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誤字脱字報告ありがとうございます!
迷宮暴走のルビもスタンピードに訂正いたしました! ご指摘ありがとうございます。
合同訓練の前夜。
魔力を補給するために森へ行ったのだが、様子が違っていた。重い気配に、動物たちが息を潜めている。
森のところどころで恐ろしげな咆吼があがっているのに、静けさもあるのだ。
ギルドは森への進入を禁じ、森のそばを抜ける街道は閉鎖されていた。
薄気味悪さを感じながら、こっそりと森に入り込み、なんとか見つけた魔獣から、魔力を身体が変化しないギリギリまで吸収して帰路についた。
シュラの言う『迷宮暴走』が近いことを、肌で感じる。
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ざわざわする気持ちを抑えながら、装備を身に付ける。
昨夜補給した魔力のお陰でいつもより充実した肉体は、誤差の範囲程度に膨らんだ胸元でこれが騎士としてギリギリの線だ。
「バルザクト様、手袋はこちらをお使いください」
シュラが取り出した革の手袋は明らかに今嵌めているものよりもいいもので、これまでの経験からいくとこれも国宝級のものではないかと思ったが、断る前に右手から手袋を剥がされ、そして素早く新しいものを嵌められた。
「魔力の通りがよく、防御力も上がります。きっとバルザクト様を助けてくれますから」
私が拒否しないでいると左手も取られ、今度はゆっくりと手袋を脱がされた。
「ありがたく借りよう」
「プレゼントです、返品は受け付けません」
まじまじと手を見られぬうちに新しい手袋を受け取り、自分でそれを身につけた。
はじめて付けるのに恐ろしい程しっくりと馴染んだ。緩みもキツさもなく、感嘆の息を飲み込む。
「あともう一つ、髪留めがあるので、こちらのソファにかけていただいてもよろしいですか」
請われてソファに座ると、彼の手が私の髪を結わえて紐を外し、持っていた櫛でゆっくりと髪を梳いてくれる。
心地よさに目を閉じて、彼の手に身を任せた。
「よ……っと、あれ? ええと……うまく……難……っ」
髪をまとめる段階になって、髪を引かれたり、何度もやり直したりする彼に思わず笑ってしまう。
「大丈夫だ、私がやろう」
彼の手から櫛と紐を受け取り、いつも通りにきっちりとまとめると、頭がすこしすっきりして体がすこし軽くなった気がする。
髪を弄ってもらったことで、気分転換になったのは確かだが、それだけではないのだろうな。
「どうだ? 結べたか?」
「はいっ、いつも通りかっこいいです」
手探りで結んだが、大丈夫だったようだ。
櫛をシュラに返し、手早く防具を身につけ、腰に剣を提げる。全装備を付けると身が引き締まる。
「では行こうか」
微笑んで彼を振り向けば、彼は力強く頷きドアを開けた。




