EP7 過去
俺は目を覚ました。
森の奥に、俺は立っていた。
目の前を一人の少年が横切る。俺は確信した。その少年は、エスペーロだ。
「よし、イノシシが獲れた。これはお母さん喜ぶぞ」
すると、大地が、大きく揺れた。
木は倒れ、鳥は飛び立つ。
「地震だ」
エスペーロが走り出す。俺は後を追った。
エスペーロが急に止まり、手に持っていたイノシシと狩猟道具を落とす。
僕は真横に立った。目の前には、倒木に潰された小屋があった。
「お母…さん?」
俺はエスペーロの顔を覗き込む。泣いていた。
「お母さぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!」
エスペーロは小屋に駆け寄る。木をどかそうとするが、押しても引いてもびくともしない。
俺は俺で、何故だか足が動かなくなった。
俺は奮闘するエスペーロをただ後ろから眺めている事しかできなくなった。
「お母さん!お母さん!お母さん!」
すると、声がした。
「エスペーロ、そこに、いるの…?」
「…!?お母さん!無事なんだね!すぐ助けるから、待ってて!」
「もう、私は駄目よ。ここで、死ぬわ」
「そんなこと、言わないで!僕これからどうすればいいんだよ!」
「一人で、生き抜きなさい。あなたは、今日、最後の一人になる。血を、絶やしては駄目よ」
「村を出るんでしょ?でも、その時はお母さんも一緒だって言ってたじゃないか!」
「そうね。一緒になれなくて、ごめんね」
声で、お母さんも泣いているのだと、分かった。
「くそ、くそ、なんで動かないんだ!」
「エスペーロ」
名前を呼ばれ、動きが止まる。
「ありがとう」
「…」
エスペーロが、崩れ落ちる。
「あああぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!」
大地に拳を振りかざした。
やがてエスペーロは、その場に倒れこんだ。そして背後から、聞き覚えのある声がする。
「さっきの叫び声は何だったのかしら。こっちから聞こえたようだけれど」
「さぁ、何の声でしょうね」
「あれ?あそこに誰かいるわ。倒れてるじゃない!」
二人組が、俺を追い越してエスペーロに近づく。見覚えのある女性の後ろ姿。もう一人の男性も、初めてな感じはしなかった。
「脈はあるし、呼吸も安定しているわね。ここは森の奥で救急隊も時間がかかるか。よし、とりあえず、研究所に連れて帰りましょう」
「分かりました。僕が背負っていきます」
「任せたわ」
一度瞬きをすると、目の前が全て真っ暗になる。
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俺はもう一度、瞬きをする。
「おはよう、目は覚めたかしら?」
「……」
「私は、龍牙城遺跡を調査しているサイトウ。ここは私たちの研究所。あなた、名前は?」
「……」
「ヤマベ、この子、記憶障害があるかも知れないわ。検査の準備を」
「了解」
エスペーロは眠らされ、検査を受けていた。
「やはり、そうね。しかし、外傷が見当たらない。心因性かしら」
「ですがあの子の推定年齢は3歳。そんなことありえますか?」
「どうかしら。とりあえず、あの子の今後を決めましょう」
「そうですね。どうしましょうか」
「私、考えたんだけれど、ここで育てるってのは、どうかしら」
「えっ、でも…。いや、確かにその方がいいかもしれないですね。辺りに親らしき人もいなかったですし。僕たちで保護する方が賢明かもしれないですね」
「ありがとう。じゃあ私は、今日からあの子の母親を演じるわ。あなたはサポートをお願いね」
「分かりました。それで、名前とかどうするんですか?」
「名前…」
エスペーロは、真っ白な部屋に移動させられた。そして、エスペーロが目を覚ます。
「あら、起きたかしら?おはよう、タケル。私はあなたのお母さんよ」
そうか。俺は気づいた。
俺は、エスペーロであり、タケルでもある。これは、俺の、過去の記憶。
俺は目を瞑った。
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もう一度目を開くと、俺はベッドの上にいた。
「タケ…ル?」
首を声のした方に動かすと、そこにはサイトウさんがいた。目に涙を浮かべて笑っていた。
手を握られる。
「目が…覚めたのね。良かった。良かった。本当に良かった」
「ここは?」
「あ、そうね。ここは病院。あなたは4年間、この病院で眠っていたのよ。待ってて、すぐにみんなを呼ぶわ」
そう言ってサイトウさんは病室のドアから出ていった。
正直まだ頭がぼんやりする。もう少しだけ、寝よう。
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私はマイケル司令に電話を入れる。
『もしもし、私だ』
「司令、ご無沙汰しています。今、タケルが目覚めました!」
『分かった。すぐ行く』
次に私は、クロウリーさんのもとへ走った。力いっぱい扉を開ける。
「クロウリーさん!タケルが!目を覚ましました!」
「本当か!」
「はい!」
「よし、行こう」
走りながら、クロウリーさんが話しかけてきた。
「そんなに嬉しいか、サイトウ」
「ええ、それはもちろん。ですが何故そんなことを?」
「いや、君の笑顔を見たのは初めてなのでね」
あ、しまった。つい顔に出てしまった。
「いい笑顔だと思うよ」
「あ、ありがとうございます」
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そこには、3人の男がいた。
「そうか、ポステ王が、死んだか」
「はい、残念です」
「そうだな、良き友だったからな」
「例の計画、そろそろ、ですね」
「ああ、後はドラゴニュートが目覚めるのを待つだけ。やっと、この時が来た。全てを、返してもらう」
この話はフィクションです。実在する個人、団体、出来事などとは一切関係ありません。