EP9 強襲
スラーヴォ三幹部の一人、ルーノは、衛星・ブラックナイトに降り立つ。
そして内部から、大西洋へと通信を送る。
「今こそ、長きに亘った封印を解く時。アトラス、起動!」
その言葉と同時に、南大西洋の海から、巨大な円形の大陸、アトラスが姿を現す。
アトラスは、大西洋上に静止した
月から大勢の艦隊が、アトラスへと還って行く。
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『トクォーノ将軍、総員の帰還が完了致しました』
アトラスの中心に聳そびえ立つピラミッドの頂上の部屋から、雲を見下ろす一人の男がいた。
「分かった。ティラーノ将軍、レムリアン殲滅作戦の準備へと取り掛かれ」
『了解』
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私はその場に茫然としていた。
何時間経っただろうか。突然、強烈な揺れに襲われた。立っていることが出来なくなり、その場にしゃがみ込んだ。上着を脱ぎ、頭を守る。
そしてふと、我に返った。
タケルの事を誰に報告すべきか迷ったが、とりあえずマイケル司令にすることにした。
「マイケル…司令」
『サイトウ、今、揺れたか?』
「はい、かなり」
『そっちは大丈夫か?』
「司令、そんなことよりも、タケルが…、誘拐されました」
電話越しのマイケル司令も焦っているのが分かる。
『な、なんだって!?一体誰に?』
「分かりません、恐らくは、宇宙人かと」
『宇宙人…?それはつまり、新たな敵というわけか?』
「そうかも、しれません」
『わ、分かった。すぐに本部に戻って来てくれ。人は集めておく』
「了解しました」
サイトウは車へと急ぐ。そこには上着が脱いだまま置き忘れられていた。
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空中要塞アトラスから、大勢のスラーヴォ兵を乗せた輸送船、トランスポーターが世界各地へと散らばっていく。
そして地上に降り立った兵士たちは、逃げ惑う人間を一人、また一人と殺していった。
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私は本部に到着した。
「マイケル司令!」
私は指令室に入るなり、叫んだ。
「おお、サイトウ。大変な事になった」
「どういうことですか?」
ブラウンさんが答える。
「数時間前の地震、ただの地震ではないんです。これを見て下さい」
私は指さされたモニターを凝視する。
そこには、円形の何かが、空に浮いていた。
「これは、現在の南大西洋の映像です。見ての通り、巨大な円盤型の島が、海の中から出てきて、海上で静止したんです!」
「この、島が出てきた衝撃が、地震の原因…?」
「そうだと、思われます」
「サイトウ、さっき言っていたよな、タケルが、宇宙人と思われる存在に誘拐されたって」
「まさか、これもそいつらの仕業?」
「可能性は十分にある。少し前にペンタゴンに協力を要請し、偵察機を3機出してもらった」
「そう、ですか…」
私は俯いた。
…冗談じゃない。たかが3機?かつては超大国と謳われ、世界最強の軍事力を持っていたアメリカでさえも、タケルの命運、世界の命運がかかっているというのに、3機しか偵察機を出さないのか。
理由は分かっている。単純なことだ。人がいない。5年前の集団自決と、食料不足による餓死者の増加。だから龍牙城遺跡の近くの集落にだって、今は人一人いなかった。
それに、ポステ王の死も影響していると思う。王が亡くなった後から、国連は力を失った。そして各国も国力を失っていった。
それに加えて宇宙人の強襲。人類は、繁栄と滅亡の佳境にいると言っていい。
「偵察機パイロットからの通信です。映像をモニターに映します」
南大西洋の映像が途切れ、画面が三分割される。
「これは…なんだ?」
『おそらく、敵の基地かと』
そこには、上から見た島の姿が映っていた。巨大なピラミッドを中心に、十字の通路のようなものが敷かれ、4つのエリアのようなものを仕切っていた。各エリアから、大量の船が、地球に向かって飛び立っている。
『くそ、まずい』
パイロットの悲鳴が聞こえる。基地からレーザーのようなものが放たれているのが見えた。
『ダメだ、やられたッッ』
いつしか、モニターには何も映らなくなった。
「さっき映ってた船、何するつもりですかね」
「よし、繋げられるだけ世界中の地球防衛軍職員に通信を繋ぐんだ」
「了解」
「フランスのルイーズと繋がりました」
『今、3mほどの大きさの巨人が、次々に建物を壊して、人間を殺していっています。目的は不明で…グシャッ』
その後ルイーズさんからの通信は途絶えた。
「こうなったらFDMを起動する」
「了解。FDM起動」
FDMとは、この本部が脅威と認識した対象からの攻撃に備えるため、全ての入り口を遮断し、完全に外界との繋がりを断つことである。ドアも窓も、外に繋がる物には全てシャッターが下ろされる。
だからもしかしたら、この本部の中にいる20人が最後の人間になる可能性もあるわけだ。そんなこと、あって欲しくはないが。
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「おやおやここは、かつて創造主の艦隊を打ち負かした英雄、地球防衛軍の本部ではないか。よし、この中のレムリアンは、生かしたまま捕らえろ。利用価値は十分にある」
「了解。しかし、スキャンの結果、この施設は何重もの扉に阻まれています」
「そうか、流石だ。なかなか賢い。情報の伝達も早いといったところか」
「いかがいたしましょう、ティラーノ将軍」
「よし、レーザーを使う。用意しろ」
「了解」
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「何やら外が騒がしいような…」
FDMの欠点は、外界との接続を完全に断つことで、外の状況が分からないことである。カメラや、コンピューターなども使えない。第三次世界大戦時の電磁パルス兵器の対策の結果である。
「もし、扉が突破されたら…?」
「FDMはそう簡単には破られない。今はそれを信じよう」
ズドーン
すると突然、物凄い爆音が鳴り響く。
「なんだ!?」
「まさか、破られたのか?」
そして、通訳機でも訳せない、謎の言語が聞こえる。
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「総員、侵入開始!」
「了解」
ああ、そういえばそうだった。今のレムリアンは私たちの言語が使えないのか。勝手に派生させたせいで。
私はポステとの会話に使った翻訳機を口に装着する。
「ティラーノ将軍、見つけました。こちらです」
「分かった。今行く」
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ルイーズさんの言葉にもあった、3mほどの大きさの巨人に私たちは捕まった。
謎の光線に撃たれ、体が硬直し、縄のようなもので固く縛られた。
「やあやあ、地球防衛軍の皆さん」
そう言って登場したのは、他の奴らとは装備の違う、リーダー格のような奴。
「私たちが誰だか気になるだろう。もちろん教えてやる。だが何と言えばいいだろうか…?月に住む、預言石を落とした者?地球の前の支配者?まぁ、とりあえず、そんなところだ」
「あ、あなた達が、預言石を落とした?」
マイケル司令が訊く。
「そうだ。さて、大人しくついてきてもらおうか」
私たちは、一人ずつカプセルに入れられた。
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俺は突如聞こえた声の主に問う。
「なんなんだよ、スラーヴォって」
「教えてやろう。スラーヴォは、人類が地球の覇者になる前に、地球を支配していた、言ってみれば宇宙人だ。ある争いに敗れ、地球の衛星、月に逃げた。そこで密かに地球の奪還する計画を練っていた。そしてここが、月の奥の深くの地下牢」
「それで俺は、なんで地下牢なんかに入れられているんだ?」
「それは思い出せばわかるんじゃないか?」
「え?」
俺は、今までのことを思い出す。
そうだ、サイトウさんと一緒にいる時に誘拐されて、それで確か気絶させられて…。
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俺は目を覚ますと、椅子に座らされていた。目の前にはテーブルがある。そのテーブルを挟んだ向かい側には、三人の巨人…さっき船の中にいた三人が座っていた。
「やあ、目が覚めたようだねドラゴニュート」
一番右の奴が喋りだす。
「まずは自己紹介からかな?私はティラーノ。そして君の正面にいるのが、トクォーノ将軍。その隣がルーノ将軍だ。私たちは君と良好な関係を築きたいと思っている。よろしくね」
俺は叫んだ。
「ふざけるな!誘拐なんかしたくせに、何が良好な関係だ!」
「まあ、怒るのも無理はない。だが、ああでもしないと大人しくついてきて来てくれないだろうと思ってね」
左端の、ルーノとかいう奴が言う。そして、真ん中のトクォーノが口を開く。
「君が前に倒した"創造主"だが、残念ながらあれで全てではない。おそらくまた襲ってくるだろう。それもこの前の何倍もの勢力でね」
「そんな…」
「そう、そこで提案だ。私たちも"創造主"と敵対しているような種族だ。だから手を組まないか?そして共に"創造主"を撃退する。双方にとって素晴らしい提案だと思うのだが、どうだろう?」
確かに、またあいつらが襲ってくるならば、味方は多い方がいいだろう。でも、こんなことを勝手に決めて大丈夫なのか?
それに、こいつらは信用できるのか?
「どうやらまだ私たちを信用できていない様だね」
トクォーノが言う。
「そりゃそうだろ。俺は今、拉致されているようなもんだしな」
「そうか、なら私たちが君らに"創造主"の到来を伝えたと言ったらどうする?」
「どういうことだ」
「預言石、あれを地球に落としたのは私たちだ。私たちのおかげで今の地球があると言っても過言ではないだろうか?」
「それは、本当なのか?」
「ああ、本当さ。こんな大切な機会に嘘をつくはずがないだろう」
ならば、本気で地球を守る気があるのだろうか。だったら信じてみてもいいのか…?
「どうだ、ドラゴニュート。手を組む気になったか?」
「…わかった。これも地球を守る為なら、協力する」
「ありがたい!これで我々も百人力だ。では早速次のステップに移ろう。私についてきてくれ、ドラゴニュート」
トクォーノがそう言うと、三人は立ち上がって歩き出した。俺もそれに続く。
扉を開けて部屋を出て、廊下を歩き、三人は別の部屋に入っていった。俺も後に続く。
『ロック完了』
俺が入ると扉が閉められた。この部屋には何もなく、ただ金属でできた壁だけがある立方体の部屋だった。
「さぁ、ドラゴニュート、ぜひ私たちに君の本来の姿を見せてくれ!」
「…え?」
本来の姿?こいつらは何を言ってるんだ?
「どうした?ほら、何も気にすることはない。思う存分やってくれ」
「あの、何ですか、本来の姿って…」
「…それは冗談だよな?覚えているだろ、君が"創造主"の艦隊を撃墜させた時のあの姿だよ」
「…わからないです。俺は覚えてないんです。戦いの時のことを」
「…そうか。なるほどなるほど。記憶障害ならば仕方ない」
そう言いながら、三人は俺に近づいてくる。
「何を身構えているんだ?ドラゴニュート」
「そっちこそ、なんで近づいて来てるんだ」
俺がそう言うと、トクォーノが手を差し伸べてきた。
「私の手を取れ、ドラゴニュート。そうすれば全て思い出す」
俺は右手でトクォーノの右手を握る。
すると、左腕に痛みが走る。俺はすぐさま振り返る。
そこには注射器を持った、ルーノが立っていた。
「裏切った、のか…」
俺は倒れた。
「力の使えない子供に用は無い。看守、コイツを地下牢の最下層へ」
『了解』
「さて、ステップ3、アトラス奪還作戦へ移行しようか」
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俺は思い出したことを話した。
「なるほど、それで君はここにいる訳か。そういえば、君の名前を聞いていなかったね。俺はドミナードだ。よろしく」
一瞬教えるか躊躇したが、まぁ名前くらいいいだろう。
「俺は、タケルだ」
「ああ、末永くよろしくな、タケル」
「お、おう」
「どうしてずっと一人でブツブツと喋っているの、タケル?」
さっきも聞こえた女性の声がする。
「え?」
ドミナードの声が聞こえないのか?
「まさか、この短時間でおかしくなってしまったの?」
「いや、俺は平気だ」
「そう。ならお互い頑張りましょう」
「どういうこと?」
「私の名前はビオロ。小さい時からずっとここにいるの。全く退屈でしょうがないわ。だからやっと話し相手が見つかって嬉しいの。よろしくね、タケル」
「よ、よろしく」
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そして、それは唐突に起こった。
「おい、やめとけよ!バレたらどうするんだ!俺たちの首が飛ぶぞ!」
「そんなこと知ったこっちゃねぇ!俺は殺すぞ!先祖の仇を取る!」
ビオロと話していると、別の話し声が聞こえてきた。
バン
大きな音がして、光が入ってくる。恐らく扉が開いたのだろう。
そして、俺の目の前に二人の男が立つ。一人は槍を持っていた。
「おい、お前が、ドラゴニュートだな!!」
やがて槍の先が、俺に向けられる。
「よくも、俺たちの先祖を殺しまくってくれたな!」
声が少し震えている。
それに俺はそんなことしていない。
「罰を受けろ!死に腐れ!!」
逃げようにも、俺は大の字の状態で鎖で固定されていて、動くことすらできない。
ドスッ
「ぐはっ、」
槍が俺の胸を貫通した。
「は、はは、やった、やったぞ!遂に、ドラゴニュートを殺した!!」
この話はフィクションです。実在する個人、団体、出来事などとは一切関係ありません。