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『孤独なる旅路』 5 洞窟の中心でトゥルーエンドを目指したゲーマー

「主人公的には間違ってない行動だと思うんだけど!」


 ゲームとは違う。この世界には、この世界のルールがあるのだ。

 それが分かっていても、ハルマは一応反論だけはしてみる。当たり前だが晶窟は納得してくれないし、許してもくれないみたいだった。


 言っても分かってくれないのならしょうがない。

 後は黙って退却するだけだ。


 帰り道を照らしていた光はすでになかった。

 しかし、その代わりに晶窟全体がキラキラと輝いている。


 鳴動するリルナリルナ大晶窟。その振動による運動エネルギーを取り込んだのか、はたまた発生した電磁波とかによるものか、それともお得意の不思議パワーのせいなのか、とにかく晶窟全体を覆う燦火宝晶さんかほうしょうが光を放っていたのだ。

 おかげで、ランプがなくても問題ないぐらいに明るい。


 自分の記憶と、壁面に塗った目印と、予期せぬ暗闇対策として所々に落としてきた匂い袋の刺激臭を頼りにして、ハルマは洞窟内を駆けた。

 少女をお姫様だっこにしたままでの全力疾走だ。


 腕の中の金髪褐色ロリロリ美少女は、その双眸をぎゅっと瞑ったまま、力一杯にしがみついてくる。

 少女から伝わる柔らかで幸せな感触をエネルギーに変えながら、ただひたすらにハルマは洞窟の出口を目指した。


(前にもあったなぁ、秘宝を取り去った瞬間に砦が崩落するとかいう仕掛け)


 口に出すことはなく、無言で駆けながらハルマは思う。

 あの時は、仲間の魔術師が物理結界を張ってくれて、なんとか逃げ延びたんだっけ。


 そんな事を思い出しながらハルマは確信する。

 砦の崩落と比べると今回の洞窟の崩落は、その規模の大きさゆえか完全に崩れるまでにはまだ余裕があるようだ。

 流石に《大いなる壁》は、その内部も至極堅牢にできているらしい。


 ただそれでも、物理結界によって砦の要所を支えながらの逃避行と比べれば、今回の脱出劇は困難を極めた。


 慎重に歩いてきた往路と比べるべくではないのだが、行きには四時間かかっている。この帰り道、最短ルートを全力疾走していくと考えても二十分を切ることはできないだろう。


 崩落する天井を無理矢理に魔術で支えながらの脱出とは違い、今回はただただタイムアップが訪れる前に逃げ切れることを祈るしかない。


(やっぱり、このクエストって魔術師向けなんじゃねぇの!?)


 一瞬、そんな考えが頭をよぎったが、すぐに打ち消す。

 自分はクエスト外の厄介事に首を突っ込んだだけ、ということを思い出したからだ。


(でもさぁ、やっぱサブイベも全部クリアしとかないと気持ち悪いじゃない)


 そんな想いを頭に浮かべた刹那、ズズンと腹に響く轟音と共に、ハルマの目の前が暗闇に沈んだ。

 目指すルートの先の天井が崩落したらしい。

 慌てて周囲を見回す、迂回ルートの模索、取れる手段の選択。


(げっ、ほぼ詰んだ!)


 ハルマは身に付けた経験ゆえに、自分達がのっぴきならない状況に置かれたことを直感した。

 自分の軽挙ゆえに、本の記述に逆らったがゆえに、この状況に陥ったことは明らかだと認める。

 それらを全て認めておいて、ハルマは笑った。


 腕の中のロリロリサラサラゴールドヘアーの褐色美幼女が、申し訳なさそうに自分を見上げていたからだ。


「そんなさぁ、巻き込んじゃって、みたいな顔するなよ。こっちは好きでイベント起こしてるんだから」


 言葉は通じてないだろうな、と分かってはいてもハルマはそう言葉にしてから笑う。

 少女を安心させるように微笑みながら、片手を背負い袋の中に突っ込み、すぐに引き出す。

 ハルマの手には、小さな指輪が握られていた。


「正規ルートじゃ攻略不可でもさ、バグだかチートアイテムっぽいのを使えば、なんとかなるさ! 【亡国姫ぼうこくきの涙】よ、古に滅び去りし汝が愛する国はいずこか。その場所を指し示したまえっ!」


 ハルマの叫びに応えるように指輪は光輝き、やがて一条の光が洞窟の壁面を照らした。


 この【亡国姫の涙】は、ハルマが以前手に入れた秘宝の一つだった。

 それは、歴史に埋もれ場所すらも分からなくなってしまっていた「古ユルドラ王国」へと光で導いてくれる力を、その能力の一つとして秘めた指輪だ。

 過去にハルマ達はこの小さな秘宝を使って、すでに極北の地に「古ユルドラ王国」を見つけ出していた。


 バグだのチートアイテム呼ばわりされようとも、その小さな秘宝は、今回も健気に役割を果たしてくれるようだった。レーザーのような鋭い光が壁面の一点を指し示している。

 それを見て、ハルマは言った。


「光はほぼ真北を指すはずだから。……西はこっちか」


 言った方向へと向き直り、ハルマはもう一度背負い袋に片手を突っ込んだ。

 抜き出したその手に、今度は一本の長杖が握られていた。


「半年かけて貯めてもらった魔力がこれでパーか。まっ、困った時は躊躇なく使えって言われてたし」


 言うが早いか、ハルマは杖の先端を壁面に向けた。

 杖――【ロンバルダンの落日】は、すぐさまその先端から禍々しい光を放ちだす。

 その光が放つ尋常でない雰囲気に、腕の中の金髪小麦色ロリレディが不安そうな顔をしていた。


「大丈夫。……多分ユリカの奴に後で文句を言われるだろうけど」


 意味は通じていないはずだ。

 けれども少女は再度申し訳なさそうな顔をした。


「言っただろ、イベントコンプは俺がそうしたいからするんだって」


 君を助けたのは、俺がそうしたかったから。

 今のこの窮地は、俺が望んで招いたんだよ。

 超絶不利になろうが、難易度爆上げになろうが、後で大目玉くらおうがっ!


「トゥルーエンドを目指してこそ、真のゲーマーだっつの!!」


 瞬間、ハルマ達を囲む世界から音と光が消えた。

 次の瞬間、ハルマ達の目の前が真紅の極光に満たされる。


 かつて難攻不落を謳い、栄華を誇った城塞都市ロンバルダン。

 その歴史を、たったの一振りで終わらせたという破滅を喚ぶ杖――【ロンバルダンの落日】が、持ち主の求めに応じて消滅術式を展開させた。


 杖の先端から真紅の光の奔流が一直線に解き放たれ、その光に触れた全てを物素・魔素・光素・霊素……その他様々な“元素”に分解していく。


 ハルマは杖の先端がぶれないように、それを固く握りしめる。

 その杖の先端から迸る元素還元型広域殲滅用魔術の効果を、できうる限り限定した範囲にとどめておきたかったからだった。

 なるべく地上に被害が及ばないように、杖先を斜め上方に向けたまま、ハルマは数秒の時を過ごす。


 やがて【ロンバルダンの落日】は、そこに貯められていた魔力を使い果たし沈黙した。


「さ、またかけっこの時間だ」


 ハルマの視線の先に、斜め上方に向かって円柱状に伸びる穴ができていた。

 ぽっかりと開いたその穴の向こうから陽光がさしこみ、一拍遅れて寒風が吹き込んでくる。

 洞窟内部からオルトラコン大山脈の斜面にまで続く“道”が開通していた。


 ハルマは少女を抱きかかえたまま、その道を駆けた。

 いまだ洞窟内は鳴動を続け、いずれこの道も崩落に巻き込まれるだろう。

 その前に、ハルマ達はそこを全力で駆け抜ける。


「脱出したらすぐに防寒着を出してー……げっ! 雪崩の対策とか考えてなかった! やっべーな! アハハハハ!」


 ハルマは笑う。笑いながら走る。ヤバイ時こそ笑って誤魔化しちまえ、だ。




 ケラケラと笑いながら走る少年の腕の中、少女は静かに微笑んでいた。

 随分と永い間忘れていた笑顔を、少女はその時たしかに取り戻していた。

 少女は振り返る。彼女は最後に一度だけ、自分が孤独に閉ざされていた闇を見つめた。

 そして少女は目を瞑る。

 遥か星霜の彼方に別れを告げた陽の光との再会も、今の少女にはさして重要なことではなかった。

 全身に感じる少年の温もりがすでに、君はもう孤独じゃない、と言ってくれていたからだ。




 そして二人は――白銀の世界へと勢い良く飛び出した。




 ◇ ◇ ◇


 少年と少女が、陽の光の下に生還を果たした時のことだ。

 一人の老ドワーフが、その翡翠色の眼から涙を流しながら叫んだ。


「ソラス・アルス!」


 老ドワーフはオルトラコン大山脈の一点を見つめる。

 黄金色に光る豊かな顎鬚を、枯れることのない涙で濡らしながら笑顔で叫んだ。


「ソラス・アルス!」


 老ドワーフは、幼き日に生き別れた姉が、その永き孤独から解放された方向を見つめていた。

 そしてもう一度だけ《迎え人が来たぞ!》と、力強く叫んだ。






『――極大緋晶リルナ・ラ・ベルナ――

 孤独なる者に大いなる力を与える。

 それは邪なる者を退け滅する破邪の輝き。

        秘宝入手者:篠塚ハルマ』





ひとまず、クエスト『孤独なる旅路』編終了です。近日中に次クエスト『悪魔が来りて』編をアップ予定です。宜しくお願い致します。


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