パーティ 【 記憶 8 】
「ゲロマズイ!いい加減にしろよリア!人間の食べ物を作れよ!」
「うっせーな!こっちだって真剣に作ってんだよ!そんなに言うならお前が作れよ!」
「いーぜ!明日から私が作る!」
「言ったからな!クソマズイ料理つくったら容赦しねーからな!」
「お前よりは美味い飯つくってやるよ!」
私たちはそんな風に騒ぎながらしか飯を食えない生き物なのかもしれない。と思いながらご飯を食べ、いつも通り修行に向かう。
「師匠来ねーな…どしたんだー?」
いつも、私より早く来ているはずの師匠は何故か来ていなかった。
師匠が修行場に現れたのはもう日が暮れる頃だった。
「師匠!ずっと待ってたんだぞ!」
「修行はしばらく休みだ。家に帰れ。」
師匠は唐突に言った。
「え、なんで?」
「いいか、しばらく1人で家から出るのはやめろ。」
「おい、師匠!どうしたんだよ、急に。納得出来る説明をしろよ。」
「…森が静かすぎる。変な違和感を感じる。」
「あん?なんだよそれ」
「とにかく、しばらく家から出るな。修行の再開はいつになるかわからないが、とにかく言う事を聞け。」
そう言い残し師匠は森の奥へと去っていった
「なんだよ、くそ!」
納得はできなかったけど、遅くなるとリアがまた怒るので帰ることにした。
「ただいま!」
「おかえりー。どした、何怒ってんだ?今日は傷もないし」
「別になんでもねーよ!」
「なんだよ、心配してんのに。ルーナ、飯できてるぞ。」
「…。」
私はおとなしく椅子に座る。
「それじゃー、いただきます。」
「いただきます…」
私は黙って飯を食べる。
「お?今回は文句ナシで美味いんだな!」
「マズすぎて絶句だよ、バカ」
「お前またバカ言ったな!」
「うっせーよ!」
「明日絶対お前が作れよ!絶対だからな!」
「わかってるよ!」
相変わらず私達はうるさく食べた。
「ルーナ、今日も一緒に寝るかー?」
「1人で寝る。」
「そうかー?また昨日みたいに泣かないか?」
「昨日も泣いてない。」
「またまたー」
「うっせー、もう寝ろ!」
私達は布団に入り眠りにつく。
私はまた夜中に目がさめる。だが今回は夢とかではない
けれど私は気づいてしまった。
外が騒がしいことに。
「んんー…ルーナ、また…夢でも見たか?」
「いや…リア、何か聞こえないか?」
「何言ってんだお前…」
私達は耳を凝らす。
「…。」
微かに聞こえる声。
「やっぱりなんか聞こえる!」
「そうかー?お前の気のせいだろ。」
「ちょっと外を見てくる。」
「え、おい!こら!まて!」
私はリアの制止の声を無視して外へ飛び出す。
見る限り何も起きていない…。
(私の思い過ごし?…いや、さっき確かに聞こえたんだ。)
すると横の森の奥から何か出てきた。
「あれ?師匠だ。おーい師匠!」
私は師匠に声をかける。
「このバカ弟子が!なぜ言うことを聞かない!今すぐ家に」
師匠は言葉を続けられなかった、というより続けられる状態ではなかった。
出てきたのは師匠と同じような化け物の姿の奴らだったが何か雰囲気が違った。
「師匠!」
「こいつが、ガルティエの生き残り…」
「お前ら、何者だよ…」
私は光の兵装を行う。
「お前らガルティエの人間がもっと早く判断していれば…」
明らかに私に対して敵意を抱いている
「死ねぇ!」
私は咄嗟に剣を空間から取り出し、その攻撃を受け止めた。
つもりだった。
私の剣は容易く折られてしまい相手の爪での攻撃は私に直撃する。
「ルーナ!」
師匠が私の名前を呼ぶ
「…え…」
自分の受けた攻撃のショックで痛みを感じる事が出来ない。幸い、剣で多少逸れたおかげで左の肩から胸にかけてまでの怪我で済み、死にはしなかった。
「お前らガルティエのせいで…!お前らのせいで!あああああ!!」
続けて立ちつくす私に攻撃を仕掛けてくる
「ルーナ!」
私の代わりに師匠がその攻撃を受けた。
相手の腕は師匠の腹を貫通する
「し、師匠…」
「ぐふ…!ルーナ!気をしっかり持て!お前はここで死んではダメだ!!」
師匠が声をかけてくれたことにより、私は冷静さを取り戻す
「…!師匠。ぐうう!!」
遅れて痛みを感じるようになる…
「俺の事はいい!家にいるリアを連れて逃げろ!」
敵は師匠の体から腕を抜く。
「早く…、行け!」
師匠はその場に膝をつき倒れる…
私は来た道を戻る。
「ぐぅうう!!」
私は痛みを我慢して、家へと急ぐ。
後ろを振り向く余裕はなかった。
もうすぐ、家に着く。
「急がないと…!」
血を流しすぎたのと、痛みから意識が薄れ、私は転んでしまう。
「ルーナ!?」
少し遠くからリアの声がして、こちらに向かってくる。
「リア、逃げろ…出来るだけ遠くに…」
私はリアにそう伝える。
「何があった!?」
私を抱きかかえ、リアは問う。
「逃げろ…!!」
私は薄れるかかる意識の中、立ち上がり
逃げるように促すが
(!!)
敵は思ったより早く私の所に到着していたらしく、私の前に立つリアは私にもたれかかるように倒れる。
その後ろには奴らが居た。
「リ、ア…?」
リアの背中は大きく裂かれていて、口からはごぽっと血が流れ出る。
「リア…!」
リアは返事をしない
「そんな…!!」
私の薄れかけていた意識はリアの姿を見て、はっきりする
「私のせいで…!師匠も、リアも…!!」
私のせいで、私が弱いせいで。
「ああ、ああああああ!」
また失う、やっと手に入れた新しい日常を。
「嫌だ…!」
私はその時守りたいと願った。
この楽しかった日常をくれた人を、心から助けたいと。
両親の顔が、頭に浮かび、自然に口が動く
「『 I am a sword 』」
私の母が残した魔術を唱える。
「『With a thousand heroes. Million's demons. The god of billion. 』
私に再び幸せをくれようとしたこの人を救いたい
「『 Nobody can kill me. 』」
母の巻物はここで終わっていたが私の言葉は止まらない。
「『All weapons exist for me. 』」
たくさんの命をかけて守られたこの命
「『Kill the world. 』」
今度は私が誰かを守る為に命をかけよう
「『 《 intangible blade〔無形の剣〕》 』」
私は数十本の武器を顕現させる。
「この後に及んでまだ何かを奪う気かガルティエエエエ!」
相手は再び私に攻撃を仕掛ける。
攻撃は私に当たるが、傷一つ私の体にはつかない。
そして敵は気づく
「何で傷が治っている…なぜだ!」
「私の…大切なものを奪うなああああ!!!」
私はすべての武器を相手につきさす。
「ぐ…ふはは…未来永劫…呪われろ…ガルティ…エ…」
相手は絶命する。
私はリアに駆け寄る
「リア、しっかりしろリア!」
「…う…ルーナ…」
(生きていた!)
「リア!!待ってろ!今すぐ助けてやるからな!」
「…ルーナ…泣くなー…」
「なに言ってんだ、泣いてなんかないぞ!」
私の目からは涙が溢れる。
「…ルーナ…わりーな…」
「このタイミングで謝るんじゃねーよ!!」
「お前をまた…ひとりぼっちにしてしまう…許してくれ…」
「ダメだ!許さねー!リア!私を1人にするな!」
「…わりー…その我儘…きいてあげたいけれど…無理そうだ…」
「リア!…」
「なー、ルーナ…私が好きか…?」
「!!…当たり前だろ!…お前の優しさも!…お前のクソマズイ料理も…全部好きだ!…大好きだ!!」
「そうか…私もルーナが大好きだぞ…出来ることなら…お前が成長していく姿を見ていたかったな…」
「だったら死ぬなよ…!!…また私とバカ言い合ってくれよ…私まだお前に料理も作ってねーんだからさ…!」
「……」
「!!!…リアぁ…!…リアぁ!!」
私は朝までリアの遺体を抱いて泣いた。
夜が明け、私はリアを私達が住んでいた家の近くにうめた。
「…すまない。」
声の主は私が師匠と呼んだ獣である
「…別に師匠のせいじゃねーよ。元は私が師匠の忠告を無視したからだ。」
師匠は黙って、リアの墓から少し離れた位置に移動した。
私は朝自分で作った料理を墓の前に置く。
「リア、私も料理、作ってみたけどよー、お前と同じゲロマズだったわ。」
私は苦笑いする。
「私がそっちに行く頃には、料理も上手く作って 美味い って絶対言わせるから楽しみにしとけよ。」
「…私は、私の両親と同じくらい、お前が大好きで、お前が育ての親だったことを誇りに思うぞ。しばらく、1人で退屈だろうが、先にそっちで待っててくれ。」
私は立ち上がりリアの墓に最後の言葉をかける
「それじゃ、またな。さよなら、愛してるぞ、リア」
私はリアの墓に背を向けて歩き出す
「…お前、これからどうするんだ?」
師匠の問いに私は答える
「両親が助け、師匠に鍛えられ、リアに育てられた命。今度は完成させたこの魔術で助ける側になって生きて行く。」
私は師匠の方を見て言う
「だから今日で師弟の関係は終わりにする。世話になったな。」
「ルーナ…」
「お互い死んでなければ、またいつか。さよなら、怪獣の魔術師さん」
私は振り向き、リアと住んだ家とリアの墓を見つめ、今度は二度と振り返ることなく歩き出した。