人魚の宿
阿木と並んで歩いていると、視線が後ろから突き刺さる感じがする。
それは阿木が普通という姿をしていないからだ。
阿木の肌は雲のように透けていて、栄養失調の天使のような肌色であり
阿木の髪は薄気味悪く光る赤褐色でなんとも、・・・マグマのようにぐねっている。
阿木のビジュアルはこの世界では高く賞賛されるようで、汚れた人間が阿木を横目で除いている。
つまり阿木ちゃんはモテモテのようで、僕は感心しています。
阿木「宿はどこにあるのですか?」
阿木の声は低く、俺を安心させる声である、いいね。
俺「もう少し歩いたら見つかるさ。」
あてのない返事をしたが阿木は納得してようだ。
二人並んで、大通りから外れたわき道に入ると、不思議な女が声をかけてきた。
女「私は人魚、貴方の悪夢を食べるバク。」
俺「あいにく、まだ残しておく必要のある夢しかない。あと生臭いのは嫌いだ。」
女のすぐそばで猫が鳴きながら女の足にじゃれ付いている。
魚の匂いでもするのか?
女「今夜寝る予定はあるのか?」
寝る予定?休む場所があるのか?といっているのか?
俺「ああ。」
女「じゃあ、宿につれていっていいか?」
俺「おまえ、宿を知っているのか?」
女「私の経営している宿があるの」
この女宿主だってのか。まあ、いい。変な女にはついていくのが俺の道理。
俺「今夜はこの女の宿に止まると思う。」
阿木に了解をもとめる。
阿木「はい。」
普通は、不安がるのかもしれないが、それより泊まる場所がほしいらしい。
素直でいいことだ。
女に案内された宿は
真っ黒い概観で、細長い形をしていた。
屋根に近い壁になにか書いてある
Mermaid's hotel
人魚の宿、この女主、人魚に執着があるらしい。
女「私の宿だ、さあ入ってくれ。」
俺と阿木は女に続いて宿に入った。
宿の中は水色と紫色をすべてにぶちまけたような色をしていて
床と壁と天井の見分けがつかない。
女「あんたたち、同じ部屋でいいよね?」
阿木「はい。」
俺が決めることじゃないし。阿木がいいなら、まあいいか。
俺「この街の金を持ってない。食料を代金として受け取ってもらえないだろうか?」
女「代金は要らないわ。」
俺「なぜ?」
女「ここには、人魚がいるの。この宿はその人魚に珍しい人間を見せるためにある。」
俺「そうか」
阿木「・・・人魚は自分にもみえますか?」
女「あんたたちには見えるかも。二人とも珍しい人間だから。」
俺「阿木はともかく、俺は・・・」
女「あんたは、珍しいわ。この国にあんたの目の色の男はいないもの。」
俺の目の色?自分では見たことがない。わからんな。