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男装の騎士は異世界転移主人公を翻弄する  作者: こる.
第六章

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59/66

■□■8■□■

今回は長めです

誤字脱字報告ありがとうございます!!


 第五騎士団長であるボルテス団長を先頭に、詰め所から騎乗して王宮へと向かう。

 団長も珍しく今日はしっかりと装備を身に纏っている。

 いつもは簡易的な防具しか身につけていないので、なかなかに勇ましく凜々しいお姿だ。

 道行く人々が何事かと見送るなかを宮殿へと入れば、まだ数団しか集まっていなかった。早めに出てきたのだが、一番乗りではなかったようだ。


 団長達が集まる中、我々団員は指示された場所で待機する。

 ボルテス団長もそうだが、辺りの緊張感がいつもとは違う。


「久しいな、騎士バルザクト・アーバイツ」

 親しげに声を掛けてきたのは、第一騎士団所属ピルケス・オルドーだった。

 豊穣の巫女の控え室に粗野なご令嬢を連れて来た御仁で、後日シュラから彼も攻略対象者だと聞いた。

 確かに若くして栄誉ある第一騎士団に所属しており、王の信頼もあつい伯爵家の三男であり、線が細くはあるが容姿が整っている為に、貴族の子女からの人気が高いという噂はきく。

「お久しぶりです」

 どの面を下げてと思う気持ちを抑えて向き直った私に、彼は静かに頭をさげた。

「――あの時は、申し訳ないことをした。あなたが、職務に忠実でいてくれてよかった」

 爽やかな笑顔で謝罪して、握手のために強引に右手を取ろうとしたところを、後ろに控えていたシュラが前に出てそれを阻んだ。

「シュラ、控えなさい。騎士オルドー、礼は不要です。私は私のすべきことをしたまで、もしあなたに反省すべきことがあるのでしたら、それはあなた自身が行うことです、私に謝罪も報告も要りません」

 穏やかな口調を心がけてそう伝えれば、彼は端整な顔に一瞬気まずそうな表情を浮かべたが、すぐに笑顔を浮かべた。

「承知した、感謝する。あれから、我が第一騎士団も心を入れ替えて訓練に臨んできた、あの時のような無様はもう晒さないと誓おう。今日の合同訓練、お互いに全力を尽くそう」

「はい、よろしくお願いいたします」

 お手柔らかにと頼みたいのを堪え、あくまで余裕を持って返事をする私に、彼は少し躊躇ってから一歩近づき声を潜めて忠告をくれた。

 曰く、第一騎士団及び第二騎士団の中には、私に対してよい感情を持っていない人間が数名居るので、訓練では気をつけるようにと。

 軽く手を上げて、自身の所属の待機場所へ戻っていく彼の背を見送る。

「大丈夫ですか?」

 険しい表情になってしまった私に、シュラが心配そうに声を掛けてきた。大丈夫か否かで言えば……大丈夫ではないだろうな。

 薄々気付いてはいた、豊穣の巫女の護衛の時も然り、その前の仮面舞踏会でのことも知られているだろう。とすれば、いい感情がないのはわかりきっている。

「なんとかなるだろう。そう心配するな」

 緊張しているのか顔色の冴えない彼の頬を撫でる。もしかすると私の顔色のほうが悪いかも知れないが、虚勢を張って笑みを浮かべる。

「バルザクト様――」

 彼がなにか言いかけた時、時刻の到来を知らせる声があがり、騎士は前に従騎士は後方に下がり整列する。

 私は第五騎士団の最後尾に付き、正面を向いて直立した。

 各騎士団の精鋭たちが並ぶ中、一際小柄で細い私が浮いているのを苦々しく思いながらも、表情には出さぬように引き締める。

「これより、全騎士団合同訓練を行う! 訓練をはじめるにあたり、スザーレント王太子殿下よりお言葉をいただく」

 第一騎士団長であるジェンド団長の言葉に続き、騎士服に身を包んだ王太子殿下が労いのお言葉をくださる。

 王太子殿下は騎士団の総団長であるので、今回の観覧は理解できるのだが、うしろに王妃殿下と王太子妃殿下がいらっしゃるのがわからないなと思いながら、王太子殿下のお言葉が終わり視線をお二人のほうへ向けると、気のせいだろうか、お二人がこちらを見ている気がする。

 確かに豊穣の巫女のエスコートをしたときに、第五騎士団所属であることをお伝え申し上げたが、だからといって気にされる程の接点はないと思うのだが……。

 我々は力の限り訓練をするだけだが、無様を晒したくはないな。

 気を取り直して周囲の団員をこっそりと見回せば、この訓練で実力を示すことができれば、もっと上の団へあがることができる可能性に高揚しているようだ。

 後方にいるから顔までは見えぬが、前方に並び立つ騎士団長及び実力者達の顔ぶれに、本当になぜ私がここにいるのかわからなくなる。

 せめて魔獣相手ならば、それなりについて行けるとは思うのだが。

 そんなことを考えていると、轟音と共に警鐘が鳴り響いた。

 前に立つ団長達の厳しい視線が王都の外、森のほうへ向いている。それにつられるように視線を巡らせれば、森のある方向が目視できるほどざわめいていた。

 緊急を知らせるのろしが幾本もあがっている。

「第一から第十騎士団は各団長の指示を受け行動せよ」

 王太子殿下の一声に、騎士団長は示し合わせたようにそれに応え、浮き足立つそれぞれの団のもとへゆく。王太子殿下もまた、陣頭指揮を執るために第一騎士団長と共に歩き出した。

 私は他の騎士と共にボルテス団長のもとへ集うと、我々第五騎士団は半分を王都の警備に残し、残りは王都の外にて暴走する魔獣と戦うことを申し渡された。

「貴族組は王都内に残りヒリングス副団長の指示を仰げ、残りは俺に続くようになる。まずは、詰め所で他の団員と合流するぞ」

「はいっ!」

 彼は応えた面々に鷹揚に頷き、先に行くように促してから、続こうとした私を呼び止めた。

「アーバイツ。お前はここに残り、王妃殿下達の守りにつけ」

「は、はい? それは、第一騎士団のお役目では?」

 思わぬ指示に戸惑い、思わずそう問えば、ボルテス団長の顔が面倒臭そうに歪む。

「王太子殿下からの要望だ。いいから行け、お待たせしている」

 彼の視線の先には確かにこちらを窺うお二方がいらした。周囲には護衛の騎士も付いているが、明らかに私を待っている。

「承知致しました。ご武運を祈っております」

「ああ、行ってくる。お前の従騎士は、借りてゆくぞ」

 問答無用の言葉に、シュラが既にこの場を離れていることに気付いた。

 彼が迷宮暴走の戦いに参加するのを納得する気持ちもあるが、なぜシュラを連れていくのだろうという疑問もあるのだが、湧き上がる疑問に蓋をして、お待たせしている陛下達のもとへ駆けつける。

「騎士アーバイツ、ご苦労。王宮に待避する、付いてこい」

「はいっ」

 第一騎士団の熟練の騎士が私を呼び寄せ、先に立って歩き出す。私は戸惑いを隠し、殿下達を間に挟み、最後尾を他の騎士と共に付いていく。

 王宮内を進み、王族の住まう区画にまで入っていく王妃殿下もいるのだから当然なのだが、果たして私の身分でこのように奥まで入ってもいいのだろうか。

 疑問には思うがこれも職務、迷路のような通路を必死に記憶しながら進んでゆく。

 今も外から警鐘が鳴り響いている。

 だが、時折窓から見える騎士団の動きに乱れはないように感じる。もしかしたら、シュラが第一や第十の騎士団長に働きかけて、対策を講じていたのではないか――ああそうだ、なぜ私は自ら迷宮暴走のために行動を起こさなかったのだ? シュラに聞いていたのに、どうして。

 ぞわりと、氷のような罪悪感が臓腑を冷やしてゆく。

「騎士アーバイツ、顔色が悪いわ。ソファにお座りになって」

 王太子妃殿下に心配そうに声を掛けられ、既に部屋についていたことを思い出す。

「いえ、大丈夫です。お気遣いいただき、ありがとうございます」

 血の気が引き、顔色の悪いのを自覚しつつ、微笑みを彼女に向けてから背筋を伸ばして立ち直す。

 部屋には、王妃殿下と王太子妃殿下、そして護衛として第一騎士団の熟練の騎士が二名と私、部屋の外にも三名が配されている。

 私などが室内の護衛についていいものか悩むところだが、問答無用で引き入れられた。

 メイドが殿下達にお茶を用意しているのを横目に、大きく開いた窓にさりげなく視線を向ける。

 見晴らしのよいその部屋からは、王都の外に上がる狼煙も、滅多なことでは閉ざされぬ町の大門が閉められている印の旗が王都を囲む第三擁壁に掲げられているのも見えた。

 今頃は我が第五騎士団の人間も平民出身の騎士は外に向かうと言っていたから、貴族出身の魔力の高い騎士が残され第二擁壁に陣取り、万が一の場合に第二擁壁を起動できるように準備していることだろう。

「本当にはじまりましたわね」

「ええ、スザーレント殿下は大丈夫でしょうか、とても生き生きとして行かれましたけれど……」

「事前に何度も打ち合わせをなさっていたから大丈夫でしょう、それよりも――」

 殿下達の会話から、殿下達はすでにこの迷宮暴走が起こることを知らされていたのだと知る。

 そして、シュラがそれに向けて動いていたことも。

 私だけが腑抜けていたのか。やるべきことをせず、ただ自身のことばかりで……。

 なんて不甲斐ないんだ。

 それに――なぜ私だけ、こんなところに置いていかれた。

 あからさまに、戦いの場から遠ざけられたのをわからない筈がない。シュラはずっと、私のことを心配していたじゃないか、私を死なせたくないと……婉曲に私が弱いのだと言っていた。

 だからか、だから私を置いていったのか。

 この胸を引き絞られるような痛みは、悔しさなのか、悲しさなのか、怒りなのか。

「騎士アーバイツ、近くへいらっしゃい」

「はい」

 不意に王妃殿下に呼ばれ、なんとか落ち着いて返事をして彼女の座るソファの横に膝をついた。優しい香りがする彼女が、更に手招きしたのでギリギリまで近づくと、すこしふっくらした手に革の手袋をした手を取られた。

「王妃殿下?」

 ジッと見つめられ、片方の手で頬を撫でられる。

「あなたの故郷では、成人するまで、子供の性別にかかわらず、男性名を使う風習があるわね?」

 ぎくりと固まりそうになったのを耐えて、なんでもないことのように頷いてみせる。

「はい、そのような風習はありますが、もう随分廃れておりますよ」

 背筋に冷や汗が伝い落ちる。

「アーバイツ子爵家は武家の家系でしたね。バルザクトという名は、闘神の眷属の名だったけと思うのだけれど」

「その通りでございます」

 頭を垂れて顔を伏せた私の背はびっしょりと汗で湿っている。ああ、声は震えなかっただろうか、きっともう……知られているのだろう。

 せめて騎士として凜々しく在りたいと、伏せていた顔をあげる。

 彼女の表情は慈しみ深く、幼き日に失った母の微笑みと重なった。

「騎士アーバイツ。女性の身で、頑張ってまいりましたね」

 ああ、やはりご存じだった。

 静かに顔を伏せ、深く頭を垂れる。

「性別を偽っていたこと、申し開きもございません。いかようにも、処分をお受けいたします」

「覚悟のうえ、なのですね」

 柔らかな声が、顔をあげるように命じる。

「我々も、豊穣の巫女の件がなければ、あなたが女性であることを知ることはありませんでした。あなたは騎士として十分な実力と、並々ならぬ努力でもって、その地位を築いたのだと聞いております。男性と肩を並べるのは、並ならぬことでしたでしょう?」

 尋ねられ、どう答えていいかわからず口ごもる。

「よいのです、無理をして答えぬでも。そなたは、今年いっぱいで退団すると聞いていますけれど、領地に戻るのですか?」


 ――柔らかな口調の王妃殿下に促されるまま、今後の自身の身の振り方を伝えてしまった。まだ幼い弟が家督を継ぐ事が決まっているいま、領地に戻りほとぼりが冷めた頃、年齢を鑑みて適当な家に後家として嫁ぐだろうこと。今まで、女と知られずに生きる為にどうしてきたのかということも、包み隠さずに。


「そんな……、体型を偽るために、そんなに食事を制限するなんて……っ」

 王太子妃殿下が、ハンカチを握りしめながら涙を浮かべているのに気付き、慌てて言いつくろう。

「王太子妃殿下、私は魔力が多い方なので、多少食べなくても大丈夫なのです。私の従騎士から教わったのですが、魔力が枯渇すれば生命力を削り、生命力が足りなければ魔力がそれを補うものなので、不足があれば魔力がそれを補って、私を生かしてくれるのです」

 微笑んでそう伝えれば、王太子妃殿下はハラハラと涙をこぼしてハンカチに顔を伏せてしまった。

「そなた……それは、魔力が無ければ、死ぬということではないのですか?」

「そのような、もしも、は意味が無いことです。私には魔力があり、死ぬこともなかった、それは紛れもない真実ですから」

 王妃殿下にそう伝えれば、ため息を吐かれた。

「そのようなそなただから、騎士としていられるのでしょうね。魔力があれば、女性でも男性に劣らず戦えると言っていたと聞きましたが、それは?」

 第一騎士団長とした会話を思い出す。

 彼はあの戯れ言を他者に語ったのか。

「魔力の扱いに長けていれば、付与や回復を使い……精鋭にはなれずとも、騎士となることは可能です」

「そうね、そなたがそうして、騎士になったのですものね」

 納得したように頷いた彼女にどう返事をしたものか躊躇ったとき――


 城が揺れた。いや、地が揺れたのか。


 全員の視線が窓の外に向かい、その先に森から立ち上るあれは土煙だろうか。もうあれ程大きな魔法を使ったのか、使わねばならないほど逼迫しているのか。

 息を詰めて見ていると、前線と思しき場所で一斉に魔法の掃射が起きた。数秒の間の後、再度床が揺れた。

 森の随分奥まで既に入り込んでいるということは、王宮からではなく、迷宮暴走が確認される前に行動をおこしていたのだろう。ということは、今日という日が来ることを告知されていたのか。


 ざわりと臓腑が熱くなる。

 それが怒りであることは自覚している。だが、彼が私をここに置いて行くことを決めさせた、私の能力の無さが原因なのだろう。

 やり場の無い怒りで震える拳を堪え、王妃殿下に今一度向き直った。


「王妃殿下、性別を偽り、騎士となった罰はいかようにお受け致します。いまひとつ罪を重ねることを、お許しください」


 言い切って立ち上がり、騎士の証であるマントを外し、跪いて王妃殿下にお返しする。


「あの戦いの場へ行くのですか」

「はい」

 マントを受け取ってくださった王妃殿下は、ゆっくりと一呼吸すると凜々しい表情で微笑んだ。

「わかりました、罰は一時保留といたします、必ず戻ってくるのですよ」

 生きることを約束させる優しさに感謝する。

「はい、必ず」

 微笑みを返し、室内にいる全員に礼をして、窓に向かいながら装備に付与魔法をかけてゆく。

「行って参ります」

 時間を無駄にする室内からではなく、窓を開け外に身を躍らせた。


 ちいさく悲鳴が聞こえたのは、王太子妃殿下のものだろうか。


 壁の僅かな凹凸を蹴って勢いを殺しながら、地面に降り立つ。勢いを殺すために深く曲げた膝を伸ばして立ち上がり窓を見上げれば、室内に居た全員がこちらを見下ろしていたので、一礼して身を翻し足を踏み出した。


お読みいただきありがとうございました。

今回は5957文字でした!


ポイント評価の★★★★★をいただけると、超うれしいです!

完結派の方は、完結したときにどうぞよろしくお願いいたします! 完結しますからー!


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