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男装の騎士は異世界転移主人公を翻弄する  作者: こる.
第五章

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43/66

■□■2■□■

|ω・`)お、お久しぶりです。

 覚えてますか? 男装騎士のバルザクトです。

 第一騎士団からの要請で、男嫌いの豊穣の巫女の護衛として女装で乗り込むところです。

 第一騎士団長である、ジェンド団長は平凡顔ですが、人当たりのいい紳士でした。

 あと、うちの従騎士であるシュラは、駄々こねそうなのでお留守番です。


 第一騎士団長であるジェンド団長は紳士的に、慣れぬスカートに遅くなりがちな私に合わせ、とりとめもない話題で繋ぎながら神殿にたどり着いた。


「ご足労いただき、ありがとうございます」

 扉の前で待っていた老齢の神官が、ゆっくりと頭をさげる。

「今年もよろしくお願い致します。こちらが、この度、豊穣の巫女の護衛を務めますアーバイツ嬢です」

 ジェンド団長に紹介されて、頭を下げた私に対する、神官の表情は芳しいものではなかった。

「本当に、女性を用意なさったのですね。そのような細腕で、巫女を守れるのですか?」

 もっともな不安だろう。そう納得したのは私だけだったようで、ジェンド団長は僅かに目を眇めて顎を引いた。

「そちらから、当代の巫女は男嫌いだからと、女性の護衛を求められたはずですが?」

「え、ええ、そうですとも。ですから、こうして護衛を用意していただいて、感謝はしているのですが。守れぬ者ならば、どうしようもないのでは、と」

「なるほど、実力に疑問がある、ということですか」

 柔らかい声音なのに、冷えて聞こえるジェンド団長に、神官は気圧されたように目を彷徨わせる。

「そこまでは、言っていないではありませんか」

「言っているでしょう」

 言っていましたね、確かに。

「アーバイツは細腕ではあるが、あなたに侮られるような、弱い者ではございませんので、どうぞご安心ください」

「しかし、ですな。口ではなんとでも」

 いっそう厳しい視線に貫かれて、しどろもどろになりつつも言い募る神官に、ジェンド隊長はあからさまに溜息を吐き出した。

「わかりました、では、あなたの心配が杞憂であることを証明いたしましょう。庭をお借り致しますよ」


 神殿の左手側に歩いて行くジェンド団長に、私と神官がついて行くと、すぐにひとけのない空き地に出た。

「軽く流してみようじゃないか、アーバイツ」

 剣を抜いたジェンド団長に笑顔を向けられ、私も腰の剣を抜いた。

「お手柔らかにお願い致します」


 礼をしながら、第一騎士団の団長と手合わせをするなど、これから先もありはしないだろうということに気付いてしまった。

 突然降って湧いた得がたい機会に、胸が高揚してくるのを感じながら、腰を落として呼吸を整える。

 戦闘狂ではないが、シュラと出会ってから、訓練を楽しく思うようになったのは否めない。

 私の気合いに気付いたのか、ジェンド団長の表情が引き締められた。


「では、参ります」

「こい」

 薄い革で作られた手袋に付与魔法を掛けて握りを強くし、瞬間的にブーツに付与魔法を掛けて地面を蹴り、一直線に彼の懐を目指す。

 一瞬で間を詰めて胴を薙ごうとしたところを、ジェンド団長の剣が振り下ろされ、咄嗟に横に飛んでその剣を躱し、距離を取る。

「いい気迫だ」

「一撃入れるつもりだったのですけれど、そう簡単にはさせてくれませんか」

「これでも、第一を背負っているのでな」

 口は軽口だが、私も彼も口調ほど軽い気持ちは持っていない。

 奇襲が失敗してしまい、分が悪くなってしまったな。

 だが、向こうの剣を受けることなく、躱すことができるのがわかった。

 やりようによっては、勝ち目がないわけじゃない。


 呼吸を整え、意識を彼に集中すると、ゆらりと空気が揺れて、彼の周囲にあの魔獣と同じように靄が掛かって見えた。

 あの魔獣と同じだけの魔力、ということか。さすがは、第一騎士団団長、化け物めいている。

 ゾクリと身の内が震えるのを気力で堪え、彼を見据える。

 いい機会じゃないか、次にあの一角の魔獣と対峙する、前哨戦だ。

 彼に向かって行くことができねば、あの魔獣と戦うこともできない。


「くくっ、お前を引き抜けば、ボルテスが怒りそうだな」

 軽口を叩く彼に返事をすることもできず、隙をうかがう。

 魔力の靄は彼にまとわりついているだけで、こちらを威圧することはないものの、緊張に汗が頬を伝う。

 これ以上消耗するのは、私の体力的に不利になりそうだ。ということは、正攻法では勝機は低いだろう、ではどうすればいいだろう。

 低くした姿勢で、剣を軽くする魔法を掛け、右手だけで持つ。


「ほう? 面白い構えだ」

 奇をてらっているだけと見て取ったのかニヤリと笑った彼に向かい駆け出す、ブーツに掛ける付与魔法はまだ弱く、彼の間合いに入ると同時に強化して速度を一気に乗せる。

 スカートが邪魔でいつもの歩幅が取れぬのがつらいな。

「はっ!」

 剣を地面すれすれから突き上げる瞬間に、剣に掛けていた軽量の魔法を切り、突きに重さを乗せる。

 咄嗟に剣の軌道から身を躱した彼の動きを見て、瞬時に剣に軽量の付与を掛けて強引に軌道を変えて剣を横に薙ぐ。

「くっ! やるなっ」

 剣が彼の胴に当たる瞬間に、彼の周囲にある靄のように見える魔力が動き、彼の周囲を囲って剣を弾いた。なるほど、魔法が発動すると、あんなふうに魔力が動くのか。

 そう考えたのは一瞬で、彼の魔力が動くのを見て、慌てて横っ飛びに飛ぶ。


 パシュッという軽い音を立てて、私の立っていた地面に傷ができた。


 地に転がりながら、それを目にして気分が高揚する。

 詠唱もなく魔力で風の刃を飛ばしたのか、あるいは魔力でつぶてを弾いたのか、なかなか姑息な手を使うものだな。

 騎士の花形ともいえる第一騎士団が、泥臭い真似もするとは、面白い。

「あれを避けるのか」

「こちらの服装を考慮して、手加減していただけると嬉しいのですが」

「すまんな、楽しすぎた」

 立ち上がり、黒いスカートについた土を払いながら文句を言うと、彼は愉快そうに笑って剣を鞘に戻してしまった。

 ああもう終わりなのか、落胆と共に気を抜くと、彼の周囲に見えていた魔力の靄が消えた。


「そんな顔をするな。続きはまた今度だ、動きやすい服で十分な力を出せる時のほうが、君もいいだろう?」

「そうですね、ではまた今度お願いいたします」

 笑いながら肩を叩かれたものの、本当に次があるとは信じないままにお為ごかしの笑顔を向け、剣を鞘に戻して返事をする。

 所詮私は第五騎士団の平団員であり、彼は騎士団の頂点である第一騎士団の団長なのだから、期待するだけあとで落胆することになるだろう。

 離れた場所でこちらを見ていた神官の元へ歩く彼のうしろに続いて歩きながら、汚れた服に清浄の魔法を掛けておく。


「さて、神官殿、これでよろしいか? ウチの秘蔵っ子を出してると、理解していただけましたか」

「あなた様と渡り合える女性がいるとは。アーバイツ様、先程は失礼を申しました、どうぞ豊穣の巫女の護衛をよろしくお願いいたします」

「こちらこそ、よろしくお願いいたします」


 神官の謝罪を受け入れてこちらも礼を返すと、ここまで一緒だったジェンド団長が帰ってしまった。


 忙しいだろう彼なので、他に任せずに神殿まで付き添ってくれたことがありがたいものの、ここから先は一人で行かねばならぬのが少々不安ではあった。

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