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【完結】アカシックレコード  作者: 白黒羊
第弐章 奪還奪取篇
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EP8 アブダクション

人類の勝利から、5年が経過した。

勝利後の酔いに浸るのも束の間、英雄・タケルの行方が不明のままであった。

そして1ヶ月後、タケルの大捜索が始まった。その捜索は、1年の時間を費やし、ついに捜索隊は、宇宙空間を漂っているタケルを発見した。

彼はその時、何も身に着けていなかったにも関わらず、心臓は動き、身体は温かく、ただ眠っているだけであった。

その後、2年間を集中治療室で過ごし、さらに2年後にようやくタケルは長い眠りから覚めたのであった。

――――――――――――――――――――

次に目を開けた時には、サイトウさんだけでなく、クロウリーさんや、マイケル司令もいた。

「タケル、よく地球を守ってくれた。全人類を代表して礼を言う。ありがとう」

マイケル司令に肩を叩かれた。

「本当に、よく頑張ったな」

クロウリーさんも褒めてくれた。

嬉しかった。けれどサイトウさんを見ると、いつもの怒っているような顔をしていた。

その後は、僕はいくつかの検査を受け、どれもOKが出された後に、三人から色々な話を聞いた。

「タケル、ポステ王が、崩御なされたぞ」

その最中、マイケル司令がこんなことを言った。

「え、ポステ王が…?」

「ああ」

「どうして?」

「詳しいことは分からないが、王宮内の全ての人間が殺されていた」

「そんな、犯人は?」

「1年経ったが、まだ、捕まっていない」

「その犯人、最低ですね。人間の所業だとは思えない」

「全くだ」

ポステ王とは、一回だけ会ったことがある。訓練の途中で王宮に連れていかれて、少しお話をした。

あの方は、俺を友と呼んでくれた。そんな優しい王が殺されたなんて…。とても悲しい。

「そういえば、ボルケ…ドラゴンは元気ですか?」

「ドラゴンか…」

三人は目配せをしていた。

「タケル、ドラゴンはまだ、見つかっていないの」

サイトウさんが遠慮がちにそう言った。

「そうなんですか…」

「ええ、ごめんなさいね」

「いいや、サイトウさんが謝ることじゃないです」

俺は窓の外を見た。太陽が沈みだしている。空がオレンジ色に染まっていた。

「さて、私はそろそろ帰る。また会おう、タケル。元気でな」

さっき、マイケル司令は地球防衛軍が解散したことも言っていた。

そりゃそうだ。もう戦う相手もいないんだしな。だから司令とは、またいつ会えるか分からない。

「はい、司令もお元気で」

「ああ、じゃあな」

そして部屋から出ていった。

「私も久しぶりに自分の研究所に帰るかな」

クロウリーさんが言う。

「今まではどこにいたんですか?」

「この病院の空き部屋を研究室として使わせてもらってるんだ。タケルも無事目覚めた事だし、私もそろそろ行くよ。面倒はサイトウが見てくれる。心配ない。またな」

「はい、さようなら」

クロウリーさんも出ていった。サイトウさんと二人きりになる。

「タケル、また私の事、お母さんだと思ってくれていいからね」

「え?」

「私、夜ご飯を作ってくるわ。待っててね」

サイトウさんまで出ていってしまった。

俺は一人になった。また窓の外を眺める。

「ったく、どこ行っちゃったんだよ、ボルケーノ…」

――――――――――――――――――――

一週間後、俺とサイトウさんは、真昼の月の下、荒野の中を車で、龍牙城遺跡へと向かっていた。

きっかけはあの日の夕飯の後、俺が、

「サイトウさん、俺、龍牙城遺跡に行ってみたいです」

と、言ったことだった。サイトウさんは快諾してくれて、一週間の療養期間を設けての出発であった。

「それにしてもどうして急に龍牙城遺跡に行きたいだなんて言い出したのさ」

右隣のサイトウさんが聞いてくる。

「あの、俺、記憶が蘇ったんです。それで、お母さんに挨拶に行こうかなと」

「え。記憶が戻ったの?」

「はい」

「そう、良かったじゃない!」

「まぁ、いい記憶ばかりじゃないですけどね…」

俺は車窓の外の景色を眺める。そこには、永遠と荒野が続いていた。

「そうね、ごめんなさい」

「いえ、気にしないで下さい」

少しの間沈黙が流れる。

「そういえば、タケルはどうやってあの敵艦を破壊したの?」

そうか、今地球があるということは俺があの艦隊を破壊したってことになるのか。

俺は今更ながらに驚いた。

「覚えてないんですよね。それが」

「覚えてない?」

「はい」

俺はあの時のことを思い出す。

「確かルーデルっていう宇宙人と話して、ボコボコにされたところまでは覚えてるんですけど、その後がさっぱり」

「なるほど。それは不思議ね」

――――――――――――――――――――

「え、どういうこと?」

サイトウさんは廃墟と化した民家の通りに車を止め、外に出た。

「何がですか?」

俺も車から降りる。

「あそこを見て」

サイトウさんが真っ直ぐ指を指す。

「以前来た時は、あそこは木がたくさん生えていた。でも今は、ただ丘の上に遺跡があるだけじゃない」

「とりあえず、行ってみましょう」

俺たち二人は歩き出した。

「え、こんなことって起こるものなの?」

サイトウさんがびっくりするのも無理はない。

地面が、ざっくりと裂けていたのだ。

俺は落ちていた小石を谷底に投げてみた。

「音がしない。かなり深いですね」

「そうね…。危ないから離れましょう」

「はい」


俺たちは丘を回って、裏に入った。

「ここだ」

そこには、一本だけ横たわる木があった。

「この木だけ、焼失を免れている。不思議ね」

「ですね」

俺は木に近づいて、樹皮を触ってみる。

その木は、温かかった。

「…お母さん」

不意に、目から水が溢れ出す。

「どうしたの?」

サイトウさんに心配そうに訊かれる。

「この木に、俺のお母さんは潰されて死んだんです。なんかそれを思い出しちゃって、つい。ははは、みっともないですね。なんだよ、止まれよ、これ」

俺は笑いながら手の甲で水を拭う。

すると急に、サイトウさんに、後ろから抱きしめられた。

「みっともなくなんて、ないわ。それは涙と言うの。悲しい時に人は涙を流す。涙を流すことを、泣くと言うのよ。さぁ、思う存分泣きなさい」

「…はい」

俺は木から手を離し、泣きながら手を合わせた。俺の横で、サイトウさんも手を合わせてくれた。

『お母さん、約束を果たすのはまだ先になりそうだけど、必ず血は絶やさないよ。安心してね。きっとまた来るから、元気でね』

俺は心の中でお母さんに語り掛けた。


『ええ、いつでもおいで』


お母さんの声がしたような気がした。

俺はしっかりと頷いた。

――――――――――――――――――――

「思う存分泣いて、少しはスッキリしたかしら?」

車に戻る道中、サイトウさんが話しかけてきた。

「はい、ここに来ることを許可してくれて、ここまで連れてきてくれてありがとうございます」

「いいのよ、どうせ病院にいたってすることないでしょ?」

「確かにそうですね」

「これからは何をするの?」

「んー。何しましょうね。サイトウさんは何をするんですか?」

「私?」

「だって、地球防衛軍だって解散したし、まさか、一生俺のこと研究するつもりですか!?」

「まぁ、まだタケルは戦いの記憶を失くしたままだし、記憶が完全に戻るまでは、とりあえずお世話してあげるつもりよ。それに、ボルケーノも探さなきゃだしね」

俺はサイトウさんの顔を見る。

「何驚いてんのよ、ボルケーノくらい知ってるんだからね?」

「そうだったんですか」

知らなかった。びっくりだ。

「何年一緒にいると思ってんのよ」

「そういえば本物の母親より一緒にいた時間長いですもんね」

「これから先もずっと一緒にいてあげてもいいけど?」

「え?」

もう一度サイトウさんの顔を見た。頬が夕陽で赤く染まっていた。

「冗談よ」

その時、上空に、ダイヤの形をした飛行物体が突如として出現した。

そしてその飛行物体から黄色い円筒形の光が放たれ、俺はその中に囚われてしまった。

「なっ」

あまりにも一瞬の出来事で、俺は何もできなかった。

「タケル!!」

サイトウさんが何度も黄色い半透明の壁を叩くが、どうすることもできない。

そして、またしても一瞬で、サイトウさんが見えなくなる。筒が飛行物体に吸収されたのだろう。見えるのは、灰色の床。

飛行物体が動き出したのか、揺れが起こる。顔を上げると、サイトウさんがいた位置に、一体のトカゲの様な顔つきの、巨人が立っていた。巨人と言っても、ルーデルや前の宇宙人達ほど大きくもない。3mくらいだ。

「悪く思わないで下さいね」

背後にいたもう一体に、後ろで手錠を掛けられる。

そして、傍の椅子に座らせられる。

「すぐ着きますから、少し待ってくださいね」

「お前たちは誰だ!なんで俺にこんなことするんだ!」

「着いたらすべて話しますから、落ち着いて待っていてください」

「くそ、放せよ!」

俺は目の前の巨人を蹴った。

「ちっ、しょうがねぇ」

後ろの奴に、後頭部を殴られる。

頭がくらっとして、俺は気絶した。

――――――――――――――――――――

目を覚ますと、両手両足がそれぞれ一本ずつの鎖で大の字に繋げられていた。左右には壁が、前方には鉄格子がうっすらと見える。光源が無いので周囲はかなり暗い。

俺は黒の部屋を思い出した。ここは、牢獄か何かか?

「あなたは、誰?」

どこからか声が聞こえる。性別は、女性だろう。

「あなたこそ、誰なんですか。そしてここはどこですか?」

「ここは、スラーヴォ達の星にある、地下牢」

また別の、男の声がする。

「地下牢…」

「お前は捕まったんだ。スラーヴォにな」

この話はフィクションです。実在する個人、団体、出来事などとは一切関係ありません。

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