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「いと尊き天に坐します豊穣の神よ、汝を愛すしもべたるエルティナは希う。大空より慈雨を、大地に慈愛を、天と地の狭間に生きる子らに祝福を」
静まりかえった聖堂の祭壇の前に跪いた豊穣の巫女エルティナは、眼前の美しいステンドグラスから差し込む柔らかな朝の日差しを純白の巫女服を着たその身全てに受けて、神々しさを感じるほど立派に祝詞をあげた。
私の手を握って震えていた彼女が立派に大役を果たす姿を、感慨深く見守る。
聖堂の中には、王族と上位貴族と神官たちが静かに並び、周囲には護衛騎士たちが居並ぶ。
勿論聖堂の外も、多くの騎士に守られている。
私は豊穣の巫女の付添人として、この場に同席していた。
本来は巫女の護衛騎士が在る場所へ、一般的な黒い巫女服を着て顔半分を薄い紗で覆い、納まっている。
ああ、いっそ顔面すべてを覆ってしまいたい。
事情を知らず、怪訝な顔で見る人も居るので、居たたまれなさがある。
一応うっすらと化粧をし、きつめの目元をすこしでも和らげるように眦を下げているし、肉襦袢もしっかりと着用して胸元と腰回りを盛っている。
とはいえ、王族と神官たちには話が通っているようで、そちらの皆様は皆見て見ぬ振りをしてくださっている。
きっと女装の騎士だと、周知されているのだろうな……。
高貴な席からのあからさまな好奇の目がないだけ、よしとしなくては。
反応が恐ろしくてそちらへ顔を向けることはできないが、これだけ厳重な警備なので、聖堂での儀式は気を張らなくていいことだけありがたい。
祝詞を終えた豊穣の巫女と共に、控え室でも付き添ってくださっていた神官が、立派な法衣を着て儀式を進行している。
あの方が、大神官だと気付かなかった。
言い訳をするならば、平時の彼は傲慢さの欠片もなく、穏やかな人物で、いま祭壇に立っているような神々しさがないのだ。
だから、大神官なのかも知れない。
粛々と神に捧げる一連の儀式は終わった。
あとは、巫女が受け取った神の祝福を、民へと振る舞うパレードだ。
祭壇からおりた巫女の手を引いて彼女を控え室まで誘導し、軽く休憩をしていただく。
「ご立派でしたよ、エルティナ様」
二人きりの室内で私は彼女を労い、お茶をお出しする。
「ありがとうございます。ああ、まだ体が火照っておりますわ。祝詞の奏上が終わったと共に、ステンドグラスから神の御光がわたくしを包んで。あのようにして祝福を授かるのですね。とても温かくて、優しくて――とても、泣きたくなってしまいましたわ」
「そうなのですね」
心地よさげな溜息と共に邂逅する彼女に、微笑んで頷く。
余韻を味わうように目を閉じた彼女の邪魔にならぬように、気配を消してドアの脇に控えた。
今回はシュラが潜り込むことがなくてよかった、私が不甲斐なくて心配になるのだろうが、私とてこの国の騎士。
幼子のように心配されるのは、正直嬉しくない。
そういえば、この巫女の件も『イベント』なのだと彼は言っていたな。
『はぷにんぐちゅう』というものに嫌にこだわっていたが、結局なんのことかわからずじまいだ、ちゃんと聞いておけばよかっただろうか。
シュラがちゃんと訓練をしているか心配になったころ、ドアがノックされてパレードの準備ができたことが知らされた。
あけましておめでとうございます!
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
今年こそバルザクト様を完結させたいと、いや、完結させますので!!
最後までお付き合いいただけたら、とても嬉しいです。
2020.1.7 こる




