第9話:忘却
―全てを思い出した。
もう後には退けない。―
「っ―…!」
声にならない呻き声をあげ、アッシュ…否、レオは頭を抱えて踞った。
新聞に自分が載っていた理由も分かった。
きっと、アーサーの仲間だろう。
敵討ちをしようと血眼になって探しているのだ。
砂漠に出た際も何度か襲われた。
その時に負わされていた傷の跡は背中にくっきり残っているはずだ。
膝を立て、その間に顔を埋める。ぎゅっと自分を抱きしめ、唇を強く噛み締めた。
こうでもしないと身体の震えや涙が零れてしまいそうになる。
自分に泣く資格がないことは分かっているから…。
罪を犯したのは紛れもない自分自身。
あの男の策略にはまったのも自分自身。
事実は曲げられない。
逃げることは赦されない。
「レオ…」
弾かれたように声の主をみると、自分より深い青色の瞳をしたティアナの顔があった。
はっ、としてその場から飛び退く。
何よりも早く会いたかった存在。
でも、一生会いたくなかった存在。
二つの思いが交差し、はるかに拒絶の意識が上回った。
「…全部、思い出したのね」
ティアナが一歩レオに近付く。
指先がレオの髪を捕らえた。びくっと反応する。
「な、何でここに?」
「何となく…、ここにレオが居るような気がして。砂漠で倒れいたレオをお世話してくれたのはここのお婆ちゃんなんでしょう?そして、レオをアッシュと名付けたのも…」
不意にティアナがレオを抱きしめた。
レオはしばらく抗いを見せていたが、ティアナの腕にこもる力の強さの意味を理解し、身を委ねた。
「何で、秘宝を盗んだの…?」
声の先端が僅かに震えてる。
「母さんの病気を治したかったんだ…。変な男が秘宝と引き換えに特効薬をって…。だから…」
「…でも、死んでいたわ」
「……」
ティアナの言葉にレオは黙り込む。
微かに肩が震えている。
「もうひとつ聞いてもいい?」
「うん…」
「アーサーはレオが殺したの…?」
「っ……!」
「この人たちも?もしかして、お婆さんたちも?」
「や、やめろっ!」
叫んでいた。
過去に対する圧倒的な恐怖。
辺りを見回すと、あちこちに血痕がある。
自分の手にも、握っている果物ナイフにも。
まだ、認めたくなかった。
自分が人を…両親を殺してしまった事実を。
ティアナの腕を乱暴に振りほどき、ナイフを床に落とす。
「レオ!逃げないで!逃げちゃ駄目。私の話を聞いて!」
ティアナの叫びも虚しく、言葉を言い終える前にレオは走りだしていた。
先ほどより、強くなった雨を避けようともせずに─…




