お兄ちゃんと私 1
きっかけは、この出来事から始まった気がする。
『ねぇ、かんな。この間、強い男の子が好きだと言ってましたよね?だから・・・僕も強い男の子というものになってみました。僕のこと、好きになりましたか?』
そう言って、当時小学三年生だった私の前に数週間ぶりに顔を見せたのは隣に住んでいる五歳年上のお兄ちゃん…つまり今テレビで美声を披露している彼だった。
お兄ちゃんは、誰に対しても敬語で接する。理由を聞いたら、小さな頃から両親の仕事(企業経営者)の関係で大人と接することが多く子供でも大人でも敬語で接していれば不快な思いをさせることはないということに年長さんの時に気が付いたらしい。
私の両親(俳優業)は、お兄ちゃんのその考えに深く感動していた。私は、ただ単に言葉を使い分けることが面倒だったんじゃないかと思っている。それを、言おうとしたら天使の微笑みで自分が食べていたゼリーをスプーンで掬い私に食べさせてきたから。多分、それが正解なんだ。
話は逸れたが、その彼がたくさんの怖そうな男の人達を引き連れて下校途中だった私の前に現れたのだ。
まるで、悪魔達を従える天使のようで異様な光景だった。
その時の私は、呆気にとられていて彼を見つめることしかできなかった。お兄ちゃんが言った言葉なんて全く理解してなかったし。
もし、友達も一緒に下校していたなら冷静に考えることができたかもしれない。しかし、残念ながら一人だ。
だから…
『かんな?どうしました?まぁ、いいです。とりあえず、僕と一緒に行きましょう。』
コクンっと頷いてお兄ちゃんについて行くしかなかった。そこで、断る勇気は小学三年生の私には持ち合わせていない。断ったとしてもお兄ちゃんお得意の天使の微笑みで強制的に連れて行かれるに違いない。
彼に連れられてやってきたのは、倉庫がいっぱい建ち並ぶ中の一つだった。中に入ると、たくさんの改造されたバイクに車高を落とした車が数台停まっており、何十人もの怖そうな男の人達が待ち構えていたのだ。
怖い。
思わず、立ち止まってお兄ちゃんの手を握った。
『かんな?あぁ、すみません。怖かったですね。大丈夫ですよ。怖そうな顔をしていますが、皆かんなには優しいですから。』
お兄ちゃんは、蕩けそうな笑顔でそう言うとそのまま手を繋いで再び歩き始めた。その瞬間、一斉に道を開け腰を90度に曲げ大声で挨拶された。
ビクッとして、また立ち止まったのは言うまでもない。
長くなったので分割しました。まだ続きます。