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男装の騎士は異世界転移主人公を翻弄する  作者: こる.
第二章

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25/66

■□■10■□■

 翌朝私は、顔を腫らしたシュラに驚くことになる。


「どうしたんだ、一体!」

 治癒の魔法を使おうと手を伸ばした私から、彼はひらりと身をかわす。その表情は昨日よりもよっぽど明るかった。

「大丈夫、自分でできますから。これは、気合いを入れるために、カロル団長にかつを入れてもらったものだったので。自戒のために朝まで残しましたが、仕事だからちゃんと治します」

 喋るのも痛そうにそう説明してから、自分の手を頬にあてて魔法を使った。私は伸ばしていた手を下ろし、呆然とする。

「カロル団長といえば……第十騎士団長じゃないか。一体どこで」

「それは、すみません。どこで会ったのかは秘密です」

 そう言って照れくさそうに笑う彼に、胸が鈍く痛んだ。そうか……私では昨日の彼の悩みを打ち明けられることすらなかったのに、昨日出会ったばかりのカロル団長は、こうして彼が笑えるほどに憂いを取り除くことができたのか。

 だが、彼の頬があれだけ腫れるくらい殴るのはいただけない、まさか第五騎士団所属だからと甚振られたわけではなかろう。いや、面識はないが人徳のある人物だと聞くし、なにより平民の最精鋭部隊であるあの第十騎士団をまとめる傑物なのだから。

 ああ駄目だ、考えが上手くまとまらない。そのうえ、あり得ない、くだらない考えまでてでくる始末だ。

 深く息を吐き出して気持ちを切り替えていると、朝食をとるために部屋を出て行こうとしていた彼が振り向く。

「バルザクト様? 行きましょう」

 エスコートするようにドアを開けて私を待つ彼の笑顔に、私は胸の奥にくすぶるわだかまりに蓋をして足を踏み出した。


   ◇◆◇


 あの日から、シュラはしばしば私と別行動するようになっていた。

 そして、体術も剣術も目覚ましい進歩を遂げている。それに第十騎士団長である騎士カロルが関わっているだろうことは、鈍い私でも察することはできた。

 こうしてヒリングス副団長の書類仕事をしている、この間にも彼は私に先んじて強くなるのではないかと、気が焦る。いや、なにを焦ることがある、彼が強さを求めることを応援すべき私が、否定的になってどうする。

「……っ」

 幾度目かの書き損じに、思わず荒々しく紙を丸めてしまう。

 屑籠に丸めた紙を放ったとき、カチャッと僅かに茶器の音がして、今日は副団長もこの部屋に居たのだと思い出した。

「珍しいな、貴様が感情を乱すなど」

 優雅に紅茶を嗜んでいた副団長は、口の端をあげてそう私をからかう。副団長の後に立つ従騎士のケンセルも、いつもの表情の薄い顔で私を見ていた。

「失礼しました」

 恥ずかしいところを見せてしまったと、謝罪するとティーカップをケンセルに下げさせた副団長がソファから立ち上がり、私からペンを取り上げた。

「鬱々としていても捗らぬであろう。俗物が悩んだところでたかが知れている、悩む暇があるなら鍛錬でもしてこい」

 驚いて彼を見あげれば、すかさずケンセルが手を挙げた。

「では、自分が手合わせします」

「却下する。貴様は先程まで、散々鍛錬していただろう、筋肉を休ませろ。……まったく、筋肉馬鹿め」

 最後の方は小声で言った副団長に、ケンセルの目が細くなる。

「叔父上は魔法馬鹿ですが」

 今度は副団長の目が細くなり、睨み合う。

 二人の険悪な状態などはじめてのことで、私は身の置き所なく息を潜める。

「いつも言っているだろう、お前は言葉遣いがなっていないのだから、口を開くなと」

 ため息交じりの副団長の言葉に、ケンセルは僅かに眉を寄せて口を結ぶ。素直に言うことを聞く青年が、まだ十代も半ばであることを思い出した。

 長身で筋肉質そして無口であるから、実年齢を忘れがちになるが。口を開けば、年相応の……いやそれよりも若干幼いかもしれない本性に気付く。

 副団長も、身内相手だからか口調がいつもよりもぞんざいだ。

「さて、では行くぞ」

 傍観していたのに腕を掴んで立たされて、さすがに慌ててしまう。

「行くとは、どこにですか」

「気晴らしに訓練だと言っただろうが。先日貴様の使った魔法は面白いな、付与を靴と服に掛けたのか。付与魔法など、子供だましだと思っていたが、なかなかに面白い」

 気付いていたのか! 継続的に掛け続けているわけでは無いのだから、まさか魔力の動きを読んでいたということか。

 攻撃魔法を苦も無く使うくらいの魔力を誇る副団長だから、魔法には突出しているとは思っていたが。

 更に腕を引かれ、慌てて堪える。

「申し訳ありませんが、書類仕事がまだ終わっておりませんので」

「……仕方あるまい。ケンセル、出るぞ。貴様も、急ぎの書類だけ終わらせて、さっさと休めよ」

 あっさりと解放され、従騎士を連れて部屋を出る副団長を見送り。安堵の吐息を吐いて、椅子に腰を落とした。

 仕事があると言えば、無理を通さぬ副団長でよかった。

「もしかして、彼なりに気遣ってくれたのだろうか」

 彼の言った『俗物が悩んだところでたかが知れている、悩む暇があるなら鍛錬でもしてこい』という言葉が不意に思い出される。

 悩むくらいなら、鍛錬か。そうだな、シュラのような才を持たぬ身ならば、我武者羅に鍛錬するしかないな。

「悩む暇があるなら、鍛錬」

 実に、ええとなんと言ったか……ああ、そうだ脳筋だ。実に脳筋な考えだ。

 だが、私には相応しいではないか。


 私はペン差しに戻されていたペンを取り上げると、先程よりも軽くなった気分で書類に向き合えるようになっていた。


第二章 終了


_:(´ཀ`」 ∠):_うぅ……せ、せめて、週一更新はしたい……です

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