『1』
瞼さえ動けない私のため、『神』は自ら私の目を閉じてやる。
彼の手が触れると魔法みたいに目が閉じる。自然に眠りにつく。
「ー。」
夢の中でも、私は動けない。『神』の許しを得てないから。
真っ白な頭のように、誰も存在しない世界。
曇った視線でただ、『神』を待つ。
「なあ、リカー。」
遅れてくる『神』は、夢まで操る。
不思議な力。ふわふわする。
「あれは、君と僕の思い出さ。」
「あ…。」
彼の声と共に、空白の世界は満たされ始める。
見知らぬ人々、見たことない景色。
何か間違ってるような、不安な気持。
「どうした、変な顔して。いつもの町じゃない。」
「い…つも…。」
「そう、ここが君と僕の居場所だ。僕たちはずっといっしょだった。幸せな日々だった…。」
溜った違和感は彼の声に崩れてしまう。
『神』の言葉は、いつでも真実。疑うわけない。
「ほら、感じるだろう?胸が満たされる、愛や希望、喜びを。」
「うん…。」
暖かい何かが満ちてくる。何となく幸せ。
見るだけで、いつのまにか、口はそっと開けていた。
「ある日。」
『神』の指が唇を触る。
接した指は、いずれ唇の上を走る。
反射的に体が震える。
「神の使いを名乗る奴らが現れて、僕たちの日常は壊された。」
景色が色あせてしまう。
モノクロの世界、息さえ聞こえない。
辛くはない。どうせ何も見えなかったから。
滲み霞んだ眼差しの果、暗闇が形を組む。
「見ろ。」
指を鳴らす音が耳を通して脳や心そのものを撫でる。
跡形さえなく、変えてしまう。
やっと冴えた世界。向き合ってる陰に気が付く。
「その目に刻むのがいい。僕たちの『敵』を。」
「テキ…。」
呟くと、何故か胸裂かれる気がする。
目の前の人たちから目が離せない。
誰かの形を描いてる陰は、むしろ、懐かしい。
「忘れるな。幸せは偽り。不幸は近い。希望は絶望への鍵。だからこそ奪うべき。」
降り頻る長文の口説き。
意味もわからないまま暗記し、繰り返す。
「…。」
何か可笑しい。
ただこれが、単語の暗記が、私の生きる理由、なの?
「よしよし。」
このままで大丈夫か、悩んでいると。
冷たい手が頭を触れる感覚。
「リカーは良い子だな。」
もう、何もかもわからなくなってー。
「頑張ろう、リカー。世界の希望を奪うため。」