『8』
彼女らはきっと、正義の見方。
なのに、ふさわしくない極端な姿。
何が彼女らを追い詰めているのだろう。
「覚悟しろよ!」
なにもない宙にできた、透明な掛け橋。
数歩走り、そのまま反動力を利用し、跳躍する。
この勢いでぶつかったら、耐えられない。
なら、逃げるだけ。
「なに?!」
体を躱し、少女の視界の外に。
いつものように、派手すぎる攻撃。
体の動きは簡単に読める。
出きれば、今のうち、ベイン様をつれてー。
「よそ見する暇、あるのかな?」
いつのまに、後ろからする気配。
赤いハートに打たれる前、地面を踏み、宙返り。
土に手がついたら、伸ばした脚を回し、青さを蹴る。
「くっ!」
「大丈夫ですか?」
「って、あんな攻撃に倒さないから!」
「ご、ごめんなさいっ!」
逆転を狙う二人はロッドを取り出す。
必殺技、しかも二人。
反撃するため、奪い取ったミラクルのロッドを掴む。
(できるかどうかー。)
ロッドを振るとー。
紫のクリスタルが、黒く染まる。
注意しないと。
無理やりに使ったら、壊れるかもしれないし。
そういえば私、今人の心配をしてる。
このままロッドを壊す方が、よいかもしれないがー。
ただ、私はそうしたくない。
「これで終わりだ!」
ロッドに力を入れる。
黒い風が、私を包み込む。
相手の攻撃と同時に、私もロッドを振る。
赤と青、そして黒。
猛烈にぶつかる三つの光。
押して押される、互角の勝負。
「何という強さ…。」
驚いた視線。長い沈黙。
本当は強さじゃない。
これは、ただの強がり。
だって、もう限界だもん。
(ロッドが…。)
ミラクルロッドが淡くなる。
彼女は幼いし、力が足りない。
だから5分になる前、彼女に与えられた女神の力光に戻る。
その前、決着をつけないとー。
「っ!」
最後の最後まで諦めない。
力を振り絞り、光を斜めに切る。
二つに割れたエネルギーが、私をすれ違う。
透き間に助かれたが、すごくいやな感じ。
(相性が悪くて、完全なる相殺はできなかっー。)
なんとなく、不安になる。
いや、私は知っている。
今の感情、その理由を。
「町がっ…!」
「ど、どうしましょう?」
打ち消せなかったエネルギーが、町へ向かう。
(向うの方は、確かにー。)
思い出す脅威と、町の人々。
バス停、市場、学校や公園。
なにより、幼稚園がー。
(うぅっ…。)
臓腑をえぐるような感覚。
だめ、いや、もう、やはり、やめてー。
「くっ!」
直ちに大地を蹴る。
反動力と共に、飛び立つ。
エネルギーのはやさを上回った瞬間。
「せ、先輩、あれ!」
花のように散る、と言いたいが。
できたのは、ただの墜落。
だって、一刻を争ってるし。
守らなければいけないし。
格好つける暇、なかったもん。
「いったいー。」
少女たちは、呆気にとられて、息を呑む。
そりゃそうだろ。
避けるべきの攻撃に飛び込んじゃってー。
「はあ、はあー。」
痛い。
苦しい。
でも、後悔はしない。
「チャンスです!」
「とどめだ!」
足取りはよろめき、目はぼやける。
これじゃ、もうー。
「お止めなさい!」
たったの一言で、心情が崩れる。
押さえない恐れと共に、振り向けばー。
妙に見慣れた少女が、一人。
「あなた、誰?」
懐かしい声。
私の知ってる人。
何となく、ぎくっとする。
だってー。
(私と、同じ顔…。)
あの人は、誰?
なぜ私に似てるの?
クローン?どちらが?誰のために?
いや、違う。
私、知っている。
あの人のことなら、何もかも全部。
だって、二人はー。
(考えるな。)
突然、思考が止まる。
倒れてるはずの、ベイン様の声。
録音された声が、オートリピートされる。
(それ以上、考えるのをやめろ。)
困難する感情が、沈み始める。
ふわふわして、甘い感じ。
それに包まれてると、すごく幸せな気分になる。
なにも考えなくてもいい。
悩みも悲しみも、全部任せばいい。
身も心も捧げられる人生は、なんて祝福。
「ねえ、あなた、大丈夫?」
糸の切れた人形のように、指一本動かすこともできない。
幻想だっていい。捕らわれてもいい。
この甘いささやきに、頼れるならー。
「この子、様子がおかしい。助けなきゃー。」
「近づくな。あいつは敵だ。」
「そ、そうです!危ないです!」
「戻ってください、ゆかり先輩!」
「え…。」
突然、目を覚ました。
目の前の少女や、近づく手に気づいた時ー。
「きゃーっ!」
触れる前、後ろに下がった。
よかった、無事にいられて。
それより私、なに考えてたっけ。
帰らなくてはいけないのに、ぼうっとして。
「ベ、ベイン様?」
見回すと見えるベイン様の指。
誰も気づかずに、動いていてー。
「あー。」
「お願いします。帰らせてください。少なくとも、ベイン様だけはー!」
「見逃すわけにはいかない。あなたたちのせいで多くの被害者が出ている。人の命を簡単に踏み躙るくせに、お願いだと?笑わせるな。」
「逃がしてくれたらー。」
幹部を倒しても、彼らの力で作ったデカダンがいる。
必殺技で浄化するまで、デカダンは消えない。
きっとまだ、デカダンが森で暴れてる。
「ここにいる全員をつれて帰ります。」
「全員?雑魚まで?」
「ちょっと!」
「私にはわかる。みんな、疲れてるじゃない。あなたもタイムアウトだし。」
「だとしても!」
ゆかり、と呼ばれた少女は私と目を合わせた。
「その話、信じてもいい?。」
「約束します!」
「約束、か。」
頷いてたゆかりが、悲し気に笑った。
「わかった。一度だけー。」
「寄越せ!」
「っ!」
話を聞き終わる前、突然の命令。
いつのまに私の手首を掴んだベイン様。
痛みと幸せ。苦しさと喜び。
だから、逃げ出したくてー。
「貴様らに、こいつだけは!」
私は強く引き寄せられ、彼の胸に抱かれた。
体が動かないし、力も入らない。
命より、品物にされてる感じ。
「絶対、渡さないからな!」
「待ちなさい!」
相手が返事をする前、ベイン様と私は、闇の通路に足を入れていた。
そして、組織に戻ったすぐあとにー。
「話が違うんじゃねーか!」
獣のような唸り声。
「なんでこいつを戦わせた!」
「我はただ、犬死にされる命を助けてやったが。」
「僕は勝てる、絶対勝つ!」
「なら、いまでも人間界へ送られるが。」
「ちくしょおおーっ!」
「まあ、落ち着け。なによりー。」
始めて見る笑い。
にやりとしても、白は見えない。
瞳の奥も、口の中も、真っ暗闇。
「面白そうではないか。」
「なんだって?」
何が面白いのであろう。
またの負け。怪我人だらけ。
なのに、笑える下心がわからない。
「どうだったか、『始めて』の出陣はー。」
「いや、その…。」
今のは、叱責?
じゃないと、ただの遊戯?
「人を…。」
落ち着け、リカー。
『捨てられ』たくないなら。
役に立てる情報を、思いださなきゃ。
「ある人を、探してるようなー。」
「人?」
「は、はいっ。その人を探し、人質にすれば、楽に勝てると思います。」
静寂が流れる。
息さえ聞こえない。
音の空白を破ったのはー。
「はーっはっはっは!」
腹を抱えて笑うノワール様。
ショックを受けたベイン様。
異なる反応を、その違いの意味を、わからなくてー。
私はただ、お二人の顔色だけ伺っていた。