、果ての無い奈落。
「ジェームズ、何故お前が今から死ぬのか、分かるな?」
私は少し離れたところから、話しかける。
「分かるわけねぇーだろぉぉ!!」
彼の声が轟く。
「いいか、何度も言わせんな!俺は誰も殺していない!昨晩は一切部屋から出ていない!本当だ!信じてくれ!!」
「ああ、信じているさ」
ドラゴイードルが、ジェームズに囁く。彼の他には誰にも聞こえないほど小さな声で。
「なっ!?じゃあ、皆にもそう言って…」
「だが、僕はあなたを落とす」
「なん、で…」
「………………………………………………」
少し無言の間が続き、不意にジェームズがニヤリと笑う。
「ははははははは、そいつは面白い!」
「ジェームズ!何がそんなに可笑しい!今からお前の刑を執行するんだぞ!」
「ああ、やってみろよ!俺は死なない!お前らは、本当に哀れだァァ!!」
「…タケル、殺れ」
タケルが頷く。そして、手を離す。ジェームズが落ちる。あの時の偽物のように。
――――――――――――――――――――
俺は、今、何をしているんだ?
落ちているのか、空を飛んでいるのか、分からない。
誰か、助けて。助けて、ビオロ。
そうだ、ビオロ。ビオロの元に帰るんだ。
目を覚ますと、傍にはビオロがいた。
「タケル!あぁ、良かった」
「ビオロ…」
ビオロと目が合う。
「ずっと心が読めなくなってて心配したのよ。それで、奴の正体は分かった?」
「う、うん。奴はドラゴイードルって言うんだ」
「そうなのね。皆が一緒じゃないってことは…」
「誰も、俺を信じてくれなかった」
「そうだったの。でも、また次があるわ。元気出して」
次?また、俺は戦わなきゃいけないのか?何の為に?どうせまた行ったって、皆は信じてくれないのに。
俺がいない方が、皆幸せに暮らせるのに…。
「…やだ」
俺は目を伏せる。
「え?今、何て?」
「もう戦いたくない」
「何言ってるのよ。ダメよ。皆の誤解を解いて、ドラゴイードルを倒さなきゃ!」
「皆は、俺がいない方がいいんだ。それが一番いいんだ。ドラゴイードルの目的は俺と戦うこと。戦わなければ、奴の目的を打ち砕けるんだ。だからもう、戦わない」
「……」
ビオロが黙り込んでいる。
「ふざけんじゃないわよ」
「え?」
ビオロに肩を掴まれ、無理やり上半身を起こされる。
「何甘ったれたこと言ってんのよ。ごちゃごちゃ屁理屈こねて、自分が傷つきたくないから逃げてるだけでしょ!あなたは戦わなきゃ、そして倒さなきゃいけないのよ、ドラゴイードルを!そして、仇を取るの!」
ビオロの顔が近い。でも俺は目を合わさない。合わせるのが、怖い。
「ほら、立って!」
今度は腕を掴まれ、立たされそうになる。
「もうやめてくれ!」
俺はその手を払い除ける。
「きゃ」
勢い余って、ビオロが倒れ込む。
「なんで、なんでビオロの言うことに従わなきゃいけないんだよ!俺はいつもそうだ。なんで俺は、皆の言うことに従わなきゃいけないんだよ!俺のことなんか、何も考えてないくせに!!」
俺は立ち上がる。
「自分のことは…自分で決める」
「タケル、待って!」
そうして、タケルはビオロの元から走り去って行った。
ビオロは立ち上がることもできず、ただタケルの後ろ姿を見ていることしかできなかった。
その様子を木に隠れて見つめる影が一つある事には、誰も気づいていなかった。
この話はフィクションです。実在する個人、団体、出来事などとは一切関係ありません。




