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鏡嫌いの白雪姫

 「この世で一番美しいのは誰?」

 王妃が魔法の鏡に向かってこう尋ねるのが、王妃の日課です。

 魔法の鏡は、いつものように

「それは王妃様です」と答えました。

 すると王妃は、上機嫌になって一日を過ごすことができます。


 しかし、ある日、いつものように王妃が

「この世で一番美しいのは誰?」

 と尋ねると、魔法の鏡は、「白雪姫です」と答えました。

 王妃はたちまち全身の毛が逆立ち、怒りに口を震わせて魔法の鏡に拳を叩きつけました。

 王妃が何度同じ問いをしても、答えは「白雪姫」。王妃はその日、白雪姫を殺害することを決意しました。


 白雪妃は、王妃の義理の娘です。白雪姫は黒髪に透き通るような肌を持ち赤い頬と唇という出で立ちから「白雪姫」と呼ばれています。


 実は、白雪姫は、王妃が自分を殺そうとしていることが、分かっていました。なぜなら、彼女の心は魔法の鏡と繋がっていたからです。


 魔法の鏡は、白雪姫が生まれた時に生まれた鏡でした。白雪姫の実母が死んだ時、王妃はこの鏡を白雪姫と共に受け取り、その鏡が美しかったことから部屋に飾ったところ、ある時、鏡に話しかけられ、魔法の力があると知りました。それは、白雪姫の自我の目覚めと同時でした。最初白雪姫自身も魔法の鏡と心が繋がっていることを知りませんでしたが、王妃と会話できることを知ってから、その不思議な力に気付きました。


 それ以来、白雪姫は魔法の鏡を通じて王妃と会話をしていました。王妃は自分の美貌に対して異常なこだわりを持っている女性でしたが、白雪姫は、自分の容姿に対して異常に恐怖心を持っている女性でした。二人がもし、現代医学で精神鑑定を受けたら、きっと精神的な病気だと診断されるでしょう。


 白雪姫は自分の容姿がとても嫌いでした。それはなぜか自分でも分かりません。周りは自分のことを「美しい」と言います。自分の容姿が嫌いな白雪姫は自分の「何が」美しいのか分からず、自分の容姿がどうなればこの気持ちが解消されるか分かりませんでした。「美醜」の感覚が、白雪姫には欠落していたのです。このまま生きていくことが白雪姫にとってはとても苦痛でした。


 何度も自殺を考えましたが、いざ死のうとすると恐怖心が勝ってしまい、どうしても白雪姫は自害することができませんでした。そのため、白雪姫は、「美」に異常にこだわる王妃を逆手にとり、「白雪姫が美しい」と鏡を通じて言うことで、王妃に殺されることを自ら仕向けることにしたのです。


 王妃はまず、家来に白雪姫を殺して、心臓を持ってくるように命じました。家来は白雪姫を森に連れ出し、家来に殺されることを待っていましたが、怖じ気づいた家来は結局白雪姫を森に置き去りにして帰っただけでした。


 白雪姫は、森の中をさまよいながら、自分が生きている事実を告げようと、魔法の鏡を通じて王妃に白雪姫の生存を知らせました。そして、偶然見つけた小人の家にお世話になりながら、「その時」を待っていました。小人はとても親切でしたが、「美しい」「綺麗」と言われると、白雪姫は本当に早く、自分を殺して欲しいと思いながら、毎晩眠りにつきました。


 白雪姫が生きていることを知った王妃は、今度は自ら物売りの姿になって、小人が留守の時に白雪姫を訪ねてやってきました。

「私は物売りです。どうか、この腰紐を買ってくれませんか」

 白雪姫は、きっと王妃が自分を殺しにやってきたのだと思いました。そしてその腰紐を買うと、たちまち王妃は白雪姫を殺しにかかりました。


 ……やっと死ねる――


 白雪姫は、自分が思い描いたとおり、息絶えました。段々と遠のいていく意識の中、自分はなぜこのような容姿に生まれてきたのだろう、と考えました。


 しかし、白雪姫は死ねませんでした。小人が助けてしまったからです。白雪姫は呆然としました。死んだはずの自分が生きている。鏡を見ると、おぞましい姿が映っていました。白雪姫は怖い、と思いました。そして大泣きしました。小人はその姿を見て、生きていることが嬉しくて泣いているのだと勘違いして、一緒に泣きました。


 白雪姫は、また、自分が生きていることを王妃に知らせなければなりませんでした。王妃は二度と同じことは繰り返すまいと、老婆に化けて、毒リンゴを作って再び白雪姫を訪ねました。当然、白雪姫は全てを知っています。

「お嬢さん、美味しいリンゴだよ……一口食べれば、たちまち天にも昇る心地さ」

 しわしわの老婆を見ると、白雪姫はいたたまれなくなりました。自分の美貌のためなら、手段を選ばない王妃。血の繋がりは無いのに、どこか自分と似ている、と白雪姫は感じました。

「ありがとう、おばあさん。一つ、いただきますわ」

 そうして白雪姫は、老婆の前でその毒リンゴを口にしました。一人の時に毒リンゴを目の前にしては、また怖じ気づいてしまいそうだったからです。すると、白雪姫から血の気が引いていき、赤い頬や唇も真っ白になり、その場に倒れて息絶えてしまいました。老婆はその様子を見て心から喜び、そして城へと帰っていきました。


 小人達が家に戻ると、白雪姫は死んでいました。なぜか、その顔は幸せそうな顔で、小人は悲しみで一杯になり、泣きながらガラスの棺に遺体を入れました。その美しい顔を見えない箱に閉じ込めてしまうのは可哀想だ、と考えたからです。


 遺体をガラスの棺に入れ終わった頃、偶然、隣国の王子が通りかかりました。王子はその白雪姫の幸せそうな死に顔、もとい美しい美貌に強く惹かれました。


「この美しい姫を、どうか僕にもらえないだろうか」


 七人の小人は困惑しましたが、あまりにも王子様が白雪姫に執着するので、手厚く弔ってくれるのなら、という条件で白雪姫の遺体を王子様に渡しました。


 しかし、ここでも不幸が起きます。王子様の家来が白雪姫の遺体を運び、隣国を運ぶ途中、うっかりとガラスの棺を落としてしまい、その弾みで白雪姫の喉の奥から毒リンゴのかけらを吐き出してしまったのです。


 たちまち白雪姫は息を吹き返し、そして、絶望しました。自分は生きている、また、生き返ってしまった……と。そんなことはつゆ知らず、王子は美しい白雪姫が生き返ったことを喜び、半ば強引に、自分の妻に迎えてしまいました。


 白雪姫は、再び魔法の鏡で王妃に話しかけると、王妃は懲りずに白雪姫を殺しにやってきました。しかし、数度隣国の衛兵に捉えられ、そして真っ赤に焼けた鉄の靴を履かされて踊らされるという罰を受けました。


 それを知った白雪姫は、もう自分は殺されることは無いと悟りました。それから、王妃として生きることを覚悟し、二度と鏡は見ない、と城から鏡を全て取っ払い、魔法の鏡さえも割ってしまいました。

 異常とも言える鏡嫌いの白雪姫を、周りの人間は「鏡嫌いの白雪姫」と呼んだそうです。そして、自分と王子様の子どもが女の子だと分かると、自分に似ると困るから、と密かに殺してしまいました。2回の殺人を経て、白雪姫はようやく男の子を授かり、跡継ぎを産むという王妃としての務めを果たしました。


 しかし、結果的に、自分が死ねば済む話が、結果的に三人の命を奪ってしまいました。

 王子様と結ばれた白雪姫は、本当に幸せだったのでしょうか?

 きっと、白雪姫が一番、この結末を後悔していることでしょう。


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