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魔王と勇者  作者: S
5/10

議事の間

すみません。以前投稿した物がシリアスになりそうだったので、急遽大幅に改訂しました。結末は一緒になるので、もう少しおつきあいください。

 魔王は議事の間に着くと、直ぐに元老院の者達に招集を掛けました。

 議事の間は比較的小さな部屋で、重要な決め事があるときには専門家や主立った者達がテーブルに座って、魔王と意見を交換し合うのでした。

 元老院の者達や魔王の親族、各方面の専門家が集まったところで、魔王は、

 「皆の者、この娘を尋問したところ、王を初めアルスの国の全体としては我が国に戦を仕掛ける意思はないようである。しかし、国教会の一部、その他一部の貴族達が我らを憎んでいるとのこと。この件に際しては人間どもに余計な刺激を与えぬようにするのが良いと思うのだがどうであろう。」

と言いました。

 「それは良いこと。それが得策に御座います。」

 元老院の一人サタナチアは言いました。

 「それでは、慣習通り記憶を消去して人間界に戻すということで良いか。」

 「それが、良いと思います。」

 サタナチアの言葉に皆が頷きました。

 「ではさっそく。」

 (ごめんねマリア。折角会えたのに。でもこうするより仕方ないんだ。)

 魔王は心の中で小女に謝りながら、

 「魔族の国に踏み入れし時からの記憶よ覆われよ、決して思い出さぬように。新しい記憶よ植えられよ。我が国とこの者が平安であるために。」

と唱え、少女の頭に手を置くと青白い光が頭の中に入って行き、記憶を消去する魔法が掛けられました。

 「これで良し。目覚めたとき、この者は一日中森を彷徨ったと思うであろう。それでは、私が人間の姿になり、この者をアルスの国が城ミハエル城に送り届ける。それで良いか。」

 魔王が言うと、皆は、

 「御意に。」

と答えました。

 ひとまず落ち着いたところで、魔王は思いきって言いました。 

 「ところで、皆の者。余、個人の考えであるが、これからは、魔族も人間と交流を持ち、お互い和平の道を探るのも良いと思うのだが、いかがであろう。」

 魔王の期待とは裏腹に、皆の反応は良いものではありませんでした。

 「魔王様、それは成りません。彼の、ベルゼビュートの屈辱をお忘れですか。人間どもを信用してはなりません。我らは距離を取り、境界を明確にすることで平和が維持されてきたのです。そもそも人間どもの国も含めこの地一帯は元々我々の物だったのです。それを後から来て奪って行ったのは奴らなのですぞ。」

 サタナチアが口を開くと、皆が頷きました。

 「それは余も知っている、しかしそれらは昔のことではないか。ベルゼビュートの屈辱も3000年も前の事であろう。我らが人間よりも20-30年かそこら長生きだとしても、我らにとっても彼らにとっても太古のことではないか。」

 「魔王様は甘すぎる。聡明ながら、些か他を信用しすぎる嫌いがおありになる。それは決して悪いことではありませんが…。良いですか、3000年前のアルス国と我が国ハデス国との大戦、我が国ではベルゼビュートの屈辱と呼ばれている戦ですが、その折りに勇者アルスとベルビュート7世様がご子息アスタロト5世様が剣を交えた際の魔剣デアボロスが今もこの城の宝物庫に眠っております。結果はご存じの通り、ハデス国の当時の城での最終決戦に於いて勇者アルスの剣によって、王とその子息を失い、我が国は敗北を喫したのであります。その戦で、我が国の国境は大きく後退しました。当時、王位はベルゼビュート7世様の従兄弟のベヒモス10世様が継いだと記録にあります。それより後、さらに幾つかの小さな戦を以て前進と後退を繰り返して来たのです。そして、800年ほど前、ヨル川を今に至る境界に定めてから、我らは守りに徹し、沈黙と人間どもの我らに対する怖れを以てやっと平穏が得られたのです。やつらに隙を見せてはなりません。さらに申し上げれば魔剣デアボロスは、アルスの聖剣とやらとは違い、初代ルシフェル1世様ご本人の御剣で御座いまして、代々の魔王もくしくは皇太子に受け継げらてきた由緒正しい…。」

 サタナチアの講義が長くなりそうなので、魔王は、

 「解った。そなたの言うことも尤もだ。余としては魔族の安寧が一番だ。努力する。」

と答えました。 

 「出過ぎた真似をお許しください。しかし、それでこそ魔王様に御座います。」

 「では、これにて議事を終えよう。余は、夜が明け頃合いを見てアルスの国に向かうが良いであろうか。」

 「御意に。」

 

 夜が明け、太陽昇り、少し時が立ってから、魔王は城の中庭に立ちました。辺りには春の穏やかな風が吹いていました。その風が頬をなでるのを感じながら、魔王が一息気合いを入れました。すると、その背中から一対の漆黒の大きな翼が広がりました。

 魔王は振り向いて、庭仕事をしていたサーベント達に、

 「それでは、留守をよろしく頼む。」 

と言いました。

 そしてその翼を一振りして、少女とその愛犬を抱えながら魔王は空高く飛び立っていきました。

 「かっこいい…。」

 魔物達は我らが君主がアルスの国向けて飛んでいくのを眺めていました。



 

  


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