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私は悪くない

 大学病院で診察前に再診受付と保険証確認の列に並んでいた。2人前の杖をついている若い女の人が受付窓口の一つから呼ばれていたが、目が見えないらしくて、後ろの人に

「真っ直ぐ歩いて行けば窓口に行けますよ」

と教えられ、杖をつきながら窓口に向かっていた。


 私も窓口の一つから呼ばれ再診手続きをとり、番号が印刷された紙を受け取った。受診の時、番号で呼ばれるのだ。

 さっきの目の不自由な人は受付窓口の人に

「番号はいくつですか?」

と尋ねていた。そして杖をつきながらどこかへ行こうとしている。


 私はその人を助けようかと見ていたけど、考えてみれば受診科がいくつもある大学病院について詳しいわけではないし、私は不器用な役に立たない人間で声をかけたら却って迷惑になってしまうかもしれない。

 若い頃はついつい困っている人を見かけると飛び出して助けに行って、却って役に立たず迷惑をかけていたけど、今では自分の不器用さの自覚があった。


 私はパニック障害で精神科に通っている。薬さえ飲んでいれば大したことはない。待合室で呼ばれるのを待っていると、さっきの目の不自由な人が病院の職員に付き添われて近くの椅子に座った。

 目が不自由で精神科ってどうゆう状態なのだろう? と思った。でも病院の職員が付き添っていたので安心だった。


 やがて、私は診察室に呼ばれ、いつもの薬を出してもらい、会計を済ませて、帰りのバスに乗るために病院の正面に12あるバス停の一つでS駅行きの前のベンチに座った。

 すると病院の職員に付き添われた、あの目の不自由な女性はS駅行きのバスに乗るらしく、私の隣に座らされて、病院の職員にお礼を言って別れていた。


 私はとまどいながら隣の女性が目薬をさしているのを見ていた。しばらくすると、その女性はベンチを立ってバスを待つ行列に並んだ。

 私はバスが来るまでベンチに座っていた。

 バスが来て列の前から乗車して行った。

 目の不自由な女性は慎重な様子でゆっくりとバスに乗ろうとしていたけど、運転手は

「早く乗車してください」

と急かした。

 私は「うわぁ」と思いながら、その女性がバスの優先席に座るのを確認した後、バスの後ろのほうの席に座った。

 やがてS駅についてバスを降りた。あの女性は最後に降りるつもりらしく座って待っていた。


 S駅から電車に乗って自宅の最寄り駅に降りた。

 帰り道は畑が広がっている中の一本道を歩く。

 すると土砂降りの雨が降ってきて、傘は持っていないし、あっという間にびしょ濡れになる。こんなことは何年ぶりだろう。雨に濡れながら、目が不自由な女性のことが頭に浮かんできたけど


「私は悪くない!」

と大声で叫んでいた。



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― 新着の感想 ―
[良い点]  今回はいつもと趣向の違ったお話でした。  主人公の気持ち、なんとなくわかります。  よいと思ってしてあげたことが、かえってあだになることがあり、あとで後悔することがあります。だれしもこ…
[一言] あぁ…わかる気がする。 本当に悪くないんだけどねぇ。罪悪感で自分が嫌になっちゃうんだよね。実際、感謝されるかどうかわからないし。感謝されるために…って自分が考えてるの自覚するのも、なんか辛い…
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