かわいい女の子
サッカーボールを追いかけて、道路に飛び出して車に轢かれ、怪我をした。
間抜けな僕は、家の近くの病院に入院している。
そこは大学病院で、かなり敷地も広く、大きな庭があった。
昼間になると、入院している人たちは、庭で散歩したりしている。忙しくて、なかなか見舞いに来られない両親、退屈な僕もよくその庭で散歩していた。
木の陰に隠れたベンチ。ここが僕の特等席だ。涼しくて、ここにいると落ち着く。
「こんにちは」
今日は珍しく人がやってきた。
「こんにちは」
その子は、僕と同じくらいの歳の女の子だった。日に浴びたことがないのかと不安になるくらい色白で、折れそうなほど細い足。パジャマの上に大きなカーディガンを羽織っている。
クリッとした丸い瞳でジッと見つめられると、なんだか落ち着かない気持ちになった。
「あなたもここで入院しているの?」
「うん、君も?」
頷いた彼女は、心臓の病気で長く入院していると教えてくれた。
学校に通ったこともなく、友達らしい友達もいない。
友達になっても、すぐにみんなが退院してしまうので、いつも淋しいのだと、少し目を潤ませがら話してくれた。
「僕と、友達になって」
勝手に口から滑りでたのは、そんな言葉だった。
「うん!」
彼女の嬉しそうな顔に、僕は浮き足立った。
ずっと彼女と友達でいようと決意した。
それからは、たびたび庭で会った。
僕は、小学校であった面白い話を彼女にたくさん聞かせた。
クラスのお調子者が、悪戯しようと水の入ったバケツを扉に仕掛けようとして、誤って自分で被ってびしょ濡れになった話をした時は、彼女はとても笑ってくれた。
その笑顔が可愛くて、僕はドキドキした。
ある日、彼女がとてもつらそうにしていた。
「どうしたの?」
「実は、手術の日が決まったの。すごく怖いわ」
「……大丈夫。僕がついてるからね」
そう言って、彼女の手を初めて握った。その手はとても冷たくて、すごく心配になった。
不安になっている彼女に、僕はたくさん面白い話をした。これで、勇気を出してくれるといいなと思った。
大丈夫。僕が側にいるよ。
それから数日して、彼女の手術の日になった。僕は、彼女が入院している部屋に向かった。
そこは、もぬけの殻だった。
もう手術室に向かったのかもしれないと、手術室に走った。
手術室の前には、女の子の家族らしき人たちが座っていて、祈るように手を合わせている。
表示灯には、手術中という文字が赤く光っていた。
僕はジッとその表示灯を見つめ、待ち続けた。何時間も経った後、表示灯が消えた。
手術を終えた、先生が出てくると、彼女の家族が心配そうに先生に詰め寄った。
「手術は成功です」
彼女の家族たちは、ホッとしたように泣き崩れ落ちた。
その光景を見た僕は、心の中が冷たくなった。
「なんだ、死ななかったのか。残念」
死んだら、ずっと一緒にいられたのに……。