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男装の騎士は異世界転移主人公を翻弄する  作者: こる.
第三章

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■□■2■□■

 ジェンド団長の話は迂遠うえんではあったが、趣旨を理解することはできた。

「では私が女装をし、ジェンド団長のパートナーを務めればよろしいのですね」

「折角、君を傷つけないように、柔らかく表現してみたんだがなぁ」

 端的にまとめた私の言葉が不服らしく、人好きのする顔を哀しげに歪めてみせる彼にちいさく笑みを返す。おかしいわけではないが、このての人物にはそうしておいたほうが、円滑にはなしが進む。

「お気遣いありがとうございます。ですが、私のようななりで、団長に恥を掻かせることにはならないでしょうか」

「彼よりは、全然いい」

 立てた親指で後方に立つ従騎士を指さす。確かに細身ではあるが筋肉質で、男らしい顔立ちの彼には荷が重そうだ。

「なるほど」

 私が真顔で同意すると、従騎士の彼は怒っていいのか笑うべきなのか判断しかねたような、変な顔をする。

「舞踏会とはいえ、仮面を付けてのものだ。万が一、君を知る騎士が来ていても、顔を知られることはないだろう。このことは、ここに居る三人以外は知らぬ事だ。君の不名誉は決して外に漏らさぬと誓おう」

「それは、ありがたいです」

 女装姿を同僚に見られることがないのは、ありがたい。

「潜入捜査ではあるが、君には入退場時のカモフラージュを手伝って欲しい」

「承知致しました」

 端的に、実働は自分たちが行うので、お前は会場ではおとなしくしていろ、ということか。

 簡単なお遣い仕事だな。第五の人間には、分相応だ。

 日時と場所を確認した後、その足でジェンド団長に指定された部屋へと向かった。

 そこで既にできあがっているドレスを数着試着させられる。

「華奢でございますね」

 大きく作られているのだろうが、丈の合うものは全体的にブカブカとだらしなくなってしまう。

「コルセットも用意しておりましたのに。これでは、肉襦袢を着ていただかなければなりませんね、さて、どうしたものか」

「はぁ……申し訳ありません」

 私が着ている服を引いて、あまりを見ていた紳士のため息に、思わず謝罪してしまう。

「全体的に縮め、腰には少々布を巻いて肉を嵩増かさまし致しましょう。胸は既存の膨らみを足せる商品がございます」

 そう言って取り出された、胸元が膨らんでいる胸下までのシャツを渡され、衝立の向こうで着用させられた。

 シャツの下についているリボンを引き締め、もう一度ドレスを着れば、ちゃんと胸ができあがっていた。

「もう少々盛ってもよいかも知れませんね」

 衝立から出てきた私の胸元をマジマジと見て言った紳士に、このくらいで勘弁してほしいと頼む。

「そうですか? 残念ですね」

 紳士はあごひげをしごいてめつすがめつ私の胸を見てから、やっと諦めたのか視線をあげた。

「あなた、絶対に男だとばれてはいけませんよ。女性陣から袋だたきにされかねません」

「は?」

「一級の女優に張り合う程の細腰をもった男性など、女性の怒りを買うに決まっているじゃありませんか」

 きっぱりと言い切る紳士に、そんなことはないだろうと肩をすくめると、女性の妬心を甘く見てはいけないと説教されてしまった。

「では、もし私が女性だとしたら?」

「まぁそれでも、羨まれるのは避けられませんな」

 どっちにしても駄目ではないかと肩を落とす私に、紳士は楽しげにそれもそうだと頷き、他にも必要な小物の用意をして、一式を私に付けさせた。

「服の余りを詰めれば、見られぬこともありませんな。なにか不具合はありますか」

「動き難いです。肩周りと、足周りに余裕がなくて、どうにかなりませんか」

 未亡人のような喉元を隠すハイネックはいいのだが、身に沿った流れるようなラインのスカートは足にからまるようで、実に歩きにくい。

「淑女はもっと狭い歩幅で歩くものです。腕も、肩より上にあげることはありません」

 そう言ってダンスのホールドの姿勢をしてみせる紳士に、なるほどそういうものかと納得する。だが、本当に動きにくいのだ。

 再度頼めば、渋々と修正を受け入れてくれた。

「しかたありませんね、裾と肩周りに少々手を加えて参りましょう」

「是非、よろしくお願いします」

 私は紳士と固く約束をして別れた。

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