白に隠す
「ねえ、当ててみてよ」
白い天井に白い壁、白いカーテンに白いシーツ。白に囲まれた彼女はいつものように、唐突に言ってきた。
その顔はにやにやと、僕を試すかのように笑っていて、これはまた、満足のいくような答えを言わないと理不尽に怒り出すパターンだ。
「何を?」
恐る恐る、勿論彼女にはそんな素振りは見せないで、外面的にはぶっきらぼうに訊いた。
彼女は何かを唐突に問うとき、絶対に主語がないので、お決まりの返しになっている。
彼女は一度溜息をつくと、呆れているような口調で言った。
「私が今思っていることだっての。なに、そんなのもわかんないの? あり得ないんだけど」
お前の言動のほうがあり得ねえよ。
やれやれと首を振る彼女にそう言いたいのは山々だが、そんなことを言うと逆ギレをされかねないし、そうなったら面倒なので、心の中で吐き捨てるだけに留める。
「あんた思っていることが顔に出やすいって、毎回言ってるんだけど」
「そうだったけ?」
そうだ、僕は何気に顔に感情が表れやすいんだった。
しかし、時すでに遅し。
彼女が怒るに違いない。看護士が慌てて来るほどの大音量で喚き散らし始めるだろう。
「……で、わかったの?」
おや? どういうことだろうか。彼女が怒らない。
珍しいこともあるもので、大人しく僕の返答を待っている。
「“もっと大人しい女の子になりたい”?」
「それはお前の私への願望だろうがッ!」
おかしい。
キレないと踏んでいたからああいう答えを出したのに、普通に怒鳴られた。おかげで両耳がキーンとしている。あとで看護士さんに謝るのは僕なのに。
「……不安なら、最初からそう言えばいいだろ」
溜息といっしょに言いながら、怒っている彼女の手を握る。その手は細く、指先は冷え、小さくだが震えていた。
「怖いだろうけど、ちゃんと近くにいるから大丈夫だよ。でもまあ、医師によっちゃあ死ぬかもな」
「縁起でもないコト言うなよッ!」
またもや怒り出す彼女は今日、体に刃を入れるのだが、こんな風でしか彼女の不安を和らげることができないので、そんな風でしかできないのが悔しいだなんて、絶対に彼女には言わないでおこう。