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ジェンド団長の話は迂遠ではあったが、趣旨を理解することはできた。
「では私が女装をし、ジェンド団長のパートナーを務めればよろしいのですね」
「折角、君を傷つけないように、柔らかく表現してみたんだがなぁ」
端的にまとめた私の言葉が不服らしく、人好きのする顔を哀しげに歪めてみせる彼にちいさく笑みを返す。おかしいわけではないが、このての人物にはそうしておいたほうが、円滑にはなしが進む。
「お気遣いありがとうございます。ですが、私のような形で、団長に恥を掻かせることにはならないでしょうか」
「彼よりは、全然いい」
立てた親指で後方に立つ従騎士を指さす。確かに細身ではあるが筋肉質で、男らしい顔立ちの彼には荷が重そうだ。
「なるほど」
私が真顔で同意すると、従騎士の彼は怒っていいのか笑うべきなのか判断しかねたような、変な顔をする。
「舞踏会とはいえ、仮面を付けてのものだ。万が一、君を知る騎士が来ていても、顔を知られることはないだろう。このことは、ここに居る三人以外は知らぬ事だ。君の不名誉は決して外に漏らさぬと誓おう」
「それは、ありがたいです」
女装姿を同僚に見られることがないのは、ありがたい。
「潜入捜査ではあるが、君には入退場時のカモフラージュを手伝って欲しい」
「承知致しました」
端的に、実働は自分たちが行うので、お前は会場ではおとなしくしていろ、ということか。
簡単なお遣い仕事だな。第五の人間には、分相応だ。
日時と場所を確認した後、その足でジェンド団長に指定された部屋へと向かった。
そこで既にできあがっているドレスを数着試着させられる。
「華奢でございますね」
大きく作られているのだろうが、丈の合うものは全体的にブカブカとだらしなくなってしまう。
「コルセットも用意しておりましたのに。これでは、肉襦袢を着ていただかなければなりませんね、さて、どうしたものか」
「はぁ……申し訳ありません」
私が着ている服を引いて、あまりを見ていた紳士のため息に、思わず謝罪してしまう。
「全体的に縮め、腰には少々布を巻いて肉を嵩増し致しましょう。胸は既存の膨らみを足せる商品がございます」
そう言って取り出された、胸元が膨らんでいる胸下までのシャツを渡され、衝立の向こうで着用させられた。
シャツの下についているリボンを引き締め、もう一度ドレスを着れば、ちゃんと胸ができあがっていた。
「もう少々盛ってもよいかも知れませんね」
衝立から出てきた私の胸元をマジマジと見て言った紳士に、このくらいで勘弁してほしいと頼む。
「そうですか? 残念ですね」
紳士はあごひげをしごいて矯めつ眇めつ私の胸を見てから、やっと諦めたのか視線をあげた。
「あなた、絶対に男だとばれてはいけませんよ。女性陣から袋だたきにされかねません」
「は?」
「一級の女優に張り合う程の細腰をもった男性など、女性の怒りを買うに決まっているじゃありませんか」
きっぱりと言い切る紳士に、そんなことはないだろうと肩をすくめると、女性の妬心を甘く見てはいけないと説教されてしまった。
「では、もし私が女性だとしたら?」
「まぁそれでも、羨まれるのは避けられませんな」
どっちにしても駄目ではないかと肩を落とす私に、紳士は楽しげにそれもそうだと頷き、他にも必要な小物の用意をして、一式を私に付けさせた。
「服の余りを詰めれば、見られぬこともありませんな。なにか不具合はありますか」
「動き難いです。肩周りと、足周りに余裕がなくて、どうにかなりませんか」
未亡人のような喉元を隠すハイネックはいいのだが、身に沿った流れるようなラインのスカートは足にからまるようで、実に歩きにくい。
「淑女はもっと狭い歩幅で歩くものです。腕も、肩より上にあげることはありません」
そう言ってダンスのホールドの姿勢をしてみせる紳士に、なるほどそういうものかと納得する。だが、本当に動きにくいのだ。
再度頼めば、渋々と修正を受け入れてくれた。
「しかたありませんね、裾と肩周りに少々手を加えて参りましょう」
「是非、よろしくお願いします」
私は紳士と固く約束をして別れた。




