EP12 命を奪う者
俺は、大量のスラーヴォに囲まれていた。
「撃ち方始め!」
その一言を皮切りに、俺は一斉攻撃を受ける。
ダダダダダダダダダダ
円形になって俺を囲むスラーヴォに阻まれ、俺は逃げることができない。
頭を守る形でうずくまる。
ダダダダダダダダダダ
弾の早さに、回復が追いつかなくなってくる。翼に空いた穴が塞がらないままになっている。
どうする、どうする、このままじゃ、死んでしまうかもしれない!
…飛んで逃げるのは無理だし、突っ込んで行ってもトクォーノと戦った時みたいにまたやられるかもしれない。
そして俺は、だんだんと体が熱くなっていることに気づく。
なんだ、この感覚は。暑い。クラクラする。
ダダダダダダダダダダ
ダメだ、もう…
タケルは気を失う。そして、痙攣が始まる。
ドカーーーーン!!
タケルは爆発した。近くにいたスラーヴォ達は吹き飛ぶ。
俺は目を覚ました。スラーヴォの陣形が崩れている。近くにいた奴らが倒れている。
…何があったんだ?
「怯むな!撃てッッ!」
ダダダダダダダダダダ
俺は走ってスラーヴォの落とした機関銃を拾う。
両手に一梃ずつ持ち、スラーヴォのように引き金に指を添える。
ダダダダッ
「わぁっ」
指を押し込むと、地面に弾がめり込んだ。
よし、これなら遠距離攻撃ができるぞ。
俺は機関銃の先をスラーヴォに向ける。そして指を押し込む。
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ
右手で前を、左手で後ろを撃つ。撃ちながらその場を回る。そうして全方位のスラーヴォに攻撃する。
が、スラーヴォの鎧は厚かった。撃っても撃っても中々体にダメージを与えられない。
ダダダダダダダダダダ
もちろんスラーヴォにも撃ち返される。
ダダダダダダダ…カチカチカチッ
…!?弾が、出なくなった!まずい。どうする。いや、やるしかない。
俺は地面を蹴る。目の前のスラーヴォ目掛け突っ込む。何故だか時間がゆっくり流れるように感じる。
考えろ、考えろ。どうすれば前みたいな強い力が出せるんだ!
『怒りだ』
俺の中で声が響く。あまり聞き慣れないが、初めてではない声が。
「え?」
『怒りは、パワーの源だ。思い出せ。木に潰された母親を、身代わりとなって死んだボルケーノを、自分の無力さ故に惨殺されたサイトウ達のことを』
怒り…。そうか、怒りだ。
俺は言われた通り、死んでいった人達のことを考えた。
なんで死ななければならなかった。何をしたって言うんだ。何故争う。…許さない。俺が終わらせる。死をもって、償わせる!
「ウオオオォォォォッッッッ!!」
そう決心した途端、翼の穴が閉じ、横に広がる。そして、勢いよく空気を押す。
――――――――――――――――――――
「…!タケル!やめて!!」
カプセル内に、ビオロの声が響いていた。
――――――――――――――――――――
俺は右腕に力を集中させ、銃の先でスラーヴォの体を突く。そのまま中にめり込ませ、貫通させる。
ズシャッ
青い血が空を舞う。
俺は死んだスラーヴォの体を投げ飛ばす。
「う、撃てッッ!!」
ダダダダダダダダダダ
俺は腹の底から沸々と上がってくる熱いものを、スラーヴォ目掛け吐き出す。
それは、炎であった。
「ぎゃぁっっ」
冷たい月や宇宙空間での活動を目的として設計されたスラーヴォの鎧は、引火するという非常事態を考慮していなかった為、燃えやすいという欠点を兼ね備えていた。
俺は辺り一面に炎を撒き散らした。
俺を中心とした円状に、次々とスラーヴォが燃えていく。
俺は燃えるスラーヴォ達を無視し、ジャンプする。
真っ黒なピラミッドの壁がひらけ、トクォーノと目が合う。
タケルはピラミッドの最上部へ降り立つ。だが、そこはさっきとは違って天頂の四角錐が切り取られ、黒い正方形の平らな床が広がっているだけであった。
「よくあの数の兵士を攻略できたな、ドラゴニュート。褒めてやる」
トクォーノが口を開く。俺はすかさず反論する。
「うるさい、そんなものはいらない!みんなをどこにやった!」
「みんな?あぁ、あの奴隷達か。あいつらには我々の月にある施設に送った。ピラミッドの先端ごとな」
「どうしてそんなことするんだ!」
「どうして?そんなことは決まっている!憎き創造主どもに反旗を翻す為だ!」
「その創造主って、誰のことなんだよ」
「知らないのか?私たちスラーヴォを創造し、奴隷のように扱ってきた存在だ。この星にいたレムリアンも、全て創造主によって創られたのだ」
「じゃ、じゃあなんで、そんな事の為に人間が殺されなきゃいけなかったんだよ!」
「今更何を言う。お前らが我々の故郷を奪ったくせに。それにレムリアンの監視の為に月にまで追いやられたのだぞ!」
「奪われたら、奪い返すって訳か…?」
「当然だろう!この地球は私たちスラーヴォの物!それを奪った奴らを皆殺しにして何が悪い!」
「いいわけないだろ!お前らの勝手のせいで!一体何人死んだと思ってるんだ!」
「何を言う。それは貴様も同じ事だろう!」
「なっ!」
「女を殺された腹いせに、何人の同胞を殺した?ここまで来るのに、お前は私の仲間を殺しているんだぞ!」
「それは…」
「ドラゴニュート、全て水に流そう。こうなる事は分かっていた」
「ど、どういうことだよ」
「私たちが送ったあの預言石。あれは、創造主の地球侵略を聞きつけた私たちと、地球の支配者ポステ王に永遠に地球を支配できる力を与えるという条件で、共同で行ったものだ。"ドラゴニュート"が必要。そう書けば、是が非でもレムリアン達はドラゴニュートを探すだろう。…私たちの創造主への反逆の切り札となるドラゴニュートをな。そして、思惑通りドラゴニュートは見つかり、創造主の小艦隊を打ちのめした。その後はドラゴニュートと協力して創造主を倒し、ポステを殺して私たちの全てを取り戻す…はずだった。ドラゴニュート、貴様のせいで全てが崩れた。だが、今ならまだ間に合う。月に送ったレムリアンに対創造主用の装備を造らせ、私とお前とで創造主を倒そう。そして、共に平和な世界を作ろうではないか!」
平和な世界…。それは俺も望んでいる。でもこいつらはみんな殺した。許さない。
平和な世界を作るのは、俺一人で十分だ。
「…断る」
「はァ?今なんと言った?」
「断るって言ったんだ!俺はお前も殺す!」
「そうか。つくづく愚かな奴め。これが最後のチャンスだったのにな」
トクォーノが向かってくる。俺は受けの姿勢を取る。
…その時。
バーーーーーーン!!!
下から、木の枝のような物が突き出てきた。
トクォーノが枝を前にして立ち止まる。
「まさか、これは」
バキバキバキバキ
床に亀裂が走る。
「アトラスが、崩壊する」
木の枝は、海の中へと戻っていく。
反重力装置が突き破られたアトラスが、地球の重力により落下する。
バランスを崩したトクォーノも落ちていく。
俺はこの隙に、月へ向かってジャンプする。
そこには、切り離された四角錐が転がっていた。
俺は中へ入る。
「みんな、無事か?大丈夫か?」
俺はカプセルを一つずつ壊していく。中からみんな出てくる。どうやら無事なようだ。
「タケル!」
俺のもとに飛び込んで来た人が一人。
「お待たせ、ビオロ」
「無事で…良かった」
「ありがとう」
お互いに目を合わせて笑い合う。
「これがタケル…なのか?」
「お久しぶりです。クロウリーさん」
「すごい、凄まじい体の変化だ。身長が今までの3倍以上。羽や尾もあるぞ」
「ここでゆっくりもしてられません。俺はこの四角錐を地球まで運びます。しっかり掴まってて下さいね」
俺はビオロから離れる。
「タケル、気を付けてね」
「うん、ありがとう」
俺は外に出る。
四角錐の、月の大地に埋まった先端近くに両手をねじこむ。
「うおおおおおおおおおおお」
俺は四角錐を持ち上げ、地球目掛けて放り投げる。
すぐさま、俺も地球に戻る。
――――――――――――――――――――
タケルが厚い雲を突き破る。雲の下では、雪が降っていた。
地面に衝突するギリギリで方向転換し、迫りくる巨大な底面を両手で受け止める。
「ぐああああああぁぁぁぁ」
しまった、力をかけすぎた。凄い勢いで俺は押されそうになる。これが地面にぶつかったら、全生命が絶えかねない。なんとか、止めなければ…でも、もう…。
「アアアアアァァァァァ!!!!!」
タケルの虹彩が、真っ赤に染まる。
胸の横から、一本ずつ新たな腕が生える。その腕も、四角錐の底面を押さえる。
翼が、さらに大きくなる。
「ガアアアアァァァァァッッッ!!!!!!」
それでもタケルは、少しずつ地面に近づいてく。
グシャッ!!
「…!タケルッッ!!!」
赤い血が飛び散る。ジャイルモードのピラミッドが、止まる。
「た、助かったのか?」
「みんな逃げて!!」
「「「え?」」」
「早く!!」
ビオロに急かされ、全員がピラミッドから離れる。
「伏せて!!」
ドーーーーーーーーーン!!!!!!
凄まじい轟音とともに、大爆発が起こる。その威力は、ピラミッドを地球外へ吹き飛ばすのに十分であった。
土煙が立ち込める。
「一体、何が起きたんだ?」
マイケルが立ち上がって様子を窺う。
土煙の中で、影が蠢く。
「なんだ?」
「ゴアアァァァ!!」
影がマイケル目掛け、襲い掛かる。
「危ない!」
ビオロがマイケルを押す。代わりにビオロが吹っ飛ぶ。
「いてて」
仰向けに倒れたビオロを見下すように、影が仁王立ちする。
「ガアアァァ、オオァァァ!!!」
影がビオロの肩を掴み、顔の目の前で吠える。
「タケ…ル、落ち着いて…」
「ウガアアァッッ!!!」
シャッ
「きゃあっ!」
タケルがビオロの両肩を引っ掻く。
ビオロの両手がタケルの頬に触れる。
「タケル、負けちゃダメ」
「ガッ、アッ、ウガァッ」
タケルが頭を抱える。
「ビ、オロッ!」
ポスッ
タケルがビオロに覆いかぶさるように倒れる。
タケルが、みるみる人間の姿へと戻っていく。
ビオロの腕がタケルの背中へと回る。
「よく頑張ったね、タケル」
――――――――――――――――――――
俺は目を開ける。真横にビオロの顔が、背中に腕があってびっくりした。
「ビオロ…?」
声をかけると、腕がほどける。
俺は起き上がる。ビオロと目が合う。俺はビオロのお腹の上に座っているのに気付いた。
「あっ、ごめん。重いよね。すぐどくよ」
動こうとすると、両手でおさえらる。
「このままで大丈夫だよ。タケルが今動く方がダメなんだから」
「う、うん、そっか。ごめんね」
「気にしないでいいよ」
俺はビオロの肩が真っ赤になっていることに気づいた。
「あれ、ビオロ、血が出てる」
「ああこれは、平気よ。大丈夫」
「もしかして、俺が?」
「そ、そんなことないよ!」
「ごめん、ごめんビオロ!」
俺は腕を引っ掻く。傷から血が垂れる。
「この血を飲んで。そうすればきっと治るから」
腕をビオロの口元に持っていく。
ポタポタと血が口の中へと落ちていく。
「ありがとう、タケル」
ビオロの血は止まり、みるみる傷が閉じていく。
「よかった。ごめんね、ビオロ」
「さっきから言ってるでしょ。大丈夫よ。それにもう完全に治ったしね」
「うん」
ビオロが周囲を見る。
「雪が、降ってるわね」
「ゆき?」
「ええ、この今降ってる白い物。これが雪」
「そっか。これが雪か」
いつか、本で読んだ気がする。
「なんだか、綺麗だね」
「そうね」
地面にも真っ白な雪が積もっていた。
「…オロ!ビオロ!どこだ!大丈夫か!」
暗くてよく見えないが、背後からマイケル司令達の声がする。
「無事でーす。ここにいまーす」
ビオロが声を返す。
ザクッ
「ここにいたのか、ドラゴニュート」
俺は拳を握りしめる。
立ち上がり、振り返る。
そこには、鎧を脱いだトクォーノがいた。
「ビオロ、下がってて」
ビオロも立ち上がり、後ずさる。
「トクォーノ、まだ生きてたのか」
「ここで、死ねる訳ないだろう。今こそ、お前を倒す時だ」
俺も少しずつ後ずさる。おそらく、もう一度覚醒する力は残っていない。
「どうした、ドラゴニュート。何故逃げようとするんだ。正々堂々戦え!」
「くっ」
俺は歯を食いしばる。すると、
「タケル!」
ビオロの声がして、振り返る。
ビオロが何かを取り出し、俺に投げる。
俺はそれを受け取る。
それは、刃のない剣の柄だった。
触れた瞬間、体に電気が走ったような感覚になる。
「ビオロ、ありがとう」
俺はトクォーノに向き直る。柄の先をトクォーノに向けると、折れていた刃が伸びる。
「ほう」
俺は体勢を低くし、刃を背後に向けて、構える。
ビュービュー
タケルとトクォーノの間に、吹雪が吹き荒れる。視界が真っ暗になる。
だが、タケルは強く地面を蹴る。
スバッ
体が真っ二つに割れる。
勢い余ってタケルの手から剣が抜ける。
だがそんなことには脇目も振らず、タケルはビオロの元へと戻る。
「大丈夫?」
「ええ、なんともないわ。それより、…倒したの?」
「うん。確かに斬った感覚はあったよ」
「そう。じゃあ、これで終わったのね」
――――――――――――――――――――
不意に、雪が止む。雲が高速で流れて行き、太陽が顔を出す。
「…おい、これは…?」
「きゃあっ」
「ダメだ、目を伏せろ」
地球防衛軍の人たちの声がする。
「タケル、これは、お前がやったのか?」
え?
「なんで、なんでこんな事しんだ!」
俺は振り返る。そして、体が凍りつく。
辺り一面の雪が、赤い血で染まっている。
そこに立っているのは誰かの下半身。
転がっているのは誰かの…いや、マイケル司令の上半身であった。
「この裏切り者が!」
「違う!俺じゃない!俺はやってない!」
ザクッ
みんなの背後に、何者かが降り立つ。
「いいや、あいつだ!」
みんなが一斉に振り返る。
「え、ど、どうなってるんだ?」
みんな困惑している。
俺はそいつと睨み合う。
「タケルが、2人…?」
「みんな騙されてないで!僕が本物のタケルだ!創造主の艦隊を倒した後、あいつに閉じ込められていたんだ!」
俺は指さされる。
「な、何を言ってんだよ!タケルは俺に決まってるだろ!お前は誰なんだよ!」
「嘘つくな!証拠ならあるぞ!ほら、あれを見て!」
もう一人の俺が、今度は落ちている剣を指さす。
その剣の刃には、赤い血がべっとりと付いていた。
「あの偽物が、この剣で司令を殺したんだ!これが決定的証拠だ!」
「違う!俺じゃない!俺は殺してない!」
「…どっちが正しいか、猿でも分かるな」
「ですね」
「おい偽物!お前がマイケル司令を殺したんだろ!白状しろ!」
ブラウンさんも俺に指先を向ける。
「違う!このタケルは本物よ!そして司令を殺したりなんかしてないわ!する訳ないじゃないの!」
俺の横でビオロが抗議してくれる。
「…ビオロ。お前は騙されているぞ」
「いいえ!騙されてなんか無いわ!騙されてるのはあなた達よ!」
「偽物との決着はいずれつける。それより今は逃げよう。みんな手を繋いで」
地球防衛軍のみんなが、偽物を中心に一列に手を繋いで並ぶ。
「待ってくれ!騙されないで!そいつは偽物なんだ!!」
俺はありったけの大声で叫んだ。
「さあ、行こう」
もう一人のタケルが羽を広げて飛び立つ。
そして、太平洋上空へと消えていった。
それを二人は、ただ茫然と見届ける事しか出来なかった…。
第弐章 奪還奪取篇 完
この話はフィクションです。実在する個人、団体、出来事などとは一切関係ありません。