表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
男装の騎士は異世界転移主人公を翻弄する  作者: こる.
第六章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/66

■□■4■□■

※バルザクトがギルドのお仕事で魔獣討伐中です。


誤字脱字報告、本当にありがとうございます!

 これは、確かに魔獣の数が増えているな。

 迷宮暴走スタンピードの予兆であるといわれても、納得はできる。


 山中を走りながら、出てくる魔獣が多いことに危機感が増す。

 付与で速度を上げて本気で走った私に追いつける魔獣はそうそういないし、逃げ切れる自信はあるのだが、これらが暴走して王都の方に向かったらと思うと、ぞっとする。


「うわぁぁっ!」


 数匹の魔獣から魔力吸収ドレインを行っていると、遠くから悲鳴が聞こえて進路を変えた。

 採取に来ていたと思しき少年がぐったりと横たわり、その父親が彼を守るように、周囲に居る数匹の魔獣に向かって剣を振って威嚇している。


「助太刀いたします」

 顔を見られるとあとが面倒かも知れない、フードを目深に被って駆け寄る。


「へぁっ?」


 小型の魔獣なので、ここで流血させるよりは退かせた方がいいだろうと、父親の前に立ち、魔力を練って威嚇を発動させる。

 うしろで倒れている少年が惜しいのか、魔獣たちはすこしだけ粘ったものの、一閃、剣を振れば、あっという間に散っていった。


「エルク! エルクしっかりしろっ!」


「と……さん」


 切羽詰まった声に振り向けば、父親が息子にすがりついている。


 噛み傷がたくさんついており、先程の魔獣たちに食われかけていたのだとわかる。

 ああ、さっき多めに魔力を吸っておいてよかった。

 膨らんだ胸元を押さえる息苦しさを感じるくらいには、吸い過ぎていたから、丁度良いともいえる。


 父親が抱きしめて離さない少年の脇に膝をつき、その血まみれの頬に手を添え、回復させるべく魔力を流す。

 大量の魔力が、彼を治すためにどんどん流れていき、やがて魔力の流れが止まった。


「あれ……? あれ? おれ、生きてる?」


「回復魔法は掛けたが、無理はするな」


 立ち上がれば、苦しかった胸元がわずかに楽になっているのに気付く。

 完全回復の魔法というのは、馬鹿みたいに魔力を食うのだと実感する。


「あ、ありがとうございます! ありがとうございます! このお礼は――」


 少年にすがりついていた父親が、涙を流して私に感謝してくる。


「礼はいらん。魔獣が活性化している、すぐに戻れ」

 フードを目深に被りなおし、靴に付与魔法をかけて飛び上がり、木の上を走った。あの二人について安全な場所まで送ってやればいいかも知れないが、近づいてくる強そうな魔獣の気配にそうもいかなかった。


 目に付く魔獣から魔力吸収で魔力を取り込み、戦闘の準備をしながら近づいてゆく。


 あの一角の魔獣の気配とは違う、あれは魔獣だが、澄んだ気配だった。だがいま向かっている相手は、禍々しさが強い。

 首筋にチリチリと静電気が流れるような痛みを感じる。

 だが、不思議と負ける気がしない。

 吸い取った魔力が血のように体を巡るのを感じ、強い充実感に高揚しながら、地を駆け、枝を蹴る。

 フードが外れ、髪がなびく。

 ああ、思うさま魔力を吸い取ってみたい。

 どんな心地がするのだろう、そら恐ろしさも感じるけれど、果てしなく興味深い。

 そうだ、騎士団を辞めたら、一度思い切り魔力を蓄えてみよう。

 お腹いっぱい美味しいご飯を食べるのもしなくてはな。

 その前に、シュラの憂いを晴らさなくてはいけないか。

 迷宮暴走という言葉は恐ろしいが、どれ程のものなのか想像もできない今は、ただ自分を鍛え続けるしかないのがもどかしい。

 目標が曖昧なのは、やりにくいものだな。


 灰色の毛皮を持つ魔獣が私に気付いて牙を剥く。


「我が礎になってもらおう、灰色の魔獣よ!」


 吠える魔獣に、剣を抜く。

 私が威圧を発そうと、怯まない。むしろ、威圧仕返してくるその強さ。

 ざわざわと鳥肌が立ち、そして武者震いがおきる。戦えと、私の中の私が鼓舞する。

 グローブに魔力を通して握力の底上げをして剣を握り込み、勢いを殺さぬままで切り込んでゆく。




 灰色の魔獣の牙と爪に苦戦したものの、問題なく勝利を収めた。

 いや、多少障りはあるな、革の胸当てに胸が押し潰されて息苦しい。

 存外魔力が多い魔獣だったので、魔力を取り込みすぎて十全たる肉体に戻ってしまったのだろう。

 吸い上げた潤沢な魔力を使い自身の負傷を回復させ、討伐証明部位である尾を切り、浄化で剣と我が身の汚れを落として、それでもまだ余りある魔力を使い、倒した魔獣を強い炎で焼き尽くす。

 いつもならば地に埋めるのが精々なのだが、魔力が多いとこんなこともできるものなのだなと、魔獣を焼きながら吐息する。

 だが、まだまだ余力がある、肉体が元に戻らない。

 そういえば、最近見ていなかったが、現在どれ程魔力があるのかをステータスで確認できるのだったな。


「確か、最初は七十少しだったな。今は……二二二? ぞろ目か。これを、七十に戻せば体は元に戻るんだろうな。とすると、魔力消費の多い魔法を多用すればいいのか」


 爆裂系の放出魔法は魔力消費が多いが、使いどころが制限されるのだよな。

 地形を変えてしまう場合もあるわけだし迂闊には使えぬか、とすれば効率がいいのは治癒魔法だな。

 怪我の具合によって必要な魔力量が変わるから、不謹慎ではあるが、けが人が居ればいいなと思いながら森を走る。

 見かけた小物の魔物を屠り、なんとか胸当てが苦しくない程度まで魔力を無駄遣いできた。

 すっかり日も落ちてしまい焦りながら森を走っていると、覚えのある恐ろしい気配を前方に感じて思わず舌打ちをする。

 どうやら向こうも私に気付いているようだ。数度進路を変えたが真っ直ぐに私に向かってくる。


 腹を括るか。


 開けた場所を見つけ、周囲に光を弱くした発光玉を配置してから魔力を練る。

 ゆっくりと現れた青白い靄を纏った一角の魔獣は、以前より一回り以上体格を大きくしていた。

 恐ろしさに肌がピリピリとざわめく。


 一角の魔獣は苛立たしげに前足で地面を掻くと、白目のない漆黒をこちらに向け、殊更にゆっくりと近づいてくる。


 今日は周囲に他の魔獣が居ない。

 あれ程に周囲に魔獣を従えていたのに、一体どうしたことだと気がついたのは後日で、私は呼吸をするのも苦しいほどの重圧の中、一角の魔獣から目を離すことができなかった。


 ヤツの青白い靄……魔力であるそれが、意思があるように私に向かって伸びてくる。


 押し殺すような殺気というか、荒々しい気はあるし時折苛立つように足踏みをしているが、一角の魔獣は一定以上は近づいてこず、ただ、前に見たよりも濃い青白い靄を私に向けてくるだけだった。

 なにがしたいのだと問いたいが、口を開くことも憚られる空気の中で、必死に頭を働かせる。

 どうすればこの場を生きて逃れることができるのか。

 ムッとするほどの魔力が私を覆い、目前にいる魔獣すら霞んで見える。冷や汗と、激しい心臓の音と、自身の呼吸音がうるさい。

 剣を振るわねばと思う肉体は、押さえつけられたように動かない。

 どれ程の時間、対峙していただろうか。やがて、一角の魔獣は姿を消した。


「は……ぁっ」


 ぜぇはぁとみっともなく喘ぎ、地に膝をつけた私はそのまま地に倒れ仰向けになり、呼吸が整うまで草の間に無防備なまま寝転がっていた。

 一角の魔獣の魔力の残滓があるからだろう、周囲に獣が寄ることはなく、私は自身の無力さを痛感しながら星空を睨み付けた。


 まだまだ駄目だった。


 二度目の遭遇は、一度目の時よりもよっぽど無様に終わった。

 あれの心ひとつで、殺されていてもおかしくはなかった。

 私が生きているのはあれの気まぐれでしかないと理解している。

 悔しい、私は何匹もの魔獣を屠り、強くなったと思っていたのに、あれのひと睨みで動けなくなる程度でしかなかった。

 まだ周囲に残るあれの魔力のお陰で、私はいま安全を確保されているというのも腹立たしい。

 重い体を起こし、無理矢理立ち上がる。

 あれが立ち去って暫く経つのに、いまだ残る魔力の残滓が腹立たしい。力の差を見せつけられているようだ。


魔力吸収ドレイン


 一帯に残る魔力を吸い上げてしまう。本体から吸い上げるのとは違ってさほど量はないが魔力が満たされて、満足を感じる。


 魔力を吸い取ったことで威圧感がなくなり、集まってくる獣の気配に気付き、長居は無用と、付与魔法をふんだんに使いながら帰路についた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ