お兄ちゃんとケンさん 3 sideケン
収録が終わると、すぐに俺と社長と桜ちゃんの三人で出演者達や番組関係者に挨拶しに向かった。人気のアーティストは、別の音楽番組の出演や翌日にライヴがあったりする為収録後にすぐテレビ局を後にすることも多い。だから、実力・人気とも頂点にいるロックバンドを先に挨拶しに行こうとした矢先…なぜか彼らが桜ちゃんの楽屋の前で待っていた。
「こちらから伺わなくてはならないのに、申し訳ありません。」
俺と社長は、すぐさま彼らの前に向かうと頭を下げた。
「いや、こっちが何の連絡もなしに勝手に来て待ってたんだから謝るのはこっちの方です。申し訳ない。」
そう言って、俺達に頭を下げたのはバンドのヴォーカルでありリーダーの奏さんだった。
長い金髪を片側だけ編み込みをし後ろで束ね、ヴィジュアル系っぽい服を着た彼が意外と礼儀正しい対応をすることに内心驚いた。人は、見かけで判断するなってことだ。眉上に安全ピン型のピアスと耳にある輪っかのピアスがチェーンでくっついていようとも、だ。
歌手デビューしたばっかりのヤツが、大物アーティストに挨拶されていたなんて外聞が悪いので彼らの楽屋まで移動することにした。
楽屋の中で待機していた彼らのマネージャー(男)に促されるまま、三人掛けのソファーに俺達は腰を下ろした。さすが、大物アーティストもなると楽屋は広い。他のメンバーは、少し離れた椅子に腰かけ楽器の手入れを始めた。
暫くすると、ケーキとコーヒーをトレイに乗せて心なしか嬉しそうな奏さんがやってきた。
っ!!!!いやいやいや、それマネージャーの仕事だから!!
思わず、彼らのマネージャーを見ると「お気になさらず。彼が好きでやっていることなので。」と笑顔で言われた。
気になるわ!!奏さんの体裁が!!そこは、マネージャーがするべきところだろ!!
「私が手を出すと、彼の機嫌を損ねるもので。」と、俺は何も言っていないのにこれまたとびきりの笑顔で答えてきやがった。エスパーか!!お前は!!
「決して、私はエスパーではありませんので。貴方が、わかりやすい表情をしているだけですよ。」
あぁ、言われてしまった。
確かに、俺は表情がでやすい。腹芸なんか、不得意中の不得意だ。社長に、もっと腹芸を身につけろと言われるが…
「お腹真っ黒なケンなんて嫌ですよ。僕は、そのままのケンが一番好きです。腹芸なんて得意な人にやらせればいいんですよ。例えば、おじさんとか。生きているウチに、どんどん使うべきですよ。」
そう言って、笑顔で俺の頭をポンポンっと軽く撫でた。俺の父親に対して酷い言い草だが、その言葉に気分が上がった。桜ちゃんがそう言うならそれでいいか。甘えてるって言われればそうだけど。
ふと顔を上げて辺りを見渡すと、奏さん達が悶えていた。あぁ、桜ちゃんの笑顔にヤられたのか。天使の微笑みは、初対面にはダメージが大きいからなぁ。
まだまだケンさん視点続きます。