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魔王と勇者  作者: S
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魔王と騎士

 魔王が謁見の間に入ると、既に沢山の魔者でごった返していました。

 「おお、魔王様、お待ちしておりました、ささ、早く玉座に。」

 サタナチアは魔王を玉座の方に誘いました。

 「今年は263名の新騎士が王の叙任をお待ちしております。」

 儀式などを取り仕切る、進行役のモレク侍従長が工程表を確認しながら言いました。

 「263名の代表マレクが魔王様の剣をその肩に受けます。デアボロスも既にこちらにありますので、今ここで帯剣なさってください。」

 モレクと呼ばれた男が初代より伝わる魔剣デアボロス、勇者アルスの剣を受けて尚刃こぼれ一つしなかった剣を我らが主君に手渡しました。

 「そなた達に感謝を。」

 魔王は剣を受け取ると、直ぐにベルトに通し腰の方に提げました。

 「さすがは魔王様。この剣を使いこなせるのは、王に値する魔力と実力を持つ者だけですからな。」

 「それでは初めようぞ。」

 

 魔王が玉座に着くと辺りはしんとしました。騎士や軍人、闇の司祭、貴族、城の者達が一堂に会し、整然と並んだところで、モレクの部下がラッパを吹きました。

 「これより、今年の叙任式を始める。今年は263名の新騎士が生まれる。諸君らは栄えあるハデス国の騎士になるのだ。誇りを持って、その名に恥じぬよう心して任を受けよ。それでは魔王様お言葉を。」

 魔王は玉座から立ち上がり、威厳のある声で、

 「騎士昇任めでたきこと。諸君らは我が民を支えるためにこの任に付いた。我が民、我が赤子を守るため余に力を貸して欲しい。」

と言いました。

 段の下で、騎士達や従騎士達が畏まり頭を下げると、モレクは、

 「それでは叙任を始める。今年の代表、マレク従騎士、前へ出よ。」

と言いました。

 「はい。」

 凜とした声を張り上げて、20歳になったばかりのマレク青年は姿勢を正して、王の前に出ました。

 青年は、王の前で一礼すると、直ぐに片膝をつき頭を下げました。

 「マレク従騎士、これより騎士に任ずる。」

 魔王は抜き身の魔剣デアボロスの平の部分で、青年の肩を2-3度軽く叩きました。

 後ろの方で、わぁと歓声が上がりました。

 魔王が再び剣を収めると、青年は静かに立ち上がり、一礼をして、元の列に戻りました。

 「さぁこれから、叙任祝いの宴を始める。給仕の者は用意せよ。」

 モレクが指示を出すと、後ろの扉が開き、城付きのサーベント達が沢山の料理を運んできました。

 「我が民が苦労して生み出した糧である。感謝しつつ食すように。」

 それからは華やかな宴会でした。

 沢山の魔族達が、親交や旧交を温め、従騎士達やその見習い達が新騎士や古参騎士達の話を熱心に聞いて回ったりしていました。

 「魔王様、お疲れですか。」

 カロンが声を掛けると、魔王は、

 「あぁ、少しな。こういう席はあまり得意ではなくてな。そなたを見ると落ち着くよ。」

と小声で答えました。

 カロンは、にこっと笑うと、茶化すように

 「それは光栄に御座います。」

と言い、ぺこりと頭を下げました。

 しばらくは、和やかな時が流れました。

 魔王は幸せでした。こういう時がずっと続いていければ良いものだと、笑い合う魔族達を眺めながら思いました。

 

 その時間は突然の大声で破れました。 

 「敵襲ー。」

 後ろの大扉が開いて、一人の衛兵が駆け込んできました。

 「何事。」

 和気藹々していた雰囲気は、一気に戦慄に変わりました。

 見れば、その衛兵は手傷を負っているようでした。

 それと供に、警報が鳴り響き、辺りが騒然とし初めました。

 「落ち着け。うろたえるな。戦えない者は玉座の方に奥の方に入れ。戦える者は彼らを守れ。衛兵、何が起こったか報告せよ。」

 手傷を負った衛兵は、側の者に支えられながら、

 「恐れながら、報告いたします。今し方、門の方で何やら騒がしく思い、確認に言ったところ、門番達が倒れていました。刹那、剣を振るう者が襲いかかり、奮戦したものの、我が武器を易々と砕き、城に侵入を許してしまいました。仲間達も奮戦したのですが、強力な魔法使いの炎に焼かれ、さらにアルス国の異教の僧侶の聖魔法で我らの魔法も通じませぬ。一直線にこの謁見の間を狙っているようなので、ともかく我が報告せよと言うことで、隠し通路を経て参った次第に御座います。たった3人のパーティのようですが、強力な奴らです。特に全身を甲冑で覆う者は、光り輝く剣を振るい、その剣はどんな武器も最後には粉々に粉砕してしまうようなのです。わずかな時間稼ぎしか出来ないかも知れませんが、まだ仲間が食い止めようとしてしております。どうか魔王様お助けください。」

と言い、最後の一言を発すると意識を失いました。

 魔王は驚きながらも、

「司祭、闇魔法で手当を。しかしどういうことだ。まさか勇者か。それ以外に考えられぬ。何故だ、姫は無事に帰したと言うのに。」

と言いました。

 「もしかしたら、まだその情報が伝わらず、勇者と称する者が乗り込んできたか、それかひょっとすると姫の失踪を口実にアルス国が討伐を仕掛けたのやも知れませんな。」

 サタナチアが冷静に言うと、魔王は、

 「おのれ、人間どもめ、絶対に許さん。」

と叫びました。

 するとサタナチアも、

 「私も許す気は毛頭ありませんな。私も久しぶりに暴れてみましょう。勇者と称するうつけ者とその背後にいる人間どもに魔族の恐ろしさを知らしめてやりましょうぞ。」

と言いながら、体を変化させ手の上で魔力を充実させ始めました。

 「私も儀式の進行に水を差されて完全に頭にきておりまする。これは万死に値する罪で御座います。」

 冗談を言うかのようにモレクも体を変化させ、体毛で覆われたその肉体を筋力で充実し始めました。

 「モレク、前から思っていたのだが、普段上品ながら戦闘の時はいつも肉弾を好むな。意外に思うよ。」

 「サタナチア、お前は嫌みな奴に相応しく賢しい魔法を好むな。しかし、お前も普段のしれっとした顔からは想像できないが、闘いではそこら辺の騎士より好戦的だよ。」

 「私は自分の責務を果たしているだけだ。」

 「私もだ。」

 古参の二人が掛け合う様子に些か冷静さを取り戻しつつ、魔王は大扉の方に急ぎました。

 大扉まであと数メートルという所で、いきなり目の前で何かが弾け、魔王は後ろに吹っ飛ばされました。

 「魔王様。」

 部下達の悲痛な叫び声が辺りに響き渡りました。


 

 


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