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【完結】アカシックレコード  作者: 白黒羊
第参章 怒濤狂瀾篇

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EP13 飛翔

「あれは、何だ?」


私達はタケルに手を引かれ、空を飛んでいた。そして目の前に、空に浮かぶ孤島が現れた。


私達はそこに降り立つ。


「ここは(いにしえ)の戦争で沈んだ、空中都市レムリアの中のヱデンという場所です」

「レムリアの、ヱデン?」

オーガストが聞き返す。

「はい」

タケルが歩き出す。私達も後に続く。

「僕は創造主との戦いの後、彼らの手先である僕の偽物に月に囚われ、そこで長い間、様々な過去の記憶を目にしてきました」

「過去の記憶…」

「そうです、レムリアが滅ぶ瞬間も見ました。かつて人類の祖は、とある高等生物の集団によって創られ、このヱデンで暮らしていました」

「まさかその高等生物が、創造主?」

クレバーが聞く。

「そういうことです」

「何故その創造主は私達を滅ぼそうと…?」

私にはそれが疑問でしかたなかった。

創造主さえ襲ってこなければ、人類は今も平和に暮らせていたはずなのに…!

「それは僕にも分かりません」

「そうか…」

「でも一つわかるのは、ヱデンだけは安全だということです」

タケルがはっきりと言い切る。

「ヱデンが?」

「はい、ヱデンを覆う人間にだけ無害なバリア。それがあったから私達の祖先は戦争でも生き残ることができたのです」

「それは既に存在しているのか?」

フランシスコが尋ねる。

「はい、目に見えないだけで今もこの浮き島を守ってくれています」

「ならこのヱデンが世界で一番安全という訳か」

「はい」

「だからタケルは私達をここに?」

「そうです。ここにいる18人を守るために、連れてきました」

「なるほど。そういうことならタケルに従うのが最善の策か。今ここにヱデンから離れたい者は?」

私は全員を見回す。…皆同じ心持ちのようだ。

「決まりだな。だがしかし、これからどうやって暮らすんだ?」

周囲には家という程の物もない。あるのは辺り一面に広がる草原と一本の大きな木。

「少し離れたところに先人の居住地跡があります。そこを利用しましょう」

「食料は?」

ジェシーが聞く。

「恐らくまだ生きている種が保存してあるはずです。それを育てて食べるしかありません。自然繁殖したものもあると思うので飢える心配は無いと思います」

「そう、よかったわ」


その後私達一行はタケルに導かれるまま歩き続けた。

そして、タケルの言葉通り、そこには木でできた簡素な建物が散見していた。

さらに食料となる果実のなる木や、巨大な畑。地下からは水が湧き出て、簡素な風呂を造ったり、汲取式ではあるがトイレを確保することもできた。

ヱデンでの生活は、とても快適と言えた。ヱデンは私達にとって楽園であった。

もう一生離れるつもりは無い。

――――――――――――――――――――

顔を見せたと思った太陽はまたしても厚い雲に隠れ、その雲は大きな雨粒をタケルとビオロに打ちつけた。

光は遮断され、タケルはその場に崩れ落ちていた。

ビオロはタケルに掛ける言葉を知らなかった。

そこにはただ、長い沈黙だけが流れた。

「…ビオロ、さっきは俺が本物だって言ってくれてありがとう」

雨の音を掻き分け、力のこもっていないタケルの声がビオロの耳に響く。

「…!そんなの当然じゃない。タケルはタケルよ。私はあなたが本物だって信じてるわ」

「うん。ありがとう…」

ビオロはタケルの正面に立ち、顔の高さを合わせて肩を掴む。

「あなたはマイケル司令を殺してない。あなたが斬ったのはトクォーノよ」

タケルは目を逸らして言う。

「で、でも、俺の剣には血が、赤い血がベッタリとついてる」

タケルはそれを指差す。

多少の血は雨に流され落ちていたが、それでもまだ刀身は赤かった。

「…きっと司令を斬ったのはあの偽物よ」

「あいつが?」

タケルが顔を上げる。

「ええ。タケルはトクォーノを斬った後、剣をどうした?」

「確か、血で手が滑って投げ捨てちゃったんだ。それで何も持たないでビオロの元に来た」

「つまりタケルが手を離した後に何者かが剣を拾って司令を殺した可能性がある」

「じゃあやっぱり俺はやってないのか…?」

「タケルは司令を殺したの?」

タケルは首を何度も左右に振る。

「そうでしょ。だから安心して。タケルは何も悪くないわ」

ビオロがタケルを抱きしめる。

「ちょ、やめてよ、ビオロ」

ビオロはピクリともしない。

「タケルは何も悪くないわ」

さっきの言葉を繰り返す。

「分かってるよ。俺は悪くない」

ビオロはタケルの体を離す。

「うん」

そして笑顔で頷いた。

二人は近くで倒れているマイケルを見る。

「せめて、埋めてあげましょう」

「そうだね」


俺とビオロは手を合わせ黙祷する。

「さて、行きましょうか」

ビオロが顔を上げて言う。

「うん」

俺は頷く。

「ちゃんと歩ける?」

「まだちょっと無理かも」

「分かった」

ビオロが体を寄せ、俺の肩に手を回す。

俺もビオロの肩に手を回す。

「ごめんね、ビオロ」

「気にしないでいいわ」

俺はさっきの戦いで身体中がボロボロになった。一人でまともに歩くことすらできない。

「どこに行くの?」

「とりあえず、雨の凌げるところね。…洞窟みたいなのがあればいいけれど」

俺達は歩き出した。

そして幸運なことに、土を盛ったような小さな丘の斜面の一部を切り取ったような窪みを見つけた。

「意外にも中が広くてラッキーね」

「うん。でも、暗いしちょっと寒いね」

「それは大変!早く火を焚かなきゃ」

ビオロは走って小枝を集めて来た。

「これくらいあれば大丈夫そうね」

そう言って一本の枝を握りしめると、それは急に燃えだした。

「えっ、何をしたのビオロ?」

「…?ただ燃やしただけよ」

そして集めてきた小枝たちに引火させた。火が大きくなった。

「温かい。ありがとうビオロ」

「どういたしまして」

ビオロがニッコリと微笑む。

「それにしても、何でビオロは火をつけられたの?」

「何でってそりゃ私が……いえ、なんでもないわ」

笑顔の消えたビオロがうつむく。

「それにしても、タケルが二人って一体何が起きているのよ」

話題が変わる。今のは触れてはいけないことだったのだろうか。

「確かに。俺もわけが分からないよ。あいつの目的は何なんだ」

「もしかして、本物のタケルに成り代わることとか?」

「でも、成り代わったところであいつにメリットはない気がするんだけどな」

「そうよね。だから、とりあえずは皆の誤解を解かなきゃね」

「うん。身体の調子が戻ったら、すぐに行くよ」

「その時は私も…」

「いや、ビオロはここに残ってくれ」

ビオロの言葉遮って言う。

「どうして?」

「本当はビオロも一緒に来て欲しい。その方が心強い。でも、助けに行ったら、恐らくあいつとの戦いは避けられない。ビオロは、もちろん皆もだけど、それ以上に傷ついて欲しくない。それにこれは俺が一人で解決しなくちゃいけない事のような気がするんだ」

俺はビオロをまっすぐ見つめたまま言う。

「分かったわ。タケルがそこまで言うなら、ここで待ってるわ」

「ありがとう、ビオロ」

「ええ、さあそろそろ寝ましょうか」

「そうだね」

俺達は横になった。

――――――――――――――――――――

それから何度か太陽と月が交互に昇って沈んだ。まるで追いかけ合っているかのように。

タケルとビオロは小型の動物を狩って飢えを凌いだ。

そうして日に日にタケルの身体は回復し、遂に作戦決行の日になった。

その日は朝から雲一つ無く、よく晴れていた。

「大丈夫、タケルならちゃんとやれるわ」

「ありがとう。絶対に全員を無事に連れ帰るから」

「ええ、待ってるわ」

「じゃあ、行ってくる」

「ちょっと待って、最後に一つ」

向かい合っていたビオロがタケルに接近し、タケルの頬に自らの唇を優しく当てた。

そして元の位置に戻って言う。

「いってらっしゃい、タケル」

「うん、行ってきます」

タケルが翼を広げ、地面を強く蹴る。

タケルは大空へと飛び立った。

その姿をビオロは長いこと見つめていた。

「せめてあなただけでも、無事に帰ってきてね…」

ビオロはポツリと呟いた。ふと、青い空が霞んだ。

この話はフィクションです。実在する個人、団体、出来事などとは一切関係ありません。

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