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桃子は鬼ヶ島高校の番長に喧嘩を売りに行ったようです

if桃太郎(現代女の子ver.)

桃子は不良の鬼ヶ島高校・番長をやっつけに、仲良し四人組で鬼ヶ島高校へ行きます。

 主人公の桃子は、とある河川敷の下で拾われました。


 桃子を見つけたのは、近所のおばあさんでした。おばあさんはおじいさんと二人暮らしで、長い間子どもに恵まれせんでしたが、二人でとても幸せに暮らしていました。


 土砂降りのある日、どうしても料理に必要な具材を買うために、おばあさんは買い物に出かけました。その帰り道、傘を差したおばあさんが急ぎ足で自宅へと向かっていると、激しい雨の音に混じって、かすかに赤ん坊の泣き声がすることに気がつきました。


 辺りを見回してみましたが、土砂降りのせいか、赤ん坊を連れた人はおろか、誰も歩いている人は居ません。注意深く音がする方に耳を立てると、どうやら河川敷の方からその泣き声が聞こえてきます。雨のせいで川の水位はいつもより上がっていましたが、もしものことがあったらいけないと、体力に自信のあるおばあさんは、一人で河川敷まで下りてみました。すると、橋の下に桃の柄のタオルにくるまれた生まれたばかりの赤ん坊を見つけました。


 その赤ん坊は女の子で、くりくりとした丸い目が印象的な可愛らしい子でした。おばあさんが抱き上げると、赤ん坊はたちまち泣き止み、キャッキャッと笑い声を上げたのです。

 おばあさんは、その赤ん坊の笑顔を見たとき、神様からの贈り物だと思いました。きっと雨が降ってなかったら、違う人がこの子を保護していたに違いありません。


 おばあさんは傘を差すのも忘れて、その赤ん坊を抱きかかえ、家へと連れて帰りました。家でおばあさんの帰りを心配して待っていたおじいさんは、玄関でずぶ濡れになったおばあさんと、赤ん坊を見るなり、驚いて腰を抜かしてしまいました。


「どどど、どうしたんじゃ!」

「この子、河川敷の下で見つけたの。捨て子だよ。今時珍しいこともあるもんだ」

「……ど、どうするつもりだ?」


 おばあさんは、可愛い女の赤ん坊の顔をおじいさんに見せてあげました。人見知りしない、その愛くるしい笑顔に、戸惑いを隠せなかったおじいさんの表情が僅かに緩みました。その様子を見たおばあさんは、自分が拾った瞬間に決めたことを、おじいさんに打ち明けました。


「私達で育てたいと思う」


 おばあさんの提案に、おじいさんは僅かの間の後、「ああ、そうしよう」と答えました。

 こうしてこの赤ん坊は、この老夫婦に育てられることになりました。そして、その赤ん坊は桃柄のタオルにくるまっていたので、桃子と名付けられました。



 *


 桃子はその後すくすくと成長し、非常に活発な子に育っていきました。それは男勝りとも言える位で、よく弱い者いじめをする男の子に喧嘩を売っては負かして大泣きさせ、母親からおばあさんへ苦情が来る位でした。でもおばあさんは、事情を知っていたので、決して桃子を責めませんでした。


 桃子はスポーツ神経も良く、勉強も出来たので、小学校でも中学校でも、一目置かれる存在でした。どちらかと言えば女の子から人気があり、男子からは恐れられるという少し変わった女の子でした。


 高校になると、近所で有名な女子校へ進学することになりました。高校生になった桃子は、黒髪を肩まで伸ばし、常にポニーテールにしていました。制服は紺襟に白地のセーラー服で、赤色のスカーフです。後の格好は生徒の自由に任せられていましたが、桃子はスカートを膝より少しだけ上にして、季節を問わず、桃子は常にふくらはぎ丈の紺色の靴下を履き、茶色のローファーを履いていました。


 桃子はあまり化粧に興味はありませんでしたが、化粧をしなくても美しい少女でした。自然な太さの眉毛に、幼いときのあどけなさを残したくりくりとした瞳、唇は少し薄めですが紅く色づいています。瞳こそ可愛らしいですが、その瞳の奥には意志の強さが宿っていました。


 社交的だった桃子は、女子校でも、さっそく友達が出来ました。中でも「キジ」こと木島七海、無類のイヌオタク「いぬたむ」こと桜田加奈子、実家は猿回しの芸をやっているという珍しい環境で育った「さっちゃん」こと、水原さちえの三人と仲良くなり、よく三人で遊んでいました。


 キジはソフトボール部に所属しており、ショートカットで中性的な顔立ちの女の子で、いぬたむは眼鏡姿に三つ編みという地味な出で立ちでしたが、実家では珍しい犬を何匹も飼っていて、勉強もとても出来ました。さっちゃんはお調子者で、グループのムードメーカーのような存在です。

 そして、四人は桃子の母親が作ったきびだんごが好物で、よく昼休みにおやつ代わりに食べていました。


 桃子はこの女子校で無事三年間、この三人と女子高生らしい女子校生活を歩み、そして立派な社会人になって自分を育ててくれたおばあさんに恩返しをしたいと心から思っていました。


 しかし、そんな平和な日常をぶち壊すような出来事が、桃子のおばあさんに降りかかるのです。


 ある日、桃子が学校で授業を受けていると、担任の先生から急に呼び出しがありました。何事かと思い、廊下へ出ると、先生が「おばあさんが骨折して入院した」と心配そうに告げたのです。桃子は居ても立ってもいられなくなり、学校を早退して病院へと駆けつけました。


 おばあさんは、右足を骨折して全治1ヶ月の重傷を負っていました。話を聞くと、おばあさんが買い物に出かけているところで柄の悪い学ランの大男とすれ違い、いちゃもんをつけられたあげく、転ばされたと言うのです。


 そして、その男の背中に「鬼ヶ島高校・番長」と書いてあったので、おばあさんは、あの評判の悪い鬼ヶ島高校の生徒ではないかと言いました。しかも、いちゃもんをつけられたとき、「被害届を出しても無駄だ。俺は警察官の息子だからな!」と捨て台詞を吐いたそうです。


 一通りおばあちゃんの話を聞き終わった後、桃子は静かに立ち上がり、その場に直立しました。桃子の肩は怒りで震え、拳は固く握られています。


「……おばあちゃん、私、そいつ、ちょっとぶちのめしてくる」


 おばあちゃんは桃子の怒りを孕んだ眼差しと、震える声に慌てて上体を起こしました。


「桃子、だめだよ、気持ちは分かるけど、女の子がいくところじゃない。私はたいしたことないから、桃子の方がずっと大事だよ」


 しかし桃子は昔から言い出したら聞かない女の子でした。


「私の大事なおばあちゃんを傷つけたそいつ、絶対許さない。大丈夫、私には仲間が居るから」


 そう言うと、おばあちゃんの制止も振り切って、桃子は突然、病室から飛び出していきました。


 *


『私立・鬼ヶ島高校』


 鬼ヶ島高校の前に、四人のセーラー服の少女が立っています。桃子、キジ、いぬたむ、さっちゃんの四人です。桃子ははちまきを頭に巻き、拡声器を持って立っていました。キジはソフトボール部の四番なので、野球のバットを持っています。いぬたむは家で飼っているドーベルマン、さっちゃんは猿軍団の中で一番機敏な動きをする猿を一匹連れてきました。


 鬼ヶ島高校は漫画に出てきそうな、いかにも柄が悪い高校でした。校舎のあちこちには落書きがされており、校庭にはリーゼント姿の生徒や、堂々とたばこを吸っている生徒も居ます。


 四人は顔を見合わせました。正直ちょっと怖いけど、四人ならきっと大丈夫。


「「「「よし、突撃――!!」」」」


 放課後で開放された正門から、正々堂々と突撃していきます。

 桃子が先頭に立ち、校庭のど真ん中まで来ると、大声で、


「番長を出せー!」と拡声器が音割れするぐらい大声で叫びました。


 辺りの不良がざわざわとし始め、物珍しげに四人に寄ってきます。


「おいおいあそこの有名なお嬢様学校の子じゃん。何しに来たの?」

「番長より、俺らと遊ばない?」


 四人はあっという間に不良に取り囲まれました。いぬたむとさっちゃんは若干おびえ気味ですが、桃子とキジはひるみません。


 桃子は華麗な回し蹴りで不良の一人をぶっ飛ばし、キジは野球のバットを違う不良の腹にお見舞いしました。


「いってぇ、何すんだてめぇら!」


 さすがの不良も怒り心頭、女子四人と不良三十人という理不尽な戦いが始まりました。


 桃子は回し蹴りとおじいさんから習った合気道で不良を何人も仕留めます。キジも続いて野球のバットを上手に使って腹や腰、尻に打ち込みます。いぬたむはおびえっぱなしですが、ペットのドーベルマンがかみついたり吠えたりして不良を撃退します。さっちゃんは猿が不良の顔をひっかいたり、おしっこをかけたりして何とか襲われるのを防ぎました。


 不良をほとんど蹴散らした四人ですが、てんやわんやしているうちに、騒ぎを聞きつけた番長が背中に羽織った学ランをたなびかせて現れました。


「……てめぇ、誰だ」


 おばあさんが言うとおり、本当に番長は背が大きく、鬼のような図体でした。声も野太く、威圧感があります。


「あんた、うちのおばあちゃん怪我させたんだって?」


 桃子はひるまずに番長に問いかけました。すると、番長は可笑しそうに声を上げて笑いました。その声は校庭全体に響き渡るほど大きな声でした。


「あんなばあちゃん、ちょっと足を出しただけで自分から転んだだけだよ。俺は何にもしてねぇ」


 桃子はこの言葉を聞くと頭に血が上り、唇をわなわなと震わせました。


「やっぱり、あんただったんだね」


 キジ、いぬたむ、さっちゃんが桃子の横に並ぼうとしましたが、桃子はそれを制しました。


「こいつは私がやる」


 番長と桃子はにらみ合い、二人の間には砂埃が吹き付けました。ぼこぼこにされた周りの不良も黙って見守っています。


 最初に仕掛けてきたのは番長でした。女でも容赦しないと言わんばかりに、拳を振り上げ、桃子に迫ってきます。

 桃子はそれをひらりと交わし、肘で首筋に一撃を食らわせようとしましたが、番長はそれを避け、桃子の細い手を掴み、二人は対面になりました。


「くッ……」


 番長はもう片方の手の側面で桃子の脇腹を突こうとしましたが、桃子はここで番長の股間に膝を入れ、反撃しました。悶絶してかがみ込む番長の肩を掴み、桃子は膝蹴りを番長の顎に食らわせました。さらに一歩後ろに下がり、弾みをつけて伝家の宝刀、一回転回し蹴りを番長の体に食らわせました。体の大きな番長も後ろにのけぞり、そして桃子のひらりと舞うスカートから、ピンク色の下着がちらりと覗くのが見えると、鼻血を吹き出すのと同時に後ろに倒れました。



 しばらく校庭には沈黙が流れます。一発食らわせてすっきりした桃子は手をパンパンと叩き、鼻を鳴らしました。キジ、いぬたむ、さっちゃんが「やったー!」と言って桃子に駆け寄り、不良からは拍手が沸き起こりました。


 案外あっけなく、番長はやられてしまいました。


 *


 桃子が番長をやっつけてから後日、番長はバラの花を持っておばあさんの病室を訪れました。おばあさんの病室には桃子が居ました。桃子は番長とバラの花を見るなり驚いて目を丸くしましたが、番長は、桃子に向かって頭を下げ、


「ごめんなさい!」


 と大声で言いました。


「謝る相手、間違えてますけど」

 しかし、桃子の声は番長には聞こえていません。

 番長は、ひざまずき、桃子にバラの花束を差し出しました。


「あの一撃を食らってから、あなたのことが頭から離れません。どうか、俺と付き合ってもらえませんか?」


 桃子もおばあさんも凍り付きました。


 ……何だ、こいつ……!


 それからと言うもの、番長は桃子のストーカーと言わんばかりに、猛アタックを開始したのです。桃子はおばあさんを助けた代わりに、今度は番長の猛アタックから逃げる羽目になってしまいました。


「あんたのその学ラン、ダサいんだよー!」


 めでたし、めでたし……?


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