お兄ちゃんとケンさんの出会い2 side ケン
お兄ちゃんの周りでボーイズラブ表現あります。ご注意下さい。あと、長くなりました。申し訳ないです。
力を振り絞って、体を起こすと天使の顔をした少年がニコニコしながらそばにいた。幻覚じゃなかったらしい。周りを見渡すと、今までボコボコにしていたヤツらはいきなり現れた少年にたじろいで鉄パイプを持ったまま様子を伺っているようだ。
『今からでも遅くないから早く逃げろ。』
『報告書以上に優しい方ですね。貴方に、どうしても教えて欲しいことがあるんですよ。強い男ってどうしたらなれると思いますか?』
…は?何、言ってんだ?コイツ。この状況わかってんのか?アタマおかしいのか?空気読もうよ!!
多分、周りのヤツらも同じこと思ったと思う。だけど、コイツは至って真面目らしく俺が答えるのを今か今かと待ちわびている。
だから、俺は…
『今、目の前にいるヤツらを倒して俺がいるチームの勢力を拡大したら強い男になれるんじゃね?』
と、冗談半分で答えたつもりなのに何も問題がないと言わんばかりに『わかりました。』と言って目の前にいる数人の男どもに挑んでいった。
俺は、ソイツを止めることもできずその様子をただ見守ることしかできなかった。相手は鉄パイプで反撃してきているにも関わらず、上手くかわして素手で応戦していた。相手の急所を突く姿は、優雅で見惚れる程だった。五分もしないうちに、俺をボコボコにしていたヤツらは見事撃沈した。そのうえ、落ちている鉄パイプを拾い止めを刺そうとしているのに気が付いて慌てて止めた。本気で息の根を止めるっぽかったし。
それから、天使のような少年は藤城 桜也と名乗った。藤城グループの御曹司で有名私立中学の二年らしい。俺に近づいたのも佐野プロダクションの社長子息で不良グループに入っているからだとか。強い男の条件を知っていると思ったらしい。反社会的勢力と関係があったらマズイので、とりあえず下調べを済ませてから近づいたとのこと。
『友達とか上流階級とかに限ってそうだよな。まぁ、藤城グループともなればそうなるか。』
『そんなことはありませんが、下調べはしますよ。親は、反社会的勢力とは関係なくとも子供はわかりませんからね。まぁ、逆も然りですが。足元掬われたくないんですよ。それに、僕にはかんながいればそれだけで十分なんです。かんなが言ったことは、全て僕が叶えたいのです。かんなが強い男が好きだと言ったので僕もそれになりたいんですよ。』
と、天使のような笑顔で言われた。コイツの腹の中真っ黒じゃね?と思ったのは言うまでもない。それに、かんなちゃんに対する執着がハンパない。
桜ちゃんをチームのリーダーに迎えると、たった二週間で勢力を何十倍にも拡大することができた。
そのおかげか、桜ちゃんを崇拝するヤツがかなり増えた。幹部含め軽く数百人はいた。
平穏な生活を送れるようになり、俺は溜まり場である倉庫の事務所のソファーで携帯ゲーム機で遊んでいると、向かいのソファーで俺が作ったケーキを両隣に座っている幹部の二人から給餌されている桜ちゃんの姿が目に入った。傍から見たら、御主人様と奴隷のようだ。しかも、幹部二人が蕩けるような眼差しで桜ちゃんを見つめてるし。ケーキの次は、紅茶を…と飲ませてあげている。腐女子が見たら、ご飯が軽く3杯は食べられそうなシチュエーションだな。俺は、ドン引きだけど。
桜ちゃんが給餌について何も言わないあたり、特に問題はないのだろう。きっと、根っからの王様気質なのかもしれない。足を組んでかなり様になってるしな。
俺が、その様子をボーっと見ていたのを桜ちゃんが気付いてか給餌されている合間に話かけてきた。
『ケン、僕は強い男になったと思いますか?』
『お前は、最初から十分強ぇーよ。それに、お前以上に強いヤツとかここら一帯いねーよ。』
『かんなは、僕のこと好きになってくれるでしょうか?』
『…それは、かんなちゃんしかわかんねーな。つーか、俺お前が大切にしてるかんなちゃんに会いたくてたまんないんだけど。どんな子?今度、連れて来いよ。ケーキ作ってきてやるから。』
『かんなに手を出さないと誓えますか?もし、出したらいくらケンでも太平洋の真ん中に重石をつけて沈めますからね。完全犯罪なんて簡単にやってのけますよ。』
『誓うから。そんな笑顔で物騒なこと言うなよ。お前だったら、本気で殺るってわかってるからマジ怖ぇんだけど。』
『では、今度連れてきます。』
『おう。』
そう言って、桜ちゃんが連れて来たかんなちゃんはまだ小学三年生のランドセルを背負った小さな女の子だった。てっきり、同じ年頃の女の子だと思ってた俺は衝撃で暫く固まった。
確かに、くりっとした大きな目に色白で透き通った肌、腰まである真っ黒の綺麗な髪はまるで人形のように可愛らしい。だけど、俺の好みではない。好みだと言ったら間違いなくロリコンだ。その手のオッサンにはかなりモテモテな気がするが。
彼女は、最初こそ俺に警戒していたが俺の作ったケーキを食べると人懐っこい可愛らしい笑顔を見せてくれるようになった。桜ちゃんは、目に入れても痛くないような蕩けそうな顔でかんなちゃんにせっせと給餌していた。普段、給餌されているヤツが給餌するって何だか変な感じがしたがそれだけかんなちゃんのことが大好きで大好きで大切で仕方がないんだろう。まぁ、幹部の連中は桜ちゃんに給餌したくてウズウズしてたみたいだが。さすがに、その光景を小学三年生の女の子に見せるのはどうかと思い今は我慢しろと言った。
それから、ランドセルを背負ったかんなちゃんが当たり前のように出入りするようになって半年程経った頃、俺がいつも座っているソファーの隣にかんなちゃんが腰かけてゲーム機の画面を覗き込んできた。
『ねぇ、ケンさん。いつも何のゲームしてるの?私にもできる?』
『ん?RPGだし、かんなちゃんには少し難しいかもしれないね。今から、ムービーが流れるから見てみる?』
かんなちゃんは、こくんと頷くとムービーを食い入るように見つめていた。
『この人、顔もだけど声もカッコイイね。何だか、騎士っていうより王子様みたい。』
『よくわかったね。コイツ、実は王子なんだよ。身分を隠して騎士してる。』
『そうなんだ。私もこのゲームやってみたい。』
『じゃあ、これと同じゲーム機がもう一台あるから今度持ってきてあげるよ。その時にソフトも一緒に持ってきてあげる。』
『本当?ありがとう!!』
きっかけは、何気ないかんなちゃんとのその会話からだと思う。
桜ちゃんが、いきなり声優になってみたいと言い出したもんだからとりあえず理由を聞くと『かんなにカッコイイと言われたいからですよ。今よりもっと好きになってくれますかね?』と、相変わらず残念な回答が返ってきた。コイツが、かんなちゃんのこと以外で行動を起こすハズもないんだけどな。俺の知り合いでそういう業界に詳しいヤツは親父しかいないから、桜ちゃんを家に連れてきて紹介した。
『こんにちは、おじさん。』
『桜也君じゃないか。久しぶりだね。相変わらず、可愛いなぁ。私のスカウト受ける気なったのかい?モデルと俳優どっちがいい?』
『僕は、声優になってみたいんですよ。』
『あえての!?』
…知り合いだったらしい。
元々、親同士仕事で付き合いがあるらしくパーティーでよく顔を合わせていたとか。それで、ウチの親父が桜ちゃんの美貌に惚れてスカウトしていたらしい。それなら、俺に言うんじゃなく直接親父に言えばよかったんじゃないかと思ったのは言うまでもない。
それから、声優として働き始めたんだけど……思わず遠い目になってしまった。
「着きましたよ。」と、運転手の声が聞こえ、ふと我に返った。
「では、僕はこれで帰ります。おじさん、今日は、ありがとうございました。ケン、緊急時以外は電話しないで下さい。貴重な、かんなとの休日なんですから。」
「へいへい。じゃーな。かんなちゃんに宜しくな。」
「わかりました。では、お先に失礼致します。」
桜ちゃんは、車に乗りこんだ時とは打って変わってかなり上機嫌に一等地にある要塞と化したバカでかい家に入って行った。
次からかんなちゃん視点に戻ります。
(待ったかどうかわかりませんが)長らくお待たせしました。