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温かい珈琲はいかが?  作者: 侑奈
8/12

七話:プラネタリウム

 場内はまだ明るく、上映まで時間があるようだ。

 プラネタリウムに来るのははじめてなのでどこが見やすいのか皆目見当もつかないが、真由さんならいい所を見つけてくれるだろう。

 ふと、座席についている人達からの視線が怖くなって真由さんの腕からするすると退却した。真由さんは私が離したことを意にも介さず席を探しており、少し寂しいやら悔しいやら。離さなければよかった、なんてちょっと思ってみたりする。思うだけだけれど。また抱きしめ直したら、からかわれそうだ。


「那奈さん、あっちの席がよさそうなのであそこでいいですか?」


 特に検討もせず頷く。真由さんが決めた席なら、どこでもいい。

 着いたのはドームの後ろ側ブロックの中央辺りの席。周囲にはあまり人がいなくて、ここならゆっくり見られそうだ。ほかのこと……というのも、ここでできる? のだろうか。分からない。

 無意識に求めてしまう。期待してしまう自分がはしたなく感じて、抑える。本当は、甘えたい。甘えたい? 甘えたくなんてないはず。分からない。自分が、分からない。


 アナウンスとともに場内が暗くなり始める。

 すると、肘掛けの上に無防備においていた腕にそっと手を掛けられる。変な反応をしたら周りから見られてしまうので、気にしていないフリをする。

 じわじわ、じわじわ。真由さんの指先が私の腕の上をゆっくりと這っているのが分かる。横目で彼女の顔を見ると、彼女はこちらを気にするような様子もなく空を眺めていた。

 じわじわ、じわじわ。でも、この感覚は本物で。

 じわじわ、じわじわ。熱を帯びた細指は私の手の甲に重なる。指間に入り込む。

 ただ手が触れているだけなのに、なんだかいけないことをしているような気がしてしまう。耳まで赤くなっているのが分かる。ああ……。


 しっかりと握られた時にはもう真っ暗で、頭上に星がキラキラと光っていた。前方で係員さんが星座の説明をしてくれている。聞いているようで、聞いていない。心地良い女性の声を耳に入れつつ、星空を眺める。綺麗だ。

 星空に目を奪われそうになる度、手を通して伝わってくる体温が私を星空から引き戻す。触れているからこそ、声を掛けづらくて。どうしてだろう、いや、たぶん。

 ずっと触れていたいから、なのかもしれない。

 声をかけて、手が離れていくのがいやだから。それなら静かにずっと触れていたい。そういうことなのかもしれない。きっと、そうだ。

 前方にいる家族連れがわいわいと盛り上がっているのだって、少し羨ましいけれど。真由さんと繋がって、静かに天を眺めるこの瞬間を大事にしたい。別に、やせ我慢とかじゃない。本当だ。


「月、綺麗ですね」


 急に耳元で囁かれてドキッとする。そして手を離す素振りがなく、安堵する。耳が弱いから耳元で囁くのはやめてほしい所だが、それを言うのはまた今度にしよう。


「んっ、どこですか?」


 沢山の星と体温に気を取られていて、特定の惑星の場所なんて分からないのだった。

 月の場所を尋ねたら、なんだか不満そうな気配を察した。空を見たらまず月を探しておくべきだったのか? 必死で空を見回す。見つからない。


「鈍感ですね……」

「……すみません」


 月を探しておかなかったことを後悔する。次は月から探す、と強く決心するのだった。


「ふぅー。」

「んっ」

「耳、弱いんですね」


 耳に息を吹きかけられて反応しない人なんているのか? 思わず力が抜けてしまう。


「鈍感な那奈さんに、お返しです」


 お返し……? ふわふわした頭でその言葉を反芻していると。

 温かく柔らかいもので耳たぶが挟まれるのを感じる。んぅ……これは……?


 ちろ……っ


 真由さんが私の耳を……舐めている……!? 初めての感覚に驚きを隠せない。耳を舐められるなんて想定していないので、綺麗に洗っている自信がない。顔を傾けて抵抗しようとするが、真由さんはもっと近づいてきて離れようとしない。

 凄く嫌、という程でもないので仕方なくなすがままでいることにする。普通だったらとても嫌がることなのかな、なんてふわふわと思ったりしてみる。嫌じゃない……なんて、変なのかな。


 ……ぺろっ……


 最初は多少気持ち悪さを感じたものの口内の温かさに慣れ、心なしか安心感を覚える。気持ちいい……? 


「んっ……」


 耳の弱さが災いして声が漏れてしまう。暗いとはいえ、周りにバレでもしたら大変だ。

 もっとしてほしい、なんて漠然と思って真由さんの顔を見ると、彼女はサッと離れてしまった。


「ふふっ、これはお返しですから。気持ちよくなっちゃったのならおしまいですね」


 悪戯っぽい声が聞こえてきて、たまらない。

 気持ちよくなんてなってない! と反論したい気持ちもあったが、妙な脱力感がそれをさせてくれなくて。私はただふるふると首を振るしかないのだった。












閲覧ありがとうございます!前回入ったプラネタリウムの中でのお話です(*´▽`*)

ここで切るのが余韻的に良いと思いましてこうしました。次回はデート後編、という感じになるかと思います(*‘ω‘ *)宜しくお願いします!


感想ブクマ評価等々、とても励みになっております!いつもありがとうございます(*‘ω‘ *)

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