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■□■3■□■

「シュラ、君の悩みを解決しよう。まず、君が告白しようとしていたことを、教えてくれないか? それから、二人で考えよう」


 彼の頭を撫でて提案すれば、小さく頷いた彼がゆっくりと離れた。

 まだ濡れていた彼の頬を、行き場をなくしていたハンカチで拭い、鼻をかませる。


「洗って返しま……」


 彼が言い終える前に、すみやかに清浄の魔法を使った私に、物言いたげな視線が刺さる。


「洗いたかったのか?」

「様式美というのがあるでしょう……っ!」


 よくわからないが、洗いたかったということなんだろう。

「洗うか?」

 綺麗になったハンカチを差し出せば。「そういうことではなくてっ」と打ちひしがれてしまった。


「シュラの世界は変わってるんだな」

「うちの世界には魔法が無いので、魔法でパパッと綺麗にするのには、慣れないです」


 口を尖らせる彼に、首を傾げる。


「魔法が、無いのか? その割には、最初から魔法を使っていなかったか」

「それはゲームのシステムで……」


 ゲームというのがシュラの世界の娯楽で、物語の選択肢を自分で選び進んでいくという不思議なもので、詳しく説明してくれたが今ひとつ把握することができなかった。

 だが、それがこの世界と酷似しており、プレイヤーが選ぶ選択肢によって運命が変わっていくかもしれないと言われれば、真剣に耳を傾けるしかない。


「実際、俺が選んだ選択肢で物語ストーリーが進んでるんです」


 至近距離で床に座ったまま話していた彼が、離れるのを嫌がって繋いでいた手に僅かに力を込めた。


「攻略対象者というのが居て、そのひとりがバルザクト様なんです」

「攻略対象者?」


 本来であれば、そのゲームの主人公は乙女で、その乙女と恋仲になるのが攻略対象者なのだという。


「あ、いえ、攻略対象者っていっても、バルザクト様との結末は友情止まりですから、大丈夫ですっ。その代わり、戦闘が難しくて、攻略するのが凄く大変だったんですが」

「ふむ、友情ならば問題ないな。因みに、他にも攻略対象者はいるのか?」


 聞き出した名前の、そうそうたる顔ぶれに、なぜその中に私の名が連なるのかと不思議になってしまう。


「いやいや、第五騎士団の苦労人で、儚げな美貌の青年で、人気が高かったんですよっ、ファンディスクでは両思いになって、結ばれるところまでいったくらいですからっ!」

「両思い……」

「ああああっ、だっ、大丈夫です、ゲームの主人公と違って、俺は男ですから、男同士でそんなことには絶対にならないですからっ!」

「絶対にならない……。そうか、そうだな、男同士だからな」


 私が繰り返すと、彼が必死に首を縦に振る。

 もしも私が女だとわかったら、彼はどうするんだろう。

 やはり友情を主張するのだろうか、それとも……。いやそんなこと考えるだけ無駄だな、無駄だ。


「それでですね、今後起こるかも知れないメインのイベントと、その対策なんですが――」


 一生懸命説明する彼の話を聞きながら、持て余し気味の自分の心から目を逸らしたが、彼の語る内容が進むにつれて、自分の心などどうでも良くなっていた。


「――その迷宮暴走スタンピードの発生を阻止するか、暴走から王都を防衛できれば、物語に一応の終結となる。ということか」


 迷宮暴走、本来であれば迷宮から出てくることの無い魔物達が、迷宮から溢れ出てくる恐ろしい現象。王都に影響がある迷宮といえば、ここから一日の場所にある迷宮だが、あの迷宮は枯れかけていたはず。

 果たして本当に暴走が起こるのだろうか?


「暴走の規模はわかるのか?」


 そして語られたその被害の大きさに、体がぐらりとかしいだ。目眩に床に手をつき、片手で顔を覆う。

 いま聞いた彼の言葉が本当ならば……この王都は…………。


「いえ、あのっ、最悪の場合ですからっ。ストーリーの進め方次第では、回避できるんです! だから、そうならないようにするために、バルザクト様の力を借りたいんです!」

「打つ手があるのか?」


 希望のある言葉に顔を覆っていた手をおろして視線を上げれば、彼は大きく頷いた。


「第一騎士団長と第十騎士団長の好感度を上げれば、いけます!」

 拳を握りしめての力強い答えに、私はもう一度がっくりと項垂れた。

「寄りによって、貴族系騎士の頭と平民系騎士の頭じゃないか……」


「同じ騎士じゃないですか」

 きっぱりと言い切る彼に、私の頬が引きつる。


「しかし、だな……」

 同じじゃないんだ。どう説明すればいいかあぐねている私の手を取った彼が、勇気づけるようにその手を上下に揺らした。


「同じ、騎士なんですよ。大丈夫です、大丈夫ですよ」


 そう力強く言う彼に、項垂れていた頭を上げる。私の手を掴んでいるその手は震えているのに、闇に慣れてきた私の目に彼の力強い視線がぶつかる。

 じわりと胸に湧き上がる熱が、彼の言わんとすることを教えてくれた。

 我々は等しく騎士であると、そう教えられてきたのに、私はなにを憂えていたのか。この第五騎士団の貴族出に、知らずに毒されていたのか……いや、人のせいにするのは違うな、私はいつの間にか、騎士としての在りようを見失っていたのかも知れない。


「そうだな、同じ騎士だ。この国を守る、騎士に相違はない」

 気を取り直して言った私の答えに、彼が強く頷く。


「だから、きっと大丈夫です。来たるべき日までになんとか繋ぎをつけて、みんなで生き残りましょうっ!」



 私達は泣くこともあるし不安にもなるが、二人ならば大丈夫だと――不思議なほど自然に納得できた。



拍手ありがとうございます!

っていうか、前回よりも力強い拍手が増えてて、嬉しいです。

嬉しさのあまり、更新!!

さぁ、頑張って書くぞー!!(ストックぎr……)

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