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魔王と勇者  作者: S
1/10

さらわれた姫君

王とさらわれた姫のお話しです。連載に挑戦してみようと思います。ほとんどコメディです。

 「ああ、私はどうなってしまうのかしら。」

 まだうら若き少女は小さく身を震わせて言いました。

 「静かにしろ。その沙汰は、我が主が下す。」

 周りを囲む異形の物達が剣のような鋭い声で言い放ちました。

 ここは魔王城。魔物達が闊歩する国、その国の主が鎮座する所でした。

 少女は人間の国「アルス」の第一王女でした。彼女は知らずに迷い込んだ魔物の森で彼らに捕まり、ここへ連れてこられたのでした。

 「私は知らずにあの森に踏み込んでしまったのです。本当に何も知らなかったのです。お願いですから帰してください。」

  震える声で両脇を囲む者達に哀願するも、冷たくも彼らは何も答えませんでした。


 数刻前、少女はお供の者達と馬車に乗って遠出を楽しんでいました。

 それは、丁度お昼時になった頃、馬車はとある丘の上に停まりました。

 一行は窮屈な馬車からでて、丘の上に伸びをしながら降り立ち、お供の者は直ぐに昼食の準備に取り掛かりました。丘の見下ろす景色はまた格別なもので、普段お城の中しかいない者達の五官を鮮やかにくすぐりました。

 「あら、あの川の向こうに見えるあの森は何という森ですの。」

 少女はお供の者に声を掛けました。

 「姫様、川を挟んでこちら側は我が国の領土ですが、あの川の向こう側、あの森が見える向こう側は古より魔物達が支配する土地でございます。」

 「魔物、まぁ怖いわ。」

 「絶対に、あの川を越えてはなりません。あの森に近づいても成りません。あそこより先は人の知らぬ土地にございます。」

 少女がお供の言葉に震える内に、軽快な声が聞こえてきました。

 「さぁ、お昼にしましょう。」

 食事係の者が、すてきな食卓を整えてくれたのでした。

 しばらく一行は食事と景色を楽しんでいましたが、突然、少女が幼い頃から飼っていた犬の「ジョン」が走り出しました。姫は驚いて立ち上がりました。悪いことに、愛犬は川の向こう側に行こうとしているようでした。

 「ジョン、何処へ行くの。そっちに行っちゃだめよ。」

 少女は、思わず走り出しました。

 「姫様、いけません。危のうございます。お戻りください。あぁ、衛兵、衛兵は何処だ。」

 辺りが騒然とする中、犬はどんどん先へ走り、あっという間に川を越え、森の中に消えてしまいました。

 少女も夢中で追いかけていたので、ついに川を越え、森の中に入ってしまったのでした。

 「ジョン、ジョン。」

 少女は叫びました。その犬は彼女の幼い頃からの大切な友達で、辛かった幼少時代にいつも一緒に居たのでした。

 「まぁ、困ったわ。何処に行ったのかしら。早く見つけないと魔物に見つかってどういう目に遭わされるか解らないわ。」

 勇気を振り絞って、森を歩きましたが、どんどん木々は深くなり、辺りも暗く鬱蒼としてきました。

 「あぁ、心細いわ。もしかすると、道にも迷ってしまったのかしら。」

 やはり、か弱い少女なのでしょう。心細くなると共に、耐えようもない恐怖がわき上がってきました。

 そのとき、ガサっと言う音がして目の前の草が動きました。

 「ジョン?。」

 姫は驚いて身を小さく引きながらも声を掛けました。

 しかし出てきたのは悲劇にも、犬の姿ではなく、人のような姿をした異形の者達でした。

 「人間が何しにここへ来た。」

 少女はあまりの出来事に、口がきけなくなり、その場に座り込んでしまいました。

 無理もありません。その者達は、人のような形ではありますが、背中にはコウモリのような羽根が生えていて、お尻の辺りからはロバのような尻尾、手や足が大きく、指が鍵爪のように長くなっていました。

 「よく見ると、人間の幼い女らしい。我々を偵察しに来た訳ではなさそうだ。それにしてもどうしようか。」

 「身なりも悪くないし、彼岸の国でも身分の高い者だろう。我らの王の判断を仰いだ方が良いかも知れないぞ。」

 「さぁ、一緒に来い。」

 「きゃー」

 

 という訳で、少女は魔物達に捕まり、魔王の前に引き出される事になったのでした。

 「これだけ恐ろしい魔物達ですもの、その王はもっと恐ろしいに決まっているわ。きっと、一息で私を食べてしまうのだわ。」

 さめざめと泣く少女に、魔物達は一瞥をくれただけで、ひとかけらの同情も示さないようでした。

 そうこうしているうちに、謁見の間の大きな扉が開かれて、少女は半ば引きずられるように、中に入りました。

 真正面の玉座に向かって敷かれた深紅のランナーの左右には大勢の魔物達が控え、その件の玉座には一際存在感のある異形の人影が鎮座していました。

 「あれが魔王なんだわ。」

 恐怖で身が竦み、俯いていましたが、両脇の魔物達に腕を捉えられ、そのまま、玉座の段の下に跪かされました。

 「魔王様。こちらが先にご報告致しました者にございます。我らが漆黒の森の西端に侵入致してございます。身分も低からず後難にならぬかと思い、我々としては判断しかねますゆえ、魔王様のご沙汰を仰ぎとうございます。」

 侍従の者がそれだけ言うと、両脇の魔物は恭しく一礼して後ろに下がりました。 

 「これより吟味する、他の者は下がれ。」

 地も割れんばかりの声が響き、侍従も側近の者も、我らが主の吟味を邪魔しないように壁の方に下がりました。

 「その者、何故我らが森に足を踏み入れた。」

 その雷のような声に、小女は益々縮上がって仕舞いました。

 「答えよ。」

 少女は閊えながらも震えた消え入りそうな声で、

 「私はアルスの国の女王テレサの第一王女マリアでございます。私の大切な友人である私の犬がこの森に迷い込んでしまったので、連れ戻そうと夢中で入り込んでしまったのです。あなたたちを怒らすつもりは、全くありませんでした。どうか私たちを人間の国に帰してください。」

 哀れ、少女はこれだけの言葉を絞り出すと、また体を振るわせながら小さくなってしまいました。

 「理由は、解った。しかし、やっかいなことをしてくれた。古より人間どもは我らを敵視し、駆逐せんと数多の兵をよこし、我々を傷つけてきた。増してこの時期に、お前のような身分の者が我が国に入ったとなれば、お前の国の兵がこれに乗じて攻め入らんとも限らない。」

 「王よ、まさにこれが問題なのです。何事もなく帰すのが上策と思われますか。この事件を口実に森を焼き払い、狂信的な者や野心的な者達が攻め寄せてくるかも知れません。その時のために、この者は人質とするのも良いかと思います。」

 「人質…。」

 少女は一瞬ビクッと体を震わせました。

 「ふーむ。人間どもがいくら大挙して押し寄せようとも、我が力の前では塵芥のようなものだが、唯一、アルスの国の聖剣には手こずるだろう。この私でさえ互角か、使い手によっては我が身の方が危ういのかもしれん。そのような者が来たらお前達は皆殺しになってしまう。我が身は良いとしても、王として我が民がそのようなことになるのは許せぬ。」 

 魔王はしばらく考えを巡らせているようでしたが、おもむろに、震えている少女に視線を移すと、

 「そなた、面を上げよ。」

と言いました。

 少女はピクリとも動きませんでした。

 「顔を上げよというのが解らんのか。」

 地も割れんばかりの大声に体をビクッと震わせて、おそるおそる顔を上げました。

 少女は初めてその声の主を見ました。とても美しい顔をしていました。

 細面で褐色の肌。耳はとんがっていました。黒いつややかな髪が真ん中から分かれて、両側の尖った耳の後ろに掛けられていました。目は黒く切れ長の目で、鼻筋はすっと通っており、涼やかな唇は紅く鮮やかで、その隙間からは白く整った歯が覗いていました。体の線はすらっとしていて、全体的には華奢なりにも、無駄のない筋肉が付いているようでした。

 少女は、想像していた魔王との違いに驚き、一瞬止まってしまいましたが、その顔をまじまじと見る内に、ある思いがその胸に去来しました。

 「コタローちゃん?」

 「はぁっ?」

 突然の少女の言葉に魔王の方も一瞬動きが止まりました。


 


  

 

 

 

 

 


 


少しずつ、投稿しようと思います。

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