無形の剣【 模擬戦闘 本番 3 】
入学して、この学校の事も大分わかってきた。
授業が終了し、放課の時間。
この学園は基本的な学習以外はすべて戦闘の時間とする為、ほとんどの日が昼で終わる。
「終わったー。」
(レオを迎えに行ってからレイナルドの見舞いに行くか。)
私は座って固まった身体をほぐす為、軽く伸びをした後カバンを持ちAクラスの教室へむかった。
「ちわーす。」
Aクラスの教室に下位クラスの人間が来た事により、模擬戦闘を申し込まれるのでは?と警戒する生徒が数多く居る。
私はそんな気はないのでこう告げる。
「安心してくださーい、人呼びに来ただけでーす。」
私は目的である人物を探していると後ろから話しかけられた。
「あらぁ、下位クラスの生徒だわ。珍しい、模擬戦闘の申し込みにでも来られたのかしら?」
「あん?ウゼーから話しかけんな。」
私は相手の方を見ず一蹴する。
「口の聞き方がなっていない愚民ですこと。まったく、親の顔が見て見たいものですわぁ、うふふふふ。」
私はその声を無視する事が出来なかった。
『うふふふふ』
この笑い方に引っかかった。
聞いたことがあったからだ。
私は声の主の方へ振り向く。
「!!」
姿を見て確信した
模擬戦闘でレイナルドを瀕死に追い込んだ魔術師。
「まあそんな親も大したことないんでしょうけど、うふふふふ」
「おう、待たせたなソフィア。誰だそいつ。」
レオンが私の所へ来る
「もう、シャムロック様、同じクラスではありませんかぁ、覚えてくださいね、わたくし ブリジット = チュリア と申します。お見知り置きを。」
女は軽くお辞儀をする
「…チュリアって、あのクソ金持ちの家系か。どうでもいいけどそっちの名前で俺を呼ぶのは今後やめろよ。じゃあ俺たち行くから、行くぞソフィア」
「…。」
私は睨み続ける。
「…あなた、命拾いしましたわね。」
と私に小さく呟いて続けた
「それでは御機嫌よう。シャムロック様。ソフィアさん。うふふふふ…」
私はレオに手を引かれその場を後にし、レイナルドの病室へ行った。
レイナルドの病室
「やぁ、来てくれたのか2人とも」
「おう、具合はどうだレイナルド。」
「もうすっかり元気だ、手も足も痛くないし、明日には退院できるそうだ。」
「そうか、よかったな。」
「…。」
私は悩んでいた。
あのクソ金持ち女を見つけたことと、その女がどんな奴なのか情報を2人に渡すかどうか。
「あれ、今日お姫様はご機嫌斜めかな?」
「しらねぇ、さっきからずっとこんな感じ。」
(うーん、まぁ退院して学校来ると対戦相手のレイはきっと気付くだろーし、リベンジするなら自分で勝手にするだろ!)
私は勝手に自己完結した。
「よし!」
「あ?」
「お?お姫様復活かな」
「復活しました!」
「どうでもいいけどお前お姫様って呼ばれるの普通に受け入れるのな。」
「うるせー、腐れよ」
「ツッコミがキツ過ぎませんか。」
いつも通りワイワイ騒いだ後レイナルドは最後の検診があるらしいので、私達は早めに退散する事にした。
「明日からレイナルド戻るってよ、良かったなーレオ。」
「そうだな。」
レオは少し嬉しそうに微笑む。
(こいつ実は男が好きなのか?)
「なんだ、人の顔見つめて、キモいぞ」
イラっとした。
「いや、変な顔だなーて。キモいとか言うなキモい癖に。」
「おまえなぁ!」
「あー、うっせーうっせー」
2人でバカ言いながら帰り、今日もあったかい風呂入って明日から3人で学校生活を過ごすつもりだったのに
「あら、奇遇ですわね。」
あいつがまた現れた。
「…あんたさっきの、ブリジットさんだっけか」
「まぁ!さすがシャムロック様、もうわたくしの名前を覚えてくださりましたのね!」
「…。」
私は黙って見つめる。
「あのさ、そのシャムロックって呼ぶのはやめてくれよ。」
「なぜですの?素敵な名前ですのに。」
「おい、クソアマー。何の用だ」
私は女に聞く。
「あら、汚い言葉をお使いになるのね、おチビさん」
「…。」
私は無言で睨む、相手は余裕の笑顔をで私を見つめ返してくる。
「なぁソフィア。お前、なんかあいつの事怒ってんの?」
私はレオンの言葉を無視して、ブリジットに近づき、レオンには聞こえないように問いかけた。
「お前、初日の模擬戦闘の日、レイナルド…雷精霊の魔法剣の使い手に何言ったんだ…」
ブリジットはうふふふふと不敵に笑いこう返答した
「教えて欲しい?欲しいかしら?」
「黙ってこたえろ、クソアマ。」
「ほんと口の聞き方がなってないおチビさんだこと。そんなに聞きたいのなら。教えてあげるわ!」
ブリジットはレオンに聞こえるように言った
「シャムロックという 災厄の魔術師の末裔 を味方に引き入れていながら、その力を自分の為に使わないなんて、なんてもったいない!その気になれば世界を自分だけのものに出来るというのに!貴方を殺してあいつを飼いならすことができれば、シャムロックの力は私のものね!…っていったのよ」
ブリジットはさらにうふふふふと高らかに笑い、殺すことは出来なかったけれど、と続けた。
レオンはその言葉をを理解したようだ。
「お前がレイナルドを…!俺のせいでレイナルドが…!」
「この…!クソアマが…!」
「うふふふふ!」
私はレオンに駆け寄り声をかける
「レオしっかりしろ、あいつの言葉に耳を貸すな。」
「俺のせいで…」
「違う、しっかりしろ、大丈夫だ」
さっきの女の言葉のせいで周りの人が集まってきてしまっているが、女はそんな事関係なく言葉を吐く。
「そこで提案がありますの。」
「失せろクソアマ。」
「あなたには聞いていませんわ、シャムロック様、わたくしと模擬戦闘を行なって頂けませんかしら?」
ブリジットは続けて言う
「わたくしが勝てばわたくしの願いの為に貴方の力をお使いになってください、あなたが勝てばわたくしは二度とあなた方の前には姿を見せませんわ。」
ブリジットの笑みは消えない。
復讐する機会を与え、さらに今後、姿を見せないと。つまりブリジットは負ければこの学校を去ると宣言したのだ。
「悪い提案ではないと思うのだけれど…どうかしら」
「殺す。」
そう呟いたレオン。
レオンに普段の落ち着きはなく、救う事とは真逆の殺す事に力を使おうとしている。
「ダメだレオ。ここだと、人が多すぎる。お前が人を潰すのを大勢に見られると、」
「黙れ、俺があいつを殺す。」
「レオ、ダメだ。」
「でも、あいつがレイナルドを!」
「わかってる、だけど落ち着け。」
レオンは本気で怒っていた。
「さぁ、どうされますの?」
私は考える。
(レオを戦わせれば負けることはない。だが、今の状態では本当に相手を跡形もなく消滅させ、文字通り 殺して しまうだろう…)
レオンは今にもその女を殺してしまいそうな勢いだ。
(色々問題はあるが…仕方ないか…)
私は口を開く。
「ブリジット、提案がある。」
「あなたの提案など聞きません、興味もありません」
「まぁそう言うなよ。一応聞けって。私と模擬戦闘しよーぜ。」
レオンは私を見て言う。
「ソフィア、何言ってる」
「レオ、私に任せろ。」
「お断りしますわ」
案の定断られた、だがそんな事は想定内。
「私もこの男の力に興味があってな、勝手に持ってかれたら困るんだよ。それともたかが C クラスの下位クラスに負けるのが怖いのかー?」
「…なんですって」
女の顔に怒りが浮かぶ。
(こんなに人の目がある、下位クラスに喧嘩売られて黙って引き下がるわけねーよな。)
「構いませんわ、やりましょうソフィアさん」
(やっぱり乗ってきたな)
「話が早くて大助かりだ、クソアマ」
「おい!ソフィア!」
レオンは納得できないと私に言った。
「…心配すんな、レオ。大丈夫だから。私が代わりに倒してやる、そこで大人しく見てな。私が倒されたらお前の出番だ。納得出来ないかもしれないが、今は抑えてくれ。」
私はレオンの目をまっすぐ見据えて言うと、レオンは渋々わかったと言った。
「…お前がやられたら俺があいつを殺す。」
「ああ、好きにしろ」
「早くはじめましょう?Cクラスの雑魚さん。」
女はそう言って私を煽る。
(私はたかがCクラスの生徒でも、ただの雑魚ではないのだけどね)
「さぁ、殺し合いましょう」