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「やっぱり、仮面舞踏会イベントだったぁっ!」
顔を覆って嘆くシュラの背を軽く叩く。
「内緒だと言っているだろう。大きな声で言うな」
守秘義務はあれど、万が一仮面舞踏会だった場合は教えてくれと言われていた為、やむを得ず彼に伝えたとたんこれだ。
「バルザクト様、絶対に変な男に付いていかないでくださいね。この舞踏会は、人身売買まがいの、売春斡旋の現場なんです。万が一、あなたの身になにかあったらっ」
「女装しているのがバレてしまうな」
シラッとそう答えれば、両肩を掴んだ涙目の彼が頭を横に振る。
「そうじゃなく! もしかしたら、そのまま喰われちゃうかもしれないでしょ! 身の危険を感じてくださいっ」
「喰われるって、私がか?」
苦笑いしてソファに座る私に、彼は目前に跪いて私を見あげて真顔で頷く。
「薬を飲まされて身動きが取れないうちに、部屋に連れ込まれます。第一騎士団の隊長との好感度が高ければ、服を脱がされる前に救出されますが、そうで無い場合は……」
濁された言葉に思わず顔をしかめる。
「ともかく、いまから好感度を上げるのは難しいですし」
「そもそも私が好感度をあげても、関係あるのか? それが関係するのは、ヒロインだけではないのか」
私の指摘に、アッと声をあげた彼が、一層眉間にしわを寄せて悩み出す。
「やっぱり、自分がこっそり潜入して、万が一に備えましょう」
「第一騎士団が潜入捜査してる場にか? それに会場は貴族の邸宅だぞ、万が一見つかれば、犯罪者として首を刈られても文句は言えん。首一つで納まればいいが、最悪の場合、第五騎士団にまで累が及ぶ」
「じゃぁ、どうすればいいんですかっ」
声を荒げる彼の肩を宥めるように叩いて、ソファから立ち上がる。
「どうもせずともよい」
「それなら、せめて、これだけは使ってください」
そう言って彼が空中から取り出したのは、黒を基調とした布製の仮面だった。
「幽幻蝶の繭から作った、意識阻害の効果を持つ仮面です。流す魔力の量によってその効果が変わります。あとは、ナイフを装着できるガーターベルトと、これ革紐に見えますが立派な武器で、相手の隙をついてきゅっと締めちゃってください。あとはこの五本指の指輪も装備してくださいね」
「これは指輪ではなくて、ナックルダスターだろう」
「自分のとこでは、メリケンサックとも呼ばれていました」
一目で武器とわかる物を持たせようとする彼に、押し返す、勿論ナイフなどの武器もだ。身を改められることはないと言い切れないのだから、不用意なものを持ち込むわけにはいかないだろう。
「せめて! せめて、この仮面だけは使ってくださいっ」
仕方なく、懇願された仮面は受け取ることにした。
短すぎるので、今日はもう1本夕方UPします。




