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第38話「互いの一歩を胸に」

◆ユウゼイ◆


 三十七号環京への侵入はさしたる苦もなく完了した。

 至近の高層建築内部、迎撃装置の死角からのロケット推進器四基による飛翔。その圧倒的な速力は、ユウゼイの偽の敵味方識別信号に解答を出すだけの時間を与えなかった。

 迎撃装置が作動するより早く、ユウゼイは外壁に取り付くことに成功したのだ。

 内部に侵入したユウゼイは、背部の飛行外装を推進器ふたつだけ残し、真衣化しながら切り離す。そして常の要領で早苗に報告(レス)を飛ばした。


『こちら猟犬。第一段階を完了した。これより作戦の第二段階に移る。しかし……こうも易々と侵入を許すとはな』

『HQ了解。……仕方ありませんよ。元々ある程度は抜かれる前提なのが環京の防衛設計らしいですから。そのための填基子構材(てんきしこうざい)の外壁で、単騎による強行突破という今回の作戦はその穴を突いたかたち、って。そのあたりのことは兄さんの方が詳しいですよね』


 背中には固定された外装基部。その左右に突き出したアームの先には、ユウゼイの背丈の半分ほどもある推進器がひとつずつ。

 最低限度の機器を残した基部、そして推進器は真衣により急速に覆われ始めていた。

 取り残されたように計十二本の円筒が不規則に並ぶ。それは圧縮燃料と真衣転換材の詰まった増槽だった。

 配置を整え表面を薄く真衣で覆うと、ユウゼイはゆっくりと立ち上がる。


『埋める気のない穴か』


 規格外(プラス)の名に恥じぬ異様。

 腕の装衣はいつにも増して薄く人の形状を保っている。尾部も長さこそ変わらぬものの、その質量は大きく減じていた。両足が一回りばかり太さを増してはいるが、背に備えられた重量物からすればいささか頼りなさを禁じえない。


 推進器の保持と保護に真衣を取られ過ぎているのだ。

 早苗にも劣る可干渉真衣総量。それがユウゼイの等級Aとしての限界だった。

 ユウゼイが苦笑を握り潰すと、見計らったように早苗からレスが届いた。


『兄さん。……私、同行させてもらえることになりました』

『知っている』


 早苗とは調律で結んでいる。気づかないわけがない。

 本部で別れてすぐ、ユウゼイに感じられる早苗の所在は、地下へと移動を始めていた。


『勝手をしたな』

『はい』


 沈んだ様子のない情報誤差に、ユウゼイも隠すことなくため息をのせる。


『……先生がいるなら、無茶はしても際を見誤りはしないだろう。それよりも、俺はおまえが足を引っ張らないかが心配だ』

『どうせ私はお荷物ですよっ! ……ありがとうございます、兄さん』


 軽口を叩こうと不安は拭えない。だが、ユウゼイは願望で早苗を縛ることはもうしないと決めた。なれば――。


『死ぬなよ』

『寂しがりやの誰かさんが心配で、おちおち死んではいられませんよ。兄さんこそ、私を独りにしないでくださいね。泣いてなんてあげないんですから』


 互いが互いに抱く想いを確かめながら、ユウゼイは推進器に火を点す。

 初期燃焼による赤味の強い噴炎が明かりの落ちた通路を照らす。轟音がその身に先んじ闇を奔り抜ける。

 すでにユウゼイの侵入は各陣営に知れ渡っているだろう。

 それでも防衛装置が作動しないのは、電磁パルスの影響……と言うよりは、カーラの攻勢が激しい証と見るべきだ。


『以降のオペレートは私に代わり理灯さんが担当します。どうかご無事で』

『任せておけ』


 即座に理灯から送られてくる対象の現在位置と経路を、電脳を介し知覚と同期させる。

 捕捉されるより先に、和葉(標的)を討つ。

 床面との同化を解除すると、ユウゼイは暴力的な熱を輝跡に真闇へと跳び込んだ。



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