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■□■6■□■

 シュラが就寝したのを確認したあと、私は基地へと戻ってきたのだが……。



「騎士バルザクト。君は言いつけられた仕事すら満足にできないのか」

「申し訳ありません」


 副団長の部屋に入ると、ソファで寛ぎ紅茶を楽しんでいるヒリングス副団長に、真っ先になじられた。

 貴族出の騎士である彼は、金色の髪を後ろになでつけ貸与されるものより良い品の、少々華美に手を入れられた制服を着こなしている。規律違反だが、歴代副団長もやってきたことで、違反を注意する者は居ない。


 いつもなら外遊びから戻っても執務室に来ることなどないのに、今日は一体どうしたのだろうか。副団長の後ろに立つ、私より爵位の高い家の出の年若い従者の視線はいつも通り厳しい。

 ドアの前で直立する私に、副団長は目を眇めた。


「従騎士を付けたそうじゃないか、おめでとう」

「ありがとうございます」

 全然おめでたくなさそうに言われ、私も事務的に返事をする。


「だが、平民なのはいただけないな。いくら君が、極めて平民に近い身分の貴族とはいえ、貴族は貴族。我々の尊き血の一端であることをもっと理解せねばいかん」


 ああ、なるほど。平民出の従騎士を付けた私に文句を言いたかっただけか。

 生粋の貴族である彼にしてみれば、貴族が平民の従騎士をつけるなど、あり得ないことなんだろう。貴族には貴族の血があるのだと言って憚らない、純血主義者。


 内心の毒を表情に出さぬよう注意しながら、軽く視線を伏せる。


「勿論君の一存ではないことは知っている、あの野蛮人のごり押しだということはな。だが、それでも我々は、我々の矜持を貫かねばならん」


 厳かにそんな事を言う彼に内心で失笑を禁じ得ない、我々の矜持? 平民の女性に節操なく手を出し、何度も御実家に尻拭いをしていただいているのは有名な話であるのに。貴族としての節度も知らぬ、シモの緩いお坊ちゃまのくせに。

 喉元までせり上がる悪態を胸で殺し、従順に見えるようにほんの少し肩を落とす。


「君はまだ若いからな、処世というものがわかっていないのだろうが、我々貴族というのはだな――」



 貴族の矜持についての御講釈の後、今回の従騎士の件については仕方ないだろうと結論していただき、解放されたのは入室から一時間程経過してからだった。


 ヒリングス副団長の従騎士から憎々しげな視線を向けられながら、直立不動で行きつ戻りつする御講釈を拝聴するのはよい精神訓練になった。


「では、今日の仕事を頼んだぞ。明朝までに片付けておくように」

「はい、承知致しました」


 深く頭を下げて副団長と従騎士を見送り、足音が聞こえなくなってからそっと部屋の鍵を閉める。代々貴族出の副団長である我が騎士団の副団長室は、とても立派だ。


 ため息を吐く暇も惜しく、団長のものよりも立派な執務机の前に立つ。


 机上に置いてある照明具に手を触れさせて魔力を注ぐと、仕事をするのに十分な光が得られる。注ぐ魔力の量で光量を調節できる型の魔道具は、なかなかいい値段がするけど、いつか自分用に購入したい。


 いつものように机上にある書類を種類毎に仕分けて、それから一気に片付けることにした。

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